ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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少年達の過去

 ───俺が……お前を撃つ! 

 

 

 旧知の仲の友人同士。

 その二人の戦いや、戦争への想い。

 

 そんなテーマの物語を見て、ユメカはふと想うのだった。

 

 

「アオト君……」

 幼馴染みの少年の、大切な友達の事を。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 校門の前で、一人の少年が半目で表情をひくつかせる。

 

 

「……お前ら、眠そうだな」

 片目が隠れるほど前髪の長いその少年は、目の前の幼馴染み二人を見てそう言った。

 少年の視線の先では、車椅子に乗る同い年の女の子とその車椅子を押す同い年の男が開いてるのか開いてないのか分からない細目で「あ、うん」と声を漏らす。

 

「昨日徹夜で……ふぁぁ」

「ユメカ……。え、なに……夜更かし? お前らまさか……え?」

 少女───ユメカの言葉に、少年は顔を真っ赤にして口を開いて固まった。

 

 

 幼馴染み達が大人の階段を登ってしまったのかと、彼は心の中で泣く。

 

 

「ガンダムSEED見てた……」

 しかし、続くケイスケの言葉を聞いて少年はひっくり返った。むしろ泣いた。なんなんだお前ら。

 

 

「週末何してたんだお前ら……」

「学校に着いたら話すから。……ロック、お前にしか頼まない頼みがあるんだけど」

「いやだからタケシじゃなくてロ───あ、うん。なんだ?」

 少年───タケシはロックと呼ばれて気分が良くなったのか、笑顔でケイスケに詰め寄る。

 

 

「車椅子と───」

「おう、そのくらいこのロックリバー様に任せな」

「───俺の事おんぶで」

「出来る訳ねーだろ!!!」

 町の朝は今日も賑やかだった。

 

 

 

 

 放課後。

 タケシは欠伸をするケイスケを半目で見ながら、別の教室から車椅子でやってくるユメカを見ると手を上げる。

 

 彼が見ていた限り、ケイスケは授業中も殆ど船を漕いでいたし休憩中も昼ご飯を食べている時間以外は殆ど寝ていた。

 だらしない幼馴染みに頭を抱えながら、タケシはユメカに「こいつ寝過ぎなんだけど」と愚痴を溢す。

 

「あはは、私も休憩中殆ど寝てたよ」

「なんなのお前ら……」

 幼馴染みの言葉に再び頭を抱えるタケシ。これでいて夜更かしの理由が下らな過ぎるので、彼は心の中でも頭を抱えるのだ。

 

 

「んで、ガンダムSEED見てたって? どういう事だよ」

 気を取り直して、再び欠伸を漏らすケイスケの頬を突きながらタケシはそう問い掛ける。

 まさか夜更かしの理由がガンダムのアニメを見ていたからとか、そんな訳があるまい。

 

「そのままの意味だよ。休みの間ずっとガンダムSEED観てて、気が付いたら今日の朝三時だった」

「いやー、見るの止まらなくて」

「アホだこいつら」

 そんな訳があった。

 さらに「お母さんに凄く怒られちゃったね」というユメカの言葉に、タケシは溜息を吐いてから頭を振る。問題はそこじゃない。

 

 

「なんで突然ユメカがガンダムのアニメなんか見てるんだよ。お前ら二人して泊まってるのに、暇か」

 もっと他にこうやる事があるだろう、という言葉は喉の奥にしまっておいて。

 ユメカとガンダムに接点がない訳ではないし、むしろ彼女にとって良くも悪くもガンダムは人生に大きな影響を与えた作品群だ。

 

 ただそれでも───いや、だからこそ彼女がガンダムのアニメを見るという理由が分からない。

 

 

「GBNにね、行ってきたの」

「……は?」

 そしてユメカのそんな言葉に、タケシは目を見開いて固まる。

 彼女の言っている意味がわからない。意味は分かるが、理解が出来ない。

 

 

「GBNって、GBN? ガンプラバトルネクサスオンライン?」

「そうだよ」

「よく知ってるじゃん」

 ボソリと漏らすケイスケの言葉に、タケシは突然立ち上がって彼の胸倉を掴んだ。

 

「お前な……っ!」

「た、タケシ君!?」

 そんなタケシに驚いて、ユメカは二人に手を伸ばす。立ち上がれないから、その手は届かない。

 

 

