ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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ミラージュコロイド

 光が空気を切る。

 その光は空を駆ける獲物を貫く筈だった。

 

 

「……私が、外した」

 目を見開いてその光景を見る。

 

 直撃させたつもりだった。自信とかではなく、疑う余地もない。それが覆る。

 

 

「……あの戦闘機」

「スズが外すなんて珍しいな」

「でも、アレでは戦線復帰は無理ですわね。作戦通りですわ」

 高度を落として墜落していく戦闘機を見ながら、少女───スズは眉間にシワを寄せた。視界から戦闘機が消える。

 

 

「……もう外さない」

 少女の手は、自分の想像よりも強く握られていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 通信が入る。

 

 

「こちらユメ。市街地外周の森に不時着! 一応無事だよ!」

 もう砲身くらいしか動けないけど、と付け足すユメだがケイは安心して溜息を吐いた。

 

「戦況はニャムさんが可変機と戦闘中。敵の残りはユメを狙撃したスナイパーと……後の二人は不明か」

 強襲の為に先行したニャムの援護をしたいが、ケイにはロックの護衛という任務がある。

 

 そのロックの狙撃で援護するという手もあるが、どこかに隠れているスナイパーから目を離すわけにもいかなかった。

 

 

「ロック、スナイパーの位置は?」

「ユメから貰ったデータである程度の場所は分かるんだがな。……隠れてやがるか。どちらにせよ、俺も射程外だ」

「残りの二機も見つかってないし、迂闊には動けないな。……とりあえずはニャムさん次第か」

「一応そっちにも目を向けておくぜ。もしニャムさんの所に敵の援軍が来たら、その時は任せた」

 東側で戦闘中のニャムにも目を向ける。ニャムの強さはメンバーの中でも飛び抜けているが、相手も遅れをとってはいなかった。

 

 既にスカイグラスパーを失ったも当然のフォースReBondは数的不利も被っている。

 

 

「頼むぜニャムさんよぉ……」

 スコープ越しに戦闘を観察するロックは、冷や汗を流しながらその戦いを注視した。

 

 

 

 ガトリングが空を裂く。

 市街地の高速道路を走りながら、ニャムの駆るグフカスタムは変形して空を飛ぶクランシェアンドレアにガトリングを向けていた。

 

「中々避けるっすねぇ! 四枚羽に改造されて、付属のスラスターのおかげで通常のクランシェより機動力は二倍程っすか」

「ガトリングは厄介だな。……やはりコイツはスズの脅威になる」

 旋回してガトリングを避け続けるトウドウ。高速道路を走るグフカスタムを見ながら、彼はガトリングの間合いを見切って機体を変形させる。

 

 

「落とさせて貰う!」

 ライフルを構えるクランシェアンドレア。ニャムは冷や汗を流しながらMSの足で床を勢いよく踏んだ。

 

 同時に放たれたライフルを、踏み付けて崩落させ捲り上げた高速道路で防ぐ。

 高速道路の盾がビームを弾いて、そのままニャムは高速道路の盾を蹴り飛ばした。

 

 

「……くっ」

 トウドウは飛んでくる高速道路を避ける為に機体を急速変形させる。四枚羽のスラスターが吹いて、機体を一気に持ち上げた。

 その加速性能は凄まじく、道路の破片は掠ったが被害は少ない。しかし、それを見てニャムは笑う。

 

「逃げてばかりっすか!」

「その煽り……乗ってやろう!!」

 急上昇してから機体を反転させ、トウドウはそのままスラスターを吹かせて太陽を背に急降下した。

 太陽の光を連れて降下してくるクランシェに、ニャムは片目を閉じて「眩しっ」とグフの盾を向ける。

 

 

「その盾もらい受ける……っ!」

 急速変形、ビームサーベルを抜いたクランシェがグフの上を取った。

 

 

「えい」

「なに!?」

 ビームサーベルがグフの盾を切り裂こうとした次の瞬間、ニャムはその盾を横に投げ捨てる。

 盾に一瞬視線を奪われた。視線を戻したその先では、グフの剣が自分の機体を捉えようとしている。

 

 

「まずは一つ!」

「甘い!!」

 自由落下しながらも、トウドウは自分の機体を急速変形させてスラスターを吐かせた。四枚の羽に付いたスラスターが一気に機体を持ち上げんと火を吐く。

 

 

「そこです!」

 しかし、機体が上昇しようとする寸前。ニャムは剣を持つグフの右手に装備されたヒートロッドを伸ばした。

 上昇しようとするクランシェに伸ばされたワイヤーが絡まる。

 

 

