ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
機体が爆散する。
彼女は、勝ち誇った表情で破壊した機体を踏み付けた。
「くそ、なんなんだよお前は!」
破壊されたガンプラのパイロットが悲痛の叫びを上げる。
そんなパイロットの表情も見ずに、彼女は機体から降りて淡々と機体を見渡した。
「あー、ダメダメ。全然ダメっすよ。アンタはこの機体の事を何にも分かっちゃいないっす」
分かっていなかったのは自分だったのかもしれない。小さな殻に閉じこもって、周りを見ようとしていなかったんだと思います。
「な、なんなんだよアンタは!」
「ニャム・ギンガニャム。巷では改造ガンプラキラーと呼ばれてるっす」
「改造ガンプラ……キラー」
「───ところで君、この男を知ってるっすか?」
そんな
──これはガンプラバトルだぁ!!──
その真っ直ぐな気持ちが、眩しかったんだと思う。
☆ ☆ ☆
GBN。カフェレセップス。
「このジュース……ちゃんと味がする」
店で出された飲み物を飲みながら、ユメは驚いた声を漏らした。
ここはゲームの中なのに、味覚も触覚もリアルと大差がないように感じる。
「バイザーが脳に直接味覚を感じさせてるんすよ。ケーキも絶品ですし、なんたっていくら食べても太らないのでカロリーを気にする事もないっす。……ちなみに、ここの名物はなんと言ってもコーヒーっす」
「私ここに住む」
「落ち着け。あと食べ過ぎるなよ。お会計はミッションで手に入れたポイントからなんだから」
「あはは、今日は自分の奢りっすから。そこら辺は気にしなくても良いっすよ」
「やった!」
女の子というのは甘いものが好きなのだ。
「───さて、本題なんすけど」
四人分のケーキと飲み物が出て来て、それぞれが半分ほど食べ終わった所で彼女は話を切り替えるように手を叩く。
何やら三人に聞きたい事があるというが、まだ知り合って何日も経ってないどころかロックに関しては初対面だ。一体何の用事なのか、少しだけケイは身構える。
「そ、そんなに警戒しないで下さいっす。改造ガンプラキラーはもう辞めたんで」
そんなケイを見て、ニャムは両手を上げてそう言った。
改造ガンプラキラー。
彼女はつい先日まで、巷で改造ガンプラを使うダイバーを狩っていた人物でもある。
マギー曰く「改造されたガンプラを見るや勝負を挑んできて。負けると凄い形相でガンプラを改造するなって何時間も説教をされるらしい」とかなんとか。
ケイが彼女と戦ったあの日からGBNでその噂は途絶えていたのだが、彼女の行方はケイも気になっていた。
辞めた、という言葉はどこか嬉しく感じる。
しかし彼女との接点はあのバトルだけなので、余計に彼女の聞きたい事というのが分からなくなった。
「聞きたい事、というのは。……自分、人を探してるんすよ」
「人、ですか?」
聞き返すケイにニャムは首を縦に振って、自分のコンソールパネルを開いて三人に見えるようにパネルをひっくり返す。
そこには一枚の画像が表示されていた。
ガンプラと映る一人の男性と赤髪の女の子。青年という歳ではなさそうだが、若い男性の姿が写っている。女の子はユメと同い年くらいか。
「あ」
と、画像を見せた所でニャムは間抜けな声を出してから一旦コンソールパネルを閉じた。
何かと三人が首を横に傾けている間に、彼女は視線を鋭く尖らせながら「この男を知っているか?」とやり取りをやり直す。
Gガンダムのドモン・カッシュの台詞だと分かった二人は苦笑いを溢すが、ユメはさらに頭の上にクエスチョンマークを浮かべるのであった。
「えーと、この人は?」
「ジブンの兄っす。あ、だからドモンの真似をしたんすけどね」
だからゴッドガンダムに乗っていたんだろうか、なんて考えるがその話は後にして。
「探してるって?」
兄を探しているという言葉とこの現状に、ケイはどこか納得がいかなくて聞き返す。
人を探しているというのに、ここはゲームの世界で自分達は彼女との関わりは薄いからだ。
「兄は五年前から行方不明なんすよ」
しかし続くニャムの言葉に、ケイもユメ達も表情を暗くする。
「行方不明って……」
「ジブン、両親が幼い頃に他界しておりまして。そんなジブンを育ててくれたのが兄でした」
彼女が言うには。
高校卒業まで実家のある北海道で働いていた兄は、ニャムが高校を出た後、出稼ぎに上京したのだとか。
そこで会社を作ったという話だけは聞いていたのだが、五年前から連絡が途絶えてしまった。
仕送りは毎月来ているのに、まったくもって連絡が付かない。
手掛かりは兄がガンダムを───ガンプラを好きだったという事。五年前最後に連絡をした時に貰った、ガンプラと写った写真。
「だから、ジブンもGBNにログインすれば兄を探せるんじゃないかと思いまして。しかし、まぁ……行方不明といっても仕送りは来てますし、元々風来坊みたいな所もあったんでそこまで心配はしてないんすけどね〜」
