ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
大好きだったんだ。
「セイヤ!」
「どうしたんだ? レイア、そんな楽しそうな顔して」
あの子の事も。
「さっきね、サトウとカルミアがバトルしてたんだけどね! サトウがせっかくカルミアに勝てそうだったのに、途中で転んじゃったの」
「さっきの地鳴りはそれか。なんだ、そんな面白い試合なら見たかったな」
仲間の事も、本当に大好きで。
「まだリベンジするって言ってるから、一緒に見に行こう?」
「あぁ、一緒に見よう。なんなら混ざっても良いな」
この世界の事が、大好きだったんだ。
☆ ☆ ☆
拳が、シールドを突き抜ける。
光に包まれる視界。
楽しかった気持ち、大切な気持ち。それを全部、否定されたようだった。
けれど、彼等は違う。
この気持ちを大切にしてくれて、包み込むように言葉を交わした。けれど───
「───届け!!!」
「───この想いは、この気持ちだけは……偽物じゃない!!!!」
ケイの拳を受け止め、投げ飛ばす。
「……っ」
「邪魔は……させない。お前らが俺を否定しなくても、この世界は!! 俺を否定する!! 否定したんだ!! あの時、レイアが居なくなってしまったその時から!! 俺は、ダメなんだよ。この世界を許すことなんて!!! 出来ない!!!!」
アオトのイージスブレイクも振り払って、放たれようとするハイメガキャノン。
ムーバブルシールドも背部のファンネルも、両足の隠し腕も失って。
それでも、彼の機体は怨念のような光を纏っていた。
抗えない心が、機体を闇に染めて行く。
「兄さん!!」
「セイヤ!!」
「消えろぉぉぉおおおおお!!!!」
光が放たれた。
振り払って、全て消し去る。
差し伸べられた手も、仲間も、家族も。
「俺は……俺は!!!」
大破したケイ達の機体を見下ろして、セイヤは彼等に背中を向けた。
カルミア達の言葉も、届かない。
「ケイ!? やられたのか!? スズ!!」
「スズ、さんだ!! 来るぞタケシ!!」
「ロック!!」
後方で狙撃をしていたロック達に迫るセイヤ。
彼はスズの狙撃すら交わし、ロックを機体から放つプレッシャーで止め、二人の機体を斬り飛ばす。
「これがチートかよ!?」
「……っ、アンジェ!! ノワール!!」
スズが前線でデストロイガンダムと戦っている仲間に通信する暇もなく───
「なんですの!?」
「……っ、もう少しと言うところで!!」
アンジェリカ達メフィストフェレスも、アンディが指揮する残存部隊も、セイヤは一人で殲滅していった。
「……危ねぇな、まったく」
デストロイガンダムはほぼ大破状態。
もはや武装は殆ど残っていないような状態で、沈黙まで本当にあと少しの所だったのだろう。
「お姉ちゃん……どうしよう」
「セイヤさん……」
唯一なんとか動ける状態のヒメとサトウが、デストロイガンダムの前に立つセイヤの赤い機体を見上げた。
「……邪魔だ」
静かな声で、バラバラにしたアンディの機体から奪ったライフルをヒメ達に向ける。
「……あ?」
「……諦めない!!」
ヒメの前に、満身創痍のケイとユメが立った。
「お姉ちゃん……!」
「セイヤ、目を覚ませ!!」
カルミアやニャム達が続く。アオトやスズ、アンジェリカ達も立ち上がって、セイヤを睨んだ。
「……無駄なんだよ。もう何も戻らない」
頭部を光らせるファーヴニルリサージェンス。半壊した機体でも、ここにいるケイ達を吹き飛ばすくらいは造作もないだろう。
「……全て、消えろ。消えろ……消えろぉぉおおお!!!!」
圧縮したメガ粒子。それが放たれようとした刹那。
「な───」
彼の機体を巨大な腕が包み込んだ。
「デストロイガンダムが……」
「イアなのか?」
アオトとケイが見上げる先。
