ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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許せない

 モニターに映る映像は、自分はその場に居ながらも知り得ない光景だった。

 

 

「確かに俺も、キサラギ・ユメカが憎かったさ。ガンプラが憎い、ガンダムが憎い、俺達から全部奪ったGBNが憎い。今だってな!!」

 NFTのフォースReBond第三試合。ならびにNFT全ての試合データは、予定より少し遅れて公式ホームページにアップロードされる。

 遅れた理由はNFT決勝戦が関係していると噂された火事で、GBNの運営も慎重にならざるを得なかったからだ。

 

 

「カルミアさん……」

 動画を見たユメカは、彼の言葉に胸を締め付けられる気持ちになる。

 

 自分が辛い思いをする事はもう慣れた。

 だけど誰かに憎まれるとか、誰かに辛い思いをさせる事は違う。

 

 

「俺達には現実がある。手足が無かろうが、動かすことが出来なかろうが生きていける。それなのに……GBNの運営は、GBNでしか生きていけないレイアよりもこのゲームのプレイヤーを選んだんだ。キサラギ・ユメカみたいなな!!」

「……フラッグ機は、デュナメスだ」

 彼が裏切ったのは本当だった。

 

 

 彼の中で葛藤があったのは確かだろう。

 だからこそ、彼はこの後セイヤ達をも裏切ったのだから。

 

 

「俺達が誰かから奪っちゃいけねーだろ!! セイヤ!!」

「……だからさ、後の事頼むわ。それと、サザビーだけはユメちゃんに近付けさせるな」

 彼の言葉を聞いて、ユメカは手を強く握った。こんな感情は初めてかもしれない。

 

 

 

「───許せない」

 小さく呟いて、小さな滴が頬を伝う。

 

 

 胸の痛みを忘れるくらい、強く手を握っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 NFT決勝から約二週間が経つ。

 世間的に火事は放火か事故という見解で落ち着いて、ダイバーギアの安全性は疑われなくなり一時期減少していたアクティブユーザーも回復へと傾いていた。

 

 

「今日、どうするよ」

「ご、ごめんねタケシ君。私はまだちょっと……」

 ここ数日、毎日タケシはユメカやケイスケをGBNに誘っている。しかし、ケイスケはともかくユメカはどうも乗り気ではないようだ。

 

 それに釣られてケイスケもGBNから離れているし、タケシも二人が来ないならとGBNにログインはしていない。

 話によればノワール達やニャムはログインしているらしいが、手持ち無沙汰で皆が来るのを待っているようである。

 

 

「ま、気が乗らないならしかたねーわな。ニャムさんには俺から言っとく」

「……えと、ニャムさんは何か言ってた?」

「ん? いや、ユメちゃんと遊びたいっすよぉ……とか?」

「そ、そうじゃなくて。……カルミアさんの事」

 俯きながらそう言うユメカに、タケシは「あー」と頭を掻いた。

 

 

 動画はユメカだけじゃなくてケイスケやタケシも見ている。勿論ニャムもだ。

 ただ、彼の裏切りは事実であり、彼が敵を裏切ってユメカを心配してくれていたのも事実である。

 

 それをどう受け止めたら良いかは、個人の中でもまだ揺れていた。

 

 

 

「このまま……もう皆で集まれないのかな」

「いや、それはお前がGBNに行くならケイスケだって───」

 そう言い掛けたタケシの言葉を、ケイスケは彼の肩を叩いて止める。

 

「俺は待ってるよ」

「ケー君……」

 ユメカは小さくありがとうと言って、車椅子の背後をケイスケに向けた。

 いつものように帰り道を歩く三人。だけど、どこか穴が開いているような感覚に三人は黙って足を進める。

 

 

 その穴はずっと昔から空いていた物とは、違う穴なのかもしれない。

 

 

 

「おねーちゃん、明日……何か用事ある?」

 家に帰ったユメカを待っていたのは、なにやらモジモジとしている妹のヒメカだった。

 

 明日は土曜日。丁度二週間前こそNFTの一日目が始まった日である。

 

 

「明日……明日、うん。何もないよ? どうしたの?」

 いつもならGBNに一日中ログインして、ミッションをこなしたりバトルをしていたかもしれない。

 ケイスケの家でガンプラを作る手伝いでも良かった。だけど、彼女は無意識にそう答えてしまう。

 

