ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
祭りの終わりに
いつもなら、どこか他人事のように過ぎ去るニュースの筈だった。
「先程のニュースの続きです。今日未明───」
寝る前の歯磨きをしながら、テレビに映る炎に目が移る。
「───にて、家屋が全焼する家事が発生しました。午後六時半頃、木造二階建ての住宅から火が出ました。現場は住宅街の一角ですが、消防の懸命な消火活動により火は約二時間後に消し止められました」
人の多い都会ではよくある火事のニュースだ。ふと頭の中に燃え上がる何かが映るが、それがなんだったのかは直ぐに記憶から消えてしまう。
「住宅は一人暮らしの男性が住んでおり、消防隊が意識不明の男性を救助。男性はこの住宅の住人と見て身元の確認を急いでいます。他の怪我人は今の所発表されていません」
画面には燃え上がる家の映像と、必死に何かを叫んでいる女性を抑える消防隊員の姿が映っていた。
☆ ☆ ☆
電話を片手に、ニュースを見ながら着信を取る。
「ニュース見たか?」
「今見てる。火事がなんだって? タケシの親父さんの勤務地って訳じゃないだろ」
電話の相手、タケシの父親は消防士だ。しかし、ニュースでやっている火事の現場は彼らが住んでいる所から少し離れた都会である。
「それが、親父に聞いた話と……これはネットで噂になってるんだけどな」
「ネットで……?」
続くタケシの言葉に、ケイスケは再び脳裏に映る光景を思い返した。今度はどこかぼんやりだが、ハッキリとそれがなんなのか分かる。
──今GBNにウイルスを撒いた。今から俺の機体に撃破されたダイバーは、現実の世界でも炎に包まれて死ぬ事になる──
嫌な予感がした。
「どうも今やってるニュースの家事、火元がGBNの家庭用ログインマシンらしいんだよな。ほら、お前とユメカが使ってる奴。ダイバーギア」
「それって……」
「ほら、丁度ニュースで」
タケシの言葉にケイスケは再びテレビに視線を移す。火事のニュースは続いていて、キャスターが続報を読み上げている所だった。
「ここで今回の火事の続報です。怪我人の身元が判明しました。怪我人の意識は回復しましたが、顔に火傷等を負っているとの事です。怪我人の男性は人気の仮想現実ゲーム、GBNをプレイしていて火事に気が付かなかったと思われ、警察消防は出火の原因を調査しています。男性の怪我の具合から、男性がゲームをしていた部屋が火元と思われ───」
GBNをプレイしていた男性。試合終了後に何も言わずにログアウトしてしまったアンディさん。
そしてセイヤの言葉が頭の中で繋がっていく。
「ニャムさんにも連絡したんだけどよ、やっぱりアンディさんなんじゃないかって。ノワールも同じような事言ってたろ」
NFTの大会終了後、ログアウトしたケイスケ達はプラモ屋の出口でこんな会話をしていた。
「せっかく外に出てもらったのに悪いんだが、スズの事は後日にしても良いか? 俺は気になる事がある」
「私は全然大丈夫だけど。……気になる事、ですか?」
大会が終わったらスズに会ってほしい。そう言っていたノワール───サキヤだが、携帯を片手に深刻そうな面持ちを見せてその画面を三人に見せる。
「今さっき、丁度あのバトルが終わった時間に爆発音がして火事が起きている場所があるらしい」
「火事って……。お前、あんな言葉信じてるのか?」
「砂漠の犬の大将はなぜあんなに突然ログアウトした?」
火事と聞いて目を細めるタケシに、サキヤは顎に手を当ててそう言った。
何かが繋がっている。そう感じていたのかもしれない。
翌日。
ケイスケ達はGBNにはログインせずに、SNSのやり取りでニャムやメフィストフェレスの数名とやり取りをしている。
何故か皆ログインしようと言い出さなかったのは、昨日の件が頭に残っていたからだった。
「皆さん学校お疲れ様っす。ジブン、午前中暇だったので色々調べて回っていましたのでご報告させて頂きますね」
「ニャムさん何歳なの? ニートなの?」
彼女の行動力にツッコミを入れるロックだが、対面している訳ではないのでなんとも言えない雰囲気になってしまう。
「私も色々調べていましたわ。とりあえずニャムさんのお話から伺おうかしら」
「アンジェリカさんも何歳なの? 何者なの?」
SNSのトークルームに集まったのはカルミア以外のReBondのメンバーとスズ以外のメフィストフェレスのメンバーだった。
「大学なんてそんなもんだぞ」
「ノワールさん達は大学生なんですね!」
「恐るべし……大学生活」
「だ、大学……あ、あはは……。え、えーと、話して良いっすかね?」
苦笑い気味のニャムは話を打ち切ると、一度咳払いをしてからこう続ける。
「今朝方、砂漠の犬のメンバーの一人にコンタクトが取れまして。その人によれば、昨日ロック氏が教えてくれた火事の件……やはりアンディさんの家だったらしいっす」
「アンディさんは!?」
「命に別状はないらしいですが、大怪我らしいっす。ただ、意識もあるしリリアンさんも着いているから安心して欲しいとの事で」
心配そうに声を上げるケイスケにそう答えるニャム。それを聞いてケイスケだけでなく他のメンバー達も安心して溜息を吐いた。
砂漠の犬は両フォース共に宿敵、そして以上に───だからこそアンディには色々な事を教えてもらったのである。
