ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
手を伸ばした。
これで良かったのか分からない。
ただ、その答えすら知る権利は自分にはもうないのだろう。
こんな自分を仲間だと言ってくれる子供達を裏切った。大切な仲間を裏切った。
何もかもに嘘を付いて、この先自分が何処に行くのか。
何処でもない何処かへ、いっそ───
「……関わるのも辞めちまえば、楽にもなるか」
コンソールパネルを開いてログアウトボタンに指を向ける。少しだけ手を止めてから、彼はGBNの世界から姿を消した。
☆ ☆ ☆
GBN。NFT会場。
「───兄さん……?」
バトルが終わり、ReBondの面々も元居た観客席に戻される。
戻ってきた
「勝ったって……?」
「バトルには負けたかもしれない。だけど、お前達は戦いには勝った」
ケイの問い掛けにそう答えるノワール。自分には出来なかった
しかし、彼等はバトルには負けた。
「俺は……勝てなかった。バトルにも、戦いにも……」
歯を食いしばるロック。フラッグ機としてキュベレイとの戦いにも、バトルにも負けた自分が許せない。
なによりも
「……強かったな」
そんなロックに、ノワールは神妙な面持ちで声を掛けた。あの赤いキュベレイの強さは彼も知っている。
「……そうだな」
座り込んだロックは大きく溜め息を吐いた。自分の無力さに呆れつつも、ケイがユメを守ってくれた事には安堵している。
次は負けない。
そう誓って、彼は目を閉じるのであった。
「あれ? カルミアさんは?」
そんな中、この場にカルミアが居ない事に気が付いたユメは辺りを見渡しながらそう言う。
釣られて首を振るケイだが、彼の姿はどこにも見当たらない。
「ニャムさん?」
それに加え、何故か上の空で固まっているニャムにユメは声を掛けた。ニャムは「ふぇ!? あ、いや、カルミア氏っすよね!?」と慌てた様子でコンソールパネルを開く。
「どうかしたんですか?」
「な、何でもないっすよ。えーと……カルミア氏、ログアウトしてるみたいっすね」
両手を広げながらそう言って、ニャムは自分のコンソールパネルでフレンド一覧を開いて夢に見せた。
コンソールパネルには彼女の言う通り、カルミアはログインしていないと表示されている。
「カルミアさん……」
「あー、畜生。おっさんに聞きたい事何個かあったのによぉ」
その事実に驚くケイと、頭を掻いて眉間に皺を寄せるロック。その気持ちはニャムも同じで「むむむ……」と唇を噛んだ。
「お待たせいたしました!! 本日予定のバトルは全て終了!! それでは、明日のバトルに生き残ったネクストなフォースを紹介していきます!!」
会場の中心で司会が高々に叫ぶ。
大きなモニターにはトーナメント表が表示されていて、今日のトーナメントを勝ち抜いたフォースの名前が並んでいた。
その中にはアンチレッドの他に、砂漠の犬の名前も入っている。
「約束、果たせなかったな……」
「ケー君……」
メフィストフェレスとの再戦、そして砂漠の犬との再戦。
「ケイは悪くねぇよ……。悪いのは俺だ」
「そ、そんな事ないよ! 元はと言えば私が───」
「いや、ケイもユメも勝った。負けたのは
ロックはそう言ってから「それにしても」と目を逸らした。
「おっさん、なんで何も言わずにログアウトしてるんだ? 聞きたい事とかあるのによ」
「そうっすね……。ジブンも気になる事があるっす」
「アンチレッドの大将、おっさんが裏切ったとか言ってたもんな」
怪訝そうな表情でそう言う二人。ユメはそんな二人の会話に少し不満そうに頬を膨らませる。
「そんなの、嘘に決まってるよ……!」
珍しく反発的な態度のユメにニャムもロックも焦って両手を上げた。
「ゆ、ユメちゃん。別にジブン達も疑ってる訳じゃないんすよ!? ただ……その、確認したい事がありますというか」
「俺達はバトルを見ていたが、その事なら───」
「待て」
両手を振って言葉を繋げるニャムに口を挟もうとしたトウドウだが、彼はノワールに止められる。
トウドウを押さえながら、ノワールは四人に自分のコンソールパネルを開いて見せた。
「今回のイベントページだ。時期に今日の試合の殆どが掲載される。……この問題はお前達のフォースの問題だ。自分達の目で確認するんだな」
