ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
ガンプラを作るニャムにシャフリヤールはこう問い掛けた。
「───なぜ、こんな事をしているのか分かったかな?」
シャフリヤールの問いかけに、ニャムは手を止めずに少し考え込む。
考えていても、手は勝手に動いた。
GBNは現実とは違う。確かに現実で作るよりも身体がいう事を聞いてくれないと思う事はあった。
それでも、彼女にはこれまで培ってきたガンプラの知識と技術がある。
若干普段と違う作業だろうと、無意識のうちに普段と同じ事が出来る程彼女はガンプラを作る事に人生を掛けてきたのだ。
「ジブンがガンプラを作り出したのは、まだ小学校にも入ってない時でした。……兄が作っていたのを真似して。あの時はそれはもう酷い出来だったっすよ」
言いながら、彼女は手を止める。
別に手を動かしながら作業する事もできるが、少しゆっくりガンプラを作りたくなったのだ。
「……でも、凄く楽しんでたっす。兄が見ていたガンダムのアニメに出てくるロボットの形が目の前に出来ていく。いつも隠れていた背中はこうなってるのかとか、足の裏はこんな風なんだとか、ディテールに目を輝かせて、デザインされたガンプラを設定に忠実に作る。……その事に取り憑かれて、改造ガンプラキラーなんてやってたんすよね」
「でも、得る物もあったんじゃないかな」
シャフリヤールの言葉に、ニャムは少し考えて「確かに」と短く答える。
「……ケイ殿達に会えたのは、ジブンが改造ガンプラキラーなんて愚かな事をしていたからですしね。それに、素組を如何に高性能に作るかにおいてはそれなりに自信があるっす」
「そうだ。君のガンプラへの愛は凄まじい。……そして、君は次のステージへの階段が目の前に見えているビルダーでもある」
「次のステージへの階段?」
首を傾げるニャム。
自分が成長する為の何かが、自分の目の前に見えているとシャフリヤールは言った。
しかし、ニャムにはそれがなんなのか分からない。
「───おっと、彼等から連絡だ。どうやらあの筋肉との修行を終えたようだね。私は一度彼等を迎えに行くよ。……君は、次のステージへの階段への手摺りを掴むと良い」
「それは……どういう意味っすか?」
「君の技術はきっと彼等らを次のステージに進ませる事が出来る。ならば君は、彼等の力を借りて次のステージに進むといい」
「まさか───」
言い掛けたニャムの言葉を、シャフリヤールは手を上げて止める。
「君の愛がカタチになった物が見られる時を、私は楽しみにしているよ」
そう言って、シャフリヤールはケイ達を迎えに行った。
「……私の、愛」
作業場で手を止めるニャム。
「ジブンは……ガンダムが好きで、それで───」
考えを纏める為に、彼女は再びガンプラを作り出す。
これまで自分が作ってきたガンプラ。
その数は百を超えてた。それを全て作り終える勢いで、彼女は猛烈な熱と共にガンプラを完成させていく。
「───ジブンの好きを、ガンプラに込める」
最後に作り上げたガンプラ。ターンXを眺めながら、彼女はそんな言葉を漏らすのだった。
☆ ☆ ☆
完済したガンプラを見てイアは歓喜の声を上げる。
「やっぱりガンプラを作るのって楽しいな」
彼女だけでなく、ケイもそう言いながら自分で作ったストライクを左右上下から観察していた。
「初めて作ったストライクはどうだい?」
「そうですね。シャフリヤールさ───え? なんで俺がストライクを作った事がないって……」
「見れば分かるさ。確かに君のガンプラは愛に満ち溢れていた。しかし、ストライクのガンプラそのものへの理解が低い気がしたのだよ」
ケイの問いかけにそう答えるシャフリヤール。
二、三度ガンプラを見ただけでそこまでの事が言える。
これが世界レベルのガンプラビルダーの力なのだろうと、ケイは思わず感心した。
「確かに、俺はストライクの事をあまり知らなかったみたいです。……あんなに一緒に戦っていたのに」
「しかし、今この瞬間から君のストライクへの理解は高められた筈だ。……ガンプラは愛。その力が、GBNでの糧になる」
言いながら、シャフリヤールは店の外へ向けて歩き四人に着いてくるよう目で諭す。
彼に着いていくと、小さなプトレマイオスに乗せられて彼等はペリシア・エリアを離れていった。
「さて、君の理解を───ガンプラへの愛を見せてもらおう」
セラヴィーガンダムシェヘラザードに搭乗したシャフリヤールは、ケイ以外を安全な場所に移動させてそう言う。
「確か、君のストライクはダブルオーのストライカーパックを装備していたね。それで来たまえ」
「ダブルオーで? わ、分かりました」
言われるがままにダブルオーストライクBondに搭乗するケイ。
ケイが機体を出すと、シャフリヤールはセラヴィーガンダムシェヘラザードの装備を換装し───接近形態イフリートモードで構えた。
「近接戦闘……?」
「ガンプラを真に理解した君なら、今の自分のガンプラをさらに美しく動かせる筈だ。その動きは、この距離での戦いにおいて大きく影響を与える物になる。……さぁ、構えたまえ」
息を呑むケイ。
「さっきはタイガーウルフさんと戦ったんだよ」
「そんなに連続で有名ダイバーとバトル出来るとは、ケイ殿はやはり何か持ってるっすねぇ。……して、この戦いどうなるか」
