ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
光が放たれる。
「───だから、そんなに悲しい顔をしないで。あなたもガンプラも、きっと……苦しんでる」
「……俺が、苦しんでる。だと」
初めから分かっていたんだ。
「……レイア。ふざけるなよ、俺は───」
だから、彼は抗わない。
「───俺は、間違ってる。……そうだよ、そんな事は!! 初めから!! 分かってるんだよ!!!」
両手足も頭も、機体の殆どが半壊したセイヤのファーヴニルリサージェンス。彼はコアファイターを分離し、機体から離れる。
「コアファイター!?」
「逃げるつもりか……!!」
それを追おうとするリクとキョウヤ。しかし二人の機体は切り離されたファーヴニルリサージェンスから伸びる影に掴まれて動けなくなった。
「グリプスの呪縛……いや、違う。これは……そんな生優しい物ではないか!?」
「これは俺の呪いだ。弱くて、気持ちもなくて、何も出来なかった俺の気持ちを……この機体が力に変える」
同時に、残されたファーヴニルリサージェンスのパーツから放たれた黒い腕がその場にいた全ての機体を掴み上げる。
そして何処からともなく現れたコンテナから放射された予備のファーヴニルリサージェンスAパーツとBパーツが、セイヤのコアファイターと合体した。
「……お前達はそこで黙って見てろ!! 俺の過ちを!! この世界の終焉をなぁ!!!」
初めからセイヤの狙いは猛者であるGBNチャンピオン達の戦闘データと、その足止めである。
用意しておいた予備の機体を使う事になるとは思わなかったが、セイヤの目論見はほぼ完璧に達成されていた。
「終わりだな、チャンピオン」
「……このままでは」
地球に向かうセイヤに手を伸ばす。
しかし、その手は届かない。機体は動かない。
「宇宙に戦力を集め過ぎた……。私の、負けだというのか」
「大丈夫ですよ、キョウヤさん」
「リク君……?」
「GBNには、沢山強い人が居る。……俺達はそれを知ってる!」
どこか安心したような表情で、リクはそう言った。
そんな彼の表情を見て、キョウヤも少し落ち着く。
「それに、さっきあの人も言ってたしね。……自分は間違ってるって。分かっているなら、分かってくれたなら、きっと……伝わる筈なんだ」
「……そう信じよう。彼もまた、ガンプラを愛するダイバーの一人だったのだから」
キョウヤはモニターに映ったセイヤの顔を思い出した。
憎しみと憎悪に塗れた表情。
しかし、彼は泣いていたのである。それは、キョウヤ達の言葉が彼の心を少しでも動かした証拠の筈だ。
「……頼んだよ、ケイ」
目を閉じて、リクは三度も戦った一人の男の顔を思い出す。
きっと、彼なら───
☆ ☆ ☆
少しだけ、昔を思い出した。
「シールドビット!!」
ロックのサバーニャHellを襲うブレイクビット。しかし、それを全てシールドビットで弾きながら接近した彼のビームサイズがアオトのイージスブレイクを襲う。
「お前に近付く程、お前の事を知らない訳じゃない……!!」
対するアオトはスラスターを吹かせ、牽制射撃とブレイクファンネルを放出して距離を取った。
幼い頃からタケシという友人の接近戦に勝った事はない。しかし、距離を取ってしまえば怖くないという事もまた知っている。
「───なめんな、いつまでも昔の俺様のままだと思うなよ」
GNスナイパーライフルを片手に構えるロック。アイツが当てられる訳がない。そんな油断が、アオトにはあった。
「狙い撃つ!!」
「何!?」
ライフルはイージスブレイクの左足を貫く。
直ぐに飛び退くが、さらに右足を撃ち抜かれ、彼の機体はバランスを崩して落下した。
「タケシのくせに……!!」
「お前の知らない間に皆成長してんだよ。なぁ!! ユメ!!」
