ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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フォースフェス

 扇風機が回る。

 

 

「いやー、そろそろエアコンの時期じゃないっすかねぇシャッチョサン」

 長めの髪を後ろで雑に結んだ男は、下敷きで顔を仰ぎながら半目でそう漏らした。

 

 返事は返ってこない。

 

 

「……おじさん溶けそうよ?」

「お前が居て負けるとはな。NFTは大丈夫なんだろうな」

「会話のキャッチボールって知ってます? そろそろエアコンの時代じゃない? 文明の利器よ」

「……まだ六月だぞ」

「地球温暖化ってね。冬は寒いんだけどな、なんでだろうなぁ」

 飄々とした態度でエアコンのリモコンに手を付ける。

 

 

「大丈夫なんだろうな」

「……勿論よ。ユメカちゃんをシャッチョサンの所に連れて行けば良いんだろ? 気が引けるけど」

「GBNへの復讐のための犠牲だ」

「……そーかい」

 男がリモコンのボタンを押すと、エアコンは少しだけ動いて止まった。

 

 

「……壊れてら」

 半目の男は、ため息混じりに部屋を出ていく。

 

 

 

 部屋の片隅には、赤毛の女の子と青年の写真が飾られていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBNにログインしたカルミアは飄々とした態度で片手を上げる。

 

 

 フォースReBondの新しいメンバー。

 頼もしい火力と弾幕、そして親しみやすい話し方を心掛けて他の四人のメンバーとも直ぐに打ち解けた。自分ではそう評価している。

 

 

「おまたー。いやー、遅れて悪いね。そいで、今日は何処とやるわけよ」

 NFTまで残り数日。フォースReBondは連携を深める為にフォースバトルを続けていた。

 

 

 砂漠の犬に敗北した後、その次のバトルでは辛くも勝利を収めている。連携に関しては集まって一週間も経っていないメンバーにしては上出来だ。

 

 

「……いや、なんか今日はバトルじゃないんだよな」

 いつも楽しそうにプレイしているロックが、少し不貞腐れた表情でそんな言葉を漏らす。そんな彼の言葉にカルミアは首を横に傾けた。

 

 

「今日は……フェスだよ!!」

「……はい?」

 続くユメの言葉に、カルミアは素で困惑して固まる。

 

 

「フェス……? 祭り?」

「今日はバトルは中断して、GBNのお祭りを皆で楽しもうって提案になったんすよ! ムフフ、こうやってガンプラ仲間と遊べるなんてGBNの素晴らしい所っすよね。フヘヘ」

 ニャム曰く、今日はバトルはしないでGBNで遊ぼうというらしい。バトルが大好きなロックが不貞腐れている理由はなんとなく分かった。

 

 

「あー、そゆことね。それなら、おじさんは居なくても大丈夫か。若者だけで楽しんでらっしゃいな」

 なんとなく若者達の事情を察して、その場から立ち去ろうとするカルミア。しかしそんな彼の手をユメが引っ張る。

 

 

「カルミアさんも! フェスだよ!」

 彼の手を引っ張るユメの目はまるで星のように輝いていた。

 

「そんな綺麗な目で見ないでよ……。断り辛いじゃないの」

 ユメの目を見て表情を痙攣らせるカルミア。

 

 ロックはともかく、ニャムは行く気満々である。ケイに助けを請おうと思ったが、彼も何処か楽しみにしているようだった。

 

 

「……諦めようおっさん。こうなったらユメは止まらねぇ」

「……い、意外な一面があるのね」

 苦笑いするカルミア。ふとユメを見ると、ニャムやケイと楽しそうに会話する彼女の顔が映る。

 

 

「楽しみだね! ケー君」

「そ、そうだな。アトラクションとかもあるしな」

「ジブン、ラフレシアのアトラクションとか凄い気になるっす!!」

「宇宙世紀? のアトラクションが多そうだよね! 私はUC……しか見てないけど」

「大丈夫っすよ! ジブンが分かりやすく解説も入れます。もし気になったら、今度ケイ殿も交えてアニメ鑑賞もしましょう!」

「それも良いかもな。初代とかだとコアファイターの活躍も多いし、ユメも喜ぶと思う」

「コアファイターってガンダムのお腹に入ってる戦闘機だよね! ほら、パンフレットにも載ってるよ! タケシ君も見て見て!」

「あー、分かった分かった。分かったから」

 少女の笑顔はとても純粋で、カルミアにはそれが眩しく見えた。

 

 

「……ガンプラが憎くないのか」

 そんな言葉が漏れる。自分の無意識な言葉に気が付いて、カルミアは目を細めた。

 

 

