ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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ノワール

 オフ会をしよう。そう言い出したのはユメだった。

 

 

「カルミアさん、現実で会ったら一回殴りますね!」

「待って、そんな笑顔で言わないで? てか、許してくれたんじゃなかったの?」

「カルミアさんがアンチレッドの人達を裏切ったのは許したけど、私が裏切られたのは許してないですよ? というか思い出したら物凄くムカついてきました」

「ケー君!! この子を止めて!!」

「諦めて殴られといて下さい。大丈夫です、そんなに痛くないと思うから」

「いや気持ちが痛いから! おじさん女の子に殴られたりしたら病むよ!?」

 賑やかな雰囲気の戻ってきたReBondのメンバー達だが、オフ会の件でニャムだけは難しそうな顔をしている。

 

 

「ニャムさんどうしたんだ? アレか、流石にオフ会は嫌か」

「い、いえいえ。そもそもユメちゃんにオフ会の事を教えたのはジブンっすから。……ただ、メフィストフェレスのスズさんの事が気になってしまいまして」

 あの大会でセイヤが傷付け、GBNにログイン出来なくなった人は少なくない。その一人がメフィストフェレスのスズだ。

 

 どうせオフ会をやるなら彼女達も誘おうと思っていたのだが、彼女が今どんな状態なのかは気になるところである。

 

 

 

「……おじさんの仲間が本当に迷惑をかけてるな、とは思う訳だけど」

「その話に関してもオフ会で話して貰う事にするっすよ。心の整理や現状把握も必要ですし。ジブンも聞きたい事、あるっすから」

「そうしてくれるとおじさんも助かるね」

「そうなると問題は……」

 ケイは一人の男を思い出しながらロックの顔を見た。

 

 

 メフィストフェレスのノワールはロックと仲が良い。ロックならメフィストフェレスの現状を何か知っているかもしれないと思ったのである。

 

 

「ノワールの話だと、ずっと塞ぎ込んでるらしい。これは俺達がどうこうって話じゃないよなぁ」

 珍しく難しそうな顔をするロックだが、こればかりは彼のいう通りメフィストフェレスの問題だ。

 部外者であるロック達に出来る事は少ないだろうし、それに手を出すのは余計なお世話かもしれない。

 

「スズちゃん……」

「おじさんが何を言うんだって思われるかもしれないけど、あのフォースなら大丈夫よ」

 心配そうに俯くユメにそう言うカルミア。そうは言われても、彼女の性格上心配しない方が無理がある。

 

 

「ユメちゃんはさぁ、その生き方……いつか自分を壊すから辞めた方が良い」

 ケイスケにもずっと同じ事を言われていた。だけど、それがキサラギ・ユメカという人間なのである。そう簡単には変わらない。

 

「とりあえず、ジブン達はオフ会の日程とか予定を決めましょう。オフ会をやるって事だけはノワール殿に伝えといて貰って良いっすかね?」

「おう、分かったぜ」

 ロックにそう告げると、ニャムはユメに「場所の話なんすけど、多分ユメちゃんでもこの場所とか来やすいと思うんすよ!」と話し掛ける。

 

 それが良い気分転換になったのか、ユメの顔には少しずつ笑顔が戻っていった。

 

 

「……本当、良い子ねぇ」

「カルミアさん」

「何? ケー君」

「次ユメの事泣かせたら……俺も流石に───」

「分かってるよ。……だから、お前は俺を信じるな。いつでも背後から撃つ準備をしときな」

「いや、俺も信じます。……だから、次裏切ったら許しません」

「……若いの怖いなぁ。分かったよ、約束する」

 伸ばされたカルミアの手をしっかりと握るケイ。真っ直ぐな少年少女の瞳を見ながら、彼は昔同じ眼をしていた仲間の事を思い出す。

 

 

「……お前達を必ず救ってみせる。俺はもう、誰一人大切な仲間を裏切らない」

 虚空に向かって手を伸ばした。届かなかった手を、今度こそ掴んでみせる。そう自分に言い聞かせて。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 夕焼けの光で目を覚ました。

 朝焼けではなく夕焼けである。その証拠に、手元の時計では時刻は十八時を過ぎようとしていた。

 

 

「……寝ちまった」

 頭を抱えながらメッセージの来ている携帯を持ち上げて立ち上がる。

 今日は───いや今日も、何もする事がなくて一日家にいた。ここ数日の記憶はどれも腐っている。何もしていない。

 

『オフ会やろうってウチのユメが言ってるんだが、ノワール達は来るか? NFTの打ち上げって事で。勿論無理にとは言わない。まぁ、今回ダメでもまた遊ぼうぜ。俺はお前達との決着をまだ諦めてないからな』