 

「やったぁ! えーとね、えーとね! 久し振りにね、デートしたいの!」

「デートかぁ。……良いね、しよっか」

 久し振りの妹とのお出掛けだ。気分転換には丁度良いだろう。

 

 しかし、ふと前のデートを思い出して彼女は固まってしまった。

 

 

 脳裏に映るトラック。トラックから降りて来た男性。

 

 

 ──また大事故にならなくて良かったねぇ。……あらら、可哀想に。そんなに怖い思いをしたのかな──

 知らない男性の筈である。しかし、どこか頭に引っ掛かる所があった。

 

 

 

「───お、お姉ちゃん!? 大丈夫? 凄い顔青いよ……」

「え? あ……あはは、大丈夫だよ。大丈夫」

「もしかして……事故の事思い出しちゃった? ご、ごめんね……ごめんなさい」

 自分のせいで姉が辛い思いをしてると思ってしまった妹に、ユメカは頭を撫でながら「大丈夫だよ」と優しく言葉を掛ける。

 

 

「行こっか、デート」

「うん!」

 やっぱり、誰かに嫌な思いをさせるのだけは嫌だった。

 

 

 

 

 翌日。

 本当に中学生なのか疑いたくなるような気合いの入ったお洒落をしたヒメカが、これまた普段着ない服を着たユメカを車椅子に乗せて押している。

 

 

「ね、ねぇ……ヒメカ。やっぱり現実(リアル)でこの格好は恥ずかしいよ」

「お姉ちゃん滅茶苦茶似合ってるよ! 結婚して!」

「結婚は無理かな!?」

 目を輝かせて楽しんでいるヒメカに釣られて、ユメカも少しだけ辛い事は忘れて笑って過ごしていた。

 

 以前も来たデパートで、服屋に寄った二人はヒメカの服を見る物だと思っていたけれど、ヒメカはユメカの服を選び始めて───結果普段着ないような服を無理やりプレゼントされてデパートをその服で歩くという状態になっているのである。

 勿論歩けないので車椅子だが、GBNならともかく普段は学校でも着ないみじかめのスカートのひらひらがどうも気になるのだ。

 

 

「ヒメカは普段からそんなに可愛い格好して出掛けてるの? お姉ちゃん、変な男の人に妹が取られないか心配だよ」

「大丈夫だよ? 私お姉ちゃんと出掛ける時しかこんな格好しないから」

「それはそれでお姉ちゃん心配だよ」

 育ち盛り真っ只中でこれから身長も伸びたり大きくなる所は大きくなって服のサイズも変わってくる筈なのに、姉と出掛ける時のためだけに服を選ぶのは年頃の女の子として勿体無い気がする。

 

 

「……ヒメカ、好きな男の人とか居ないの?」

「居ない」

 本当に勿体無い。

 

 

「ヒメカ可愛いのに……」

「お姉ちゃんにそう言われると嬉しいなぁ、えへへ」

 誰かこの妹を幸せにして欲しい、だけど簡単にはあげたくない。ダメな姉だなと自分でも思った。

 

 

「お姉ちゃんは?」

「え?」

 ふと帰ってきた質問に、ユメカは目を丸くする。

 分かり切っている答え。ヒメカだって薄々は感じている筈だ。

 

 脳裏に浮かぶ男の子は、私の好意に気付いていない。

 

 

「……お姉ちゃんさ、最近やってないよね。ゲーム」

 少しの沈黙の後、ヒメカは静かにそう言って立ち止まる。そこは以前も来た玩具屋の入り口だった。

 

 

「……ヒメカ?」

「私、お兄さんの事は嫌いです。こんなに可愛いお姉ちゃんを放っておいてゲームとかプラモばっかりやってるもん」

 怒り心頭といった感じのヒメカ。彼女は「だけど」と言葉を繋げる。

 

「だけど、私はお兄さんを好きなお姉ちゃんが大好き。お姉ちゃんに幸せになって欲しいから、私はお兄さんを……その、嫌いだけど嫌いじゃないです」

 言っている事は途中から無茶苦茶だった。だけど、言いたい事は分かる気がする。

 

 

「……だから、ゲームしてないお姉ちゃんを見ると心配になるの。もしかしてお兄さんと喧嘩とかしたの? ゲーム、嫌いになっちゃったの?」

 そのゲームに微塵も興味がない筈のヒメカが、こうして姉を心配している事にユメカは自分が許せなかった。

 

