ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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雨の中で

 病院。

 

 

 ユメカは定期的にリハビリを受けているのだが、この数年間何かが変わる事は特になかった。

 筋力の衰えを防ぐ為のリハビリを続けていても歩けるようになる訳じゃない。

 

 ここ最近はGBNに夢中でリハビリをサボったりもしていたが、少しサボったくらいで何かが変わる訳もなく。

 

 全世界のインターネットサーバー異常を機に、書類の整理をしていた担当の医師からGBNが出来ないなら偶にはリハビリに来なさいと呼ばれて。

 

 

 

 そして───

 

 

 

「ユメカちゃん!?」

「───い、たた……ぁ」

 リハビリ中。

 

 ユメカは転んでしまった。

 原因は自分でも分かっている。最近良くある事だった。

 

 

「───GBNだと歩ける、から?」

「あはは……。はい。それで、自分では歩ける物だって偶に勘違いして家でもよく転ぶんです」

 自分の足で立とうとして───

 

 

 現実では下半身付随であるユメカは、その身体を支える事も出来なくて、転倒してしまう。

 

 頭から転んだ物だから一時病院は騒然となったが、幸い大した事は無く医師はホッとしながらもユメカに「気を付けないといけないよ」と注意をした。

 ユメカ自身も落ち込みながら頷く。

 

 

「下半身付随で歩けなかった子供が電脳空間のゲームで遊んでいる内に奇跡的に回復して歩けるようになった、という話を聞いた事はあるんだ。けれど、それが絶対に良いことなのかどうかはまだ医学的にも分かっていない。……ユメカちゃんにGBNを辞めろ、なんて事は言わないけどね。医者として、気を付ける事は気を付けて欲しいとだけは言わないといけない」

「……は、はい」

 俯いて弱い返事をするユメカ。

 

 

 自分の不注意で先生達に迷惑をかけた事は分かっている。けれど、どうしたってGBNを辞めるのだけは嫌だった。

 

 歩けるだけじゃない。

 あの場所には、ユメカにとって沢山の大切な物があるのだから。

 

 

「───とにかく、気を付けてね。病院でもGBNについてちょっと調べてみるけど、良いかな? 勿論ユメカちゃんが続けたいのなら止めたりしない。ただ、身体にどんな影響があるのか分からない事とユメカちゃんの身体が勘違いを起こしやすくなっているのだけは覚えておいて欲しい」

「……わ、分かりました。ありがとうございます!」

 先生の優しい言葉に顔を上げるユメカ。

 

 

「お姉ちゃん……」

 そんな彼女の隣で、ヒメカは目を細めて俯く。

 

 姉にとってGBNは───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 タケシと連絡が取れたのはユメカが病院に行った次の日の事だった。

 

 

「───スズちゃん達の所、ですか?」

「うん、昨日スズちゃんから連絡があってね。……ロックならウチで預かってる、心配するな。って」

 絶妙に似ていないスズの真似をしながら、彼女からの伝言を伝えるユメカ。

 

「修行でもしてんのかね? 水臭いわねぇ、ロッ君」

「タケシの事だから、あの時イアを連れ去られちゃった事に責任感じてるんだろうな……」

 あの日。

 

 ロックはセイヤを狙い打つ事も出来たのである。

 

 

 しかし、イアを傷付けてしまえば取り返しがつかない。

 彼は内心では分かっていたのだ。自分の狙撃精度が悪い事に。

 

 

 

「だからスズちゃん達の所に……」

「どのみちGBNがやれないんじゃ、おじさん達に出来る事は少ないからね。こうしてチャットで駄弁ってる暇があったらガンプラ強くしろって事なのかも」

 ここ数日、学校や仕事が終わった後四人はこうして毎日チャットをしていた。

 

 いつもならGBNに居る時間。

 けれど、今はそれが出来ないから。

 

 

「いやいや、私はちゃんと通話しながらガンプラを作ってるんですよ。ふふ、早くこの新しいガンプラを皆さんに見せたいです」

「ニャムちゃんまさかの作業通話な訳ね?」

「俺も」

「私も今ケー君と二人でガンプラ触ってるよ」

「この裏切り者がぁ!!」

 泣き真似をするカルミア。自分だけ何もしてないみたいじゃない、なんて言う彼にユメカからこんなフォローが入る。

 

