ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
勝ちたいというよりは、負けたくないという気持ちの方が強かった。
好きな女の子を取られたくない。
そんな気持ちから始めたから、きっと知らない内にそう思うようになったのだろう。
だけどその日、少年は勝ちたいという気持ちを真に理解した。その気持ちが少年の力を駆り立てる。
俺はあの人に勝ちたい。
───そう想って突き立てられた刃は、あと一歩の所で届かなかった。
☆ ☆ ☆
爆散するストライクBondを見て、ReBondとメフィストフェレスのメンバー達は力が抜けてその場に崩れ落ちる。
まさしく激闘だった。
これが現実なら、その手は汗で濡れていただろう。そうでなくても、GBNに居るのに自分の鼓動が聞こえてくるようだ。
「さ、さぁ! ガンダムの戦士を迎えようっす」
バトルが終わったのを確認して、ニャムは手を広げながら戻ってくるケイの元に向かう。
「……負けた、のか」
帰ってきたケイは脱力していて、その視線は上の空だった。
「お疲れ様ですわ、ケイ」
「奮戦だったな」
「やるじゃないのケー君」
「ま、俺様のチームのエースだからなケイは。流石だな」
アンジェリカやノワール、カルミアとロックに囲まれるケイ。そして囲まれているケイに向かって、ユメが少し離れた所で「お疲れ様、ケー君」と呟く。
「……あはは、ダメだったけどな」
「いやー、良いバトルだった。想像以上に身になるバトルになって良かったよ」
苦笑い気味に頭を掻くケイの背後から、砂漠の犬の大将───アンディがそんな言葉を漏らした。
ニャムや砂漠の犬メンバー達は、彼が出てくると「お疲れ様です」と声を掛け合う。そんな中でケイはやはりどこか上の空だった。
「ケイ君、だったかな」
そして、そんなケイにアンディは真っ直ぐに顔を見ながら話し掛ける。唐突な事にケイは「え、は……はい」と口籠った。
「良いバトルをさせてもらった。握手をさせてくれないかな?」
伸ばされた手に、ケイは戸惑いながらも応える。満足げな表情のアンディは「そう固くなるな」とケイの肩を叩いた。
「君のバトルは凄まじい物だった。君の信念も、技量も、恐怖に値するよ。……もしかしたら君も、かのキラ・ヤマトと同じ狂戦士なのかもしれないね」
「い、いや俺なんてそんな……」
「謙遜することはない。現に君は僕に勝ったんだからね」
「……いや、俺はまだ貴方に勝ってないです」
静かにそう返したケイだが、アンディは彼のその言葉に熱を感じて少し冷や汗をかく。どうやら自分が思っていた以上の火を付けてしまっていたらしい。
「俺は、あなたに勝ちたいって……そう思いました」
「NFTでまた会おうじゃないか。楽しみにしてるよ」
そう返したアンディは、ケイの肩を叩きながら口を耳元に寄せてこう続けた。
「可愛い女の子だよね、彼女。君の気持ちは分かるけど、あまり待たせると誰かに取られても知らんぞ」
「ちょ、それは!」
アンディの言葉に顔を赤くするケイだが、アンディは笑いながら「僕も人の事は言えんがね」と手を挙げてケイから離れていく。
「リリアン、お前達、そろそろ行こうか。ReBondの諸君、今日の対戦に感謝するよ。そしてメフィストフェレスの諸君も、また戦える事を楽しみにしている」
彼がそう言うと、リリアンや砂漠の犬のメンバーは集まって観客室から出て行った。
砂漠の犬の勝利に終わったフォースバトル。このバトルはその敗北よりも、沢山の物を残して幕を閉じる。
そして───
「ふぅ……」
「お疲れ様、ケー君」
GBNをログアウトしたケイスケとユメカは、ユメカの帰宅の準備をし始めていた。
