ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
新しい目標
爆炎が上がる。
空を駆けるMAの下で、戦闘が繰り広げられていた。
「こちらニャム、こっちの敵は撃破したっす。残りはその一機っすよ!」
「よっしゃ、終わらせるぜケイ!」
「分かった。ユメ、ストライカーパックを!」
ニャムからの通信が送られてきた二人は眼前の敵に詰め寄る。
「お届け物だよ!」
上空で待機していたユメは、スカイグラスパーに装備されていたダブルオーストライカーを降下させた。
ケイのストライクBondは装備していたエクリプスストライカーをパージして、ダブルオーストライカーに換装する。
「「トランザム!!」」
そしてストライクBondとデュナメスHellは同時に圧縮粒子を解放し、機体を赤く燃え上がらせた。
WINNER FORCE ReBond
今日もGBNで、少年達は前に進む。
☆ ☆ ☆
GBN。カフェレセップス。
「絶好調らしいですわね」
カフェで休憩していたフォースReBondの四人の前に、一人の少女が現れて口を開いた。
金髪の縦ロールが特徴的なお嬢様、フォースメフィストフェレスのアンジェリカである。
「アンジェさんじゃないっすか、お久しぶりっす」
挨拶を返したニャムは「どうぞどうぞ」と椅子を一つ持って来てアンジェリカを座らせた。アンジェリカは「どうも」と頭を下げて椅子に座る。
「噂は聞きましたわ。フォースバトル四連勝中ですって? 流石ですわね」
メフィストフェレスとのフォースバトルから数日、ケイ達は三度のフォース戦を経験し全てを勝利で納めていた。
「あ、ありがとうございます」
「ノワールは?」
称賛の言葉にお礼を言うユメの隣で、ロックはメフィストフェレスのリーダーの名前を口にする。
あの日の翌日、ロックからノワールがお店にいた青年だったと聞いた時は驚いた。
それでさらに彼はヒートアップして、再戦を望んでいるのだろう。
「他のメンバーは今年の
「N?」
「F?」
「T?」
「とは?」
アンジェリカの言葉に、四人は一斉に首を横に倒して頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
「え、えぇ!? NFTの為にフォースバトルを連戦していたんじゃないんですの!?」
そんな四人の反応にアンジェリカは口を押さえて驚く。そんなに驚く事なのかと幼馴染み三人組が思っている中、ニャムはコンソールパネルを開いてNFTの事を調べていた。
「あ、これですかね。NFT、
ニャムは三人に、検索してヒットしたページを見せる。
どうやら大々的なGBNのイベントらしく、大きな広告付きのページが表示されていた。
「ネクストフォースバトルトーナメント、通称NFT。去年から開催され始めた、新規フォース向けのバトルトーナメントですのよ」
「去年から始まったイベントか。……えーと、どういうイベントなんですか?」
ケイの質問に、アンジェリカは「えへん」と謎の咳払いをしてから何処からともなく眼鏡を取り出す。微妙に似合わないそれを掛けてから、彼女はコンソールパネルを開いてNFTのページを表示させた。
「第二回ネクストフォースバトルトーナメント。新規フォースのみが参加出来るバトルトーナメントで、結成が十八ヶ月以内のフォースのみに参加権があるイベントですのよ!」
「なんで十八ヶ月なのかな?」
「結成一ヶ月のフォースと十二ヶ月のフォースでは天と地程の差がありますし、そこへの配慮じゃないっすかね?」
ユメの問い掛けにニャムが答え、アンジェリカは「多分そうですわね。事実、私達のフォースは去年も今年も参加する予定ですわ」と付け足す。
「なるほど。……去年が第一回、か。去年のイベントはどんな感じだったんですか?」
「合計五十二チームが出場してましたわ。だから、決勝まで六回戦のトーナメントですわね。去年の優勝フォースはあのビルドダイバーズですのよ」
