ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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その笑顔を作ったのはきっと

 爆炎が上がる。

 ビームサイズを肩に掛けながら、黒いデュナメスが爆散した機体を踏んだ。

 

 

「さーて、次はどいつだ」

 辺りを見渡しながら、得意げな声でそう言うロック。

 その背後にはケイのストライクBondが立っていて、二機の周りをリーオーという機体が囲んでいる。

 

 

「ケイ、とっとと片しちまおうぜ!」

 威勢よく声を上げるロックだったが、返事が来ない事に彼は目を細めて首を傾げた。

 

 当のケイはモニターに映るメッセージを見て唖然としている。

 通信モニター越しの彼の表情はこれまでに見たこともないような表情で、ロックは「……ケイスケ?」と恐る恐る問い掛けた。

 

 

「タケシ、今すぐログアウトしてくれ」

 その言葉と共に、ケイはGBNからログアウトする。

 

「お、おい! な……なんだってんだ」

 不満げな声を漏らすロックだったが、ケイの表情を思い出してコンソールパネルを引き出した。

 ただ事じゃない雰囲気に冷や汗が漏れる。

 

 

 ミッションを破棄してログアウトしたフィールドには、二人の機体だけがポツンと残されていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 トラックのエンジン音が消える。

 停止したトラックの扉が開いて、運転手の男性は「ふぅ……」と溜息を吐いた。その視線はどこか遠くを見ている。

 

 

 トラックはユメカのギリギリ手前で止まっていた。

 本人は驚いて固まってしまっているのか反応がない。男性はユメカの無事を確認すると、トラックが何かを下敷きにしているのを見て「あらまぁ」と声を漏らす。

 

 

「……っ、ぉ……お姉ちゃん!」

 驚いて閉じていた目を開くヒメカの瞳に映ったのは、車椅子に座ったままの姉とトラックだった。

 

 

「あらあら、こりゃ酷いな。悪い悪い」

 トラックの運転手の男性は座り込んでトラックの下に手を突っ込んでいる。取り出されたのはタイヤに轢かれて潰れたベアッガイのガンプラの箱だった。

 

 

「あ、あの……」

 そんな男性にヒメカは見覚えがあって、声を掛ける。

 

 

「───だから、危ないって言ったじゃないの」

 腰を上げる男性は少し長めの髪を後ろで縛っていて、眠たげな瞳はそれでもどこか優しげにヒメカを見下ろしていた。

 

 

「玩具屋にいた……おじさん?」

 そんな声が自然と漏れる。

 

 トラックを運転していたのは、玩具屋でベアッガイのガンプラを取ろうとして転びそうになったユメカを助けてくれた男だった。

 男性は「そうよ、さっきのおじさん」と手を挙げながら短く返事をする。

 

 

「……いや、ね。運転してたのがおじさんじゃなきゃ、危うくまた事故に遭う所だったよ」

「ご、ごめんなさい……」

 謝るヒメカに男性は「いやいや、こちらこそ」と頭を掻いた。

 

 

「せっかく買ったのに悪かったね。おじさんが弁償するよ」

 そう言いながら男性はヒメカに潰れたガンプラの箱を渡す。

 

 ベアッガイのガンプラはバラバラになっていて、もし姉がトラックに轢かれていたらと思うとヒメカは背筋が凍り付く想いだった。

 

 

 

「ひー、ふー、みー、と。……ベアッガイはそんなにしない、が。ほらお嬢ちゃん、ガンプラの弁償代だ。受け取ってくれ」

 そう言いながら男性はヒメカにお金を手渡す。ヒメカは少し困惑気味で、そのお金を受け取る事を拒めなかった。

 

「また大事故にならなくて良かったねぇ。……あらら、可哀想に。そんなに怖い思いをしたのかな」

 ヒメカにお金を渡した男性は、ユメカを見てそんな言葉を漏らす。デパートの時のようにユメカと視線を合わせる男性は「あらあら」と口を押さえた。

 

 

 ユメカの瞳孔は揺れていて、身体も小刻みに震えている。息も荒く過呼吸になっていて、車椅子と道路は濡れていた。

 

 

「───っ、お姉ちゃん!」

 そんなユメカに気が付いたヒメカは男性と姉の間に立って、手を広げながら男性を睨む。

 男性は「どうどう、落ち着いてくれや。別に取って食ったりしないって」と両手を上げた。

 

 

「ガンプラのせいで事故に遭うなんて耐えられないよなぁ。……だから、気をつけなと言ったのに」

 そう言いながら立ち上がる男性は「何かあったらここに連絡しな」と自分の名刺をヒメカに渡す。

 