アンディの言葉で妙に意識してしまっているからか、ケイスケは口数が少ない。
「……なぁ、ユメカ」
「何?」
唐突に話しかけて来たケイスケに、ユメカは首を横に傾ける。その手には大切そうにスカイグラスパーが握られていた。
「……GBNにログインする為に態々俺の家に来るのも大変だろ? だから、ログインマシン渡しておこうかなと思って。設置とかはやるからさ」
「えーと……私が来るの、迷惑かな?」
ケイスケの言葉にユメカは、少しだけ言い淀んだ後そう口を開く。そんな言葉にケイスケは慌てて「ち、違う違う」と手を振った。
「あはは、ごめんね。ちょっと言い方が狡かったかな……。でも、迷惑じゃないなら……私はこのままが良い、かな」
困ったような表情で笑うユメカ。悪い事をしたと反省するケイスケは「俺こそごめん。忘れてくれ」と謝る。
「どうかしたの?」
「いや、本当に……態々家に来てもらうの大変だよなって想ってさ。ユメカが良いから良いんだ」
そう言ってケイスケはユメカを車椅子に乗せて、直ぐ隣の彼女の家に送り届けた。
「また明日」
「また明日」
ヒメカにユメカを託して家に戻ろうと踵を返す。そうして少しだけ俯いて歩くケイスケの前に、二人の男が立っていた。
「───っと」
完全に上の空だったケイスケは驚いて大袈裟に二人を避ける。よそ見をしていた事を謝ろうと頭を持ち上げると、目の前に立っていた二人の内一人は顔見知りだった。
「タケシ?」
「よ。ロックな」
片手を上げるタケシ。プラモ屋にログインマシンが置かれてからは、いつもそこでログインしていた彼がGBNの終わった後に態々家に来るとは想っていなくて素っ頓狂な声が漏れる。家も逆側だし、本来ならもう家に帰っている筈だ。
「……と、誰? カルミアさん?」
それに、もう一人は完全に知らない人物である。強いて言うなら首に巻いた赤いマフラーに見覚えがあるくらいだ。
「ノワールだよ。おっさんの素性は俺も知らねーし」
「コクヨ・サキヤだ。サキヤで良い」
あのメフィストフェレスのリーダー、赤マフラーの男───サキヤはケイスケに手を伸ばす。
ケイスケはそれに応えながらも、二人がここに居る理由が分からなくて首を横に傾けた。
「……それで、なんで二人がここに?」
「それは───」
「まぁ、立ち話もなんだ。入ろうぜ」
サキヤの言葉を遮ったタケシは、ケイスケの家の玄関まで歩いて扉を開く。サキヤが「おい」とツッコミを入れて、ケイスケも「俺の家なんだけど」と目を細めた。
「いや、良いけどさ……」
両親に断りを入れてから自分の部屋のタケシとサキヤに飲み物を持ってくるケイスケ。他人の部屋に興味があるのか辺りを見渡すサキヤの横で、タケシは欠伸をしている。
「で、なんで二人がここに?」
話を戻して、ケイスケが問い掛けた。
遊びに来るという時間ではない。それに、サキヤとはほぼ初対面だ。
見た感じ大学生くらいに見えるが暇なのだろうか。
「いやよ、お前とユメカの事でコイツが気になる事があるってんで連れて来たんだよな」
「俺とユメカ……」
タケシのそんな言葉を聞いて、ケイスケは少し表情を固くする。GBNでアンディに言われた事を思い出して、彼は二人から目を逸らした。
「どうして目を逸らしているんだ」
サキヤのそんな言葉にケイスケは少し固まる。
「俺達からじゃない。自分の気持ちにだ」
「それは……」
二人の会話の間で、タケシは「うーん……」と頭を掻いた。これはケイスケの問題だが、彼の気持ちはよく分かっているつもりである。
「ケイスケは───」
「待ってくれタケシ。……自分で話すよ」
タケシの言葉を遮って、ケイスケはサキヤの顔を真っ直ぐに見た。
「……俺は、ユメカの事が好きだ。ずっと子供の頃から」
