ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
ガンプラは自由だ。
いつか、誰かがそう言ったという。
「アオトのストライク、沢山改造されてるな」
「父さんに色々アドバイスを貰ってるからさ」
ストライクのガンプラを眺めながら、二人の少年が談笑していた。
「あ、これはアーマーシュナイダーか」
「そうそう、ストライクといえばね。そんでこっちは───」
ガンプラの改造の話で、少年達は時間も忘れて語り合う。
それ程までに夢中になった。ガンプラを触るのが楽しかった。
だから───
☆ ☆ ☆
マントが揺れる。
「───これはガンプラバトルだ!!」
ケイの叫びに、目を見開いて固まるニャム。
少年の言葉の意味は、分かるようで分からなかった。
「な、何を言ってるっすか。そりゃ……これはガンプラバトルっすけど」
彼の言う通り、彼女達がしているのはガンプラバトルである。
しかし、だから、どうしたというのだ。
「……大体。なんだって理由でも! ガンプラを改悪する事を認める訳にはいかないっすよ!!」
ニャムは首を横に振って、姿勢を直して構え直す。
突然動きが良くなった訳でもない。ただ不意を突かれただけだ。
あんな改造ガンプラにジブンが負ける訳がない。
「俺は、俺のガンプラを否定させない……っ!」
「君が正しいって言うんなら、ジブンに勝って証明してみせろってんですよ!!」
地面を蹴って、ゴッドガンダムがストライクに肉薄する。
対するストライクは、左腕をゴッドガンダムに投げ付けながらスラスターを吐かせて上空に飛び上がった。
「こんな物!」
飛んで来た腕を殴り飛ばして、ニャムは両手を合わせて構える。その構えについさっき見覚えがあるユメは嫌な予感がして冷や汗を流した。
「ケー君!」
「分かってる……っ!」
流派東方不敗最終奥義。あの拳の形をしたエネルギーの塊が頭に浮かぶ。
ニャムの言う通り、ケイのクロスボーンストライクBondは本来の姿であるエールストライクよりも上昇性能は低い。
さっきと同じように上昇で避ける事の出来ない高度への攻撃をされてしまえば、待っているのは同じ結末のように思えた。
「流派東方不敗不敗が最終奥義! 石破ァ……天驚拳!!」
合わせた拳を突き出して放たれる石破天驚拳。
ストライクBondの上昇を読み、上空には逃げられないように退路を断つ。
「上に逃げられないなら……っ!!」
ケイはX字のスラスターを
一度目は下降で攻撃を避けたが、今度は違う。
スラスターは一気に火を拭いて機体は下に急降下した。一瞬で着地したストライクは、地面を蹴って前進する。
「早い!?」
その速度は完全にニャムの想定外だった。
確かに上昇性能は、元のエールストライクの方が高かったかもしれない。
しかし本来木星圏の高重力下での運用を前提としたこのクロスボーンガンダムのスラスターは、左右上下にスラスターを可動させる事が出来る。
これは推進力ではなく、推進ベクトル───機体の姿勢制御性に重きを置いた設計だ。大型のスラスターを持つエールストライカーとは用途の
「───違う、早さじゃない。動きが細かいって事すか……っ!」
上昇性能も機動力も、確かにストライクにはエールストライカーが最適だ。
しかし、姿勢制御においてはクロスボーンガンダムの推進器がその上を往く。
X字の先端にあるスラスターを左右上下に細かに微調整しながら、ストライクはゴッドガンダムに肉薄し───蹴りを入れた。
ゴッドガンダムが宙に浮く。そのまま回し蹴りを入れて、機体を吹き飛ばした。
「モビルファイターでストライクに格闘戦で負ける!? ジブンが!? そんな事……。いやいや、いかにフェイズシフト装甲で強化されているとはいえ大ダメージは与えられない。大丈夫。落ち着けジブン……ッ!」
しかし、ニャムは直ぐに姿勢を立て直して構える。対するストライクは左腰に手を向け、ホルダーに収納されていた武器を取り出した。
「アーマーシュナイダーすか……」
アーマーシュナイダー。
ストライクのサブウェポンとして装備されている、超硬度金属製のナイフである。
それもただの実剣兵器ではなく、超振動モーターにより刀身を高周波振動させ通常装甲ならいとも簡単に切断する強力な兵器だ。
アーマーシュナイダーはストライクの両腰のホルダーに一つずつ収納されている。
それに加えてストライクの武器は頭部のバルカン───イーゲルシュテルンのみだ。
「───負ける要素はない」
