ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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アオトとイア

 裏世界。

 

 

「何をしてる、アオト」

「───あ、いや。なんでもないです」

 ELダイバーを拘束している牢屋の前に立っていたアオトにセイヤが声を掛ける。

 アオトは声のトーンを変えないで、セイヤにお辞儀だけをしてその場から去った。

 

 

「……アオト、お前も分かってくれるんだろうな。そうだ、ELダイバーは人間じゃない。……けど、生きてるんだよ」

 それを奪われる悲しみを。

 

 どれだけ強く拳を握っても、この世界で自分が傷付く事はない。その心だけが、ひび割れるだけである。

 

 

 この世界は偽物だ。

 

 セイヤはそう自分に言い聞かせるように、一度目を閉じる。

 

 

 あの時の苦しみを思い出せ───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 アオトはこの数日、イアと話す事を日課にしていた。

 

 

「───だから、イージスはストライクと違ってその先登場しない」

「なるほどなるほど。んー、ボクもやっぱりそのガンダムSEEDってお話が見たいな」

 他愛もない興味である。

 

 ELダイバーという存在が何なのか。話してみればみるほど、セイヤの言っていたNPCのような存在とはかけ離れて感じた。

 まるで本物の命がそこにあるかのように、彼女は自分の話に興味を持って問い掛けてくれる。

 

 

「アオトはイージスが好きなのか?」

「……あ、いや」

「ん、別にって感じか!」

「……まぁ」

 ここ数日の会話。

 その中で、ケイスケ達の話題が出るとアオトの機嫌が悪くなる事をイアは学んだ。

 

 別に彼を上手く丸め込んで脱出しようとは思っていない。

 ただ、彼に悲しい顔をしてほしくないというのが彼女の純粋な本音である。

 

 

 何故なら彼女はガンプラへの想いの結晶であるELダイバーなのだから。

 

 

「アオトは本当はガンプラが好きなんだな」

「そんな事は……」

「別にボクに正直にならなくていい。でも、アオトのガンプラはアオトの気持ちをちゃんと分かってる。可哀想だから、自分のガンプラの事は大切にしてやるんだぞ」

「大切に、か……。そうかもな」

 他愛もない話だった。

 

 

 ガンダムのアニメの話や、宇宙の話、地球の話。

 アオトはイアが何に興味を持って、どんな反応をするのかが気になったのである。ELダイバーという存在が何なのか。

 

 そして、今それは彼の中で確信に変わった。

 彼女達は本物の命である。0と1だけのデータではない。彼女はそこにしっかりと存在する命だ。

 

 

「───アオト、お喋りは終わりだ」

 ───だから、彼はセイヤの前に立ち塞がる。

 

「何をしてるんですか、セイヤさん。GBNで銃なんて向けても、何も起きませんよ」

 イアと話すアオトの背後で、セイヤは白兵戦用の小型銃をアオトに向けていた。

 

 

 アオトがイアと話をしている事をセイヤは知っている。アオトは上手く隠れていたつもりだったが、この裏世界を実質的にコントロールしているセイヤには全てがお見通しだった。

 

 お見通しの上で、彼はアオトの行動を止めなかったのである。彼がELダイバーに肩入れするその時を待つ為に。

 

 

「そうだな。この世界は偽物のデータだ。───だが、ソイツは違う」

 セイヤはイアに銃口を向けた。

 

「セイヤさん!」

 何かをする暇もなく───放たれた弾丸がイアの足を貫く。

 

 

「───っ、ゔぁ……っい、いだ……ぃぃ」

「イア!!」

 蹲るイアに駆け寄る事も出来ない。彼女は牢屋の中だ。

 

「何をするんですか! ELダイバーを使ってこのGBNを壊すんでしょ? イアは俺達にとって必要な筈です!」

「そうだ。だが、別にソイツだけがELダイバーという訳でもない。ELダイバーは他にも沢山いる。別にソレが無くなったところで、俺の計画に支障はない」

「そんな……」

「───だが」

 セイヤはアオトの頭に手を乗せる。

 

 まるで優しい兄貴分のように、その手でゆっくりとアオトの頭を撫でた。

 

 

「辛いだろ。痛そうにしている。……そうだ、ELダイバーは生きているんだ。アオト、分かってくれるか? 俺はな、そんなデータの筈の、一人の女の子が好きになった。けれど、GBNは、その女の子を殺した!!」

「セイヤさん……」

「だから復讐する。アオト、お前なら分かってくれるだろ?」

「……はい」

「アオ……ト、違う。そんなのは違う!」

「黙れ!!」

 否定の言葉を漏らすイアに、セイヤは銃を乱射する。HPが0にならない程度に、何度も、何度も。

 

 声にもならない絶叫が何もない空間に響いた。

 

 

 それでも、イアはセイヤを真っ直ぐに見て口を開く。

 

 

「誰かに、言われた……。セイヤを……止めてって。きっと、その子なんだ……ボクは……キミを止めないといけない。きっと、その子はこんな事望んで───」

「黙れと言っているだろ!!」

 銃声が鳴り響いた。

 