「捕ま───のわ!?」

 同時に加速する機体は、真っ直ぐ上昇せずにヒートロッドに捕まったまま楕円を描くように飛んだ。

 まるでコンパスで円を描くように、上昇したクランシェは地上へと戻っていく。その先は地面だ。

 

 

「間に合わん。……改造ガンプラキラー、か」

 変形して離脱するにも、圧倒的な加速性能に機体が付いてこない。変形する頃には機体は地面でスクラップになっているだろう。

 

「ここまでだな。だが、充分に時間は───」

 トウドウは諦めて目を瞑った。しかし、その口元は───

 

 

「足の速さが命取りっすよ!」

 ニャムはそのままヒートロッドを引っ張りクランシェを地面に叩き付ける。衝撃に機体はバラバラになって爆散した。

 

 クランシェアンドレア撃破。

 

 

「ふむふむ、スラスターの追加により加速性能は引き上げられてましたがねー。変形機構を複雑にすればする程変形までの時間が長くなる。……そこが弱点になる」

 時間にして僅かな差だが、ヒートロッドを打ち込むのには充分な時間である。

 一人満足げに解説するニャムからの通信を聞いて、ケイとロックはひとまず安心と溜め息を吐いた。

 

 

「……しかし、スナイパーからの援護も増援もないとは。もう少し進めばユメちゃんが観測したスナイパーの位置の近くっすけど」

 放り投げた盾を拾いながら考え事をするニャム。

 

 随分と派手に戦ったのでこちらの場所はバレていそうだが、他の敵は一向に姿もみせない。

 

 

「……動いていたのはクランシェだけ? いや、そんな筈は……。しかしいくら市街地といっても高台を取ったロック氏に見付からずにいるというのはおかし過ぎる───まさか?」

 首を捻って眉間に皺を寄せる。嫌な予感がした。突如、モニターにロックの顔が映って同時に悲鳴と爆音が聞こえる。

 

 

 

「───うぉぉ!?」

「ロック氏!?」

「後ろからだぁ!?」

「やられた!?」

 どういう事だ、と頭を捻っても答えは見付からなかった。考えるよりも先に、ニャムは踵を返して西に向かう。

 

 

 

「んなぁろぉぉ、何処から湧いて出てきやがった!」

 一方西側の高台では、突然背後から現れた敵にロックが応戦していた。

 

 何処からともなく放たれるビームライフル。これがおかしな話で、ビルの影に隠れた機体が今度は別のビルの影からライフルを撃ってくる。

 まるで敵が複数いるような感覚に、ロックは苛立ってGNスナイパーライフルを連射した。

 

 

「残りの敵は三機。全部に後ろを取られた……?」

 高台の下からロックを見上げながら眉間に皺を寄せるケイ。いつのまに移動していたのか。

 そもそも、高台から見張っていたロックに気付かれずに背後を取るなんて事が可能なのか考える。

 

 

「───そうか、ロック! そっちは囮だ気を付けろ!!」

 何かに気が付いたケイはスラスターを吹かせてロックのいる高台までストライクを持ち上げた。同時に、彼の背後の景色が歪む。

 

 

「貰った!!」

 まるで空間を侵食するように、黒い機体がその場に現れた。

 正しくはその場に現れたのではなく、姿を表したともいえる。光学迷彩───ミラージュコロイドで隠れていたMSが。

 

 

「ブリッツだと!?」

「させるかぁ!!」

 ロックのデュナメスHellを襲うのは、ブリッツを元に改造され首元に巻いた赤いマフラーが特徴的な機体だった。

 

 そのブリッツが右手に持った武器から展開したブレードと、ケイのストライクBondの二本の剣がぶつかり合い火花を散らす。

 

 

「……っと、良い動きだ。奇襲に気付くか!」

 ブレードを薙ぎ払い、ストライクBondを突き飛ばすブリッツ。

 

 真紅のマフラーが風に靡いた。

 

 

「良い機体だな。名前は?」

「ストライクBondだ……。あなたの機体は?」

「迅雷ブリッツ。俺の愛機だ」

 自分の機体の名前を語るのは、フォースメフィストフェレスのリーダーノワール。

 漆黒と真紅の混じり合う機体───迅雷ブリッツと、ケイのストライクBondは地面に降りてお互いに間合いをはかる。

 

 

「ミラージュコロイドで隠れて近付いて来たって事かよ……。って事は、こっちにいるのも!?」

 そんな二人を見下ろしながらも、ロックは近付いてくる気配に気が付いてライフルを構えた。

 

 それと同時に、目の前に再び漆黒が現れる。

 

 