「それを伝えていないのは何故だ? 俺はお前達の事をよく知っている訳じゃないが、あまりにも……不便に見える」
「不便?」
「外から見てるから分かるが、お前達両思いだろ。それをギクシャクとした関係のままズルズルと引きずってるのは何故だ? 若さ故に……ってのはあるかもしれないが」
「お、俺とユメカが両思い!? それは勘違いだ。いや……ユメカの気持ちは分からないけど。でも、俺はそれを受け止めちゃいけない」
俯くケイスケを見てサキヤは首を傾げる。
思春期故に何かあるのかと思っていたが、自分が思っていた以上に何か抱えているようで頭を捻った。少しだけ沈黙が流れる。
「この前サキヤに事故の話をしたんだよ。まぁ、成り行きで……。覚えてるだろ?」
「お前達がGBNで戦う理由……だったか」
ケイスケがバトルでアオトのガンプラを壊して、アオトの父親がそれを道路に投げて、ユメカはそれを拾おうと道路に飛び出した。
不幸な事故だったのだろう。
だけど、それぞれが思い悩むには充分な理由を抱えていた。
「だったら尚更、お前が彼女の支えになってやるべきじゃないのか? それとも……怖いのか?」
「怖い……。あぁ、多分……そうなのかもしれない」
サキヤの言葉にケイスケは目を見開いて視線を下ろす。
「こんな俺の気持ちを伝えた所で、断られるのが怖いんだと思う。今の関係を崩したくない……」
「ケイスケ……」
それはない、なんて言えなかった。
お前が鈍いだけでユメカの気持ちも同じだ、なんて言った所で解決する問題ではないだろう。
そもそも彼は、まだ自分自身を許せていないのだ。
それはきっとアオトの父親やユメカも───アオトだってそうなのかもしれない。タケシにはその気持ちが良く分かる。
「……俺はアオトと話がしたい───いや、アオトとこの気持ちに決着を着けたいんだ。少なくともそれまでは、俺の気持ちをユメカに話すなんて出来ない。そんな権利、ない」
アオトは最後にあった時「ユメカの事、頼んだ」と一方的に言った。
彼の事は今でも本当の親友だと思っている。そして、同時に絶対に負けられないライバルでもあった。
──君は何の為にガンプラバトルをやっている! ──
アンディの言葉を思い出す。
「だから俺はまだ、このままGBNを続けたい」
ケイスケは決意めいた表情でサキヤを真っ直ぐに見ながらそう言った。
そんな彼の表情を見て、サキヤは目を瞑って立ち上がる。
「……どうやら余計なお世話だったらしいな。いや、人生の先輩としてのアドバイスをするつもりだったんだが」
「ノワ───サキヤさん……」
「でも、あまり悠長にしてると誰かに取られるぞ。そうなってから焦っても良い結果は生まれない。……これは俺の体験談だが」
アンディさんにも同じ事を言われたな、と苦笑するケイスケ。その通りだろうし、ずっとこのままという訳にもいかないのは事実だ。
「分かってます」
強くそう言う。
サキヤは満足したのか「なら、良いんだ。大切にしろ」と立ち上がった。
「邪魔したな」
そう言ってからサキヤは礼儀正しくケイスケの両親にも挨拶をして家を出ていく。
残ったタケシは何処か虚空を見ていた。
「タケシ? 帰らないのか?」
「お前の気持ち、分かっていたつもりだけどさ。……いざ耳に聞くと虚しいなって思ってな」
「……迷惑か?」
「いや、別に」
短く返事をしてタケシも立ち上がる。
「とっととアオトを連れ戻そうぜ。そんで、その気持ちに決着を付けろ。……俺はただ、幼馴染みとしてお前達を引っ張るからよ」
「ありがとな、タケシ」
「まずはNFT優勝な」
そうだ、前に進むんだ。
ユメカの事も、アオトの事も、皆が前に進める為に。ただひたすら前に。
やっとリライズも放送再開!盛り上がって行きたいですね。