「アオトがGBNに何を取られたのか分かってるだろ……」

「分かってるよ……」

 ケイスケを睨みながら口を開くタケシに、彼は目を逸らさずにそう答えた。

 

「だけどそれで、GBNの事を恨んで目を背け続けたら……またアオトと一緒にガンプラで遊べるのか?」

 続くケイスケの言葉に、タケシは「それは……」と口籠って手を離す。

 少しの間俯いて、彼は自分の髪を掻き毟ってから深い溜息を漏らした。

 

 

 ここには居ない幼馴染みの顔が頭に浮かぶ。

 あの事故が起きてなければもしかしたら、そんな事を思ってタケシは唇を噛んだ。

 

 

「まぁ、確かに俺の考え過ぎだな。……分かった」

 だけど、過ぎた事をもうどうにかする事は出来ない。

 頭を横に振ってから、彼はこう続ける。

 

 

「だけど、なんでユメカが突然GBNだのガンダムのアニメだのに手を出してるんだ? お前が好きなのはロボットじゃなくて戦闘機だろ」

「それがだな……その、GBNだとユメカも歩けるんだよ」

 そして、ケイスケが漏らした答えにタケシは再び目を丸くして固まった。

 視線を落としたその先には、当のユメカが車椅子の上で心配そうな表情を見せている。

 

 

 

 あの日。

 彼等が沢山の物を失くした日、ユメカは交通事故で下半身不随になって自分の足で立つ事も歩く事も出来なくなった。

 

 それが、どうして歩けるのか。

 

 

 

「どういう……」

「GBNだとね、んーと……電脳世界だからかな? 私も、自分の足で立って歩けるんだ。ちゃんと感覚もあって、地面を踏んだ感覚も伝わってくる。……それに、空も飛べたの!」

 そう答えるユメカが嘘を言っているようには見えない。とても嬉しそうに話す彼女の表情はとても明るく見える。

 

 

「なるほど、そういやあのゲームはそういうゲームだったか……。歩ける、ねぇ」

 視線を逸らすタケシは、ボソリと漏らして窓の外を見上げた。

 放課後だがまだ空は明るくて、ほんのり赤く染まる空に彼は目を細める。

 

 

「GBNはありたい自分で居られる場所なんだって、誰かが言ってた」

「ありたい自分……」

 そうしてケイスケの言葉に再び視線を戻すと、ユメカがなにやら言いたげな表情でタケシの目を真っ直ぐに見ていた。

 

 嫌な予感がする。

 

 

「ねぇ、タケシ君もやろうよ! GBN! 私、ガンプラの事よく知らなかったけど……とっても楽しかった。ガンダムの事もっと知りたいって思ったよ、だから週末はずっとアニメを見てたし」

 下半身は動かないのに、目一杯タケシに詰め寄ってそう言うユメカ。

 あまりの勢いにタケシは後ずさって表情を痙攣らせた。

 

 

「いや、俺は……」

 少しだけ口籠って、視線を逸らす。いつかの記憶が頭を過ぎった。

 

 

 

「……辞めとく」

 そうとだけ答えて、彼は自分の鞄を取って教室の出口へと歩いていく。その鞄を持つ手は、少しだけ強く握られていた。

 

「タケシ君……」

「別にお前らがガンプラやろうが、俺は構わないさ。けど俺は、またガンプラをやる気にはならない」

 そう言って教室の扉から出て、踵を返してから「あとタケシじゃない。俺様はロックだ!」と叫んで、タケシは教室を後にする。

 

 

 残された二人は少しだけ寂しそうな表情で顔を見合わせて、そんな彼を追い掛ける事はなく夕焼けに染まる空を見上げた。

 

「私達も帰ろっか」

 ごめんね、と。小さな声が漏れる。

 

 

 赤く染まる空で、烏が鳴いていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 二階建てのアパートの扉を開く。

 吐き捨てるように靴を脱いで、タケシは「ただいま」とだけ漏らして自分の部屋に入った。

 

 

 遅れて母親の「おかえり」という声が聞こえる。

 そんな言葉になにも返さずに、タケシは制服姿のまま自分のベッドに寝転がった。

 

「……ガンプラ、ねぇ」

 思い出したように、そこから手の届く場所に置いてあった箱に手を伸ばす。

 蓋を開けると、そこには黒色のガンプラが入っていた。

 

 