 

「けど、カルミアさんも通話しながらGBNの事とか事件の事とか沢山調べてくれてるんですよね? アオト君のお父さんが言ってたよ」

「店長さん余計な事を……」

 ここ数日。

 カルミアは仕事以外の時間も、仕事の空き時間も一連の事件やGBN運営の対応を調べていた。

 

 三十光年先の惑星で何が起きたのか。GBNのサーバーと各地のELダイバーの話。

 しかし、調べても調べても有益な情報は出てこない。

 

 

「……でも収穫はないのよね。依然としてGBNのサーバーは回復しないし、情報は入ってこない。ELダイバーの事だけど、当日ログインしてたELダイバーでも行方不明になっていない子らは普通に強制ログアウトでログアウトしたらしいって事くらいか」

「そういえばサラちゃんも、モモちゃんが大丈夫だよって教えてくれたよ。マギーさんも忙しそうだったのにメイちゃんは無事だって」

「セイヤが連れ去ってログアウト出来ないようなバグの中にいるELダイバーだけがGBNのサーバーに取り残された、か」

「今GBNの世界はどうなってるんだろうな」

 サーバーエラーでこの世界から閉ざされた世界。

 

 今GBNでは時間が進んでいるのかどうかも分からない。

 

 

 またGBNにログインしたとして。

 データが全て残っているのか、イアが何処にいるのか、そもそも存在出来ているのか。

 

 それすら分からない。

 

 

「……悩んでても仕方ないか」

「そうですね。今は、自分達に出来る事をしましょう」

「結局はそうなのよねぇ。ロッ君が一番正しいのかも」

 そんな事を話していると、当然チャット音声に家のチャイムが混じる。

 マイクを通して全員の耳にチャイム音が鳴る物だから、一瞬誰の家でチャイムが鳴ったのか分からなかった。

 

 

「ケイスケー、今お母さん出れないから出てー」

 どうやらチャイム音はケイスケの家だったらしい。

 

 ケイスケは「ごめんなさいちょっと行ってきます」と、ユメカを置いて立ち上がる。

 

 

「ぇ───」

 そして玄関まで歩いて、扉を開けた瞬間ケイスケは固まってしまった。

 

 

 

 雨が降っている。

 

 あの日のように。

 

 

「───アオト?」

 ───そこに居たのは、アオトだった。

 

 

「よう、ケイスケ」

「なんで……」

「アオトく───きゃっ」

 ケイスケの言葉に、玄関近くの部屋にいたユメカが反応して転んでしまった。

 医者に言われた事を思い出すが、しかしケイスケの言葉は無視出来ない。

 

 玄関にアオトが居る。

 

 

「……なんで、今……こんな時に。ずっとお前を───」

「ガンプラバトルをしよう、ケイスケ」

「は?」

「ガンプラバトルをしよう」

 言いながら、腰からイージスのガンプラを取り出すアオト。

 

 それはまるで、幼い頃いつものように誘いに来た幼馴染みのようで。

 

 

 話したい事が沢山あった。

 

 

 

「……分かった」

 そう言って、ケイスケは部屋に戻る。

 倒れていたユメカを見てギョッとしたが、ケイスケはそんな彼女を机に座らせてからマイクに向けて「アオトと話して来ます」とだけ口を開いた。

 

 

「ケー君……!」

「ユメカはここに居てくれ。アオトと話してくる」

 言いながら、ストライクBondにダブルオーストライカーを装備してユメカに背中を向けるケイスケ。

 

 彼は「待っててくれ」と部屋出て、アオトの元に向かってしまう。

 

 

「ケー君! 私も───っ」

 また転びそうになって、ユメカは医者に言われた事を思い出して止まった。

 

 何も出来ない。

 今こんな時なのに、歩く事も出来ない彼女はケイスケに着いていく事すら出来ないのが悔しくて涙が漏れる。

 

 

 嫌だ。

 

 

 こんなのは嫌だ。

 

 

「カルミアさん、助けて───」

「……分かった。ごめん、ニャムちゃんちょっとの間頼む。今行くからな、ユメカちゃん」

 そう言ってカルミアはチャットから退出する。

 

 

 車を走らせて。

 

 

 雨の中。

 

 

 ケイスケとアオトが消えた場所で、ユメカはその手を強く握りしめていた。

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