「ビルドダイバーズ……」
その名前はケイもロックも知っていた。二年前の第一次、第二次有志連合戦を知っている者ならその名前を聞いた事のないダイバーは居ないだろう。
「んで、お前らは?」
「わ、私達は……初戦敗退ですわよ」
「アンジェリカさん達が初戦敗退?」
ロックの問い掛けに苦笑いしながら答えるアンジェリカ。彼女の答えに、ケイは驚いて目を丸くした。
彼女達の実力は確かなものだったと思う。それでも、初戦敗退とは。
「あの頃はノワールも居ませんでしたし、初戦の相手が結成二ヶ月にして私達を倒し……第一回NFTベスト4のフォースになったチームでしたのよ。勿論、次は勝つと誓っていますけど!」
アンジェリカはそう言って口を尖らせた。どうやら初戦の相手が悪かったらしいが、去年結成二ヶ月ということは第二回のNFTにも出場出来るチームである。
彼女達を倒したのがどんなチームなのか、ケイ達は少し気になった。
「どんなチームだったんだ?」
「砂漠の
ロックの問い掛けに、アンジェリカは腕を組んでそう答える。ケイとユメは「犬……? 虎じゃなくて?」と、ガンダムのとある作品を思い出しながら頭を横に傾けた。
「……それで、貴方達は参加しないんですの? ノワールやスズなんかNFTでReBondへの雪辱を晴らすと意気込んでましたのよ?」
「NFTか、どうする? タケシ」
「ロックな」
ケイにツッコミながら、ロックは顎に手を当てて少し考える。
これだけ大々的なイベントなら、優勝すればフォースの知名度も上がる筈だ。ノワールとの再戦も果たせる。
特にこれといって参加しない理由もない。
「出るか、NFT」
「だな」
「次の目標だね!」
ロックの言葉にケイとユメは目を合わせて頷いた。ニャムも「腕がなるっすねぇ」と首を縦に振る。
「あ、そういえば……NFTのルールは五人チームのフラッグ戦ですわよ。ReBondにはもう一人フォースメンバーは居るんですの?」
しかしアンジェリカが思い出したように呟いた直後、ReBondの四人は固まってしまった。
まるで壊れかけのロボットのように一斉にカタカタとアンジェリカの顔を見る四人を見て、彼女は冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。
「……居ませんですのね」
「イベントの日は!」
「一週間後って書いてあるよ」
「それまでにあと一人集めて」
「連携も深めたいので早急にメンバーを補充しないといけないっすよ!」
慌てふためく四人を見ながら、アンジェリカは唇に手を当てて少し考えた。
このままReBondがトーナメントに出て来ないのは彼女達としても惜しい話である。
「なら、ご提案がありますわ」
「提案?」
「はい。私達のフォース、メフィストフェレスのメンバーは現在八人ですのよ。だから、もし有事であればメンバーを一人貸し出しても差し支えないですわ」
そう言ってからアンジェリカは「勿論、こちらのメンバーでイベントに参加するチームを組んで余ったメンバーで良ければですけど」と付け足した。
悪い話ではない。
そもそもメンバーが足りなければ参加もままならないのだから、断る理由はないだろう。
「スズをくれ」
「スズちゃんが欲しい」
しかし、ロックとユメは強欲だった。
「絶対にダメですわよ!?」
「ロック氏、スナイパーとしてのプライドはないんすか……」
二人の反応に「あはは……」と苦笑いするケイ。提案はともかく、イベント日までは一週間あるのでもう少し考える必要もあるだろう。
それこそ、もう一人仲間を増やすなら───
「……まぁ、もしもの有事の時の話ですわ。今後の活動もありますし、あと一人仲間を増やすのはオススメですわよ」
そう言って、アンジェリカはカフェのメニュー表を開いた。どうやら長居する気らしい。
「何か頼むのか?」
「ここのドネルケバブが美味しいと聞きましたので。皆様もいかが?」
アンジェリカの勧めに、四人は顔を見合わせて頷く。悩んでばかりいても仕方がないので、食べながら考える事にした。
