ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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そこで見付けたもの

 泣いていた。赤い髪の女の子が泣いていた。

 

 

 何も出来ずに、ただ二人を見守る。

 女の子の前で青年が泣いていた。そんな二人を引き離すように、周りの人達が二人の身体を掴む。

 

 見ている事しか出来なかった。

 

 

 泣いている女の子に手を伸ばす青年。女の子は震える口を開く。

 

 

「ごめんね、セイヤ」

「離せ、離せよ! 離せぇ!! レイアぁ!!」

 必死に手を伸ばす男の手は、どうしたって届かなかった。

 

 

 

「やめろぉぉおおお!!!!」

 ───目を背ける。

 

 

 

「───GBNの運営を……俺は絶対に許さない」

 青年の涙。その傷を癒す事も出来ずに、彼はただそこに居た。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 キラキラと目が光る。

 

 

「か、可愛いぃ!」

 ユメが持ち上げたパンは、ベアッガイの頭の形をしているパンだった。

 他にもファンシーな形のパンが沢山並び、ユメはこれも良いあれも良いと目移りしている。

 

「これガンダムのゲームだよな?」

「ジブンは、女性層を取り込むにはこういうのも良いと思うっすよ」

 ロックのツッコミにそう言ったニャムは「ジブンも一応女性っすから」と、ユメと並んでパンを選びに行った。

 

 

 

「こういうパンって食べにくいよな」

「あー、おじさん分かる」

 半目でパンを眺めるケイにカルミアが同調する。二人は苦笑いしながらも、ベアッガイの形をしたパンの耳を齧った。

 

「……ドラ○もん」

「カルミアさんそれはダメです」

「ねー、ケー君見て見て! ドラ○もん!」

「いやだからダメだって!!」

 さっきまで可愛いとか言っていたパンを無邪気に食べる姿に、ケイは「女子って恐ろしいな……」と身を震わせる。

 

 

 そんな五人に近付く黒い影があった。なにか背後から殺気を感じる。

 

「───っ」

 ユメはパンを食べるのを中断して、ゆっくりと視線を感じた背後に顔を向けた。

 

 

「あ」

 そして視界に入った人物に、ユメの表情はパッと明るくなる。

 

「スズちゃん、アンジェリカさん!」

 振り向いた先に居たのは、フォースメフィストフェレスのメンバー達だった。

 スズにアンジェリカ、その背後にはノワールがいる。さらに隣には、見知らぬ顔の少年が二人立っていた。トウドウの姿は見当たらない。

 

 

 

「ノワール?」

「……よう」

 苦笑いをしながら、ロックに返事をするノワール。そんな彼の頭の上には、やはりベアッガイの衣装が被されている。

 

「ダサ」

「お前もな……?」

 ロックの言葉に眉間に皺を寄せるノワール。メフィストフェレスの五人は、全員が全員ロックと同じ黒色のベアッガイ衣装に身を包まれていた。

 

 

 

「……ここで会ったが百年目」

「あ、あはは……」

 緑色の瞳を光らせるスズの視線はユメとケイに送られている。殺気の正体はこれだ。

 

 

「……ところで、どうしてメフィストフェレスのメンバーがここに?」

「どうしてもこうしても、NFT前の息抜きとして遊びに来ただけですわよ。あなた方もそうではなくて?」

 ケイの質問に答えるアンジェリカ。しかし、彼女の予想はまた大きく外れる。

 

「いや、ジブン達はただ遊びたかったから遊んでるだけっすね。そう言われれば確かに息抜きなのかもしれないっすけど」

「じ、自覚をもう少し持ちなさい! あなた達は私の認めたこのメフィストフェレスのライバルですのよ!?」

 頬を膨らませるアンジェリカを、後ろから見知らぬメンバー二人が「まぁまぁ」の宥めた。

 

 二人はそっくりな姿をしている銀髪の少年で、よく見ると二人で左右対象のアシンメトリーな格好をしている。

 

 

「この二人は?」

「あー、貴方達とは面識がありませんでしたわね。紹介しますわ、レフトとライトです」

「レフトです」

「ライトです」

 アンジェリカの左右に分かれてそう自己紹介をするレフトとライト。ベアッガイ衣装のせいか、とてもファンシーな光景だ。

 

 

「試合で戦う事になったらよろしく」

 そんな二人に挨拶を返すケイの横で、ユメはスズに「えいえい」とちょっかいを掛けている。

 頬を突っつくユメに対して、スズは普通に眉間に皺を寄せていた。

 

 

