ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
GBNメインフロア。
「ったく、昨日は遅刻で今日は休みとは」
「それは本当にごめん。でも、ユメカも謝ってたから許してあげてくれよ」
渋い顔を見せるロックに、ケイは手を合わせながら頭を下げる。
ニャムと戦った次の日。
GBNにログインしていたのはロックとケイだけだった。
その訳は昨日まで遡る。
「ふぅ、お疲れ様」
「あはは、タケシ君に沢山怒られちゃったね」
「ごめんて……」
ニャムとのバトルの後、遅刻してロックと合流した二人はその日一杯ロックに怒られながらミッションをこなしたのであった。
ログアウトしたのは夕方の十九時で、急いで帰らないといけない時間である。
「……入ります」
同時に、ドアノックがして部屋の扉が開いた。
扉を開けたのはユメカの妹のヒメカで、並んで座っている二人を見て目を細くする。
「何してるんです」
「ゲーム、かなぁ。ごめんごめん。もう帰る時間だよ───っうわぁ!?」
そんなヒメカを見て冷や汗を流すユメカは
現実では立てないという事を、偶に忘れてしまう
「お、お姉ちゃん! 大丈夫!?」
そんなユメカにヒメカは直ぐに駆け寄って、彼女はケイスケを睨み付けた。
どうやら彼が悪い事にされているらしい。ケイスケは両手を上げて首を横に振る。
「大丈夫だよ、転んじゃっただけ。ごめんねケー君、手伝ってくれない……?」
大丈夫とはいうがこうなると自分で車椅子に乗るのは難しいので、ユメカはケイスケにそう頼み込んだ。
断る理由なんてないのだが、二人の間にヒメカが入って「私がやるから大丈夫です」とケイスケを睨む。
まだ中学生で体も小さいヒメカだが、一緒に暮らしているので慣れているのか手際よくユメカを車椅子に乗せる事が出来た。
「ふぅ……ふぅ……」
勿論腕力がないため大変なのだが。
「だ、大丈夫か……?」
「大丈夫……です」
「ご、ごめんねヒメカ。私ダイエットした方が良いかな……」
「そういう問題じゃないだろ」
苦笑いするケイスケだが、息を荒げてでも姉の世話をする妹を見て微笑ましいくなって少し笑う。
そんな彼を見て「なんです」とケイスケを睨むヒメカだったが、彼女は唐突に俯いて黙り込んでしまった。
「ヒメカちゃん……?」
「明日も……お姉ちゃんはゲームするの?」
どこか寂しげな声に、二人は目を見合わせてハッとする。
そういえば最近、ユメカはGBNに夢中で妹と出掛けることも少なくなっていた。
ガンダムが嫌いという事よりも、今の彼女はきっと寂しいのだろう。
「……ケー君。ごめん、明日───」
「良いよ。タケシには俺が謝っとくから」
言い切る前に、ケイスケは二人を見ながらそう返事をした。ヒメカはそんな二人を見て首を横に傾ける。
「ヒメカ、明日……お姉ちゃんと隣町のデパートでデートしよっか」
そんなユメカの言葉に、ヒメカは目を輝かせて目一杯の笑顔を見せるのであった。
☆ ☆ ☆
日曜日。楽しそうな鼻歌が道路を歩く。
車椅子を押すヒメカは白色のカーディガンを着て、周りの中学生よりもお洒落な格好で歩いていた。
機嫌良く鼻歌を歌うヒメカを見上げながら、ユメカは「楽しそうだね」と笑う。
ここ数週間GBNに夢中で、こうして妹と遊ぶ時間が少なくなってしまっていた。
姉失格だな、と反省しつつも。妹に気を遣われないように自分も笑って楽しんだ方が良いのだと笑う。
「だって、お姉ちゃんとお出かけなんだもん!」
それだけで嬉しいとでも言うように、ヒメカは満面の笑みで姉と視線を合わせた。
歳相応の笑顔を見せる妹にユメカは少しだけホッとする。妹は少しませているので、表ではあまり笑顔を見せない。
だけど、姉といる時だけはこうして笑ってくれるのだ。それは、それだけ姉の事が好きだという事で。姉としてはそれが少し心配でもあり嬉しくもある。
「そっかそっか。でもせっかくの日曜日に私と遊んでて良いの? お友達は?」
「いないよ?」
真顔でそんな言葉が帰ってきたので、ユメカは口を開けたまま固まってしまった。