彼が居なければケイスケは戦う意味を自分で見付けられていなかったかもしれない。
「ただ、その怪我の事で気になる事を言ってましてね。頭の傷は火傷というより、何かが頭の上で破裂したような傷だったとかなんとか」
「……ログイン用のヘッドギアか」
ニャムの言葉にトウドウが静かに答えた。
彼のいう通り、消防と警察の調べによればアンディの使用していたヘッドギアは粉々に砕けていたらしい。
それが火事と関係あるのかは分からないが、そもそもの話である。
「GBNのログイン用のヘッドギアが爆発したとでも言うのかよ。そんな話あるか?」
「変な話だよ」
「変な話だね」
ロックの疑問に同感だと声を漏らすレフトとライト。事実はどうあれ、GBNのログイン用ヘッドギアが爆発したなんて事件は聞いた事がない。
「そもそも爆発するようなものではないですわよ、アレ。もしそうならメーカーから全品回収案件ですわ」
「……もしかして、それが狙い」
アンジェリカの言葉を聞いて、ユメはふとそんな事を呟いた。
「ユメちゃん?」
「あの人、アンチレッドのリーダーの狙いはGBNを壊す事だって言ってたよね?」
アンチレッドのリーダー、セイヤの言葉を思い出しながらそう言うユメ。彼女の言葉を聞いて、他のメンバー達もセイヤの言葉を思い出す。
──今GBNにウイルスを撒いた。今から俺の機体に撃破されたダイバーは、現実の世界でも炎に包まれて死ぬ事になる──
「……ウイルス」
「あ、ありえませんわ!?」
「しかし、あの男が本気なら理にかなってるっすよ。手段はともかく、それを疑うしかない状況を作り上げれば……どうなるか」
ニャムの言葉にトウドウは「GBNにログインするのが怖くなるだろうな」と付け加えた。
もしアンディを襲った事故がウイルスのせいだとしてもそうじゃないにしても、彼のあの言葉を聞いていた───もしくは聞かされた人々はGBNから離れる事を選ぶかもしれない。
少なくとも火事の原因が分かってない今、そう疑って疑いが晴れるまでGBNにログインをするのを控える人も多いだろう。
現に今ここでGBNにログインせずに話している自分達が居るのだから。
「これがあの人の計画……」
そんな話を聞きながらケイは目を細めて、自分の使っているヘッドギアを見詰めた。
その可能性があるなら、自分はともかくユメカにこのヘッドギアを使わせる訳にはいかない。
自分でもそう思ってしまったのだから、きっと誰だって同じ考えになる筈である。
「もしかしたらGBNの運営もこの件で動くかもしれません。無関係と言い切れる訳もないでしょうから、何かしら動きがあると思うっす」
「……それまで、GBNにログインするのは控えた方が良いかもしれないですわね」
控えめにそう言うアンジェリカの言葉に、誰も何か言う事は出来なかった。
それが正しい。
そんな事は分かっている。
「で、でも───」
ユメカはそこまで言って、やはり言葉が出なかった。
その日の夜、GBN運営は二日間のシステムメンテナンスを実施。
公式にはそんなウイルスは存在しないと発表されたが、GBNへの世界的なログインは減少傾向に陥る。
「───全て計画通り、か」
「カンダか。……もう顔を見せるなと言った筈だ」
セイヤの前に現れたカンダ・カラオ───カルミアは、目を細めてセイヤの脇に置いてあるガンプラを睨んだ。
「GBNのアクティブユーザーは二割減少したらしい。まぁ、血気盛んなガンダム勢にはあの程度の脅しでバトルを止めるのは無理だって事ね。……で、お前は次は何をする気よ」
「それをお前に言ってなんになる。……俺を止める気か?」
「おじさんにはそんな権利ないのよね」
目を逸らしてそう言うカンダは、少しだけ間を開けてからこう口を開く。
「……俺は裏切り者だ。ここに俺の居場所はもうない。……だけど、一つだけ言わせてくれ」
静かにそう言って、カンダはセイヤの肩を叩こうとして辞めた。その目は何処も見ていないように見える。
「……人殺しにだけはなるな、セイヤ。……それは、お前が憎んでるGBNの奴らと同じになるって事だ。お前がアンディを───アンドウ・ハルトを殺さなかったの間違いじゃない。それだけは、覚えていてくれ」
「話はそれだけか?」
虚な目。カンダは後ずさって「……あぁ」と頷いた。
「……殺さなかったんじゃない。運良く死ななかっただけだ」
「セイヤ……!」
何も出来ない。
「消えろ。永遠に」
「……っ」
「消えろ!!」
言われて、立ち去る。
残った者も立ち去った物も虚空を見ていた。
「……おじさんはどこで間違えたのかねぇ。楽しかったあの日々は何処へやら───楽しかった、か」
思い浮かぶのは勿論セイヤやサトー、レイアとの日々。その筈なのに、何処かにReBondと過ごしたたった少しの時間が混じる。
今思えばなんであんな事をしたのか分からない。
残る物も居場所もなくなるなんて事は分かっていた筈だ。
「てか俺……もしかして仕事クビ? あれ……ヤバくない? おじさんやばくない?」
一人ポツンとふざけてみても誰からも返事はなくて、頭を思いっきり掻く。
「……仕事探そ」
何もない虚空に、ただ進む事しか出来なかった。進んでいるのかも分からなかった。
これにてNFT編は完結です。少しだけ余韻も引き摺りながら、次回より新編です!お楽しみに!
読了ありがとうございました!