ノワールはそう言いながら、ログアウトの確認画面までコンソールパネルを操作する。
会場は一日目が終わりお祭りモードだった。
しかし、彼らはそんな気分でもない。
「俺達はアンジェ達が心配だから先にログアウトする。明日は……俺は決勝を見届けるつもりだが」
「俺もそれは気になるし、後で連絡するわ」
ロックが返事をすると、ノワールは「分かった」と返してログアウトする。続いてトウドウ達がログアウトした後、ケイはロックに「いつのまに連絡先交換してたんだ?」と問い掛けた。
「いつも店で会うしな。ログインするとき大体顔見るし。……アイツもしかして暇人か?」
「連絡先、といえば誰かカルミア氏の連絡先知らないんすかね? NFTは終わってしまったっすけど、ジブン達は仲間な訳ですし。……バトル内容を見ればカルミア氏の言動を知る事は出来るっすけど、どのみち会わなければ言葉は交わせないっすから」
目を細めるロックの横で話を戻すニャム。
聞きたい事があるのは勿論だが、これからの事だってある。なにより、これまでのお礼をまだ言っていない。そしてこれからも───
確かに彼はNFT参加の為の助っ人だったのかもしれないが、四人にとってはもう大切な仲間だった。
「連絡先か……。ていうか、カルミアさんって確か───」
「あ、そうだ。ヒメカ……!」
ケイが言いかけた所で、ユメは思い出したように妹の名前を口にする。
元々カルミアはヒメカからの紹介でReBondの仲間になった。ならば、ヒメカなら彼の連絡先を知っている筈である。
「そういえばそうでしたね。どうします? とりあえず一旦ジブン達も解散にして、ログアウトしてから諸々の連絡を取る形で良いっすか?」
「そうしましょうか……。えーと、その……ニャムさん」
「はい?」
ニャムの提案に返事をしたケイは、申し訳なさそうな表情で改まって彼女の目を真っ直ぐに見た。
気が付けばロックもユメも同じようにニャムを見ている。
「……約束、果たせなくてすみません。NFTで優勝して、お兄さんを探すって約束」
「い、いえいえそんな。ジブン、これでもそういう事関係なく楽しんでましたし」
ケイの言葉に屈託のない笑顔でそう返すニャムは「それに」と付け足して、口角を釣り上げた。
「収穫がなかった訳じゃなかったっす。望む形ではなかったにしろ、アオト君とも再開出来た訳ですし。こっちもこっちで手掛かりのような物は掴めたっすから」
「手掛かり?」
首を横に傾けるユメに、ニャムは「その為にもカルミア氏に連絡取れるようお願いしますね、ユメちゃん」と笑顔を見せる。
ログアウトするニャムを見届けてから、三人はお互い目を合わせて同時にログアウトした。
「兄さん……」
光が離れていく。
「アオト……」
「お疲れ様、ケー君」
ログアウトしたケイスケとユメカは、少しの間静かな時間を過ごした。ふと漏れた声に、ユメカは彼の頭に手を伸ばして声を掛ける。
「お、おう……」
「アオト君、元気そうだった?」
「どうだろう……」
ずっと望んでいた友との再会。それがこんな形になって、ケイスケはどう言ったら良いのか分からなかった。
「ごめんね」
「そうやって謝る癖、直せよな」
「ご、ごめん……」
「ほら」
「う……」
俯くユメカに、今度はケイスケが手を伸ばす。守らなければならないと、そう思った。
──俺から何もかもを奪ったのは、ガンプラと───お前なんだよケイスケ──
ふと、彼の言葉を思い出す。
「……俺がアオトから何もかも奪ったって、そう言われたんだ」
「ケー君が? なんでそんな事」
「分からない。だから、確かめなくちゃ……」
「うん、そうだね」
ケイスケに両手を伸ばすユメカ。特にこれに深い意味はなく、これはいつも一人で立てないユメカがケイスケの手を借りる時の動作だ。
だから、ケイスケはいつも通り彼女の身体を抱き寄せる。そこに気持ちはあっても、権利はないから、ゆっくりとただ無心に───
「ありがとう、ケー君」
「うん、そうだな」
だから謝らないで。そうやって、ユメカが笑顔で居られるように。
翌日の朝、三人はプラモ屋に集まっていた。
NFT観戦の為にもGBNにログインするつもりだが、ロックに「ノワールが会いたいって」と言われて今日はプラモ屋からログインする事にしたのである。
「足が悪いのに態々来てくれてありがとな」