 自分以外が傷付く事はやっぱり苦手である。

 

 

「……心配かけちゃったんだね」

「し、心配するのは当たり前だよ! お姉ちゃんだもん。私はお姉ちゃんに幸せになって欲しい。その為なら何でもするよ!」

 なんて良い妹を持ったのだろうか。そう思いながら、ユメカは玩具屋に視線を向けた。

 

 どうしてか、理由は分からないけど玩具屋で倒れそうになった自分を助けてくれた男の人の顔が脳裏に映る。

 

 

 

「……ごめんねヒメカ。せっかくのデートだけど、お昼ご飯食べたら終わりにしても良いかな?」

「うん。元々その予定だったし」

 なんて出来た妹なのか。服までプレゼントしてもらったし、お昼ご飯くらいは奢らなければ。

 

 

「ありがとうヒメカ。この服、大事にするね」

「うん!」

「それと、一つだけお願いがあるんだけど───」

 そう言って彼女のお願いを聞いたヒメカは、ユメカに自分の携帯電話を渡した。その中に入っている電話番号にユメカは何度も電話を掛ける。

 

 それこそ、お昼ご飯を食べ終わってから家に帰るまで───何度も何度も。

 

 

 

 

 

 電話が鳴った。

 着信を見て、男は目を細めて携帯を仕舞う。

 

 また電話が鳴った。同じ番号である。

 

 

「……え、しつこい」

 キサラギ・ヒメカ。ReBondに近付く為にトラックで事故になりそうになるのを装って近付いた、キサラギ・ユメカの妹だ。

 

 カンダ・カラオ───カルミアには、NFTが終わった後彼女から何度か電話やメッセージが来ている。

 内容は殆ど「ReBondのメンバーが会いたがっている」だ。

 

 

 そのメッセージに答える事は出来ない。

 自分は彼女達を裏切ったのだから。もうあの場所には自分の居場所はない。

 

 さらにセイヤ達の事を裏切った自分には、既に居場所と呼べる物はどこにもないのである。

 

 

 ネットカフェの一室で自堕落に過ごしていた彼は、電話が鳴り止むのを黙って待っていた。

 

 

 

「……しつこ」

 しかし、電話は鳴り止まない。それどころか何度も掛け直してくる。所謂鬼電だ。普通に怖い。

 

 

 

「ど、どうしたっていうのよ……」

 かれこれ二時間鳴り続ける電話に恐怖心すら抱き始めた頃、やっと電話が鳴り止んだと思ったらメッセージが一件と留守番電話が一見入っていた。

 

 無視するつもりだが、恐怖心に負けたのか、留守番電話の再生ボタンに指が伸びている。

 

 

 

『カルミアさんですか? 私です。ユメです。GBNでお話がしたいので、ログインして下さい』

 単純なメッセージだった。ただ、いつもの彼女とは違う雰囲気でやはりどこか怖いのである。

 

 

『私、待ってます。……ずっと待ってます。カルミアさんが来るまでログアウトしません。ご飯も食べないし寝ません。……それじゃ、待ってます』

「いや怖!?」

 最早脅迫だった。お前が来なかったら死んでやると言っているのと同じである。怖い。普通に怖い。

 

 

 

「あの子にそんな所があったとわ……。てかこれ、滅茶苦茶怒ってるよな……」

 当たり前か、と内心納得していた。

 

 自分は彼女達を裏切ったのだから。恨んでも恨み切れないだろう。

 

 

 

「……これもケジメかねぇ」

 鞄から自分のガンプラを取り出して、ネットカフェに設置してあるGBNのログイン用ダイバーギアを借りて設定を弄った。

 

 そうしながら、彼は「コレが爆発ねぇ……」と目を細める。

 

 

「セイヤ……」

 ふと漏れた言葉と共に、意識はこの世界からGBNの世界へと流れていった。




実は本日で丁度一周年になります。書き始めた頃は一年で終わらせるつもりでした。去年の自分を殴りたい。

そんな訳でめでたいな一周年。今回は野郎を描いてきました。

【挿絵表示】

カルミアさん。背後にガンプラトレスしたドーベンを添えて。バトオペ2に参戦したので赤くなって遊んでます。

あと、バトローグ最高でした。


それでは読了ありがとうございました!
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