ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
ストライカーパックはクロスボーンを装備。
カタパルト、システムオールグリーン。
モニターに映る文字を眺めて、ケイは一度深呼吸をする。
「……よし」
進路クリア。ストライク発進、どうぞ。
巨大なスラスターが火を吹いて、ケイは一度目を閉じてから開いて言葉を漏らす。
「
そのガンダムは空を駆けた。
☆ ☆ ☆
バトルフィールドの上空を飛ぶスカイグラスパーを見て、マギーは首を横に傾ける。
スカイグラスパーはストライクの支援機という設定で、ストライクの装備を運用する事が出来るモビルアーマーだ。
そんなスカイグラスパーだが、背負っているバックパックはどうも既存のストライカーパックではない。しかし、何処かで見た事はある。
「……って、アレ。ダブルオーのバックパックじゃない」
少し観察すると、マギーにはその正体が分かった。
円錐形の部品から漏れる緑色の粒子。
ツインドライブ。OOガンダムのバックパックである。
「ケイちゃんのストライクに付いていた筈のバックパックがスカイグラスパーに付いている。……つまり、アレはストライカーパックという事ね」
マギーは顎に手を当てて満足そうな表情を漏らした。
ケイの機体の元になったストライクという機体は、ストライカーパックと呼ばれる装備を換装する事でその場の戦況に合わせて臨機応変に運用する事が出来るというのがコンセプトである。
彼の機体もその特性を引き継いでいるのなら───
「───アレは……クロスボーン」
そして、発進したストライクBondを見てマギーはそんな言葉を漏らした。
マントを羽織ったストライクが空を駆ける。
その背中に背負うのは、ツインドライブではなくX字の巨大なスラスターだった。
そのスラスターは機動戦士クロスボーンガンダムに主に登場する、クロスボーンガンダム等が装備している推進器である。
木星の重力下でも充分な推進力を誇る設計をしていて、また羽織っているマントもお飾りという訳ではない。
略して
「ケー君のガンプラ、マント着てる」
「お洒落で着てるわけじゃないからな。そろそろ敵が出てくるから、もう少し高度を上げて着いてきてくれ」
通信でそう話して、ケイのストライクが先行する。X字の両端に設置されたスラスターの推進力が機体をしっかりと持ち上げていた。
「う、うん。……アレが敵かな?」
言われた通り高度を上げたユメは、視界に映る青い機体に対してそんな言葉を漏らす。
さっきケイが一人で戦っていた時にも見た機体、リゼルだ。
「ケー君、敵!」
「分かってる。真っ直ぐ進むぞ!」
ユメの言葉にケイはそう答えて、迂回せずに真っ直ぐに機体を進める。
そのままこちらの射程圏内に入る前に、リゼルがビームライフルを放った。
ケイは機体を少し浮かせてそれを避ける。
「ケー君!」
「大丈夫!」
続け様に複数のリゼルがビームを発射した。回避や迎撃をすれば、それだけタイムリミットが迫ってくる。
「───突破する!」
ケイは装備したビームライフルを構えて複数機居るリゼルの内一機に狙いを定めた。
引き金を引いて、放たれたビームがリゼルのコックピットを貫通する。
「ケー君凄───危ない!」
しかし、喜びも束の間。他のリゼル達が一斉にストライクにライフルを向けた。
放たれたビームが四方八方からストライクに直撃する。爆炎が広がって、ユメの視界からストライクが消えた。
「そんな……。ケー君……ん?」
しかし、直ぐに爆炎の中からストライクが現れて機体は真っ直ぐに進む。
明らかに直撃したようにも見えたが、ストライクは特にダメージを受けている様子がなかった。
「A.B.C.マントとクロスボーンのスラスターでリゼル隊を強行突破。ふふ、考えたわね。だけどその装備でボスを倒す事が出来るかしら」
感心するマギー。このミッションの内容はボスの撃破であり、リゼルを全て倒す必要はない。
しかし、厄介なのはやはりボスだろう。そこをどう攻略するのか。
「A.B.C.マント。ビームを弾く装備だ」
「本当にお洒落さんなだけじゃなかったんだね」
驚くユメの下で、ケイの駆るストライクを再びリゼルの射撃が襲った。
ケイはそれを出来るだけ避けて、直撃してもマントがビームを弾く。