あはは、と笑うニャムはしかしどこか寂しそうである。
「でも五年って……」
「大方この写真に写ってる女の子とお付き合いでもして、ジブンに構ってる暇がなくなったって所かと思ってるっすけど。元気でやってるなら元気でやってるで、一言くらい欲しくてこうして探してるって訳ですよ」
画像はGBN内での写真だから、GBNで聴き込みをしたらいつか見付かるんじゃないかと。
そう思ってログインしてみたは良いが、気が付いたらゲームにハマっていて改造ガンプラキラーなんて事もしていた。と、ニャムは笑いながら付け足す。
「なんで、この話は終わりっす。お三方も兄の事は知らないようなので」
そう言ってニャムは立ち上がった。どこか寂しげな表情をしている彼女を見て、ケイとユメは顔を見合わさる。
「……この女の子」
ふと、ロックが呟いた。
何か知っているのか。
期待して、ニャムは目を見開く。ケイとユメもロックに視線を向けた。ロックはそんな三人に目もくれずに画像を覗き込みながら口を開く。
「可愛いな」
三人は転けた。
「お前な……」
「最低……」
「え、いや、ごめんて! ごめんなさい!!」
「あっはは、別に気にしてないっすよ。なんの当てもない人探しですし。気長にやりますとも」
そう言ってニャムは一度三人に背を向けて、少し歩いてから振り返る。
「それと、先日は本当にすみませんでしたっす。自分の好きを誰かに押し付けるなんて事はもうしません。目を覚まさせてくれて、ありがとうございました」
深々と頭を下げてから、彼女はゆっくりとその場を立ち去ろうとした。
何も言えない。
手だけが伸びるけど、ケイもユメもなんだかやらせない気持ちでいっぱいになる。
彼女とは他人だ。
勿論写真の人物には心当たりもないし、自分達に何か出来る事はないだろう。
オンラインゲームの一期一会。それだけの話───
「ちょっと待ってくれ」
───そうなる筈だった。
「……はい?」
「これからもそうやって一人で闇雲に探す気か?」
ニャムは振り返って首を横に傾ける。彼女を止めたのはケイでもユメでもなくロックだった。
「それは……そうっすね。これ以外に方法もないし、考えつかないので」
「なら、俺様達のフォースに入らないか?」
そしてロックは突然ニャムをフォースに勧誘し始める。これには流石にケイとユメは目を丸くした。
なんで?
「……ど、どうしてっすか?」
「俺達も人を探してんだよ。探してるっていうか……戻ってきて欲しいっていうか、ちょっとそこは複雑なんだけどな」
前置きをしてから、ロックはこう続ける。
「さっきの戦いでアンタの実力を見せて貰った。……俺達はどうしてもGBNの外にも届くくらい有名になって、ダチ公を呼び戻したい。そこで、だ! アンタも俺達とフォースを組んで天辺取って、兄貴に呼び掛けるってのはどうだ?」
もし彼女の兄がGBNをまだやっているのなら、この世界で有名になればその声も届くかもしれない。
それは実現するかどうかはともかく、ただ闇雲に探すよりも遥かに現実的ではあった。
「君は知らないかもしれませんが、ジブンは改造ガンプラキラーなんてやってた愚か者っす。……仲間を作るなんて、ましてや手伝ってもらうなんて───」
「いや格好良いじゃん。改造ガンプラキラー」
ニャムの言葉を遮ったロックの言葉に他の三人は目を丸くする。
「格好良い……?」
「そらやってた事はどうとは言わないけどよ、そんな二つ名を持てるなんて俺は羨ましいぜ。それに、ケイに負けてもう辞めたんだろ? なら、いつまでもグズグズ気にしてるなんてくだらねぇ」
「タケシが良いことを言っている気がする……」
「タケシ君は実は優しいからね」
「ロックだって言ってんだろ!!」
「あっはは」
三人の会話に、少し暗かったニャムの表情に笑顔が戻った。
「ジブンなんか、仲間にしてくれるんすか?」
「おうよ。あ、勿論リーダーは俺な。ケイもユメも良いだろ? 即戦力だぜ」
二人に目を合わせるロックを見て、ケイとユメも目を合わせて頷く。
上手く言葉が出なかった二人だけど、本当はニャムの手伝いがしたかった。
だけど、余計なお節介だとかそういう事を考えてしまって言葉が出なかったのである。
こういう時、いつも皆の手を引っ張ってくれるのはロック───タケシだった事をユメは思い出した。
彼は本当に、優しいのである。
「決まりだな」
「……それでは、僭越ながらニャム・ギンガニャム。お三方のフォースにお邪魔するっす」
「よっしゃぁ! 即戦力ゲット!! これで俺様の名前もうなぎ上りで有名になって行くぜ!!」
こうして三人は新しい仲間を手に入れた。
探し人という新しい目的と、少しだけ現実味を帯びたアオトへの呼び掛け。これでまた前に進めたと、ケイとユメは笑い合う。
新しい仲間と共に。
遂に二十話ですね。あまり進んでない気がする。
しかし、新しい仲間と目標を手に彼等はまた一歩前に進んで行きます。次回もお楽しみに。
読了ありがとうございました!