「ほら! カルミアさんも! 行こ!」

「ぇ、あーはいはい。おっさんに無茶させないの」

 彼女は強いな。そんな事を思う。

 

 

 

 

 ファンシーな景色にカルミアとロックは唖然としていた。

 

 ここはGBNのアトラクションエリア。フォースフェスと呼ばれる、フォース加入者が遊べる特別なアトラクションゾーンだ。

 

 

「ベアッガイフェスへようこそ!」

 受付に立っていた何やらファンシーな姿の女性が五人を迎え入れる。

 その女性は何処かガンプラ味のあるマルっぽいコスプレをしていた。

 

「この人は?」

「ベアッガイコスのNPDっすね」

「ノンプレイヤーダイバー、だっけ。CPUって事ですわね?」

 ケイの質問に答えたニャム。NPDとはその名の通り、リアルの誰かがダイブしている訳ではないキャラクターの事である。

 GBNのCPUみたいな物で、基本的にミッションの受付やこのようなアトラクションの運営は殆どがこのNPDに任されていた。

 

 

「なんだこれは……」

「ベアッガイフェスだよ! ベアッガイフェス!」

 五人の周りを沢山の小さな熊───否、プチッガイが囲む。これらもNPDだ。

 

 

 ベアッガイフェス。その名の通り、ガンプラ───ベアッガイが主役のフォースフェスである。

 宇宙世紀をモチーフにしたアトラクションが並び、施設の中はベアッガイやベアッガイのコスプレをした人々でいっぱいになっていた。

 

 

「地獄絵図か……」

「ロッ君、おじさんは悪い夢でも見てるのかな」

「ほら二人とも、行こ!」

 唖然としたままのロックとカルミアの手をユメが引いて歩く。楽しそうな表情に、二人は顔を見合わせて無意識に笑った。

 

 

 

「……俺は今、安心したのか」

 そんな自分に驚きながらも、引っ張られるままにユメに付いて行く。

 

 

 

 ベアッガイフェスに入場した五人がまず足を止めたのは、キセッガイコーナーという場所だった。

 

 ここは、ベアッガイのコスプレを貸し出している場所である。

 フェス内なら無料で着続けられるので、辺りのダイバー達も殆どがこの半分キグルミのような格好で歩いていた。

 

 

 

「待て、これを俺様に着ろと?」

「‪郷に入っては郷に従え‬という諺もあるっすよ、ロック氏」

 目を輝かせながらそう言うニャム。ロックはケイに助けを請おうとするが、当のケイもユメに着せ替えさせられている。

 

「ケイッガイ!」

「ユメッガイ!」

 二人は青と白色のベアッガイ衣装に身を包んで出て来た。それに並んでニャムは「ニャムッガイ!」と叫びながら緑色のベアッガイ衣装に身を包み込む。

 

 

「なんだこの集団」

「カルミアッガイ」

「おっさん!? しかも地味にアッガイ語呂がいい!?」

 ロックの横で半目のカルミアが赤色のベアッガイ衣装を着ていた。もはや残されているのはロックだけである。

 

 

「ベアベア」

「ベアベア」

「ベアベア」

「ベアベア……」

 カルミアは若干表情が笑っていないが、四人の同調圧力がロックを襲った。

 

「あー、もう! 分かった分かった!!」

 そう言って、遂にロックも黒色のベアッガイ衣装に身を包み込む。

 

「ロックッガイ!!」

「語呂悪いね。タケシッガイの方が良いと思う」

「ロックな!?」

 こうして五人共衣装を着て、ベアッガイフェスが始まった。

 

 

「まずはアレに乗ろうよ!」

「そんなに走らなくてもアトラクションは逃げないぞー」

「時間は逃げていくのー!」

 アトラクションに向かって走っていくユメを追いかけるケイ。彼女が笑顔で居てくれる事に、ケイもご満悦なのか笑顔を漏らす。

 

 

 最初に乗るアトラクションは機動戦士ガンダム第08MS小隊に登場するMA、アプサラスをモチーフにしたジェットコースターだった。

 作中サブタイトルとしても印象的な「震える山」の山をモチーフにしたコースを、アプサラスのジェットコースターが走るアトラクションである。

 

 

「なんか可愛いね」

「これ頭がベアッガイになってるけど、本物はザクだからな。すげーおっかないMAだし」

「ジブンが乗ってたグフカスタムが登場するのがこの作品っすね。戦闘機も結構出るっすよ」

「そーなんだ。またガンダム見たくなっちゃった」

「ま、それはともかく今は楽しもうか」

 ロックとニャムの説明に目を輝かせるユメを連れて、ケイが先頭に立ってジェットコースターが発進した。

 