「私も、戦えるようになったんだよ。……アオト君!!」
体制を崩したアオトに接近するユメ。
ビームサーベルを構えて接近する彼女に、アオトは左足のビームサーベルを向ける。
「お前に負ける程!! 俺は弱くない!! お前は……守られていれば良いんだよ!!」
光が重なった。鍔迫り合うサーベル。
そうして固まったユメのデルタストライカーを放たれたブレイクドラグーンが囲む。
「落ちていろ!!」
「落ちない。……フィンファンネル!!」
しかし、先に放たれていた二つのロングレンジフィンファンネルが飛び出したブレイクドラグーンを叩き落とした。
そしてそのまま、ロングレンジフィンファンネルは光の刃を携えてアオトのイージスブレイクを襲う。
「……っ、ユメぇぇえええ!!」
弾き飛ばし、離脱するアオト。
その先に居るのは───
「───アオト、目を覚まさせてやる……!!」
───右肘に太陽炉を装着して構えていたケイのストライクReBondだった。
「ReBond───ナックル!!!」
放たれる必殺技。
殴り飛ばされたアオトの機体はバラバラになりながら地面に叩き付けられる。
しかし、その機体を禍々しいオーラが包み込み───次の瞬間イージスブレイクは無傷の状態で立ち上がった。
「……お前が強い事は知ってるんだよ、ケイスケ。けどな!! 俺はどんな手を使っても、お前に復讐を果たす!!」
「来い。……何度だって倒す。そして、お前を連れて帰る!!」
「無駄なんだよ!! 俺は……お前が嫌いなんだからな!!」
両手足のサーベルを展開し、ブレイクファングからビットまで───全てのオールレンジ攻撃がケイを襲う。
ブレイクシステムにより高められたその力は、どんなガンプラでも耐えられるような物ではない。
「ケー君!」
ビームマグナムとロングレンジフィンファンネルでアオトの武装を叩き落とすユメ。
その隣で、ロックの連続射撃がアオトの機体を襲った。
「お前はこうやって、友達に好かれて!! ユメに好かれて!! 良い身分だよなぁ!!」
「アオト……良い加減に、しろ!!」
ぶつかり合うイージスとストライク。
GNソードIIIとクジャクがイージスの四肢を切り飛ばす。しかし、アオトのイージスは直ぐに再生して再びケイのストライクに襲い掛かった。
「お前だって同じ筈だ、ユメが俺の事を好きになっていたら!! お前だって俺のようになっていただろう!!」
「……っ、それは」
否定出来るだろうか。
タケシとアオトがガンプラバトルを始めて、それを見るユメの目は輝いていて。
好きな女の子に見てもらう為。そんな不純な動機で始めたのがガンプラバトルである。
「……本人居るのによくもまぁ。俺様を外野にしやがって」
「アオト君、私の事……好きだったんだね」
「気付いてなかったのか? いや……まぁ、お前その調子じゃケイス───ユメ!?」
モニターに映る幼馴染みの頬に雫が垂れていた。
ユメからすれば、嬉しいのやら恥ずかしいのやら───いや、彼女はそれよりも前に思ってしまうのだろう。
「……お前のせいで、あの二人が喧嘩してるって思ってんだろ。どうせ」
「だって……。私は、ケー君が……」
「んな事分かってんだよ。いつからか知らねーけど、お前らの妙な関係には正直嫌気が差してたんだ」
幼馴染み四人組。
タケシにとってそれは、かけがえのない友達だった。
小さい頃からずっと一緒だったから、そのままずっと一緒に馬鹿やって、四人で笑い合えるものだと思っていたのを思い出す。
いたからだろうか、誰かさんが誰かさんを好きになって。その気持ちは広がって、あっという間にケイスケとアオトの間には見えない壁が出来上がっていた気がした。
普段はいつも通り楽しんでるのに、ユメカが見ている前でのバトルだとその壁がしっかりと見えるようになる。
