ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
突然来た一通のメッセージ。
それはNFTが終わってから一週間後の事だった。
アンチレッドのリーダー、セイヤはお前が探している兄のキムラ・セイヤだ
キムラ・ナオコちゃんへ
カルミアより
「───カルミア氏」
なぜ
それは紛れもなく、自分の兄があのアンチレッドのリーダーであるという事の証である。
「なんで……どうしてなの、兄さん」
頭を抱えて蹲った。
あの優しい兄が、ガンダムが───ガンプラが大好きだった兄が、どうしてあんな事をする。
メッセージを返しても返事は来ない。ユメ達もGBNにログインしてこない。
楽しかった日々はあっという間で、また孤独に戻るのだろうか。
兄が居なくてなってから続いた孤独に。
『今からGBNにログインします』
「───ユメちゃん?」
その一週間後。NFT開催日から二週間後の土曜日の昼過ぎ、そんなメッセージがユメから届いた。
「……なんか、怒ってない?」
ただ、普段のユメからのメッセージとは少し違うような気がする。いつもなら絵文字とか顔文字とかが入っているのが普通だし、もっと文も長い。
それが今回は物凄く短い短文で、文章から空気がピリピリしているのが伝わって来た。
「ヤザンさん、ちょっと私またゲーム行くから。餌、おやつと多めに置いとくね」
そう言いながらコタツの上の猫の頭を撫でて、ダイバーギアを手に取る。
コタツの上の猫は懐いているのか分からない鋭い瞳で彼女を見ていた。
☆ ☆ ☆
GBN。メインフロア。
若葉色の特徴的な髪の毛にケモ耳と尻尾、眼鏡に何故か腰に挿した刀。
自分で作って着飾ったアバターとはいえ現実からは掛け離れたこの容姿は毎日ログインしていようが慣れない物である。
だからこそ、鏡を見てスイッチを入れるのだ。この世界でなりたい
「お久しぶりっす! ケイ殿、ユメちゃん、ロック氏!」
元気に手を振って、待ち合わせていた三人の元に走った。しかし、近付いてみるとどうも空気が重い。
「ゆ、ユメ……ニャムさん来たぞ」
「お、おーっすニャムさん」
ケイとロックはなんだか生まれたての小鹿のように震えている。そんな二人に挟まれているユメもまた、こちらは逆毛が立った猫のように震えていた。
「ヒィ!?」
これには流石のニャムも驚いて腰を抜かす。ユメがこんなに怒っている姿を見るのは初めてである。
それはケイやロックも同じらしいが。
「……ゆ、ユメちゃん?」
「……あ、ニャムさん。お久しぶりです」
笑顔の筈だが、それがまた怖過ぎた。
「ど、どうしたんすか!?」
「どうやらカルミアさん呼び出したらしくて……。なんか絶対来るから一緒にGBNで待とうって」
「あんなユメカ初めて見たんだけど……。おいケイスケ、お前何したんだよ」
「何もしてないわ……!」
「いやでもアレはジブンから見ても滅茶苦茶怒ってるっすよ! 確かにカルミア氏はちょっと裏切ったみたいな感じっすけど……」
「ま、まぁ……ユメは俺達と違っておっさんの事ずっと信じてたしな」
ユメには聞こえないようにコソコソと話す三人。当のユメはそんな事気にしていないのか、プルプルと震えながらコンソールパネルを開いている。
表示されているのはフレンド一覧。カルミアとスズの名前だけが、最終ログイン一週間以上前と書かれていた。
「……あ、あの……ユメちゃん。本当にカルミア氏来るんすかね?」
「来なくても待ちます。私、二時間電話して留守電とメッセージも入れたから」
静かな低い声にニャムは青ざめる。やっぱり今日のユメはおかしい。
「ヤバイっすよ。滅茶苦茶ヤバイっすよアレ……! ケイ殿本当に何したんすか!?」
「いや、だから俺は何にもしてませんよ!?」
「ケイ、もう二度とアイツを怒らせるなよ」
「俺じゃないけどそれだけは心に誓うよ……」
三人がそう話していると、黙ってコンソールパネルを見詰めていたユメの身体がピクリと動いた。
もしやと思い三人もコンソールパネルに目を映す。フレンド一覧、カルミアの名前の横には『ログイン中』の文字が表示されていた。
「カルミア氏……」
本当にログインしている。この二週間、ずっとログインして来なかった彼が。
ユメの鬼電が怖かったのか、メッセージが怖かったのか。もはやユメが怖い以外の理由が思い付かないが、理由はともかくカルミアがログインしているのは確かだった。
「……どうも」
目の前に現れる紫色の羽織と眠そうな半目の男。
ばつの悪そうな表情で頭を掻きながら歩いてくるカルミアは、ユメと目があった瞬間「───ヒィ!?」と尻餅をつく。
ユメの背後にいた三人は彼女がどんな顔をしていたのか分からないので、カルミアの反応を見て三人で抱き合って震える事しか出来なかった。
