ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
私は何も出来なかった。
生まれ付き手も足もない。歩く事も、自分でご飯を食べる事すら出来ない。
両親にはとても迷惑を掛けたと思う。こんな私は死んでしまった方が良いなんて思った事もあった。でも、私は一人じゃ死ぬ事すら出来ない。
そんな私に、一人の女の子が手を伸ばしてくれる。
初めましては父に連れてこられたプラモデルの展示展だった。
これは完全に父の趣味だけど、家に私を一人で置いて行く訳にはいかない。だから連れて行って貰って、せめて迷惑を掛けないように私も出来るだけ楽しむ事にしようとしたのを覚えている。
正直な所、あまり興味はなかった。
だけど父と話している間に、プラモデルを作るのはとても難しい事だと知って───
「これ……凄い」
「手が……ぁ、こ……こんにちわですわ! これは、私が作ったんですのよ!」
その女の子は私の姿に少し驚いたようだけど、自分の作ったプラモデルをとても楽しそうに自慢してくる。
本当に凄いと思った。私には何も出来ないから。
そんな話をしたら、彼女は私を誘って突然アニメを見ようと言ってくる。
そのアニメでは、手足を失った兵隊さんがそれでもなお大切な人達の為に戦っていた。
リユース・P・デバイス。
サイコザク───そのパイロット、ダリル・ローレンツ。
「手足なんかなくたって、やろうと思えばなんでも出来ますわ! あなただって、私のガンプラを凄いと見抜く素晴らしい眼力の持ち主ですのよ!」
感動して、泣いたのを覚えている。
「だからあなたには、私が力を与えますわ。……だからあなたは───スズは、笑って」
「スズ……?」
「はい、それが新しいあなたの名前ですわ。私の作った最強のガンプラを使って最強のバトルをする。さぁ、スズ───立ってごらんになって!」
彼女は力をくれた。
私はただ、憧れのあの人のように───彼女の為に戦う。それだけだ。
☆ ☆ ☆
歓声の中で、拳を持ち上げる少女が一人。
「勝てたぁぁ!!」
「落ち着け落ち着け」
「だってこれで次はまたスズちゃん達と戦えるんだよ!」
いつも以上に興奮しているユメを宥めるケイ。フォースReBondは無事に二回戦を突破して、三回戦進出を成し遂げる。
「それはメフィストフェレスの皆が勝ち上がってから喜ぶ事だけどな」
「ま、ノワール達なら大丈夫だろ」
「彼等の実力はジブン達が一番知ってるっすからね」
ロックとニャムの言葉に「それもそうか」と頭を掻くケイ。そんな彼等をカルミアは目を細めて、ただ黙って見ていた。
「勝ち上がってきたか」
そんな五人の前にトウドウが姿を表す。他のメフィストフェレスのメンバーはもう試合前のミーティングだ。
喝を入れてやりたかったロックだが、こればかりは仕方がないだろう。
「当たり前だぜ。お前らもとっとと上がってきな」
「勝利は約束された物ではない。俺達は全力を尽くすだけだ。……ただ───」
「ただ?」
トウドウの控えめな言葉にロックは眉間に皺を寄せた。その横で、ケイはメフィストフェレスの対戦相手の事を思い返す。
水中戦が得意な機体が集まったフォースを、水中戦で完封したフォースアンチレッド。
あのバトルだけでは実力も計り知れない。戦い方はともかく、強敵である事は間違いなかった。
「───いや、俺達は勝つ。そこで見ていろ、フォースReBond」
言い掛けたトウドウはしかし、その言葉を飲み込んで確かな自信を口にする。同時にモニターにはバトルの様子が映し出された。
「ステージは……」
「
映し出される広大な宇宙。ケイ達はその光景を見てアンチレッドの機体二機を思い出す。
ファンネルを使う、二機の機体を。
宇宙で、静かな吐息だけが聞こえていた。
自分の吐いた息を感じる。これがゲームだという事を忘れそうだ。
「……狙うはファンネル持ち」
サイコザクレラージェに搭乗するスズは、この広大な宇宙をビームスナイパーライフルのスコープで覗き込む。
ステージは宇宙空間。東西南北も上下左右もない無重力だ。
撃破された戦艦や隕石等の漂流物こそあれど、この広大なフィールド全てを───ほぼ障害物なしで確認する事が出来る。
それは狙撃手にとって最良の環境だった。
49.8km。これはスズのサイコザクの有効射程である。
本来、地球上で人間が立って目視出来るのは5km程だ。それは視力の問題ではなく、地平線の問題である。
球体である地球上では、観測者からして鉛直線に垂直な平面より先を観測する事は出来ない。
簡単に言えば地平線より先にある物は山の後ろに隠れているのと同じような物なのだ。
地平線は観測者の高度によっても変わるが、サイコザクレラージェが地面に立ってそのモノアイから観測してもせいぜい16kmしかない。
49.8km。これは地平線を無視すれば沖縄本島の中心から、両端までを全て狙撃可能という事である。
それが何を意味するのか。
この広大な宇宙に地平線という何よりもの障害は存在しない。つまり、この状況では例外なくサイコザクレラージェより49.8kmがスズの───サイコザクレラージェの
「スズ、試合が始まったら一番初めに落とすのはファンネル持ちのサザビーかキュベレイだ。出来る事ならキュベレイを落とせ」
数分前の事を思い返す。作戦会議で、トウドウはスズにそんな指示を出していた。
「宇宙ならファンネルが使えるからね!」
「僕らではファンネルを対処は難しい!」
「確かにサイコザクレラージェではファンネル機体に対応するのは難しいですわ。トウドウの言う通りにしましょう」