セイヤの機体をその手に掴んだのは、彼の背後で沈黙していたデストロイガンダムだったのである。
「なんだ……と? なんだ? どういう事だ。何故動ける。ELダイバーはコアでしかない、操縦は出来ない筈だ!!」
機体を抑えつけられて、ひっくり返された。
何が起きているのか分からない。しかし、このままではハイメガキャノンがデストロイガンダムに命中してしまう。
アンディ達からの攻撃で、もうデストロイガンダムには半壊したファーヴニルリサージェンスのハイメガキャノンすら耐えうる耐久は残っていない。
直ぐにでもメガ粒子の収縮を止めようとするセイヤ。しかし、機体の制御が出来なかった。
「なん……だ。なんなんだ!! なんなんだお前は!! 分かっているのか!? お前、このまま行けば死ぬんだぞ!! お前に帰る場所はない、お前だって生きたいと思っている筈だ!! レイアのように!! 俺はそれを利用して……なのに、なぜだ!?」
「───そうだよ、
セイヤのモニターに映るイアの顔。
そして、その姿にある少女の姿が重なる。
「レイ……ア?」
「セイヤ、もう辞めて」
聞き間違える筈がなかった。
その声は、声色は、その表情は、彼が恋焦がれ、何もかもを犠牲にしてでも、その存在を許さなかったGBNを憎むキッカケになった少女のものなのだから。
けれど、彼女はもうこの世界のどこにも居ない。その筈なのに、なぜ───
「───どうして……どうしてお前が、ここにいるんだ!? でも……その身体はお前じゃ、ない。お前は……GBNの運営に消された筈だ!! 俺を……俺を嘲笑うのか!! 俺を騙そうとしてるのか!!」
「どうして、かな。私にも分からないよ。けど、私はずっと見てたよ、セイヤの事」
「は……」
手が震える。
騙そうとしてる、と言ったのに。そんな訳がない事を自分が一番理解していた。だって、間違える訳ないじゃないか。
コレほどまで、ここまでの事をする程、彼は彼女が好きだったのだから。
「私は確かに消えて、この世界のデータの海でバラバラだった。でも、バラバラだったから、セイヤの事ずっと見てた。……本当に辛そうで、ずっと手を伸ばして上げたかった。でも、私には出来なかったの。……ごめんね、セイヤ」
「そんな事、ない。……そんな事ない。またお前に会えた……。そこにお前が居てくれれば、俺はそれで良い……。何を言われても、俺はそれで良い。お前が生きていてさえくれれば、それで良かったんだ!! レイア、待て……俺を離せ……!!! このままじゃ、俺が!! お前を殺す事になる!!!! 辞めろ!!!!!」
圧縮されるメガ粒子。
それは、もはや暴発寸前である。引き金を引いてしまえば、全てが終わってしまう筈だ。
そうでなくても、暴発したエネルギーがいつデストロイガンダムを───その中にいるレイアを貫くか分からない。
「それで、良いんだよ」
「レイア!!!」
「私は本当は存在出来ない。今は、この世界のデータがぐちゃぐちゃになってて……バラバラだった私がイアちゃんの中に存在出来ているだけ。どちらにせよ、私はこのままこの世界に居続ける事は出来ないから」
「そ、そんな……。そんな!! 待ってくれ、なら……道を探そう。お前を助ける道を……。このままバグを起こし続ければ良いのか!? もっとGBNをぐちゃぐちゃにすれば良いのか!? 俺はお前の為ならなんでもする!! そうだ、そのELダイバーをお前が乗っ取れば───」
「もう、ダメだよセイヤ。すっごい、私の事大好きなんだね。……ありがとう」
「レイア……」
何かが頬を伝う。
データである筈の身体なのに、震えが止まらない。
「私には、セイヤの手を取る事は出来ない。……だから、ごめんね。ありがとう。……だけどね、セイヤの手を取ってくれる人は沢山いるよ!! 私の最後のお願い、聞いて欲しい。皆と仲良く、この世界を楽しんでほしい。私、見てるから……ずっと、セイヤの事見てるから」