「……あ、あれ? 怒った?」

「……怒った」

「スズさんは凶暴だからなー」

「スズさんは鬼子だからなー」

「……何か言った?」

「「なにも!!」」

 レフトとライトに小銃を二本向けるスズ。逃げる二人をスズは追い掛けて発砲する。

 

 

「あれ当たったらどうなるんだ?」

「確か撃破扱いでリスポーンするっす」

 ニャムの質問に身体を抱くロック。肉体はただの器にしか過ぎない、を体現しているようで恐ろしい。

 

 

「スズ、ここには遊びに来たんですわよ」

 二人を追いかけるスズを止めたのはアンジェリカだった。

 

「……別に私は、遊びなんてしなくて良い。特訓あるのみ」

 そんなアンジェリカに、スズは頬を膨らませてそう言う。狙い澄まされた小銃が一発ずつレフトとライトの二人の髪の毛を一本吹き飛ばした。

 

 

「……次言ったら当たる」

「「ひぇぇえええ!」」

「怖っ」

 二人が震える側で、ロックは顔を真っ青にして固まる。この少女が敵だというのだから、NFTで次戦うのが怖くてたまらない。

 

 

「ところでトウドウさんは?」

「トウドウはリアルで作戦を練ってる最中ですわ。NFTにどのメンバーで出るか真剣に悩んでもらってますの。ま、そんなトウドウの邪魔をしない為にこうして今日は遊んでるって訳ですわね」

 ケイの質問に答えるアンジェリカ。そんなアンジェリカに捕まったままのスズは、頬を膨らませて「……別に私は来たくなかった」と目を細めた。

 

 

「スズちゃん、私達と遊ぼう?」

 そんなスズに、ユメは屈んで手を伸ばす。スズはさらに目を細めて「なんで?」と小声を漏らした。

 

 

「せっかくのフェスなんだもん。皆も良いよね? メフィストフェレスの人達とも遊びたいな」

「ユメがそうしたいなら」

「ジブンは賛成っす!」

「おじさんも構わんよ」

「別に良いぜ」

「俺は問題ない」

「レフトは?」

「ライトは?」

「「全然良いよ!」」

「だ、そうですわよ?」

 皆の返事を聞いてから、アンジェリカは満足気な表情でスズにそう言う。スズは顔を逸らして「でも……」と口を尖らせた。

 

 

「……私は、本当は遊べない。ここに連れて来てくれたアンジェの為に戦うだけ」

「私はスズと遊びたいんですわよ」

「アンジェ……」

 目を逸らすスズだが、やっと折れたのかゆっくりと姿勢を伸ばしてから「……分かった」と声を漏らす。

 

 

 しかし彼女はリアルでは手足がない。

 アトラクションだの、祭りだの、彼女にはよく分からないのだ。

 

 

「……どうしたら」

「スズちゃん、あっちに射的があるから一緒にやろ!」

 ユメはそんなスズの手を引っ張って、射的場に彼女を案内する。ロックとレフト、ライトが付いていった。

 

 

「ジムスナイパー」

「ザクスナイパー」

「「の、射的場だって」」

 看板にはスナイパーライフルを構えたジムとザクが写っている。見た目どおりの趣旨のアトラクションだ。

 

 

『弾は五発。それぞれの的に当ててポイントを競うゲームです』

 射的場の説明をするNPD。的は弓道の的のように、中心に行く程ポイントが高いらしい。

 

 

「よっしゃぁ、このロック・リバー様に任せな!! おっちゃん、弾!!」

『どうぞ』

 NPDからライフルと弾を受け取ると、ロックは的に向かって一気に弾を連射する。

 

 

「5点! 5点!」

「5点! 5点!」

「「5点!! 凄い!! 全部5点だ!!」」

「タケシ君……全部端に当たってるよ?」

「は、端を狙ったんだよ!!」

 自分をスナイパーだと思い込んでいるロックは顔を赤くしてその場に伏せた。後ろで見ていたケイ曰く、当たってるだけ彼からすればマシらしい。

 

 ついでに満点は100点である。アンジェリカは転けた。

 

 

「「僕らにお任せさ!」」

 続いて、レフトとライトがライフルを握る。二人は交互に2発ずつ弾を放ってから、最後に二人で手を合わせてライフルを放った。

 

 見事な動きにユメは感心して拍手をする。点数は79点。高得点だ。

 

 