確かにヒメカが友達と遊んでいる所は見た事がないが、それでもまさか「いない」と言われるとは思っていなかったのである。
「だって皆子供っぽいんだもん。漫画とかゲームの話しかしないし」
ませてるなー、とユメカは心の中で苦笑いをした。
「だから、こうやってお姉ちゃんとお話しする方が楽しいよ!」
そう言って笑うヒメカの笑顔はとても無邪気で、良い意味で子供っぽい。そんな妹がとても可愛く見える。
昔からヒメカはこうやって姉にピッタリとくっついていた。
あの事故が起きて、一番ユメカを気に掛けていたのはヒメカだっただろう。大好きな姉が下半身不随になって、姉の世話に必死になった。
だから、忙しくて。
今こうして友達がいないと言ってしまうのは、そのせいなんじゃないか。ユメカはそう思って、少しだけ俯く。
「お姉ちゃん?」
「……ううん。なんでもないよ。あ、ほら、デパートが見えてきたよ! ヒメカ」
だけど、これ以上妹に気を遣わせる訳にはいかない。彼女は罪悪感を振り払って、妹に笑顔を見せた。
「ちょっと早いけどお昼ご飯休憩にしよっか」
「うん!」
車椅子生活なので、バスや電車を使うのは少しだけ勇気がある。
だから今日は歩いて隣町まで来たのだが、少しだけ時間が掛かってしまった。
ヒメカも車椅子を押してくれていたし、疲れているだろう。
そう思って、二人はデパートに到着するやいなやお昼ご飯を食べる事に。
デパートは三階建てで、なんでも最近オープンしたばかりとかで賑わっていた。
一階のフードコートに立ち寄ると、まだお昼には早い時間なのに人が溢れ返っている。
「うわ……これは少し厳しいかも」
車椅子という事もあり、この人混みはユメカに少し厳しい物があった。
しかし、ヒメカが「少し待ってて、お姉ちゃん」と前に出る。
「車椅子通るです! 道、開けて下さい……っ!」
ヒメカは目一杯の大声でそう叫んだ。彼女の必死な声に、フードコートの人達は道を譲ってくれる。
「ありがとう、です。……お姉ちゃん!」
空いているテーブルを見付けて椅子を退かし、手際よく車椅子を押すヒメカ。
あまりの手際の良さに感心している間に、ヒメカはユメカから食べたい物を聞いて注文を取ってきてしまった。
遊べなかったお詫びに甘やかせてあげようと思ったいたのに、妹に甘やかされてる気がして気が引ける。
だけど、とても嬉しそうに笑顔で歩き回る妹を見てそんな気持ちは何処かへ行ってしまった。
一緒にいるだけなのにそれだけで笑顔になってくれるのが嬉しくて、つい自分も笑ってしまう。
「このパフェ美味しいよ! お姉ちゃんも食べる?」
「え、じゃあ貰っちゃおうかな。私のも少し食べる?」
「うん!」
「はい、あーん」
「あーん! えへへ、美味しいね! お姉ちゃん!」
パフェを頼んだ二人はお互いのパフェを食べ比べあって、ゆっくりと昼食を楽しんだ。
せっかくだし何を話そうかなと考えて、ユメカは話題を切り出す。
「学校は楽しい?」
選んだのは学校の話。自分のせいで学校を楽しめてないんじゃないかという不安が、自然とそんな質問を口にしてしまった。
楽しい会話をしたかったのにこの話題はなかったかな、と内心反省する。
「楽しいよ!」
しかし、帰って来たのは意外な反応だった。
友達がいないと言っていた妹の意外な答えに、ユメカは「え?」と聞き返してしまう。
「お勉強沢山してね、良い学校に行くの!」
「そ、そうなんだ。ヒメカ、何か夢でも出来たの?」
「夢じゃない……けど」
突然もじもじとする妹が可愛くて、ユメカは「何々、教えてよ」と口角を吊り上げた。妹の成長というのはやっぱり嬉しい。
「……お医者さんになって、お姉ちゃんの足を治すの」
しかし、歳の割に決意めいた声でそう漏らすヒメカにユメカは唖然としてしまう。
どうしてそこまでして、なんて思ってしまったけれど答えは簡単だった。ヒメカは姉の事がそれだけ大好きなんだ。
だから、あの事故の事を一番気にしている。あの事故の原因になった幼馴染み達とガンプラが嫌いなんだ。
「ヒメカ……」
「お姉ちゃんはまだ、飛行機のパイロットになりたいんだよね?」