「それじゃ、五人前のドネルケバブを頼みますわね。ご一緒させて頂いているので、今回は私の奢りですわ」
そう言って五人前のドネルケバブを頼むアンジェリカ。直ぐに、店員がドネルケバブとソースを五人分持って来る。
「ドネルケバブ五人前、ですね。お待ちどう。ソースはヨーグルトソースとチリソースの二種類からお選び下さい」
店員はアロハシャツにサングラスと、ウェイターなのか疑問に思う格好をしていた。
そんな従業員を見て、ユメはどこかで見た事があるようなと首を傾げる。
しかしこのカフェレセップスには何度も通っているが、こんな姿の店員は見た事がなかった。
でも、何処かで見た姿である。
「あらありがとう。でも、ヨーグルトソースなんてドネルケバブには邪道ですわ。やっぱり、ドネルケバブにはチリソース一択ですのよ」
アンジェリカはそう言って、店員が持っていたチリソースを自分のドネルケバブに掛けた。
其々がケバブを手にする中で、アンジェリカは皆のケバブにチリソースを掛けようとする。
「お客さんお客さん、そりゃないぜ。ドネルケバブにチリソースなんて、偏食も良いところだよ。他人の偏食を否定する気はないが、彼等まで邪道に落とす事はなかろう?」
しかし、そんなアンジェリカの手をあろうことか店員が止めた。アンジェリカは眉間に皺を寄せて「な、なんですの貴方は!」と声を上げる。
「僕はドネルケバブの真の理解者さ。君、ドネルケバブにはこのヨーグルトソースをかけたまえ」
そう言って、サングラスの男はケイのケバブにヨーグルトソースを掛けようとした。
「何を言ってるんですの! ケイ、こんな得体の知れないグラサンの言う事なんて聞く必要はありません事よ。ドネルケバブにはチリソース! それ以外はあり得ませんわ!」
「何を言っている、はこっちの台詞だ。君はドネルケバブの事を何も分かっていない。ヨーグルトソースこそ、このドネルケバブを正しい道へと導くソースなんだよ! 初めてドネルケバブを食べる彼には、正しい食べ方をしてもらわねば!」
「料理に正しいもクソもありませんわよ!!」
「確かに食事の場でクソなんて言葉を吐く者には正しさを理解する事は出来ないだろうね!!」
「なんですって!?」
言い争うアンジェリカとサングラスの男。そんな二人に挟まれて、ケイは両手を上げて苦笑いすることしか出来ない。
「私、この光景見た事ある気がする」
「奇遇っすね。ジブンもっす」
「つまり、オチは決まりだな」
「見てないで助けてくれよ!!」
ケイの悲痛の叫びも束の間、アンジェリカとサングラスの男はチリソースとヨーグルトソースで押し合いを始める。
次第にヒートアップする争いの中、同時に握り潰された二つのソースはケイとケイのドネルケバブにぶち撒けられるのであった。
「あ……すまない」
「ご、ごめんなさいですわ」
「……ミックスも、なかなか。あはは」
もはや笑う事しか出来ない。
「で、なんですの貴方は。客の話に首を突っ込んで」
気を取り直して、アンジェリカはチリソースの付いたケバブを頬張りながらサングラスの男に言葉を吐く。
彼女の言う通り、この机に座る五人とサングラスの男との関係は客と従業員だ。
他に接点がある訳でもなく、強いて言うならReBondの四人がここの常連という事くらいである。
「いやなに、君達がNFTの話をしていたからつい気になってね。……自己紹介するよ」
そう言って彼はサングラスを外した。褐色肌の中年男性、髪の色は茶髪。そんな男の姿にアンジェリカは見覚えがあって開いた口を手で抑える。
「僕の名前はアンディ。ここ、カフェレセップスのオーナーにして、フォース砂漠の
「砂漠のケン?」
何処かで聞いた事のあるような、とユメは首を傾げた。
さっきのケバブのやり取りを見て彼女の中では、ガンダムSEEDに登場するキャラクターの砂漠の虎───アンドリュー・バルトフェルドが頭から離れない。
しかし、それ以外にも何か───