近付いて来そうなリゼルだけを攻撃して撃破。そうしてユメのスカイグラスパーは何もせずままに第一エリアを突破した。
「よし、残り時間がまだ五分もある」
「さっきはあんなに苦労してたのに」
「ユメのおかげだよ」
「私?」
何もしてないよ、という前にモニターにWARNINGの文字が並ぶ。
第二エリア。ボス戦だ。
上空から降って来る灰色の機体。デルタプラスが、ケイに向けてビームライフルを構える。
ケイのストライクは直ぐに地面を蹴って、距離を取った。放たれたライフルがマントの端を抉る。
「ケー君!」
「やっぱりマントは限界か……っ!」
距離を取りながらケイもビームライフルを向け、デルタプラスへと放った。
しかし、ボス用の装甲ステータスは甘くない。ビームは直撃するも、あまりダメージは与えられていないように見える。
「通常ライフルじゃやっぱり時間が掛かる。このままやっても五分じゃ倒せないって事だろうな……っ!」
ケイは舌打ちをしながらフィールドに設置された建物の裏に入り込んだ。
時間内に倒すなら、接近戦を仕掛けるしかないだろう。しかし
「……やるか。ユメ!」
「え。あ、はい!」
「降下して三番目のスロット!」
ユメはケイに言われた通り、レバーを落として機体の高度を下げた。そのまま言われた通りの武装を展開───
「うわ、敵のプラモが私の事見てるよぉ!」
しかし、デルタプラスは上空のユメにライフルの銃口を向ける。
「させるか!」
X字のスラスターが火を拭いて、そんなデルタプラスの前にストライクが躍り出た。
肩から掛かったマントを掴んだストライクは、そのマントを眼前に投げ付ける。
刹那、デルタプラスのライフルから放たれたビームがマントに直撃した。
A.B.C.マントはその役目を果たしてビームを弾き、消滅する。
「今だ!」
「うん!」
同時に、スカイグラスパーとストライクはお互いのバックパックを切り離した。
X字のスラスターが地面に落ちて、変わりにスカイグラスパーが切り離したツインドライブ付きのスラスターがストライクの頭上に落ちて来る。
「換装。フェイズシフトオン」
地面を蹴ったストライクの背中に、そのバックパックが接続された。灰色だった機体はフェイズシフト装甲により、青色に塗りたくられていく。
「
着地して、地面を蹴ったストライクはデルタプラスに肉薄した。
バックパックに接続された二本の剣を構え、踏み込むと同時に刃を振る。
その刃はデルタプラスの左手をシールドごと切り落とした。
「ケー君の戦い方が変わった……?」
「武装を換装して、機体の特徴そのものを変えたのよ」
首を横に傾けるユメのモニターにマギーが通信で映って説明を入れる。
それは元となったストライクと同じ特徴でもあり、そして別の可能性でもあった。
「接近用ソードストライカーの代わりがダブルオー。汎用と機動力のエールストライカーの代わりがクロスボーン。……という事は、もう一形態はあるわね」
マギーはそう分析して、口角を吊り上げる。
ガンプラの出来もプレイヤースキルも上々。それはきっと彼が───
「時間はある、もう一度接近して……っ!」
一撃で倒す事の出来なかったデルタプラスとの距離は離れてしまった。
しかし、まだ時間には余裕がある。焦らずに戦えば勝てる筈だ。
ビームライフルを左右に避ける。中々距離が縮まらずに、ケイは舌を鳴らした。
「ケー君、楽しそう」
しかしユメの目には、ケイは楽しんでいるように映る。
煩わしい相手の攻撃も、自分の攻撃を届かせようとする工夫も、それ全部ひっくるめてガンプラバトルが楽しい。
「私も、楽しいな」
スカイグラスパーを旋回させながら、ユメはボソリと呟いた。
そうして機体の高度を落とし、トリガーに指を掛ける。
「ケー君、私が隙を作るよ!」
「ん、ユメ……っ?」
接近してくるスカイグラスパーに気が付いたケイは驚いたような声を漏らした。
同時にスカイグラスパーから放たれるミサイル。デルタプラスは迎撃しようとライフルを構えるが、その頃にはユメのスカイグラスパーは一気に高度を上げて射程外に機体を持ち上げる。
ミサイルがデルタプラスの右足に直撃して、機体が揺れた。ダメージは大きくないが、それよりも大きな隙が出来る。
「───そこだぁ!!」
その隙に踏み込んで、切り裂いた。
一対の実剣がデルタプラスをX字に割く。