 かなり年季が入っていて、そのプラモデルには沢山の傷が付いている。

 箱に入っていたから埃塗れという事はないが、お世辞にも綺麗なプラモデルとは言えなかった。

 

 

「あの日から殆ど触ってないな……。お前の事も」

 傷付いたガンプラを眺めながら、タケシは何処か遠くを見るように目を細める。

 

 

 

 それは、五年前の事。

 

 彼には三人の幼馴染みがいた。

 ケイスケとユメカ、それにもう一人。

 

 

「アオト、今日もやるんだろ。ガンプラバトル」

「あぁ、勿論さ! 昨日タケシにやられた()()ストライクも父さんに直してもらったからな!」

 タケシの言葉に一人の少年が元気に返事をする。

 

 少年の名前はアオト。

 彼等の幼馴染みの一人で、実家がプラモ屋さんな事もありいつも幼馴染み達が集まるのは彼の家だった。

 

 

「さぁ、やろうぜ! タケシ、ケイスケ!」

 ストライクのガンプラを手に持ったアオトは、二人の少年にそう声を掛ける。

 ガンプラをセットするのはGBNのマシンではなく、大きな箱型のマシン。

 

 

 その頃、まだGBNは大きく普及していなかった。しかし、その前身ともいえる物がある。

 

 少年達のいうガンプラバトルは、GPデュエル(GPD)というガンプラを実際に動かして行うシュミレーションマシンだ。

 基本的なガンプラの操作はGBNと変わらないが、実際にガンプラを動かす為プレイ中のガンプラへの被弾はそのまま反映される。

 

 しかし、それでもガンプラを自分で動かして戦う事に子供も大人も夢中になった。

 壊れたガンプラを治す事も楽しみの中の一つになる程に、誰もがGPDに熱狂していた。

 

 

「父さん、またガンプラ直してくれよ!」

「また負けたのかアオト。よしよし、しょうがないな」

 少年アオトの父親はプラモ屋の店主を務め、その仕事の中で壊れたガンプラの修復も営んでいる。

 彼のビルダーとしての腕は確かで、GPDの大会でもそこそこ有名な人物だった。

 

 そんな父親に見守られながら、少年達はガンプラにのめり込んでいく。毎日が楽しかった。

 

 

「ケイスケが強過ぎるんだよ!」

「俺も強いぞ!」

「あはは……俺は、別に」

 ガンプラが楽しい。ガンプラバトルが楽しい。

 

 

 だけど、そんな日常は少しずつ変わっていく。

 

 

 

 GBN。

 ガンプラバトルネクサスオンラインの流行は加速度的に高まり、次第に流行はGPDに変わってGBNが取って代わっていった。

 GPDの利用者は日に日に数を減らして、ガンプラを愛する殆どの物がGBNに流れていく。

 

 その事を気にしていたのは少年達ではなく、アオトの父だった。

 

 

 彼はGPDが大好きで、壊れたガンプラを直すのも大好きで。

 自分のプラモ屋に沢山の人達が壊れたガンプラを「治してください」と持ってくるのも「カスタマイズを教えてください」と頼られる生活も。

 

 彼にとって掛け替えのないその生活が、崩れ始める。

 

 

 

 GBNではガンプラが破壊されようが、本物のガンプラは壊れない。壊れたガンプラを直して欲しいと持ってくる人は殆ど居なくなった。

 そしてGBNでは世界中の人々と交流が出来るようになり、態々町外れのプラモ屋に足を運ぶ人も居なくなる。

 

 彼は寂しかったのかもしれない。悔しかったのかもしれない。

 

 

「いらっしゃいませ、どうしたのかな」

 ある日、店に若い青年がガンプラを持ってやってきた。そのガンプラはパーツが折れていて、久しぶりの修繕の依頼かと彼は意気込んで接客をする。

 

「壊れてる、という事はGPDかな?」

「あ、いや違います。今時GPDなんて古いっすよ」

 しかし、青年からかえってきた言葉はそんな言葉だった。

 

「昨日GBNにログインして帰ってる途中に落としちゃって壊れちゃったんすよね。近くに丁度プラモ屋があったから、これのパーツか、同じガンプラ売ってないかなって思いましてね」

 その時、彼の中で何かが壊れてしまったのかもしれない。

 

 

「てかここ、GBNのログイン出来ないんすか?」

 彼が大切にしていた何かが音を立てて崩れて行く。

 