深く息を吸って、吐く。目の前の敵に集中。
ビームザンバーを破壊した事により今のストライクに武器はあまり残されていない。
残りの武器にさえ気を付ければ、そもそもストライクにゴッドガンダムを倒す術がないのだ。
「あんたは、自分に勝って証明してみせろと言ったな?」
「……言ったっすよ」
強気な言葉にニャムは冷や汗を流す。
どこからそんな自信が湧いてくるんだ。
彼はこの状況で勝つ気でいる。まるで、ガンダムの主人公みたいに───
「───だったら、俺があんたを撃つ!!」
「世迷言を!!」
ストライクが地面を蹴った。マントが揺れる。
「くらえ!」
そして、最初の行動にニャムは再び目を見開いて驚いた。
ケイはアーマーシュナイダーをゴッドガンダムに投げ付けたのである。
しかしニャムがそんな単純な攻撃を弾けない訳もなく、アーマーシュナイダーはあっさりと弾かれて地面に落ちた。
「そんな単純な攻撃で!」
なおも接近するストライクに対して構えるニャム。
何かがおかしい。何がおかしい。何を狙っている。分からない。
「あんたの言う事は確かに分かる。ストライクもゴッドガンダムも、確かに改造なんてしなくても良い機体だ!!」
ケイはストライクが羽織っているマントを掴んで、今度はそれを投げ付けた。
目眩し。そこからアーマーシュナイダーで強襲を仕掛けようというつもりか。しかし、マントなんて直ぐに退かして迎撃すれば良い。
「だってんなら、ジブンの言う意味を分かれってんですよ!!」
マントをゴッドガンダムの腕で払う。視界は簡単に開けた。気を付けるのはアーマーシュナイダーだけ───
「それでも───」
「───え」
───視界に熱が映る。
ストライクはアーマーシュナイダーを持ってはいなかった。代わりにその手に握られていたのは、白い棒状の兵器。
「ビーム……サーベル?」
「───これはガンプラバトルだぁ!!」
「なん……で」
肩から腰までを完全に捉えた光の刃。
斜めに両断された機体は、火花を散らしながら光を失っていった。
「……そんなバカな」
ニャムがそんな言葉を落とすと同時に、ゴッドガンダムは爆散する。
BATTLE END
勝者ケイ。ストライクBond。
「なんで……どうして。ジブンが、改造ガンプラなんかに負けるなんて……」
バトルに負けたニャムはその場に座り込んで頭を抱えていた。
そんな彼女の元に、ケイとユメはゆっくりと歩いていく。
「確かに、あなたの言うことは一理あると思う。あなたに言われて初めて気が付いた事もあったよ。……モビルスーツには、その物語で造られた想いや願いが込められている。設定も、設計も、変えなくたってその機体はもう素晴らしいって……そんな事は分かってる。だから俺達はガンダムが好きなんだ」
ケイのそんな言葉にニャムは顔を上げて「なら……どうして!」と声を上げた。
「それでも……何度でも言う。これはガンプラバトルだ」
続くケイの言葉にニャムは固まってしまう。
彼の言っている意味が分からない。
「ガンプラを作るのは俺達だ。物語の登場人物達じゃない。ガンプラに想いを込めるのは俺達だろ?」
「それは……」
いつか少年達も彼女と同じ事を思う事があった。
ガンダムが好きだからこそ、ガンプラを壊したり改造したりする事に悩んだ事もあったと思う。
だからこそ───
「───だから、俺が……俺達が。このモビルスーツを造った人達に負けないくらいの想いを込めてガンプラを作るんだ」
「これは戦争でもガンダムファイトでもない……っすか」
少しだけ、少年の言っている意味が分かった気がした。
GBNはガンプラの世界であってガンダムの世界ではない。
戦争が起きている訳ではないし、この世界でモビルスーツが開発されている訳ではない。
ガンプラを作るのは自分達ビルダーで。その想いを込めるのもまた自分達なのである。
これはガンプラバトルだ。
「……って、偉そうに言っちゃったけど。勿論あなたの言う事も分かりますよ! ゴッドガンダムも凄い完成度だし……。でも、お……俺だって結構考えてガンプラを作───」
「ニャムっす。あなたじゃなくて」
起き上がって、彼女はそんな言葉を漏らしながらストライクを見上げる。
「え、あ……はい?」
片腕は簡単に壊れるし、繋ぎ目消しもまだ甘い。
塗装も、組み立ても、褒められたものじゃない。だけど───
「───良いガンプラっすね」
込められた想いだけは強く感じた。きっと、その想いに負けたのだろう。