「ガンプラが憎いなら、力になってあげるよ」

 そんな意味深な言葉を漏らして、男性は指で車の鍵を回しながらトラックの運転席に戻った。

 二人を横目で見る男性は、不適に笑ってからトラックのエンジンを掛ける。

 

 

「またね、キサラギ・ユメカちゃん。ヒメカちゃん」

 発進するトラック。

 

 

 

 ヒメカはそれを睨んでから、姉と視線を合わせて「お姉ちゃん! お姉ちゃん、大丈夫?」と声を掛けた。

 

「ぁ……ぁぁ……っ、ぁ……」

「お、お姉ちゃん? お姉ちゃん……っ!」

 返事はなくて、ただユメカは震えている。

 五年前の事故を思い出してしまったのか、まるで怯えるように自分の身体を抱く姉の姿が痛々しくてヒメカは「どうしよう……」と頭を抱えた。

 事故にあった訳でもないのに救急車を呼んで良いのか分からない。このまま家に帰ったら、きっと母がとても心配するだろう。

 

 まだ中学二年生のヒメカはこんな時にどうしたらいいのか分からなかった。

 

「……っ、はぁ……はぁ……ぁ」

「助けて……」

 思わず手に取った携帯電話で、一番頼りたくなかった人物に連絡をする。ここは家の近くだから、彼なら───

 

 

 その人をヒメカは嫌いだった。

 姉を事故に合わせた原因を作った人で、それなのに姉は彼にベッタリなのだから。

 その感情を表に出す事も難しくて、嫌な気持ちだけが募っていく。そんな人でも、今は彼くらいしか頼れる人がいなかった。

 

 

 

「ユメカ!!」

 少しだけして、予想よりも早く(ケイスケ)は二人の元に辿り着く。

 

「……ケー、君?」

 時間が経って、少しだけ落ち着いたユメカは彼が来てくれた事でようやく口が開いた。

 そんな事が悔しかったが、ヒメカは藁にもすがる気持ちでケイスケに泣き顔を見せる。

 

「お姉ちゃんが……っ、事故に遭いそうになって……それで!」

 歯切れの悪い言葉である程度の事を察したケイスケは、ヒメカの頭を撫でて「連絡してくれてありがとう」と優しく言った。

 

 

「俺の家に行こうか。今誰もいないから。……ヒメカちゃんは荷物を頼む」

 こんな姿を自分の親に見せるのは嫌だろうと、ケイスケはそう提案してユメカの車椅子を押す。

 家に辿り着いて直ぐにヒメカは部屋に荷物を取りに行って、その間にケイスケは自分のベッドにユメカを座らせた。

 

 

「……落ち着いたか?」

 少しの間ヒメカにユメカを任せてから、ケイスケは二人に温かい紅茶を入れてくる。

 

「う、うん。……ごめんね、迷惑かけちゃって」

 時間も経って落ち着きを取り戻したユメカは、顔を赤くしながらもケイスケに謝った。

 

 

「ユメカ……」

 心的外傷後ストレス障害という言葉を思い出す。彼女には事故の強いトラウマが残っているんだ。

 だけど優しいユメカはそれを表に出せないのだろう。妹やケイスケを困らせたくないから。

 

 

「あはは。も、もう大丈夫……だよ!」

 トラックに轢かれそうになったのは自分が悪い。

 なのに、妹と幼馴染みに迷惑をかけて心配までされているのが辛かった。

 

 

「私が……プラモ落としたから」

 ふと、ヒメカが見るも無残な姿になったベアッガイのガンプラの箱を見ながらそう言う。

 ユメカもそれを見て寂しそうな顔をするが、ケイスケは少しだけ考えてからこう口を開いた。

 

「俺も、ユメカが事故にあった時そうやって気にしてたし。今も気にしてる。……あの時俺が、ってさ」

 自嘲気味なそんな言葉を呟いてから、ケイスケは「でも」と言葉を続ける。

 

「でも、ユメカはそんな俺を逆に心配してくれた。自分が一番辛いのに、周りの皆の事をずっと考えてくれる。……ユメカが強くて優しいのは、妹のヒメカちゃんが一番良く知ってるんじゃないか? 俺達が気にすれば気にするだけ、ユメカが辛い思いをするかもしれない」

「お姉ちゃんが……」

 言われた言葉を頭の中で繰り返して、姉とケイスケを見比べるヒメカ。

 当のユメカは言われた事が恥ずかしいのか、顔を赤くして蹲っていた。

 