「え、ぁ……ぅ、うん」
唐突なヒメカの質問にユメカはたじろぎながらもそう答える。
ユメカの夢はずっとパイロットだった。
その夢はあの事故で叶わなくなって、だけどヒメカはそんな自分の為に自分の生涯を賭けようとしてくれている。まだ中学二年生の女の子なのに。
それが辛くて、ユメカは机に伏せた。
「……ごめんね」
元気でいたいのに、耐えられない。
「お姉ちゃん……?」
でも、私はお姉ちゃんだから。
「ううん。……なんでもない。あのね、お姉ちゃん頑張るからね。……だから、私はヒメカにも楽しんで欲しい。もっと自分の為に生きて欲しい」
「私はお姉ちゃんと遊べたらそれで良いもん。えへへ」
嬉しそうに笑うヒメカに、ユメカは涙を拭いて前を向く。
ヒメカがこの先どうするかなんて、まだ全然考える時間はあるんだ。
自分がしっかりしないでどうする。そう思って、ユメカは自分の頬を叩いた。
「お姉ちゃん?」
「よし、今日は遊ぼっか!」
そう言って、彼女は車椅子を動かす。まずは服を見ようとフードコートを後にした。
「ほらほらこの服、ヒメカに似合うと思うなぁ」
「わ、私のは良いよお姉ちゃん! お姉ちゃんの服みようよ……っ!」
「えへへー、良いから良いから。ほらこの服も可愛いい。絶対にヒメカに似合う。お姉ちゃんが保証する!」
「……どうかな?」
「天使か」
「えへへ、ありがとうお姉ちゃん」
試着室で色々な服を着るヒメカは自然と笑顔になって、彼女の年相応な反応にユメカは少しだけ安心する。
いつかヒメカにも夢を持って欲しい。
自分の為に生きて、楽しんで、もしかしたら恋をしたりして。
そんな大切な妹の人生を自分のせいで台無しになんてしたくない、な。
「これ! お姉ちゃんこれ! お揃いで買お!」
雑貨屋に来たヒメカは、赤いリボンの髪飾りを手に取って目を輝かせた。
女の子らしい反応にユメカは笑みを見せて「可愛いね。一緒に買おっか」と答える。
お揃いの髪飾りを満面の笑みで付けたヒメカは、少し歩いて玩具屋の先にあるゲームセンターで足を止めた。
ヒメカがゲームに興味を持っているのかと少し意外に思ったが、彼女の視線の先にある物を見てユメカは納得する。
「プリクラ、取りたい?」
「でもお姉ちゃん……」
俯くヒメカの視線は車椅子に向けられていた。座ったままではプリクラは取れないのだと───彼女はそう思っているのだろう。
「ふっふっふ。ヒメカ、最近のプリクラは凄いんだよ」
ユメカはそんなヒメカの手を取って、自分で車椅子を動かして妹の手を引っ張った。
困惑するヒメカをプリクラの機械に招き入れると、彼女は驚いた顔で固まる。
「広い……」
「でしょ。カメラも動かせるんだよ」
プリクラの機械はとても大きくて、座るスペースもあった。
機種にもよるが、今は座ったままプリクラを取れる機械もある。これは、ユメカが高校の友達と発見した事だ。
「今日は二人で撮るけど、これだけ広いんだからいつか友達と集まって撮るのも良いかもね」
ユメカはそう言いながら設定をする。姉とプリクラを撮るのが嬉しいのか、ヒメカは少し顔を赤くしてはにかんでいた。
「よーし、撮るよ」
「うん!」
ヒメカはユメカに抱き付いて、今日一番の笑顔を見せる。カメラが起動して、その笑顔がモニターに映った。
写真を見るヒメカもまた嬉しそうである。
何枚か取れた写真に落書きをして、二人はそれを印刷した。
宝物にすると大事そうにプリクラを眺めるヒメカに、ユメカは「大袈裟だなぁ、もう」と言葉を漏らす。
私が今出来るのは、俯かない事だけだ。
私が落ち込んでもどうしようもないし、そんな私の為に誰かが自分のしたい事が出来なくなるなんて嫌だから。
夢を失うのは私だけで充分。ヒメカにはいつか自分の夢を持って欲しい。
私は大丈夫だよ、ヒメカ。
「お姉ちゃん!」
「何? ヒメカ」
だから、ヒメカは自分がしたい事を探して。
「私、お姉ちゃん大好き!」
「うん。私もヒメカが大好きだよ」
私もね、頑張って私のしたい事を探すから。
突然のキサラギ姉妹デート回でした。仲睦まじく微笑ましいですね。
もう少しだけ続きます。