「ほらほら、スズちゃんも!」

「……ん、こんな子供騙し」

 半ばユメに強引にライフルを持たされたスズは、嫌々ながらも膝を落としてライフルを構える。

 そうしてゆっくりと放たれた弾は全て、寸分の違いもなく的の中心を射抜いた。言うまでもなく100点である。

 

 

「流石だねスズさん!」

「優雅だねスズさん!」

「……動かない的なんて狙っても仕方がない」

 呆れ顔でユメにライフルを返すスズ。ロックはそんな彼女を見て顔を青ざめさせていた。

 

「凄いよスズちゃん! よーし、私も! えい!」

 そしてスズからライフルを受け取ったユメも、的にライフルを向けて放つ。結果は残念、窓の中央と端の半分程上にズレていた。

 

 

「あちゃぁ、難しい」

「……下手くそ」

「むむ。スズちゃんやり方教えてよ」

 馬鹿にされたユメだが、口を尖らせはするものの気を悪くした様子ではない。

 それどころかスズに講義を受けようとする彼女の姿勢は真剣そのものである。

 

 

「……な、なぜ私が」

「だってスズちゃん上手だし」

「上手って……」

 ユメの真っ直ぐな瞳に当てられたのか、スズは視線を逸らして顔を赤くした。

 そんな彼女を逃さないように回り込むユメ。スズは苦笑いをしてから、ため息を吐いて「……しょうがない」と呟く。

 

 

「……下手くそに負けたんじゃアンジェに顔向け出来ないから、教える。言っとくけど、これは私の為だから」

「えへへ、ありがとうスズちゃん!」

「お、ツンデレか」

「……あ?」

 ロックに発砲するスズ。情けない男の悲鳴が広がった。

 

 

 

「……足をちゃんと使う。身体を固定して、ブレを減らすのが大事」

「あ、足……うぬぬ。えーと、こう?」

「……下手くそ。こうだ。かかとは上げて───なんで分からない!? こうだって! 下手っぴ!!」

「ふぇぇ……。ごめんね。私普段足が動かないからよく分からなくて」

「───ぇ、その……ごめんなさい」

 講義の途中で怒鳴ったスズは気不味い表情で謝る。しかし、ユメは気にも止めずに言われた通りに足を動かした。

 

 

「こうかな───えい!」

 そして、放たれたライフルは的の中心をしっかりと抉る。

 

 

「やった! やったよスズちゃん!」

「……ぇ、あ、うん。……上出来」

「えへへー、スズちゃん! 勝負しよ! 勝負!」

「……勝てると思ってるのか。……まぁ、良いよ」

 満面の笑みのユメに釣られるように、スズの顔も少しだけ柔らかくなっている気がした。そんな二人を見ながら、アンジェリカは微笑む。

 

 

「あなた達には感謝しないといけないですわね」

「え? いや、こちらこそ」

 ユメの笑顔を見て嬉しいのはケイもだった。アンジェリカにとって、スズはケイにとってのユメなのかもしれない。そんな事を考える。

 

 

「楽しそうで良かった」

「───なんで、あんなに楽しそうな顔が出来るのかねぇ」

 そんな二人の後ろから、カルミアがふと言葉を漏らした。無意識な言葉だったのだが、二人が振り向いてカルミアは気不味そうに頭を掻く。

 

 

 

「……だってユメちゃんはガンプラのせいでトラックに轢かれたんだろう? それで下半身付随にまでなったってのに……おじさんには、あの子がなんであんな顔が出来るのか分からないのよ」

「そ、そうだったんですの?」

 カルミアの言葉にアンジェリカは目を見開いた。

 

 ガンプラのせいで、というニュアンスはよく分からない。しかし、彼女とスズの小さな共通点にアンジェリカは視線を落とす。

 

 

「あれ……なんでカルミアさんがそれを知ってるんですか? 事故の話なんてしましたっけ?」

「え、あ……いや。ヒメカちゃんに聞いたのよ! うん、そう!」

 両手を上げてそう言うカルミアに、ケイは少しだけ怪訝そうな表情を見せるが「まぁ、そっか」と一人納得したようだ。

 

 溜息を吐くカルミアの前で、ケイは「ユメは強い子だから」と短く答える。

 

 

「……強い子、ねぇ」

 カルミアは、トラックに轢かれそうになって震える事しか出来なくなった少女の姿を思い浮かべていた。

 

 

「……どうだか。な、ケー君や」

「はい?」

「ユメちゃんの事、ちゃんと守ってやるんだぜ」

「……も、勿論」

 少し顔を赤くするケイを他所に、カルミアは少し皆から離れて空を見上げる。GBNの空は本物と変わらない。ここが現実なんだと錯覚してしまう程だ。

 