「その通りですわ!」

 逆光に照らされる黒いシルエット。見えたのは四枚の翼。その姿はまるで、堕天使のようだ。

 

 

「アストレイゴールドフレームオルニアス!」

 漆黒に黄金の混じる機体が天を舞う。翼のように見えるのは、元となった機体アストレイゴールドフレーム天のマガノイクタチと呼ばれる装備だ。

 本来背面に一対の翼のように装備される物だが、その機体にはそれが二つ。四枚の翼が開いていた。

 

 それが彼女───アンジェリカの機体。アストレイゴールドフレームオルニアス。

 

 

「舞え、オルニアス!!」

 そのマガノイクタチ(四枚の翼)から、一つずつ計四本のワイヤーが伸びてロックのデュナメスHellを襲う。

 GNフルシールドに一つアンカーが引っかかり、アンジェリカは機体を持ち上げてアンカーでデュナメスを左右に振った。

 

 

「んなろぉ!!」

 振り回されながらもライフルを構えて放つロックだが、そんな攻撃が動いている相手に当たる訳がない。

 そんなロックを見上げながら、ケイはブリッツと交戦する。実剣同士で火花を散らし、二人は間合いをはかっていた。

 

 

「お互いにフェイズシフト装甲だ。慎重になるよな」

「……何が狙いだ」

 ケイにはノワールが勝負を決めようとしていないように見える。まるで何かを待っているかのような───

 

 

「そうか、三機目。タケシ! 機体を西に向けろ! スナイパーが来る!」

「あぁ!? マジかよ、んなくそぉ!!」

 ロックは言われるがままに機体を無理矢理西に向ける。アンカーを引っ張る形で、アンジェリカのゴールドフレームが振り回された。

 

 

「な、なんて馬鹿力ですの!?」

「ロック・リバー様舐めんな!」

「むむむ……の、ノワール!」

「問題ない。プラン変更だ、やれ……スズ!」

 デュナメスHellが西を向いた刹那、一筋の閃光が走る。その光はデュナメスのGNスナイパーライフルを貫いた。

 

「な……っ」

 西側からのライフルの狙撃。もし東側を向いて、背中を向けていたらどうなっていたか───想像に難しくない。

 

 誘爆したGNスナイパーライフルを手放すロック。その衝撃でゴールドフレームのアンカーは外れたが、アンジェリカは不満そうな表情を見せずに笑う。

 

 

「目標は達した。グフが戻ってくる前に一旦離脱するぞ!」

 彼等の目的は初めからReBondの狙撃手だった。地の不利を潰す為の作戦。ニャムと戦っていたクランシェは囮だろう。

 

 彼等からしてみれば高台を取られている時点で、デュナメスというスナイパーは驚異だ。その脅威を排除出来た事は、撃破には至らなくても大きな戦果である。

 

 

「一気に離脱しますわ!」

「この野郎!!」

 スラスターを吹かせ、アンジェリカのゴールドフレームはデュナメスと一気に距離を取った。ライフルを破壊した今、背中を向けようが脅威はない。

 

 

「逃げるのか!」

「戦略的撤退だ!」

 高台の下ではストライクとブリッツが剣を交えていた、ノワールの迅雷ブリッツは大きくブレードを薙ぎ払う。

 ストライクBondが回避した隙に、ノワールの機体は大きく後ろに跳びながらミラージュコロイドを展開。光学迷彩に包み込まれた機体は、スラスターの音だけを残してその場から消えた。

 

 

「……やられたなぁ」

 頭を抱えて反省するケイ。モニターに映るロックは小刻みに震えていて、そんな彼が心配になって声を掛けようとする。

 

「───逃すかぁクソぉぉ!!」

「タケシ!?」

 高台を飛び出すロックの機体。ケイは唖然として固まってしまい、彼を止める事が出来なかった。

 

「おいおい……」

 気が付いた時には彼の機体は市街地に消えている。これはどうしたものか。

 

 

 

 

「作戦大成功。流石ですわ、スズ」

「……アンジェの機体のおかげ」

 一方市街地にて。

 戦線を離脱したアンジェリカのアストレイゴールドフレームオルニアスの横に、もう一機MSが地面を歩いていた。

 

「それほどでもありますわ! この私の作ったサイコザクレラージェは完璧ですもの!」

 そのモビルスーツはアンジェリカやノワール、トウドウと同じく全身が黒く塗られている。

 

 一つ目のモノアイに、角のようなアンテナ。

 バックパックのスラスターにはサブアームが複数確認でき、大型のバックパックには複数の武器がマウントされていた。

 

 サイコザク。

 機動戦士ガンダムサンダーボルトに登場するザクであり、そのサイコザクを改造した機体こそ狙撃手───スズの機体である。

 