「ご、ごめんねお姉ちゃん……っ!」

「だ、大丈夫だよ。ありがとう……ヒメカ。ケー君」

 目の前で言われてあまりにも恥ずかしかったユメカだが、逆にその羞恥のおかげで事故に遭いそうになったという緊張感が何処かへ飛んでしまう。

 

 

 それで落ち着きを取り戻したユメカは、一度深呼吸してから自分の頬を叩いた。

 

 

「ビックリしたけど、お姉ちゃんは大丈夫!」

 ユメカは強いな、なんてケイスケは思う。

 

 ただ、そんな強くて優しい彼女がまた事故に遭いそうになったのがどうしようもなく悔しかった。本当はちゃんと弱音を吐いて欲しい。怖かっただろうし、辛かっただろうから。

 誰が悪いということも無いのだから、本当にどうしようもない。

 

 

 

「あー、でも……せっかく買ったベアッガイのガンプラは大丈夫じゃないね」

「これは……うん、大丈夫じゃないな」

「……一応トラックのおじさんがお金をくれた、です」

 そう言ってポケットからベアッガイが三つは買える分のお金を取り出すヒメカ。

 それなら、とケイスケは手を叩いてこう提案する。

 

「このベアッガイ、俺にくれないか?」

「え、でも……そのガンプラもうバラバラだよ?」

「使えるパーツは使うのがビルダーだ」

「ケー君が欲しいなら良いけど……。ヒメカは?」

「私は別に……」

 ケイスケの言っている意味が分からなくて首を傾げるヒメカだが、少なくともせっかく買って一緒に作る予定だったプラモデルがなくなってしまうのは悲しかった。

 プラモデルというよりはプラモデルを一緒に作る時間が、だが。

 

 

「こっちは無事だったんだね。……ふぅ、良かった」

「バンシィか……ん、なんで? ていうか、なんで二人共ガンプラ買ってるんだ?」

 ヒメカがガンプラを嫌いだったという事に気が付いて、そんな疑問を投げ掛けるケイスケ。

 ユメカが事情を説明すると、ケイスケは再び少し考えてこんな提案をする。

 

 

「それじゃ、三人でこのガンプラが出て来るアニメを見ながら作らないか?」

「うぇ……」

「あ、それ良いね! ね、ヒメカ。一緒に見よ!」

「うぇぇ」

 ケイスケの提案に微妙な反応を見せるヒメカだったが、どうもキラキラした眼のユメカに押されて首を横に振れなかった。

 それに、姉の笑顔はとても柔らかくてさっきまでの事が嘘のように思える。

 

 

「……う、うん。分かった」

「やった! それじゃ、今から見よ。お母さんには私が言いに行くから!」

 さっきまでの空気を忘れたかのように自分から動き出すユメカ。

 

 勿論一人で車椅子に座る事なんて出来ないので、ヒメカは慌てて「お姉ちゃんは無理しなくていいのに!」と言いながら車椅子の用意をした。

 

「だってー、早く見たいもん」

「お姉ちゃん、ガンダム好きなんだね」

「うん」

「そっか」

 そんな微笑ましい会話に、ケイスケも頬を緩める。

 

 

「───ユメカぁぁぁあああ!!」

 その時、突然玄関が開いて大声が響いた。三人で玄関を覗くと、そこには全身汗まみれのタケシが息を切らしながら立っている。

 

「ひぃ……はぁ……はぁ……、っ……事故に遭いそうになったって本当か! 無事か! 大丈夫か!!」

「うん。今からガンダムのアニメ見るところだよ」

「いやどういう事!!」

「お前も見てくか?」

「なんで!!」

 タケシの場違いな反応に三人は目を合わせて笑った。タケシは何が何やら分からず頭を抱える。

 

 

「……お兄さん」

 ふと、ヒメカが視線を逸らしながら言葉を漏らした。ケイスケはそんなヒメカに視線を合わせる。

 

 

「ガンプラは……好き、です?」

「うん。俺達はガンプラが好きだ」

「そうですか。あの、お姉ちゃんを笑顔にしてくれて……ありがとう、です」

 そんなヒメカの笑顔も、ケイスケは久しぶりに見たのであった。




これでキサラギ姉妹のデート回()は終わりですね!全然ガンプラ出てこなくてごめんなさい。次回からはまたGBNでのガンプラバトルが待ってます!

それと、まさかのお気に入り登録者100人ありがとうございました!
応援ありがとうございます!

読了ありがとうございました!
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