同時に広がる爆炎。
砂埃の中で、ストライクのメインカメラから放たれる光だけが輝いていた。
YOU WIN
MISSION COMPLETE
「……勝った?」
「ケー君。私達、勝ったよ!」
あまり実感の湧かないケイを他所に、ユメは我を忘れてはしゃぎ回る。
「あらあら、はしゃいじゃって。でも、これであの二人は大丈夫そうね」
操縦を放棄したスカイグラスパーが揺れるのを見てから、マギーは笑みを漏らして二人に背中を向けた。
「ようこそGBNへ。これからも、この世界を楽しんでね」
手を振りながらその場を去るマギーを他所に、バランスを崩して落下しそうになるスカイグラスパーを見て「お、おいユメちゃんと操縦しろぉ!」と声を上げるケイ。
「え? ぁ、うわぁぁ!」
「ユメぇぇぇ!!」
二人の初ミッションは騒がしくも幕を閉じて、彼等のGBNでの物語が始まっていく。
「楽しいね、GBN」
「そうだな」
GBNの空もまた日沈み始め、二人は墜落したスカイグラスパーにもたれながら笑い合った。
「それなに?」
「ミッションの報酬。リディのお守り」
ミッションクリアの報酬を受け取ったケイを覗き込むユメ。報酬である、複翼機のミニチュアが着いたネックレスが風に吹かれて揺れる。
「凄い、中に複翼機のミニチュアが入ってる!」
「うん。だから、ユメカが喜ぶかなと思ってさ……」
そんなケイの言葉に、ユメはミッション前にマギーが言ってきた言葉を思い出した。
──ここ一週間ずっと同じミッションを受けてるわよね。何か理由があるんじゃないの?──
「これ、プレゼント。気に入らなかったら……その、ごめん」
「ううん……凄い嬉しい! 二人の初めてのミッションクリア報酬だね!」
ユメはプレゼントされたネックレスを首に掛けて、その場でクルクルと回って喜ぶ。
夕焼け空のGBNで笑う少女の顔は、とても晴れやかなものだった。
☆ ☆ ☆
視界が揺れる。
光が収束していくような感覚の後、ピクリと身体が痙攣した。
「……戻った」
GBNからログアウトしたユメ───ユメカは、目をパチクリと開いて持ち上げた自分の手を見詰める。
紛うことなき自分の手だ。自分の髪の毛を触って、どこか懐かしいような寂しいような感覚に溜息を漏らす。
「───って、あわ……っ!」
そうして彼女は
当たり前だが彼女の足は動かない。それを実感すると、まるで夢でも見ていたんじゃないかという感覚が付いてくる。
「───っ、ユメカ! 大丈夫か?」
同じく意識の覚醒したケイ───ケイスケは、視界に入った幼馴染みが倒れているものだから焦った声で彼女に詰め寄った。
「あはは、あっはは、あははははっ」
しかし、ユメカは突然身体を捻って床で手を広げてから笑い始める。
ケイスケは「壊れた……」の苦笑いを漏らすも、心配そうな声で「大丈夫か?」と続けた。
「足が、動かないや。当たり前だけど」
笑い過ぎたからか、ユメカは笑顔のまま瞳から涙を漏らしながらそんな言葉を漏らす。
「そんな事も忘れるくらい、楽しかった。ケー君、ありがとう」
「どう致しまして」
続くユメカの言葉に、ケイスケはホッと溜息を吐いて彼女に手を伸ばした。
ユメカはその手を取って、彼の手を借りてベッドに座る。
「また、やりたいかも。GBNに……行きたい」
「良いよ。何度でも行こう。デバイスはあげるし、あっちでやれる事……色々教える」
「ありがと、ケー君」
そう言ってユメカがケイスケにお礼を言った直後、部屋の扉が開いて彼女の妹のヒメカが「ご飯です」と声を漏らした。
「……おねーちゃん、何かしてたの?」
そして、何やら嬉しそうな表情の姉を見てヒメカは首を横に傾ける。
「なんでもないよー。ご飯だね、ありがと。先に行っていいよ」
ユメカがそう言うと、ヒメカは一瞬ケイスケを睨んでから「はーい」と言葉を漏らしてトタトタと台所に向かった。
「ご飯食べるか。車椅子車椅子」
車椅子に触れるケイスケを見て、少しだけユメカは瞳を閉じる。
「……ガンプラ、か」
そうして彼女は瞳を開いてこう続けた。
「ねぇ、ケー君。私もガンプラの事好きになりたい。ガンダムの事、教えて欲しい!」
ようこそGBNへ。
これからも、この世界を楽しんでね。
そんな訳で四話でした。ストライクBondの紹介が出来たらなと思っている……。読了ありがとうございました。