ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
ヒメ以外の五人がサトウに掴みかかる勢いで問い掛ける。
「ここの下ってどういう事だよ!!」
「どういう意味なんすか? 下って」
「そのままの今だって。ここのフォースネストの下の空間、バグで開いた穴に裏世界の入り口があるんだよ」
五人から逃げるように後退りしながら、サトウは両手を上げてそう言った。
「なんでそんなことに?」
「イア……が、原因って事か?」
目を丸くして、ケイは何かに気が付いたように口を開く。
以前、ロックとケイが二人だけでGBNにログインしていた時。
イアが暇だから、二人でバトルをしてみたらという提案をしてきた事があった。
そのバトルで、イアの情報量によりサーバーがエラーを起こしてバグが発生したという事を思い出す。
「そう。ELダイバーイア。原因は分からないけど、GBNからログアウト出来ないELダイバーなんだろ? ここや他の場所であの子が起こしたバグが、世界に割れ目を作って裏世界の入り口になってるって訳だ」
「それで、このフォースの下って事か」
「因縁だよな。俺達、セイヤさんが作ったフォースが使っていたフォースネスト。……この場所の下で、アンチレッドが暗躍していたんだから」
「確かにな……」
目を細めて頷くカルミアに、サトウは突然頭を下げた。
そうして、彼はこう続ける。
「今更、何言ってんだと思うかもしれないです。けれど、カンダさん。……俺は、どうしたら良いか分からない」
「サトウ……」
「確かにカンダさんの言う事は正しい。俺達が間違ってるなんて、そんな事は分かってるんだ。俺も、きっとセイヤさんも!! けれど、止められないだろ!! 分かっていても、GBNが憎いんだから!! なんで……なんでカンダさんは、許せたんだよ!!」
縋るようにカルミアの前で泣き崩れるサトウ。
ガンプラに全てを奪われた。
道路に転がったガンプラを拾おうとした女の子を轢いてしまって、尊敬する社長のセイヤはGBNに大切な人を奪われる。
GBNで誇りを失う人が居て、大好きな女の子が怪我をして、夢を奪われて、友達と友達で居られなくなった。
アンチレッドの仲間はそんな風にガンプラを───GBNをどうしようもなく憎んでしまった人達の集まりである。
それでも、カルミアはアンチレッドを裏切った。
彼も、レイアという大切な仲間を失った筈なのに。
「俺は……セイヤさんみたいにレイアの事を異性として好きだった訳じゃない。けど、女の子の友達として……大好きだった!! あんたもそうだろ!! カンダさん、あんたも!! レイアの事を大切にしていた筈だ。それなのに!! なんで!!!」
「サトウ、俺にはな……レイアと同じくらい、大切な仲間が出来ちゃったんだよ」
「カンダ……さん」
カルミアの言葉に、サトウは固まってしまう。
そうして彼は、カルミアの周りに立つ少年少女達を見渡した。
「勘違いするなよ、サトウ。俺はGBNを許してなんてない。きっとこの恨みは一生消えないだろうな。当たり前だ。失ったのはもう二度と戻ってこないものなんだから。時間も、夢も、人も、戻って来る事はない。……だけど、まだ失ってないものがある。俺は、新しく出来た大切な物をまた失いたくない。この形の大切な青春の時間も、夢も、関係も、もう何も失いたくない。だから、俺は戦うんだ」
サトウの肩を叩いて、そう言ったカルミアを見てケイ達はお互いに顔を見合わせる。
「俺達も、カルミアさんが大切です」
「ケー君……」
「カルミア氏はジブン達の大切な仲間っす。そうやって、ジブン達の事を大切にしてくれる模範的な大人。ジブンは、カルミア氏の事が好きっすよ」
「ニャムちゃん……」
「カンダさん……愛されてるんですね」
納得したようにそう言って、サトウは立ち上がった。
「ついて来てくれ。俺はやっぱり、GBNを許せない。……けれど、それ以上に俺は俺を許せない」
「サトウさん……」
ユメを見ながらそう言うサトウは、一度目を閉じてからこう続ける。
「子供の夢を奪っておいて、その子供達の夢をまた奪うなんて……間違ってる。思い出したんだ。俺達の仕事は、子供に夢を届ける仕事だって」