「頑張れケイ!」
観客席でそう話す三人。
タイガーウルフとの戦いと違い、今回は武器を使っても良い。
しかもこちらはダブルオーストライカーを装備していて、トランザムが使える。
───しかし、それは相手も同じだ。
「───手の内を見せよう。トランザム!!」
「初めから!?」
トランザムを起動させるセラヴィーガンダムシェヘラザード。
ケイはGNソードIIIを展開し、シャフリヤールの攻撃をなんとか受け止める。
「なるほど、トランザムを温存して有利を取ろうという事か。素晴らしい発想だが───どこまで持つか」
連撃。
セラヴィーガンダムシェヘラザードの拳がケイのストライクBondを打ち付けた。
「───大丈夫、ここのパーツは丈夫に出来てるからまだ耐えられる。損傷を丈夫な位置に抑えて……」
「まだだ!!」
さらに加速する連撃。
GNソードIIIが砕け、ケイはGNソードIIを二本構える。
「───ここだ。トランザム!!」
アラートが鳴り響くコックピット内で、一瞬の間を置いてからケイはトランザムを起動した。
紅に染まる。
「来たか!」
「ここからは責める!!」
十二秒。
ケイがトランザムを温存して、シャフリヤールに使わせた時間だ。
通常ならトランザムの限界時間は約三分である。
シャフリヤールのセラヴィーガンダムシェヘラザードがトランザムを早く起動した分、トランザム切れによる機動力の低下が先に起きるの可能性が高い。
そこが、ケイの勝ち筋だ。
「うぉぉおおお!!」
連撃。
GNソードII二刀流で攻めるケイ。
刀のリーチで攻めに回る事は出来たが、シャフリヤールも甘くはない。その全てを受け止めながら、GNソードIIに少しずつダメージを与えていく。
「素晴らしいガンプラだ……。しかし!」
遂に砕けるGNソードII。
その拳が振り抜かれ、コックピットを襲おうとしたその時。
「貰った!!」
「何!?」
拳を受け流し、セラヴィーガンダムシェヘラザードを投げ飛ばすストライクBond。
ロックが見せたカウンターの応用だ。
相手の勢いを利用して敵を投げる動きは柔道に近い。
「そこだ!!」
腰のビームサーベルとアーマーシュナイダーを展開して投げ飛ばし、セラヴィーガンダムシェヘラザードに突進するケイ。
しかしシャフリヤールもそう簡単にやられる程のダイバーではない。すぐに体勢を整え、ビームサーベルを避けて反撃を繰り出す。
「動きが早い……! トランザムは……まだ終わらないか!?」
二分四十秒。
ケイがトランザムを使用してからの時間だ。
ストライクBondのトランザム起動限界時間は三分八秒。
十二秒早くトランザムを使ったセラヴィーガンダムシェヘラザードはもう少しでトランザムが終わる筈である。
しかし、その動きは止まらない。
そしてあろう事か、十二秒早くトランザムを使ったセラヴィーガンダムシェヘラザードとストライクBondのトランザムが同時に終了した。
「発想は良い。ビルダーとしての技術も、ダイバーとしての技術も磨かれている。……しかし、君はまだ発展途中だ」
弾き飛ばされ、地面に叩き付けられるケイのストライクBond。
トランザム終了時の極端な機動性の低下も感じさせられない。
これが世界で活躍するビルダーなのだと、ケイは息を呑む。
「力の差を見せよう」
ジンモードに移行するセラヴィーガンダムシェヘラザード。
その構えにケイは見覚えがあった。
「必殺技……!」
「吹けよシムーン!」
エネルギーが収束していく。
「くそ! 動け、動けストライク!!」
地面に横たわっていたストライクBondは、なんとか立ち上がるも回避は絶望的だ。
「……それでも。俺は、勝ちたい」
操縦桿を強く握る。
何かが、答えてくれた気がした。
ビームサーベルも、アーマーシュナイダーも何もない。
それでも。
「GNフィールド!」
ストライクBondをGN粒子のシールドが包み込む。
「まだ動けるのか。……しかし、遅い!」
「まだだ。まだ動け、ストライクBond!!」
スラスターを吹かせ、上空で砲撃体制に入っているセラヴィーガンダムシェヘラザードに突進するストライクBond。
その拳に光が集まった。
「アレはなんすか!?」
「お! またケイの凄いパンチか!」
「うん。アレはきっと───」
その拳の光は、遠くで観戦している三人にも見える。
───きっとそれは、彼の思いの力だ。
「うぉぉぉぉおおおおおお!!!」
「来たまえ───アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」
光が放たれる。
GNフィールドと拳でシャフリヤールの必殺技を受け止めながら突き進むケイ。
その拳は砲身まで届いたが、しかし───
「あと一歩、ではあったな」
───砲身を砕いた瞬間、ストライクBondは爆散した。
「……また負けた」
拳を握りしめるケイ。
しかしそれは、いつもの悔しさではなく───何かを掴むような強さで。
「ケイ! 凄かったぞあのパンチ!」
「もしかして必殺技なんすか!? 必殺技なんすかケイ殿!!」
きっと、今の自分とストライクではまだ届かない。
けれどもう少し先に進めたなら、物に出来る。
「ケー君、やったね」
「……あぁ、そうだな」
「君のガンプラへの愛、見せてもらったよ。ケイ」
そんな気がした。