店の前で待っていたノワール───サキヤは、ケイスケとユメカが視界に入ると頭を下げてそう言った。
そんな彼にユメカは両手を振って「顔を上げて」と訴える。
「悪いな。……もし時間があったら、俺と一緒にスズ達に会いに来て欲しいんだ」
「スズちゃん達って……リアルのって事ですか?」
ユメカの質問にサキヤは「そうだ」と答えて、溜め息を吐いた。彼曰く日没までには戻って来れる筈らしい。
ユメカの足の事を知りながらも真剣に頼み込んでくるサキヤの願いを断れる程、三人は意地が悪い訳がない。
頼みを心良く引き受けてくれた三人にサキヤは安堵して胸を撫で下ろした。
「い、いらっしゃっい。マシンなら空いてるから、好きに使ってね」
店に入ると、見違える程賑わっている店内で店長がそう挨拶をしてくる。
ここ最近GBNのマシンの導入や店長のやる気も起きた事で、お店はかなりの賑わいをみせていた。
そんな忙しい店長の邪魔をしないように、ケイスケ達はログインの為の準備をし始める。
三人でユメカを座らせてから、それぞれがマシンに自分のガンプラを置いて瞳を閉じた。
「お、来たっすね」
「待っていたよ!」
「待っていたぜ!」
ニャムとメフィストフェレスのレフトとライトは、ログインしてきた四人を見て手を振る。
そこにはトウドウも居て、これで今日集まるメンバーは全員だ。
「アンジェリカはスズを見ているようだ」
「あぁ、聞いてる。とりあえずはアンジェに任せよう」
トウドウの連絡にそう返事をしたノワールは、会場中心の大きなモニターに目を向ける。
今日のトーナメント表がそこには表示されていて、彼はアンチレッドの名前に視線を向けた。
「……何が目的なんだ」
無意識にその手が強く握られる。
「カルミア氏との連絡はどうだったっすか?」
「ヒメカに聞いたんだけど、電話は出てくれないみたいなんだよね。一応メッセージは送ってくれたらしいけど、家を出るまで連絡はなかったです」
俯いてそう答えるユメに、ニャムは「むむっ」と唇を尖らせた。
せっかく手に入れた手掛かりなのだが、また振り出しに戻る事になる。それに、彼と話したいというのはそれだけの問題じゃなかった。
「お疲れ様会とか、やりたいんすけどね」
「それ賛成!」
「僕ら参加!」
ニャムの言葉に反応するレフトとライト。二人と目を合わせるノワールに、ニャムは「勿論メフィストフェレスの皆さんもお呼びできたらと思ってるっすよ」と答える。
「オフ会っすオフ会。今から楽しみっすよ!」
「オフ会……?」
知らない単語に首を横に傾けるユメ。オフ会がリアルで会う事だと説明を受けたユメは「是非やりましょう!」と目を輝かせていた。
「やーやー君達」
そうして大会が始まるのを待っていると、とある人物が彼等に話し掛けてくる。
その人物を見てケイやノワールは申し訳なさそうに俯いた。
「アンディさん!」
「元気そうで何よりだ、ガールフレンドちゃん」
「が、ガール……フレ───」
今大会優勝候補である砂漠の犬の大将。アンディは、揶揄うような表情でユメに笑い掛ける。
気さくな彼だが、真に熱くReBondやメフィストフェレスとの再戦を願っていた。そんな約束を果たせなかったケイ達は黙り込んでしまう。
「……良いバトルだった」
しかし、アンディはケイとノワールの前に立ってそう言った。
「バトルに負けようとも大切な人を守ろうとする、それが男の役割ってもんさ。これは戦争じゃない、ゲームだ。そこを履き違えなかった。……君達は勝ったよ」
「確かにケイは勝ったかもしれない。だが、俺は───」
「あの元気なお嬢様とクールなチビちゃんは居ないみたいだねぇ」
アンディはノワールの言葉を遮って、辺りを見渡しながらそう言う。自分の敗北が許せなくて、ノワールは両手を強く握った。
「───負けたまま終われば確かにそれは負けだ」
「……え?」
「だが君達はまだ勝てる。違うかな?」
アンディはそう言うと、ケイ達に背中を向けて片手を上げながら歩き出す。
「決勝戦、楽しみにしていたまえ。……僕は勝つからね」
彼の大人の背中は、ケイ達にはとても大きく見えた。
最近はプレイステーション4のバトルオペレーション2にハマっているリキさんです。泥臭い感じがガンダム感マシマシで良き。
NFT編もいよいよ大詰めですよ!
読了ありがとうございました!