ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
玄関が開く音に敏感になったのはいつからだろうか。
両親はずっと仕事が忙しくて、家にいる時間の方が少ない。お父さんの顔なんて一ヶ月に一度見られると良い方だ。
だけど、理由はそれだけじゃない。
「お帰り、お姉ちゃん」
大好きで、大切なお姉ちゃんが帰ってくる音だから。最近はガンダムのゲームで遊んでいて、帰ってくるのが遅いけれど。
それでも、最近になって姉の笑顔が昔みたいに戻った事にヒメカは喜んでいる。だから、少しだけガンダムが嫌いじゃなくなった。
「ただいま、ヒメカ」
「うん!」
「……うぅ」
「えぇ!? お姉ちゃん!?」
しかし、突然表情を曇らせる姉にヒメカは驚いて駆け寄る。心配しながらも、最近になって表情が豊かになってきたなと微笑んだ。
「どうしたの?」
「フォースのピンチなんだよ……。ヒメカ、ガンプラやらない?」
「やらない」
だけど、ガンプラは別に好きじゃないです。
☆ ☆ ☆
キサラギ家。
「───と、いう訳なんだよね」
「大会に出る為と、明後日の試合の為に仲間が欲しい……。えーと、部活の助っ人みたいな?」
ユメカ曰く明日中に新しい仲間を集めないといけないという無理難題に、ヒメカは口に手を当てて目を細めた。
大切な姉の相談だから無下には出来ないが、自分には出来ないしガンプラを知ってる友達も知り合いもいない。
そもそもこの性格なので彼女には友達といえる友達が居ないが。
「うん、そうなんだよ……。タケシ君はすぐ話を先に進めるから、もー」
「またあの男……」
タケシの名前を聞いて眉間に皺を寄せるヒメカ。しかし、どうした物かと考える。
ふと自分の部屋を見渡して、視界に映った物が部屋の灯りに照らされて光った。
人形が多めの女の子らしい部屋にポツンと立つ違和感。姉とその幼馴染みと、アニメを見ながら作ったガンプラ───バンシィである。
──ガンプラが憎いなら、力になってあげるよ──
思い出したのは、ガンプラを作る前に姉が事故に遭いそうになった時の事だった。
別にガンプラが憎いわけではない。ただ、彼女の中にはガンプラ関係のボキャブラリーが少ないのである。
「ごめんねお姉ちゃん。私も、一応明日までに知り合いの人に連絡してみるね!」
「ありがとうヒメカ。頼れる妹だなぁ」
「えへへ」
姉に頭を撫でられて喜ぶヒメカ。
「ガンプラ……」
その後、部屋で一人になった彼女は勉強机の中にしまってあった名刺を手に取って眺めていた。
翌日。
「ロック氏は知り合いにガンプラやってる人か興味のある人は居たっすか?」
「ダメだ。居ても別のフォースに入ってるとか、そんなんばっか。ニャムさんは?」
「ジブン……リアルの友人にガンダムが好きな人居なくて」
カフェレセップスに集まった四人は、昨日ログアウトしてからの成果を話し合っている。
ロックの知り合いは全滅。ニャムは顔を伏せて友達が居ない事を嘆いていた。
「ユメは? ヒメカちゃんはどうだったよ」
「断られちゃった」
「だよなー。さて、頼みの綱はケイだが?」
ロックの言葉に三人は一斉にケイの顔を見る。そんな三人に、ケイは目を閉じて「フッ」と笑った。
「誰か誘えたのか!」
「ダメだった」
「期待させんなよ!! なんだよ、フッて!! 何がフッだよ!!」
「いやいやまーまー、落ち着いて下さいっすロック氏」
どうやら全滅した四人は、頼んだ飲み物を一斉に飲んで落ち着く事にする。
ここ、カフェレセップスのオーナーがリーダーであるフォース砂漠の
今ここでメンバーが揃わないとなるとアンジェリカの提案を飲む事になるが、それは彼らにとって好ましい結末ではなかった。
これから先、共に歩んでいく仲間なのだから。
「店長さんはダメだったの?」
「普通に最近仕事忙しそうだしな」
「くそー、アオトー、戻ってきてくれー」
机に突っ伏してしまうロック。ケイやユメも気持ちは同じだが、こればかりはどうしようもない。