「い、嫌だ……嫌だ嫌だ!! レイア、俺と居ろ!! 俺とずっと……ずっと一緒に居てくれぇ!!! 俺を独りにしないでくれ!!! お願いだ、辞めろ……辞めろ!!!! 辞めてくれぇぇえええ!!!!」
泣き喚いて、懇願した。
この一時が一生続いても良い。なんでも良い、レイアと一緒に、それだけが望みだったのだから。
「イア!!」
「イアちゃん!!」
「あはは、皆そういう事だからさ。ごめんね?」
同じ顔、同じ声で、
「なんかね、レイアさんって人が消えちゃった時にバラバラになった欠片の一部が、ボクを形造る一つになったみたいで。僕がログアウト出来ないのは、そうやって強くこの世界に結びついていたから……なのかなって。ちょっと今更だけどね」
「でも、原因が分かったならイアちゃんは救えるかもしれないじゃないっすか! 兄さんを止めるためにイアちゃんが犠牲になるのは間違ってるっすよ!!」
「そうだよイアちゃん!」
ニャムの言葉にそうやって続けるユメ。
イアは彼女達にとって大切な仲間だ。それは、セイヤがレイアを大切だと思う事と、何も変わらない。
「俺様のチームから誰かが居なくなるなんて事……許さねーぞ!!」
「イア、俺達と戻ろう。セイヤさんを止めて、話し合いが出来れば、あとはなんとかするから!!」
「そうだイア。おじさんの馬鹿な友人の……いや、俺達の下らない喧嘩や仕返しなんかの為にお前が消える事はない。お前まで、レイアになる事はないだろ!!」
カルミアが手を伸ばす。けれど、イアは首を横に振った。
「……ボクは今、凄くGBNっていう世界に近い所にいる。色んな物がぐちゃぐちゃになってるから、かな。この世界が壊れかけてる、だからこそレイアもここに居る訳だし。……もう、時間がない。セイヤさんがこの機体に掛けた呪いは、この機体とコアになってるボク達をこの世界から消さないと……ちゃんと消えない」
「イア……」
「ボクね、楽しかったよ」
笑顔でそう言う。
「気が付いた時から一人だった……誰か来たと思っても、皆直ぐにどこかに行っちゃったから」
産まれたばかりのイアは何が何なのか分からなかった。
多分彼女がそこに産まれた事が、レイアという少女の残響だったのかもしれない。
けれどその場所にはもう誰もいなくて、寂しさだけが残る建物の中で、彼女はずっと一人だったのだろう。
彼等が、彼女を追い掛けるまで。
「タケシ!! ボクを見付けてくれて、ありがとう。タケシはずっと一緒にいると楽しくて、大好きだった!!」
「お、おい……嘘だろ」
メガ粒子は今にも放たれようとしていた。
「ニャム、ガンプラ奪ってごめんね。ニャムは色んな事知ってて、沢山の事教えてくれた。大好きだよ!!」
「イアちゃん……ちょっと、待って! そんな!」
光が溢れていく。
「カルミア、ずっとボクの事気にかけてかれてありがとう。ボクね、優しいカルミアの事大好きだよ。でも、自分に厳しいのはもう辞めてね?」
「……やめろ、イア。お前が俺達の代わりに帰る事はないだろ!! 辞めろよ、なぁ!! セイヤ!!」
「俺だって……やめたい、けど───」
暴発は止まらない。
「ケイ、ユメ……二人と───皆と一緒にいる時間は最高だったよ。沢山の楽しいがあった。本当に、僕は皆もこの世界も大好きになった───」
「イア……!!」
「イアちゃん……!!」
光が───
「───アオトとも仲直り出来たなら、もう僕に思い残す事はない。アオト、皆とガンダムを……ガンプラを楽しんでね」
「───待ってくれ……イア、俺はまだ!! お前の事も、この世界の事も、何も……何も知らない!! 俺を独りにしないでくれ!!」
「アオトはもう、独りじゃないよ」
───放たれた。
「や、辞めろ!! レイア!!! 辞めろぉぉぉおおおお!!!!」
光に包み込まれるデストロイガンダム。
何もかも燃やし尽くして、その手を───