いかなレフトとライトの力でサイコザクの機動力を上げても、元の重武装も相まってオールレンジ攻撃を避けるのは難しい。
その点も考慮して、今回フラッグ機はノワールの担当になる。スズは接近される前に、出来るだけ敵を倒すのが仕事だ。
「多分真っ先に狙われるのはスズだろう。俺は今回守ってやる事は出来ない」
「大丈夫。アンジェに奥の手も用意して貰った。……私は、出来るだけ多く相手を屠る」
「奥の手?」
「あ、あはは……。私は乗り気じゃなかったんですのよ? でもスズがどうしてもと言うから」
困り顔のアンジェリカに、スズは内心で謝る。しかし、どうしても彼女は戦果を上げなければならなかったのだ。
大切な人の為に。
「───ジンクスとサザビーを捕捉した。私がサザビーをやるから、逃げるだろうジンクスは任せる。アンジェ、ポイントEに」
「分かりましたわ!」
スコープの内に敵の機体を捕捉したスズは、アンジェの返事を聞いて直ぐに引き金に指を掛ける。
自分の吐息が邪魔だと思って息を止めた。引き金を引く。
サイコザクレラージェからサザビーまでの距離は39kmあった。しかし、放たれた光は文字通り光の速さで進んでいく。
引き金を引いた刹那、既にサザビーの胴体の中心には大穴が開いていた。メインジェネレーターが誘爆し、サザビーは何もする事も出来ずに爆散する。
「次……!」
スズは直ぐに再びスコープを覗き込んだ。敵のジンクスはサザビーの撃破後素早く射線上から近くの隕石を影に姿を消す。
「……そこまで甘くないか。レフトとライトは周囲の警戒。位置はバレてる。多分、来る」
宇宙空間の狙撃は障害物がないが、それは相手からも同じだ。弾が何処から飛んで来たのかが丸見えなので、こちらの位置は直ぐにバレてしまう。
だからこそアンチレッドのジンクスは直ぐに射線上から離れる事が出来た。スズは唇を噛みながらスコープを覗く。
「一機でも多く……」
その指先は少し震えていた。
「凄い! 凄いよスズちゃん!」
スクリーンモニターで試合中継を見ていたユメは、スズの狙撃を見て感激する。これが次の試合の対戦相手になるかもしれないという事を忘れているらしい。
「アンチレッドは残りジンクスとキュベレイとゴトラタンにイージスの四機っすね。宇宙ステージでファンネル持ちのサザビーを先に落とす事が出来たのは大きいっす」
「後はキュベレイか……」
ニャムの言葉にケイは複雑な面持ちでスクリーンモニターに視線を移した。アンチレッドの第一回戦でのキュベレイの活躍が頭に浮かぶ。
「見付けましたわよ!!」
一方、スズが取り逃がしたジンクスをアンジェリカが捕捉していた。彼女のゴールドフレームオルニアスはマガノイクタチからアンカーを放つ。
四つのアンカーがジンクスを絡め取った。ジンクスは迎撃しようとライフルを放つが、アンジェリカは相手を引っ張るように機体を揺らしながら攻撃を避ける。
そうして彼女の機体はジンクスを隕石の影から引き摺り出そうとした。そうすれば、後はスズがこれを狙撃するだけである。
抵抗しようとするも、アンジェリカのゴールドアストレイのスラスターの出力はジンクスの機動力を上回っていた。
「貰いましたわ! このまま引っ張り上げて、スズの狙撃───え!?」
しかし、ジンクスは突然抵抗を止める。それどころか、ジンクスの方から突進してきた。その機体は赤いGN粒子に包まれて、機体を赤く染めている。
「トランザム!? でもその速度で突進して来たら───」
ジンクスは速度を落とさず、そのままアンジェリカのゴールドフレームに激突した。ジンクスは自爆する形で撃墜されたが、ゴールドフレームも無傷という訳にはいかない。
ジンクスの特攻によりゴールドフレームオルニアスも大きく損傷し、撃墜まではいかなかったがほぼ行動不能に追い込まれてしまう。
「な、なんですのよ! なんですよの! もう!!」
操縦桿を無茶苦茶に回すアンジェリカだが、機体はいう事を聞いてくれなかった。しかし、これで実際の所戦力差は五対三である。
「……アンジェが行動不能。残り三機。相手は───」
「スズさん、敵の反応!」
「スズさん、敵が来た!」
スコープを除くスズの耳に二人の声が同時に響いた。レーダーを確認すると、敵の反応が二つある。
「一度目の狙撃で死角を抜かれた……?」
彼女は目を丸くしてレーダーをもう一度確認した。たった一度の狙撃で、こちらの位置から狙撃出来ない障害物の間から敵に接近を許したのである。そんな事、信じられなかった。
「迎撃準備。ここの二機を落とせば、後一機……隠れてる奴がフラッグだ。死んでも道連れにする……!」
「了解だよ!」
「OKだよ!」
スズのサイコザクレラージェはビームスナイパーライフルを捨てながら、バックパックに背負っていたビームバズーカとザクマシンガンを両手に持つ。
さらにバックパックのサブアームが稼働。ザクバズーカ、ザクマシンガン、ゲシュマイディッヒ・パンツァーをそれぞれ二基ずつ展開した。
まるで要塞のような重装備である。ケイのストライクBondも、この圧倒的な物量に苦しめられた。
「レフト、しっかりね!」
「ライト、やってやる!」
「……こい。アンジェの夢を邪魔する奴は───全て叩き落としてる」
背中合わせで集まる三機の黒いモビルスーツに、赤いMS二機が接近する。
───赤い閃光が走った。
お気に入り170人超え、評価17件ありがとうございます!アニメらクライマックスですが、拙作はこれからなので頑張ります!