「アオト君やジブンの兄を探すためにフォースを結成したのに、フォース戦をする為に探し人が必要になるとはこれいかにっすね……」
「よし、ニャムさん分身してくれ」
「ちょっと落ち着いて下さいっす」
笑顔でそう返したニャムは、ふと店の周りを見渡す。何か視線を感じたというか、誰かに見られている気がしたのだ。
「ニャムさん?」
「今誰かに見られていた気が……?」
仮想世界であるGBNでも視線を感じるのかという疑問はあるが、ニャムは確かに誰かの視線を感じて辺りを見渡す。
「ニャムさん目立つから」
「ユメちゃんも可愛くて目立つと思うっすよ?」
「いや、腰の刀とかの話だよ!?」
隣から彼女の情報量の多い格好に指摘を入れるユメ。そんな二人の背後で、ふと黒い髪を後ろで乱雑に縛った男性の姿をしたダイバーが立ち止まった。
「あのー、もしかしてReBondの人達?」
そして男性は両手を組んで紫色の羽織の裾に手を入れながら、無精髭に半目のだらしなさそうな顔で四人にそう話し掛ける。
四人共そんな男性には見覚えがなく、彼の言葉に一瞬固まってしまった。
「あれ……違った? おじさんの勘違いか」
固まった四人の反応に、困ったように頭を掻く男。
ケイは慌てて「あ、そ、そうです! 俺達がReBondです!」と返事をする。
「……えーと、あんた誰?」
続いてロックが怪訝な表情でそう問い掛けた。
見たところ誰かの知り合いでは無さそうで、警戒してしまうのは無理もない。
「あー、突然声掛けちゃったからね。そーなるよね」
男はロックから目を逸らしながらそう言って、ユメと視線を合わせる。視線を感じたユメは首を傾げて頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
「……ユメちゃんだよね?」
「……えーと、はい。ユメです」
改まってお辞儀をするユメ。そんな彼女に男が手を伸ばして、ニャムは反射的に腰の刀に手を伸ばす。
ロックが「それ飾りじゃなかったのか」とツッコミを入れている間に、男は姿勢を落としてユメの前で跪いた。
「おじさんはキミに一目惚れしちまった。是非おじさんを仲間にしてくれないか?」
「ニャムさん、そいつを叩き切って下さい」
「承知したっす! 首切りごめん!」
男の言葉にケイが即答して、ニャムは抜刀して斬りかかる。男は「ひぃ!? ちょ、タンマタンマよ!!」と素っ転んだ。
「完全に怪しいおっさんじゃん」
「でも、仲間になりたいって言ってるよ?」
半目でそんな男を見下ろすロックの隣で、ユメは唇に手を当てて彼の言葉を思い出す。
おじさんを仲間にしてくれないか?
それは、ついさっきまで四人が悩んでいた事を解決する事が出来る言葉だった。
「いやでも完全に知らない人だし……」
「やっぱり斬るっすか?」
「待って」
ユメはニャムの前に出て、倒れている男に手を伸ばす。ケイはそんな彼女を見ながら唇を尖らせて、ロックは苦笑いをしていた。
「大丈夫ですか? えーと……」
「カルミアだ」
男───カルミアは、そう言って彼女の手を取って立ち上がる。飄々な表情で振り向いたカルミアは、ケイとユメを見比べて笑った。
「別に取って食いやしねぇよ。ただおじさんはね、ユメちゃんの妹ちゃんに頼まれてここに来たって訳」
「ヒメカに……?」
突然妹の話が出て来て混乱するユメ。確かにヒメカにもお願いをしたが、まさか彼女にガンプラの知り合いが居るとは思ってなかったのである。
「確か妹さんが居るって言ってたっすよね」
「あぁ……。でも、本当か?」
「本当かどうかは今この際どうでも良いんじゃないのん? ケー君やい。出るんだろう? NFTに。おじさんを仲間に入れてくれれば、晴れてメンバーが五人揃う。どうよ?」
怪訝な態度のケイに対して、目を細めてそういうカルミア。確かに今はシノゴノ言っている場合じゃない。
それにヒメカの知り合いなら、特段悪い人間ではない筈だ。
「真意は後で聞くとして、条件があるぜ。確かに仲間は欲しいけど、俺達は半端な奴は要らない。……あんたの力、見せてみろよ」