「……ゆ、ユメちゃ───ユメさん?」
カルミアも敬語である。
「……カルミアさん、来てくれたんですね」
優しい声だ。しかし顔は笑っていない。本人は笑っているつもりかもしれないがそれは笑顔ではない。
「は、はい! 来させて頂きました!!」
最早漏らしそうなカルミアの表情が流石に可哀想で、ケイはなんとか勇気を振り絞って間に入った。
「ゆ、ユメ! 流石に怒り過ぎだ。カルミアさん怖がってるか───ユメ?」
ただ、間に入ってユメの顔を見てみると彼女の表情は思っていたのと違うのである。
「……泣いてるのか」
「……泣いてない」
ユメは涙を流していた。仮想世界のGBNだが、その感情表現は偽物ではない。
「ユメ……」
「私、怒ってるんだから……」
手を強く握る彼女を見て、ケイもカルミアも彼女を直視出来ないで俯く。
当たり前だと、カルミアは頭を押さえてからゆっくりと背筋を伸ばして頭を下げた。
「……申し訳ありませんでした」
おふざけは無し。ただ真剣に誠意を見せる。
許されない事くらい分かっていて、ただそれでも真剣に謝る事が大人としての在り方だと自分に言い聞かせた。
何を言われても仕方がない。自分は彼女達にそれだけの事をしたのだから。
「なんで裏切ったんですか」
「……それは、おじさんは元からセイヤ達の───」
「なんで、あの人達を裏切ったんですか……!」
「───はい?」
予想外の言葉にカルミアは口を開けて固まってしまう。それはケイ達も同じで、四人は「何を言ってるんだ」という気持ちでユメを見ていた。
ただ、ユメは膝から崩れ落ちて、大泣きしながらこう続ける。
「大切な仲間だったんですよね……! 私やガンプラが憎くて、こんな事まで計画して何かしようとしていた……仲間なんですよね?」
「大切な……仲間」
「あなた達がしようとしていた事が正しいとは思わない……。けれど、カルミアさんがあの人達の事を大切に思っていた事は分かります。……そんな人達を、なんで裏切ったんですか! そうやって一人になっちゃう事くらい……分かってた筈なのに。自分が一番不幸になるの……分かってて、なんで……! なんで大切な人達を裏切ったんですか!!」
「ユメちゃん……」
彼女が怒っていたのは彼が自分達を裏切った事ではなくて、彼が仲間を裏切った事だった。
確かにカルミアにとってセイヤ達は大切な仲間だったのである。
青春を共にし、辛い思いも憎しみも共にして、目的を果たそうと人を騙すなんて事までやろうとした大切な仲間だった。
その仲間すら裏切って、彼は今独りで居る。
「はぁ……」
頭を抱えて、カルミアは大きな溜息を吐いた。
「わ、私……怒ってるんですから!」
「分かってるよ、ありがとね」
カルミアを一生懸命睨むユメに、彼は膝を落として視線を同じにする。そして彼女の頭を優しく撫でながら、もう一度「ごめんな」と謝った。
「許してくれない?」
「許さないです……。カルミアさんだけが辛い思いをする結果にした事、絶対に許さないです」
「でもさ、ユメちゃん。……一つ勘違いしてるぜ」
いつも通りの眠そうな半目で───しかし、どこか優しい顔で彼女の顔を覗くカルミアはこう続ける。
「ユメちゃん言ってくれたよな? おじさんもReBondの大切な仲間だって」
「それは……」
「おじさんね、ユメちゃん達が好きになっちゃったのよ。セイヤやサトウ達と同じくらい、ユメちゃん達の事が大切になっちまったの。……だから、俺はどっちも取れなかった。中途半端で情けない結果だけ残しちまった。大切な仲間を全員裏切って、全員傷付けた」
頭の中にセイヤの顔が思い浮かんだ。
復讐に捉われた彼を救えるのは自分だけだったのに、そんな彼を自分は裏切ったのだろう。
自分の事を仲間だと言ってくれて、あまつさえ裏切った自分の為に泣いてくれる女の子までも裏切った。
本当に最低な大人である。
「俺だけが辛い思いをしてるんじゃない、裏切った全員に辛い思いをさせてると思う。ユメちゃんも泣かせて、仲間達を見捨てた……俺は最低だよ。ごめん」
静かにそう謝った。
「……本当に申し訳ない」
膝を落として頭を地面に付ける。これくらいしか出来なかった。これが汚い大人の謝り方なのだから。
「カルミアさん……」
「ユメちゃん、許してあげたらどうすか?」
「そうだぜユメ。おっさんにここまでさせるのは流石にひでーよ。てか怖い」
「ニャムさん、タケシ君……」
「ロックな?」
二人の言葉を聞いてもカルミアは頭を上げない。そんな彼を見て、ケイは目を細めてからカルミアに聞こえないようにユメに小さな声で話しかけた。
「───どうだ?」
「……うん。そうだよね」
ケイの提案に、ユメは重かった空気を振り払うように一度大きく深呼吸する。カルミアは少しだけ頭を上げて首を横に傾けた。