ケイスケがどう思っていたかは分からない。彼は強くて、殆どアオトには負けなかった。彼の思い通り、ユメカに格好良い所を見せられていたんじゃないだろうか。
けれど、アオトは違う。
ケイスケに負けて、負けて、負けて負けて。
好きな女の子の前で恥をかいた。好きな女の子を取られたと思っているのだろう。
ユメカがケイスケを好きになったのがガンプラバトルの勝敗だということはないかもしれない。けれど、アオトにとっては屈辱以外の何物でもなかったのではないだろうか。
「けど、俺は一つだけ言える事がある。……あの時はさ、なんだかんだ壁があったとしてもさ。……本気でぶつかり合って、楽しかったんだよな」
「あの時……」
アオトと離れ離れになった事故の前。
ユメカの気持ちが分かっていても、鈍感なケイスケが一人で突っ走っていても、負ける度にアオトが悔しい思いをしていても、一緒に遊んでる時はやっぱり楽しかった。
離れた時は、やっぱり寂しくて。
きっとそれは、ケイスケも同じだろう。
「お前も味わえば良いんだ。俺から全て奪ったお前も!! 大切な物を失う気持ちを、味わえば良い!!」
「そんなに俺が憎いか……アオト!!」
「そうだよ憎い!! お前の全てを奪いたい程に、お前が憎い!!」
「……そうか。そうだな。俺も多分、お前にユメカを取られたって思ったら、同じ事してたよ。……いや、お前よりもっと酷い事をしてた。言っとくけど、俺はお前より強いから」
ケイの頭の中で何かが弾けた。
視界から色が消え失せて、赤い光だけが進むべき道に突き進む。
彼の言葉は本物だ。
振り下ろされる腕、振り回される足、全てを完璧なタイミングで切り飛ばして、その強さを見せ付ける。
昔からそうだ。
ケイスケという少年に、アオトは本当に勝てなくて、だからこうまでしたのに、それなのに───
「お前は……どれだけ俺を惨めにすれば!! 気が済むんだよぉ!!!」
「どれだけでも出来るさ。……あぁ、そうだよ。俺はお前の思ってる通りの最低な奴だ。好きな女の子に振り向いて欲しくて、大切な友達をここまで追い詰めた!!」
再生する手足も、ケイスケのストライクReBondがバラバラにしていく。
追い付かない。何も。
「ケー君、今、す……好きな……女の子って」
「お前マジ?」
呆れるロックはそんなユメの隣で頭を掻いた。
本当にこの幼馴染み達は、バカしかいない。
「俺はこういう奴だよ。本当に、最低だ。……でも、お前は違うだろ!!!」
「何が……だよ!! 何が違うっていうんだよ!! ケイスケぇぇえええ!!!」
反撃しようとしても出来ない。ブレイクバーストによる全方位射撃も、TRANSーAMで強化されたGNフィールドに防ぎ切られてしまう。
「お前は、俺と違ってちゃんと友達を思える奴だろ!!! ユメカの事も、俺達の事も傷付けないようにしてくれる奴だろ!!!」
「違う、俺はお前と一緒なんだよ。同じ女の子が好きになって、負けたから!! お前を恨んでる!! お前もそうなら、分かるだろ!?」
「いいや違う。お前は俺なんかより全然優しいんだ」
「何が違うんだよ!! 俺とお前の!! 何が違うっていうんだよ!!」
叩きつけられ、身動きを封じられた。
チートを使っているのに、勝てない。
こんな惨めな事になって、なんでこの男は真っ直ぐに自分を見るのだろう。
分からない。
力が抜けた。
「じゃあ、なんで!! あの時お前は、このストライクを俺に渡したんだよ!! ユメカの事を頼むって、お前が嫌いな筈の俺に、そんな事を言えたんだよ!!!」
「それ……は」
分かるだろう。
ケイスケには、アオトがそういう人間だというのが。
だから、この言葉を掛けるために、ここまで来たのだ。
「答えろよ、アオト。なんでお前は、俺にこのストライクを……渡したんだよ。なぁ」
その拳が、アオトの頬を殴り飛ばす。
気持ちが膨れ上がった気がした。