 

 

 同日、事件は起きた。

 

「まーたケイスケに負けた!」

 学校から帰ってきた幼馴染み四人は、今日も今日とてアオトの父のプラモ屋でGBNではなくGPDで遊ぶ。

 

 三人の少年がガンプラを持って集まり、そんな光景を一人の少女が航空機のプラモを眺めながら見守っていた。

 

 

「父さん、ガンプラ直し───」

 少年が父に壊れたガンプラを直してもらおうと声を掛ける。

 彼の中で、そんな事にはもう意味がなかった。

 

 

 ──今時GPDなんて古いっすよ──

 そんな言葉が木霊する。

 

 

 彼は息子のガンプラを店の外に投げた。

 

 

 

「───な、何すんだよ父さん!」

「こんな物もう直したってな! なんの意味もないんだ!」

 もう誰もGPDをやらない。

 

 そんな想いが、彼を苛立たせて自分の子供すら突き放す。

 

 

「プラモ、車に轢かれちゃう……っ」

 そんな光景を見ていた少女が、店の外に投げられたガンプラを取りに道路に飛び出した。

 公道に飛び出してしまった彼女を見て、少年が手を伸ばす。

 

 

 轟音と悲鳴。

 トラックが彼女を轢いて、少女から沢山の物を奪った。

 

 

 

「お、俺のせいじゃ、俺のせいじゃ……ない」

「……父さん」

 アオトは自分の父親を責めて、自分の事すら責めて、幼馴染みや父親から離れるように家を出る。

 今は親戚の家で暮らしているようで、中学から学校も違いこの五年間合う事も話す事もなかった。

 

 

 

 

 

「───アオト」

 タケシは思い出したように突然起き上がって、ガンプラを片手に玄関まで歩いていく。

 母親が「出掛けるの?」と尋ねると、彼は「少し」とだけ答えて家を出た。

 

 向かうのは家の近くのプラモ屋。幼馴染み達が集まっていた場所。

 

 

 

「……いらっしゃい」

 アオトの父が覇気のない言葉を漏らす。

 

 まだプラモ屋を経営しているのは、彼なりの謝罪の気持ちだった。

 だけど、そこに昔のような明るい気持ちはまるでない。

 

 

 店の片隅には、埃を被ったGPDのマシンが置いてある。

 

 

「───って、タケシ君かい。久し振りだね」

 そんなGPDのマシンを横目で見るタケシを確認して、アオトの父は驚いたような声を漏らした。

 そんな言葉にタケシは「どうも」と短く会釈しながら言葉を漏らす。

 

 

「……どうしたのかな?」

 怯えるようなそんな声。

 きっと彼は怖いのだ。少年達から色々な物を奪ってしまった自分は嫌われているのだろう。そう思ってしまって仕方がない。

 

 

「アオトは……元気ですかね?」

「……うん。元気、らしいよ」

 タケシの言葉に彼は弱気な声でそう答えた。

 

 彼自身息子の事は親戚伝えでしか知らない。この五年間顔も見た事がないのだから。

 

 

「そうですか。……なぁ、おじさん」

 少し俯いてから、タケシはこう続ける。

 

 

「まだガンプラの事、好きですか?」

 そしてそんな質問を投げ掛けるタケシに、アオトの父は無言で店の周りを見渡した。

 

 

「……ケイスケ君がね、偶に来るんだよ。ガンプラを買いに」

 質問の答えになっていない言葉に、タケシは首を横に傾ける。

 

 

「彼はまだガンプラが好きなんだ。俺は……ガンプラが好きだったのは確かなんだけど、アオトやユメカちゃんや君達から沢山の物を奪ってしまった。……だから、分からない。自分がガンプラを好きなのかどうか、分からない」

 ガンプラが悪くないなんて事は分かっていた。

 

 だけど、自分の中でその存在が大き過ぎる。

 自分がガンプラをまだ好きなのかどうかすら、分からなくなっていた。

 

 

「タケシ君はどうだい?」

「俺は……」

 だから彼は聞く。

 

 

「君は……ガンプラが好きかい?」

 彼の持ってきたガンプラを受け取って、震える声でそう聞いた。

 

 

 

「……俺も、分からない」

「……そうか」

 願わくば───




そんな訳で過去編でした。全然ガンプラバトルをしない
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