「───貴方、去年私達を負かした砂漠の
唐突にアンジェリカが口を大きく開けて叫ぶ。ユメが何処かで聞いた事があると思ったのは、アンジェリカの話だった。
「犬……いぬ、イヌ。音読みだとケンとも呼ぶっすよね」
「そう、砂漠の犬。それが前回NFTベスト4である、僕のフォースの名前だ」
自信に満ちた表情でアンディはそう言う。アンジェリカは去年の事を思い出しているのか、歯軋りをしていた。
「その、砂漠の犬のリーダーさんがジブン達に何用で?」
「NFTに参加するなら挨拶をと思ってね。なんたって君達はこのカフェの常連さんだし、もしかしたらライバルになるかもしれないじゃないか。……勿論、優勝するのは僕達だけどね」
「なんですって!?」
「んだとゴラァ!!」
アンディの言葉にアンジェリカとロックは眉間に皺を寄せて抗議する。
しかしそんな二人の事を無視して、アンディはケイの目を真っ直ぐに見ていた。
「……特に君はね。ストライクのパイロット君」
「……な、なんで」
「君達のバトルは研究させて貰っている。なにせ、NFTに出てくるかもしれないニューフェイスだ」
彼はそう言って、次はアンジェリカの顔を見る。
「前回のNFTで悔しい思いをしたのは君達のだけじゃないって事さ。ビルドファイターズにはしてやられたが、今年こそは……とね」
つまり、敵情視察って事だよ。そう続けたアンディは机に座る五人を見渡した。
「あんたばかり喋ってズルいじゃねーか。他人の食卓を邪魔してまで敵情視察しに来たってのはよ、挨拶だけで済むと思ってないよな?」
そわなアンディに、ロックが挑発的な態度で口を開く。アンディはそんな彼を見て口角を吊り上げた。
「勿論だとも」
彼の返事にユメは首を横に傾ける。それどころか、ロックの言葉の意味も彼女には分からなかった。
「NFTの前に、イベントと同じルールで俺達と模擬戦やろうぜ。砂漠の猫だか犬だか知らねーけど、売られた喧嘩は買う。それがロックリバー様だ!」
「タケシ君!?」
「ダメだユメ、こうなったらタケシは止まらない」
諦めて溜息を吐くケイ。戦う前からこちらの手の内を明かす事になるが、しかしそれは相手も同じである。
受ける理由が───
「よし、その話乗った」
「えぇ!?」
予想外の反応にケイはひっくり返った。
「言ったろう、敵情視察だと。なんなら君もどうだい、ミスアンジェリカ。砂漠の犬、ReBond、メフィストフェレス三つ巴でも僕は構わないよ?」
「……ふん、遠慮しておきますわ。砂漠の犬もReBondも。私達はNFTで雪辱を晴らす予定ですもの」
踏ん反り返ってそう言うアンジェリカはしかし「ただ、そのバトルには興味があるので見学させてもらいますわ」と付け足す。
勿論、敵情視察だ。
「段々とややこしい事になって来たっすね」
「大丈夫なのかな……」
「まぁ、ここはタケシの顔を立てよう」
どのみちNFTに向けて何かしらの準備は必要である。イベントと同じルールで模擬戦を行えるのは、チームプレーの練習にもなるし都合が良かった。
そこまで考えて、ケイは何か忘れているようなと疑問を浮かべる。
「よし、それじゃバトルは明後日の午後七時から。NFTと同じルール、五人チームのフラッグ戦で良いかな?」
「おうよ。敵情視察なんてしに来た事、後悔させてやるぜ!」
「楽しみにしてるよ」
そう言って、アンディは店のカウンターに戻っていった。こころなしか楽しそうなその背中に、アンジェリカは目蓋を下に下げる。
「よし、次の目標は決まったな」
「ジブンはリーダーに従うっすよ」
「で、四人は新しいメンバーを明後日までに用意出来ますの? バトルのルール聞いてました?」
満足げなロックの目の前で、アンジェリカがポツンと言葉を落とした。
その言葉に四人は再び固まってしまう。
「「「「しまったぁぁぁ!!!」」」」
砂漠の犬とのバトルまで残り二日。
「……楽しくなりそうだ。若者は良いねぇ」
当のカフェレセップスのオーナーは、そんな若者達を見て笑っていた。