「カルミアさんは私達の事、仲間だって思ってくれたんですか?」
「ユメちゃんがそう言ってくれたから、おじさんもその気になっちゃったのよ。……って、これは言い訳か。少なくともアイツらと天秤に掛けられるくらいには……ここは居心地が良かった。それは嘘じゃない」
「でも、裏切った」
「そうだ」
「……あの人達の事も裏切った。カルミアさんには、もう仲間は居ない」
「……そうだ」
事実を突き付けられて、カルミアは地面を見つめる事しか出来ない。
そんな彼の視線に、一人の少女の手が伸びてくる。
「だから、今はカルミアさんはフリーですよね?」
「……は?」
「仲間の居ないカルミアさん。……また、私達の仲間になってくれませんか?」
立ち上がってそう言うユメは、真っ直ぐにカルミアの目を見て手を伸ばす。
そんな彼女の言葉に、カルミアは自分の目と耳を疑った。
「おじさんはユメちゃん達を裏切ったんだぜ?」
「うん。知ってる」
「俺なんか仲間にして、また裏切られたらどうする気だよ。……また、傷付くのが怖くないのか?」
「カルミアさんはまた裏切るの?」
「いや、それは……」
「裏切っても、良いです」
「は?」
ついに呆れた声の漏れるカルミアだが、ユメは真剣に彼の目を真っ直ぐに見ている。
その瞳には曇りがなくて、彼自身が言った通り純粋だった。
「大切な人に裏切られるのは、とても辛い事だけど……。大切な人を裏切るのは、もっと辛い事だと思うから。……私はもう、カルミアさんにそんな辛い想いをさせたくない───させない」
「……どうしてそう言いきる訳よ」
「天秤なんかに掛けられないくらい、私達がカルミアさんの大切な仲間になる。そして、カルミアさんの大切な仲間だった人もGBNが───ガンプラが好きな仲間にしてみせる。私、ガンダムの作品を全部見た訳じゃないけど……どこか共通したテーマがあると思うんです」
これまで見た作品を思い返しながら、これまで経験したGBNでの経験を思い返しながら、彼女はこう続ける。
「分かり合う事。ガンプラを通して、他人の好きを分かる事───他人の気持ちを分かる事。……GBNはそれが出来る場所だから、私は皆と仲間になりたい。分かり合いたい!」
アンチレッドのメンバーも含めて、ガンプラが好きな人々全てが仲間であれますように。
ユメのそんな願いを、カルミアは心の何処かで感じていた。彼女の言葉は大袈裟かもしれない。だけど、根本は一つである。
ガンプラが好きな人は、皆大切な仲間だ。
「だから、カルミアさんは私達の仲間になってください」
「……俺は───」
ガンプラが好き。ずっと昔から、今の今までこの気持ちは変わっていない。
忘れていた事はあっただろう。だけど、彼女達が思い出させてくれた。
「───俺は、俺も……ガンプラが好きなんだ。……アイツらだって、昔はガンプラが好きだった!」
「知ってるよ」
そうじゃなきゃ、ガンプラをそんなに恨んだりしない。
色々な気持ちがあるのだろう。
自分が原因でそうなったという人もいた。
だけどそれ以前に、皆本当はガンプラが大好きな筈。
だってガンプラはこんなにも、人の気持ちを吐き出させる物だから。
「俺はアイツらの事もユメちゃん達の事も好きだ……。アイツらを止めたい。おじさんは独りじゃ何も出来ないのよ。だから……俺を仲間にして欲しい!」
その手を取る。
答えは決まっていた。
「ケー君」
「ん? あ、あぁ。……俺達がReBondです」
「え? あ、あぁ……」
それは、いつかの再演。
「なんつったかな……。えーと、あんた誰?」
「えーと……。あー、突然声掛けちゃったからね。そーなるよね。……ユメちゃんだよね?」
「はい、ユメです」
彼とGBNで初めて会った日の事を思い出しながら、五人は笑いながらその茶番を続ける。
「おじさんはキミに一目惚れしちまった。是非おじさんを仲間にしてくれないか?」
「ニャムさん、そいつを叩き切って下さい」
「承知したっす! 首切りごめん!」
「ひぃ!? ちょ、タンマタンマよ!!」
「完全に怪しいおっさんじゃん」
「でも、仲間になりたいって言ってるよ?」
おじさんを仲間にしてくれないか?
それは、ついさっきまで四人が悩んでいた事を解決する事が出来る言葉だった。
「いやでも完全に知らない人だし……」
「やっぱり斬るっすか?」
「待って」
「大丈夫ですか? えーと───」
きっとこれが、本当の始まりなのだろう。
「───カルミアだ。おじさんを仲間にしてくれないか?」
本当のフォースReBond、五人の物語の始まりなのだろう。
おっさんの話でした。次回から少し物語からそれてメフィストフェレスの話を少しだけします。
読了お疲れ様でした!