悩んでいるケイの後ろから、ロックが言葉を漏らす。彼的には強ければ問題ないのだ。
ケイは少しだけ迷ったが、彼に賛同することにする。
「良い提案ねぇ、それ。おじさん乗ったよ」
「決まりだな。そんじゃ、さっそくバトルするか?」
「一つだけ条件。フィールドは宇宙空間にしてくれないかな? 地上でも良いけど、おじさんの機体は宇宙の方が力を見せられるからね」
そんなカルミアの言葉にロックは頷いた。そして淡々とバトル内容を一人で決めて、コンソールパネルに表示する。
「二対二、2on2の形でバトルだ。俺とニャムさん、ケイとおっさんで模擬戦をする。宇宙だとユメのスカイグラスパーは動かねーし、観戦で良いか?」
「あ、そっか。スカイグラスパーは重力下専用なんだ」
アニメでも地上に居た時にしか出番がなかったのを思い出して、ユメは残念そうに笑った。
ずっと乗り続けて愛着の湧いているスカイグラスパーだが、実際にはケイからの借り物で自分にとっても仮の機体である。なんだか少しだけ、心細く感じた。
「お、俺がこの人とか……」
「そんじゃ宜しく」
ケイの肩を叩くカルミアは不適に笑う。そんな彼の顔を見て、ユメはふと何かを思い出しそうになった。
「何処かで会った事、いや……違うよね」
彼の顔を何処かで見た事がある。そんな事を思ったが、ここは仮想世界で本当の彼とは姿が違うのだ。
ヒメカの知り合いという事は可能性もなくはないが、ただどこかで同じ雰囲気を感じた事がある気がする。
でも分からなくて、気のせいだと首を横に振った。
バトルフィールド、ソロモン周辺。
機動戦士ガンダムをはじめとした宇宙世紀の作品に登場する、コンペイ島の別名の通りお菓子の金平糖に似た形をした小惑星である。
GBNのフィールドとしては、ソロモンを中心に何もない無重力の宇宙が広がっているフィールドだ。
ソロモン内部もステージとして作り込まれている為、無重力ステージにしては足場の多いフィールドである。
ユメは観客席でそんなステージを見上げながら「
「ロック・リバー、目標を狙い撃つ!」
「ニャム・ギンガニャム、目標を駆逐するっす!」
二人の機体が出撃する。ロックのデュナメスHellの横に並ぶのは同じく背中にGNドライヴを背負った青い機体だった。
「ケイ、ストライクBond行きます!」
「カルミアだ。レッドウルフ、発信するぜぃ」
同時に二人の機体も出撃し、バトルフィールドに四機が並ぶ。
ケイのストライクBondの横に並ぶのは、全身を赤く染めた一つ目の重装甲な機体だった。
「ニャムさん今日はエクシアか……っ!」
「機動戦士ガンダムOOより、エクシア! ニャム・ギンガニャムがお相手するっす!!」
ニャムの機体はガンダムエクシア。デュナメスと同じくソレスタルビーイングのガンダムであり、セブンソードの名を冠する通り接近戦に特化した機体である。
「アレは……ドーベンウルフか?」
エクシアの隣で、ロックは首を傾げた。
特徴的なのは三番のアンテナと、機体全身に武器を積み込んだような重装甲である。
ドーベンウルフは全身武器庫とも呼ばれる程に装備している武器が多いのも特徴で、カルミアのレッドウルフは元になったドーベンウルフからさらに武装を盛った機体だった。
機体の印象としてはメフィストフェレスのサイコザクレラージェに近いだろう。
「なるほどなるほど、戦い甲斐がありそうっすね!」
「ま、とりあえず俺様に瞬殺されないように頑張ってくれよな!」
「ニャムさんやロックと戦うのも久しぶりだな……。えーと、カルミアさん? 頑張りましょう……」
「あんまり警戒しないでちょーよ、おじさん傷付いちゃうわ」
苦笑い気味に頭を掻くカルミア。
少しだけ視線を逸らした後、彼は目を細めて前を向いた。
「さて、おじさんの力を見せるとしましょうか……っ!」
全身武器庫の倉庫が開く。
ソロモンが再び戦火を燃やした。
そんな訳で五人目の仲間(?)カルミアの登場です。彼はReBondに入れるのか。そしてバトルの結末は?
読了ありがとうございました!