 

 

「……何してんだろうねぇ、俺。な───」

 そんな言葉を漏らすカルミアは、歩いた先のアトラクションを案内するNPDを見て目を見開く。

 そこにいたNPDは、一見何の変哲もない普通のNPDだ。赤い髪の、普通の女の子のNPD。

 

 

『アトラクションをご利用ですか?』

「───レイア……か」

 NPDに近寄った事で案内が始まるが、そんな女の子のNPDを見たカルミアはそんな言葉を漏らして固まる。

 

 

「こんな所にいたのな……」

 少し驚いたような表情を見せるカルミアだったが、それは少しだけで。彼はNPDに優しい表情で語り掛けた。

 

 

「アイツ、お前の為に頑張ってるぜ……」

『アトラクションをご利用の際はお呼び下さい』

 カルミアの言葉にNPDはそう答える。彼女はノンプレイヤー。そこに感情はなく、記憶もない。

 

 

「分かってるよ」

 あるのは入力されたプログラム。

 だからカルミアは、少しだけ寂しそうに笑った。

 

 

「お前がレイアじゃないって事はさ。……だから俺はここに居る」

 視線を落とすカルミア。そんな彼の背後から、ユメ達が歩いてくる。

 

 

「ねぇスズちゃん。次は何する?」

「……私はもう別に───ん? アレ」

 歩いている途中でカルミアに気が付いたスズは、ユメに「あんたのフォースの」と言ってカルミアを指差した。

 

「あ、カルミアさんあんな所に。なんのアトラクションですか? コレ、行くんですか?」

 カルミアの側まで走りながらユメは彼にそう話し掛ける。カルミアは少しだけ慌てた仕草を見せながら「え、あ、そうよ。おじさんコレ好きなのよね」と言葉を漏らした。

 

 

「え、でもコレ……バンジージャンプですよ?」

「ふぉぉ……っ!? よ、余裕よ!? 余裕!!」

「おーいユメ───んぁ?」

 それに遅れてきたロックは、アトラクションを見ながら目を細める。何やら気になるのか、ゆっくりと歩いてカルミアの横に立った。その目はさらに細く、眉間に皺も寄る。

 

 

「ど、どったのよロッ君」

「ロック氏、どうかしたんすか?」

「いやこの子さ、この子。どっかで見た事あんだよな」

 そう言ってロックが指差したのは、カルミアのそばにいた赤い髪の女の子の姿をしたNPDだった。

 

『アトラクションをご利用ですか?』

「うーん、可愛い。いや……本当にどこかで───あぁ!?」

 NPDの顔を覗き込むや、ロックは大きな声を上げてニャムに詰め寄る。そして「写真だよ!! 写真!!」と大声を上げた。

 

 

「写真……すか?」

「ニャムさんが兄貴を探してるって言ってた時に見せてくれた写真!! もう一回見せてくれ!!」

「写真……?」

 ロックの言葉にカルミアは目を細める。いつか見た光景が脳裏に浮かんだ。

 

 

「写真……写真───まさか!?」

 そしてロックの言葉を聞いて、ニャムも何かに気が付いたかのように急いでコンソールパネルを開く。そこに表示されたのは、彼女の兄と一緒に立って笑っている赤い髪の女の子の写真だった。

 

 

「写真の女の子……」

 その写真を覗き込んだケイが、NPDの女の子と写真を見比べる。

 

 その姿は瓜二つだった。

 違う事といえば、写真の女の子は満面の笑みだったという事くらいである。

 

 

「このこ、NPDだろ? どうなってんだよ……」

「NPDってこんなに笑顔で笑うんすか……?」

「いや、でも……」

 頭を抱えて話し始めるReBondのメンバー四人。メフィストフェレスの五人は何がなんだかでお互いに顔を見合っていた。

 

 そんな中で、カルミアは目を見開いて固まっている。

 

 

「なんでその写真を持ってる……。兄貴? まさか、あの人の妹さんだってのか……ニャムちゃんが」

 彼は不敵に笑った。

 

 

 

「なんて運命だこと」

 そう小声を漏らして空を見る。

 

 

 

「……それでもアイツは復讐をやめないだろうな」

 GBNの空は、いつもと同じで───本物のような空だった。




やっとリライズが再開しましたぁぁ!!嬉しい。
それと同時にこのお話を投稿出来たのは丁度良かったかもしれせん。タイミングバッチリね。

読了ありがとうございました!
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