 普段からGBNで高速戦闘を行なっているダイバーでも、ほぼ生身の感覚でジェットコースターを体験する事はまた違う感覚である。

 四人はそれぞれ悲鳴を上げてジェットコースターを楽しんだ。四人が四人ともの笑顔にさらに笑みが零れる。その中でカルミアは───

 

 

 

「ハァ……ハァ……ど、ドムが……ドムが来る……。ヒィッ」

 ───物凄く怖がっていた。

 

 

「だ、大丈夫ですか? カルミアさん」

「……お、おぅ。大丈夫よ。おじさんよゆー。……いや、やっぱ無理。おじさん本当怖いの無理だから」

 完全にノイローゼ気味のカルミアをユメは心配そうな表情で見詰める。そんな彼女を見て、カルミアは申し訳なさそうに笑った。

 

 

「悪いねぇ、おじさんこういうの苦手で。なんなら、四人で楽しんできな?」

「それだったら、あんまり絶叫系じゃないアトラクションで遊びましょう!」

 カルミアの言葉に前のめりになってそう話すユメ。カルミアはそんな彼女の言葉に首を傾げる。

 

 

「……いや、なにもおじさんに気を使わなくても」

「私は皆と遊びたいんです」

「……皆?」

「フォースの皆……ううん。同じ趣味でこの世界に来てる大切な友達と。だから、カルミアさんが楽しめる場所で遊びたいなって……。良いよね、ケー君」

 ユメの言葉にカルミアは口を開いたまま固まってしまった。

 

 その間にケイはユメの言葉に「ユメが楽しめるならそれで良い」と答える。

 

 

「ユメちゃん……」

 カルミアは一度目を瞑って、頭を掻いてから立ち上がった。

 

 

「それじゃ、お言葉に甘えておじさんとコーヒーカップ乗らない?」

「「それはダメです」」

 何故かユメとケイの言葉が重なって、カルミアは苦笑いを溢す。

 

「敵わんねぇ……」

 そんな言葉が空に漏れた。

 

 

 

 一同はコーヒーカップやメリーゴーランドのある広場へ向かう。

 

 ユメとケイ、カルミアが同情するコーヒーカップの横で、ロックとニャムはどれだけカップを早く回せるか挑戦して二人とも吹き飛んで行った。

 それを見て三人は顔を見合わせて笑う。ゆっくりと回るコーヒーカップの上でユメとケイの笑顔を見るカルミアの表情は柔らかかった。

 

 続いてメリーゴーランド。回転木馬のいう名だけあり、馬の中に木馬こと戦艦ホワイトベースが並んでいるのが特徴的である。ちなみにホワイトベースは何色ものバリエーションが並んでいた。

 

 

「これはホワイトベースではなくブラックベースでは」

「なんで戦艦があるの?」

「アニメでこのホワイトベースは、ジオン軍人にその姿から木馬って呼ばれてたんすよ」

「確かに木馬っぽい!」

「なんかムサイもあるしおじさんはあっちに乗ろうかなっと。こうしてると艦隊戦っぽくて良いねぇ」

 其々が乗る船を選んで回るメリーゴーランド。BGMがガンダムUCのとある主題歌で、五人はそれでまた笑い合う。

 

 

「ユメちゃんはガンダムUCを見てるのねぇ」

「ケー君達にオススメされて見たんです。カルミアさんはガンダムのアニメ沢山見てるんですか? どのアニメが好きなんですか? 

「えーと、おじさんは最近のは見てないかな。SEEDまでは見てたんだけどもね。……好きなの、好きなのかぁ」

 ユメの質問の内一つに答えてから、カルミアはもう一つに答えようとして少し遠くに視線を向けた。

 

 

「───ZZかなぁ」

「ガンダムと、その次のZガンダムの続きですよね?」

「よく知ってるねぇ」

「えへへ、ニャムさんに教えてもらってますから。ZZもいつか絶対見ますね!」

「ZZにはカルミア氏が使ってる機体の元になったドーベンウルフも出てくるっすよ。あ、二人とも! あっちにパン屋さんがあるっぽいんすけどいかがっすか?」

 隣から話を付け足して、次の行動を提案するニャムにユメは「パン屋さん? 行く行く!」と目を輝かせて走っていく。

 

 それについて行くニャムを見ながら、カルミアは「……好き、か」と呟いた。

 

 

 

 

 ベアッガイフェスはまだまだ続く。




ダイバーズが楽しみ過ぎるリキさんです。ベアッガイフェスは原作ビルドダイバーズ好きとしては書きたかったお話でした!もう少しだけ続きます!

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