 

「……うん。アンジェ、凄い。……アンジェの作ってくれたこのサイコザクレラージェは私の……私の───」

「見つけたぞスナイパー野郎ぉぉおおお!!!」

 市街地の建物にぶつかって倒壊させる勢いで、二人の元にロックのデュナメスHellが突撃してきた。

 これには二人も驚いて動きが固まる。その間にロックは更に二人に接近する為に地面を蹴る。

 

 

「……武器を壊したのに?」

「捨て身で突撃ですの!?」

「ブチ倒す!!」

 驚く二人の眼前で、デュナメスHellはGNフルシールドを展開。シールド内部に隠されていたビームサイズを手に、サイコザクレラージェに猛進した。

 

 

「……っ」

「貰ったぁ!!」

 ビームの鎌が空気を切る。しかし、その刃はサイコザクには届かなかった。

 

 

「あぁ……?」

 ただ、納得がいかない。ビームサイズを振り下ろした先には、確かにサイコザクが居る。

 それなのに───まるで何か見えない壁にでも遮られたかのように、ビームサイズは空中で止められていたのだ。

 

 

「───ミラージュコロイド」

 疑問の答えは次の瞬間明らかになる。見えない壁かと思っていたのは、ミラージュコロイドを展開していたノワールの迅雷ブリッツだった。

 

「ノワール!」

「……間一髪」

「チィッ」

 思わぬ妨害に一度距離を取るロック。

 

 迅雷ブリッツ、アストレイゴールドフレームオルニアス、サイコザクレラージェ。三機のMSを前に、しかしロックは怯む事なくビームサイズを向ける。

 

 

「ちょこまかと焦れったい事してねーで、正面からきやがれってんだ!!」

「お前はReBondのリーダーだろ?」

「あ? そうだけど……それがなんだよ」

 この状況でも自信満々といった雰囲気のロックに、ノワールは眉間に皺を寄せてオープン回線の通信で話しかけた。

 どう見ても考えても、ロックの行動は何かの作戦には見えない。これが作戦なら逆に凄いだろう。

 

「……チーム戦ってのを分かってないんだな。自分一人の行動で、仲間がどうなるか考えた事があるか? そんな奴に、リーダーを名乗る資格はない」

 軽蔑の目でそう言って、通信を一方的に切るノワール。ロックは頭に血が上り、歯軋りをしながら操縦桿を握った。

 

 

「んだとテメェ!!」

 ビームサイズの出力を最大にして振り上げる。GNドライブが粒子を放出して、機体を持ち上げた。

 

「切り刻んでやらぁ!!」

「アンジェ!」

「任せなさい、ですわ! マガノシラホコ!」

 ゴールドフレームの四枚の翼から、アンカーが四つ射出される。デュナメスに放たれたアンカーだが、ロックはそれをビームサイズで全て切り伏せてみせた。

 

「ハッ! んなもん見えてれば───何!?」

 視線を戻したロックの眼前からブリッツが消えている。ミラージュコロイドだと直ぐに気がつくが、気が付いた時には背後からの衝撃に機体が揺れていた。

 

 

「───んだと!? 早過ぎだろ!!」

 アンカーが目眩しだとしても、いくらなんでもブリッツの移動速度が早過ぎる。

 

 悪態を吐くロックだが、その間にもノワールの迅雷ブリッツはデュナメスに武器から展開したブレードを向けていた。

 

 

「───終わりだ」

 火花が散る。大きな鉄の塊が、市街地の中心で斬り飛ばされた。




戦況
フォースReBond
ケイ     ストライクBond        ◯
ロック    デュナメスHell        ○迅雷ブリッツ、アストレイゴールドフレームオルニアス、サイコザクレラージェと交戦中
ニャム    グフカスタム           ○クランシェアンドレアを撃破
ユメ     スカイグラスパー         △狙撃により大破。不時着。飛行不可能

フォースメフィストフェレス
ノワール   迅雷ブリッツ           ○
アンジェリカ ゴールドフレームオルニアス    ○
スズ     サイコザクレラージェ       ○
東堂     クランシェアンドレア       ×グフカスタムとの戦闘で撃破


読了ありがとうございました。
エクバのサイコザクを見慣れ過ぎて、作品のために原作のサイコザクを調べた時の感想。バックパックお化けか。デカ過ぎやろ。

本作に登場するサイコザクレラージェはランドセルが大型になっていて、そこに武器を詰め込んでいる形です。プロペラントタンクは積んでません(地上であんなもん背負えない)。


次回もお楽しみ下さい。
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