ガンプラの運送業。
届けたガンプラを見て、笑顔になる子供達が好きだった。
サトウはフォースネストを出ると、近くにあった巨大な木まで歩く。
そしてそのまま、木にぶつかるように真っ直ぐ進むと、彼はその木に吸い込まれるようにして消えた。
「なんだ!?」
「このオブジェクトがバグって、当たり判定がなくなってるって訳だ。そしてその裏に、裏世界への入り口がある」
木の中から聞こえてくるサトウの声。
こんな単純な場所に隠してあったとは、誰も思っていなかっただろう。
ケイ達はヒメも含め、全員で頷いて木の中に向けて歩いた。
「待て」
しかし、何故かサトウがそれを止める。
「罠かもしれないって……思わないのか。俺を信じるのか? 俺は、君達の色んな物を壊した張本人なんだぞ?」
木の中から聞こえてくるそんな声。
確かにサトウはアンチレッドのメンバーだ。
痛い話だが、ケイ達はカルミアに一度裏切られている。
「信じるよ」
「うん。私も信じる」
ケイとユメの真っ直ぐな言葉に、サトウは困惑した。
「どうして……」
「サトウさんがガンプラを好きなのは、伝わってくるから……かな。それに、カルミアさんの仲間ならサトウさんも俺達の仲間だ。ガンプラが好きな、GBNの仲間」
「サトウさんは私の事を助けてくれた。私の事が憎い筈なのに。……それに、そもそもあの事故でサトウさんがもう少しでもハンドルを切るの遅れてたら、私は死んでたってお医者さんが言ってたんです。私は私が悪いと思ってるけど、誰も悪くないとしたら……私の命を繋いでくれたのはサトウさんとカルミアさんだから」
子供達の真っ直ぐな言葉。
サトウはやっと理解する。この真っ直ぐな気持ちを守る為に、カルミアは自分達から離れていったのだと。
「それに、俺達にはもうあんたしか頼れる人は居ないしな」
「何言ってるのか分からないけど、お姉ちゃんが許すなら私は許す。……うん、お姉ちゃんを助けてくれた人だもんね」
「ジブンもそれなりに大人として、皆さんには学ばせて貰ってます。間違えたって良いじゃないっすか。過ちを気にやむことはない、ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ。……フル・フロンタルの名言っすよ!」
「って訳よ、サトウ」
言いながら、カルミアは木の中に足を踏み入れて、座り込んでいたサトウの肩を叩いた。
「力を貸してくれ。俺達に」
「……カンダさん。はい! 案内します。こっちです」
サトウを先頭に、ケイ達は地下基地のような場所を進んでいく。
ジブン達のフォースネストの下にこんな場所があるとは思っても見なかったが、運営すら見付けられなかったバグの裏世界だ。無理もないだろう。
「ジャブローみたいだな」
「じゃぶろー?」
「宇宙世紀……って言っても分からんか。えーと、なんて言えばいいんだ?」
「宇宙世紀、なら分かります。ユニコーンのアニメの奴だって、お姉ちゃんが言ってたから」
「おー、それなら。宇宙世紀の世界のアマゾン川ら辺に作られた巨大な地下基地だ。こんな感じで地下にビルとか立ってんだよな───ってか、ヒメ様設定はもう良いのか? お姉ちゃんお姉ちゃん言ってるけど」
「……ッハ。私はヒメです。ヒメカじゃないです」
「へいへい、ヒメ様」
ロックに言われてハッとするヒメだが、ユメ達はそれを見て微笑ましく笑った。
この微笑ましい光景を、まだ失いたくない。
「ここから先は、MSが出せる。分からないけど、格納庫まで行けばデストロイがそこに居るかもしれない」
「サトウにもそこまでは教えてなかったって事か。セイヤの奴、もう誰も信じてないんじゃないのか……」
カルミアやサトウはセイヤとは一番付き合いのある仲間である。
「俺も、デストロイは出撃してると思ってたんで……」
そのサトウにも、セイヤはデストロイガンダムの所在を教えていなかった。
「まぁ、そうなるとビンゴだろうねぇ。本命を隠す、セイヤの考えそうな事だ」
目を細めてコンソールパネルを開く。
この先に、イアがいるなら───
「行こう、皆。大切な仲間を迎えに」
───迷わずに進め。
大切な仲間を守る為に。