「腰に装備されたアーマーシュナイダーのホルダー。片方だけビームサーベルを隠してたんすね。……用途によって装備を切り替える。ストライクらしい素敵な発想っす」
「……あ、ありがとう。でもこれは、俺の発想じゃないんなけど」
頭を掻いてそう言うケイは、このストライクをアオトから受け取る前の事を少しだけ思い出した。
「アオトのストライク、どんどん改造されてるな」
「父さんに色々アドバイスを貰ってるからな」
「あ、これはアーマーシュナイダーか」
「そうそう、ストライクといえばね。そんでこっちは───ビームサーベルを入れておいたんだ。ビームと実剣で、要所要所に対応できるようにな!」
「そんな事も出来るのか。へー、ここを削ってビームサーベルが入るようにしてるのか」
「凄いだろ。ガンプラは、自由なんだ!」
「なるほど、左がアーマーシュナイダーで右がビームサーベルを入れてるんだ。なるほどなるほど」
「……って、ケイスケ! ズルいぞ!!」
この想いは、アオトの物だろう。その想いが、自分を押してくれた。
「……なるほど。自分の想いを機体に込める。それがガンプラバトル。GBNのガンダムって事っすね。郷に入れば郷に従え、か。……間違っていたのは自分だったと」
「そんな事……ないと思います!」
どこか遠いところを見ながら小さなため息を吐いて呟くニャムに、ユメがそう話し掛ける。
ニャムは座り込んだまま、その首を横に傾けた。
「私、ゴッドガンダム……? の、アニメは見てないけど。……ニャムさんがこのガンダムの事、凄く好きなんだって伝わってきたから」
「ジブンは……」
ガンダムが好き。
ずっとその気持ちだけは変わらなくて、譲れなくて。
「いつか、友達が言ってたんです。……ガンプラは自由だって」
「ガンプラは……自由」
「ケー君のガンプラも、ニャムさんのガンプラも、私はとっても素敵だと思う。どっちも、自分の……ガンダムが好きって気持ちが沢山込められてて!」
そう言いながら、ユメは座り込むニャムに手を伸ばす。
ニャムはその手を取って、ゆっくりと立ち上がった。
「
「自分の好きを……表現する場所」
「だから、ニャムさんの考えも間違ってないと思います。勿論、ケー君のガンプラも」
ニャムはそんなユメとケイを見比べて「完敗っすね」と目を瞑った。
「ケイ殿」
ニャムはケイの目を真っ直ぐに見てから頭を下げる。
「ガンプラをバカにして、すみませんでした。ストライクというモビルスーツに込められた気持ちと同等か、それ以上の気持ちが込められた素晴らしいガンプラだったっす。……正直、ガンプラに込める想いは完敗致しました」
「そ、そんな謝らなくても。俺は……俺の信念を通しただけというか。……正直、勝てたのも奇跡って───ん?」
平謝りをされて流石に驚くケイだが、頭を下げ続けるニャムの帽子が地面に落ちてその中身に驚いて開いた口が塞がらなかった。
「あ、可愛い」
「───ぇ、あ……うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
帽子が落ちている事に気がついて、ニャムは絶叫しながら慌てて帽子を拾う。
その頭の若葉色の髪の上にはモフモフとした獣の耳───ネコミミが付いていた。
「……ネコミミ?」
「GBNのアクセサリーみたいな物なんだって、マギーさんが言ってた。私も付けてみようかなー、可愛いなぁ」
首を横に傾けるケイの横で、ユメがそんな説明をしてくれる。
いつのまにそんな知識が、なんて思ったがそれよりも今は目の前でワナワナと震えているニャムの方が気になった。
「あ、あの……ニャムさん?」
「……ぉ、お……おぉ、お……お───」
「お?」
「───覚えてろぉぉぉおおおお!!!」
「「えぇぇえええ!?」」
突然泣きながら奇声をあげて走り去るニャム。突然の事に二人は彼女を追う事も出来ずに、二人で目を見合わせて笑った。
彼女とはまた会える気がする。
「……好きな自分で居られる場所、か」
きっと、直ぐに。
GBN。メインフロア。
「ケイスケぇ……ユメカぁ……どこ行ったんだよぉ」
そういえば彼の事を忘れていた、と。その後急いでメインフロアに向かった二人がタケシに凄く怒られたのは、また別の話だ。
ガンプラ作品を書くならこのテーマを絶対に書きたいと思っていたテーマのお話でした。自分の好きを貫く人が好きだし、譲れない好きを巡って信念をぶつけ合う人達も好き。ニャムにはそんな人になって貰いたいですね。
さてそんな訳でVS改造ガンプラキラーのお話でした。次回からはまた別のお話。読了ありがとうございました!