「イア!! 辞めてくれセイヤさん、イアが死んでしまう!!」

 ログアウト出来ない、ゲームのシステムに組み込まれたままのELダイバーにとってこの世界での死は本当の死である。

 だから痛みもあって、苦しんで───だからセイヤの大切だった人は死んだ。

 

 

「ボクは……キミを」

「イア! 黙るんだ。良いから、黙っててくれ……!」

 セイヤの前に立って両手を広げる。

 

 こんな事をしても意味はない。アオトは撃たれても死なないし、自分がリスポーンしている間にイアが殺されるかもしれない。

 

 

 殺されるならなんだ。

 

 別にそれがどうした。

 

 

 一瞬の自問自答。

 しかし、その答えは直ぐに出て来る。

 

 

 

「セイヤさんの気持ち、分かります。俺も彼女に死んで欲しくない。……だから、その銃を下ろしてください」

「……アオト?」

 彼女とはここ数日話しただけだ。

 

 ガンダムの事、ガンプラの事、自分が好きな物の事。

 ケイスケ達と別れてからアオトにとって自分が好きな事を話す相手なんて居なくて、イアはやっと出来た───友達なのである。

 

 

「……分かった。いや、良いんだ。悪かった。お前の友達を撃って悪かったな、アオト」

 言いながら、セイヤは銃を降ろした。

 

「大丈夫だ、ゲームの世界だからな。傷は直ぐに回復する。でも、痛かったし怖かった筈だ。……アオト、お前はイアと話をしてやってくれ」

「セイヤさん……」

「……そして忘れるな。大切な物を失う恐怖を。失った、GBNに奪われた俺の気持ちを───アオト、お前は分かってくれるよな?」

 そう言って、セイヤはその場を去る。

 

 

 アオトは座り込んで少しだけ考えた。

 

 

 

 ケイスケへの復讐。

 それが出来れば良い。それ以外に自分に必要な物はない。

 

 それじゃ、その復讐を叶えた後はどうする。

 

 

 自分には何も残らない。友達も、好きな女の子も居ない。

 

 

 

 ───いや、一人だけ居た。

 

 自分の話を親身になって、楽しそうに聞いてくれる、やっと出来たたった一人の友達。

 自分にとって一番大切な存在。そういう存在をセイヤはGBNに奪われたのだろう。

 

 

「……俺、分かったよセイヤさん。俺は、ケイスケに復讐出来ればそれで良いと思っていた。けど違う。セイヤさんはこんなに苦しい想いをしていたんだ」

「あ、アオト?」

「イア。お前の事は俺が守る。……そして、俺は俺とセイヤさんの復讐を必ず成し遂げるよ」

 イアはその言葉を否定出来なかった。

 

 

 アオトの辛い気持ちを知っているから。

 

 けど、そう───アオトの辛い気持ちを知っている。

 だから、何も言えない。アオトが苦しんでいる事を知っているから、何も言えない。

 

 

 ケイスケ達の気持ちも、アオトの気持ちも、ガンプラを通してイアには分かってしまうから。何も言えない。言えなかった。

 

 

 

「……ボクは、何も出来ない」

 ガンプラの気持ちが分かる。

 

 それは凄い事だとユメは言ってくれた。

 

 

 でもそれだけで、何かができる訳ではない。

 ケイスケ達とアオトの蟠りに何か助言出来るわけでも、セイヤの事を止める事も、自分一人の力では何も出来ないと思い知る。

 

 

「大丈夫だ、イア。お前は俺の……やっと出来た大切な友達なんだ。そして、セイヤさんにとっての俺のイアを殺したGBNを俺は許さない。……イア、お前は俺が守るから」

「アオト……。違うんだ、ボクは……」

「大丈夫だ。……大丈夫だぞ、イア」

 自分には、ただ目の前の少年の傷を治す事なく上辺で取り繕ってあげる事が精一杯だ。

 

 

 誰も救えない。

 

 ケイみたいに一生懸命になりたかった。ユメのように優しくなりたかった。ロックのように楽しくなりたかった。ニャムのように周りが良く見えている人になりたかった。カルミアのように他人に気を使える人になりたかった。

 

 

 ReBondの皆と暮らして、生まれたばかりのイアは暖かい場所を与えられて、いつか皆と同じ世界で、同じように笑えたらと思ったのである。

 

 

 でも、現実は難しい。

 

 

 アオトはどうしてもケイスケの事が許せなくて、でもケイスケ達はどうしてもアオトに戻ってきて欲しくて。

 セイヤはGBNの事が許せない。アオトやカルミアもそう思ったように、セイヤの気持ちを理解出来ない訳じゃない。

 

 だけど、この世界がなくなるのは嫌だ。

 自分が消えたくないとかじゃなくて、皆と出会えたこの世界がなくなるのは嫌なんだ。

 

 

「ボクはどうしたら良い……」

 分からない。

 

 

 

「───さて、始まるのかアルス。別に俺はお前が勝とうが負けようがどうでも良い。だが、利用出来るなら利用するまでだ」

 ───どうしたら良いのか、分からない。

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