 そんなメッセージ内容を確認して、ノワール───コクヨ・サキヤは頭を掻いた。

 

 

 二週間前、NFT第二試合の事を思い出す。

 

 

「スズ……」

 あの日からスズと顔を合わせていない。アンジェリカによれば、部屋から一歩も出ていないようだ。

 そもそも彼女は自分一人で歩く事すら出来ない。しかし、それを抜きにしての話である。

 

 

「何をやってるんだ……俺は」

 あの時スズを守れず、バトルにも勝てずに。大会が終わった後、アンディの件が怖くてGBNから離れていた。

 スズの事はアンジェリカに任せて、自分はこうしてただ時間を潰している。

 

 ふと、机の上に置いてある自分のガンプラが視界に入った。

 

 

 迅雷ブリッツ。

 フォースメフィストフェレスの機体の中では、少し浮いている。

 

 それは、メフィストフェレスの機体の中で唯一この機体だけはアンジェリカが作った物ではないからだ。

 

 

 

 思い出す。

 

 

「最近この辺りで野良狩りをしてるって噂のブリッツ使い、貴方ですわね?」

「……それがどうした。まさかどこかで倒した奴の敵討ちか何かか?」

 アンジェリカ達との出会い。

 

 それはノワールがまだソロプレイヤーとしてGBNをプレイしていた時の事だ。

 

 

 GBNを始めた当初は大学サークルの仲間とプレイしていたのを覚えている。

 しかし、何が違ったのか。自分とサークルメンバーで実力差が出来始めて、もっと上を目指したいと思ったノワールは彼等と一緒に居るのを辞めてしまった。

 

 このゲームが楽しい。もっと強くなりたい。自分が作ったこの迅雷ブリッツが、世界で一番強いガンプラなのだと証明する。

 その向上心で、切ってはいけない物まで切ってしまった彼は───気が付けば独りになっていた。

 

 

 

「とんでもないですわ。そもそも私達、チームバトル専門なんですのよ」

「なら何の用だ。チームで掛かってくる気か? それでも良いぞ」

「いえいえ、私はあなたの腕を買いたくて来たんですのよ。私のガンプラを使って世界を取ろうとは思いませんか?」

「世界?」

 その言葉には憧れがある。

 

 しかし、聞き捨てならない言葉が一つだけあった。

 

 

「私のガンプラだと? 俺には迅雷ブリッツがある」

 自分が作ったガンプラが、世界で一番強いと証明する。そんな夢を持つ彼に、アンジェリカは同じ夢をぶつけて来たのだ。

 

 

 

「あなたのガンプラより素晴らしい物を提供しますわよ。私が作ったガンプラは世界で一番ですの。そこに貴方の腕が加われば……私達は世界を取れる」

「ふざけるな。俺はこの迅雷ブリッツに誇りを持っている。他人の作ったガンプラなんかで世界を取ってなんになる! お前のガンプラなんかが、俺のガンプラより強い訳がない」

「……アンジェのガンプラを見もしないでバカにするな」

 ノワールの言葉に、彼を睨む白髪の少女。そんな彼女を眼鏡の男が「落ち着け、スズ」と下がらせる。

 

 

「なら、試してみます?」

「望む所だ。三対一でも俺は構わないぞ」

「よく言いましたわ。なら望み通り、その自信叩き割ってあげますわよ! トウドウ、スズ、準備しますわ!」

 そうして、三対一のバトルが始まった。

 

 

 

「───運が悪かったな、狙撃者!」

「───近付かれたくらいで、アンジェのサイコザクは負けない」

 バトルフィールドは無人都市。人が居なくなって廃墟が目立つ市街地で、隠れる場所も多い。

 

 そんなステージとブリッツのミラージュコロイドを利用して狙撃者であるスズのサイコザクレラージェに近付いたノワールは、彼女に接近戦を仕掛ける。

 

 

「サブアームが!?」

「ただのサイコザクじゃない……!」

 本来のサイコザクからさらに追加されたサブアーム。それを巧みに操るスズの操縦技術。

 

 悔しくもそれを認めざるを得ず、ノワールは一旦距離を取った。

 

 

 

「……この地形で引くならここしかないだろう」

「読まれた!?」

 しかし、まるで待っていたかのようにトウドウのクランシェアンドレアがその場に立ち塞がる。

 放たれる射撃を脚部に装備された車輪による機動力で避けながら、迎撃でライフルを向けた。

 

 しかし、そのライフルはサイコザクレラージェに撃ち抜かれる。舌打ちしながら、ノワールはアンカーを使った変速軌道でサイコザクの射線を切った。

 

 

「逃げても無駄ですわよ!」

「確かに良く出来たガンプラ達だ……!」

 どうしてだろう。

 

 こんなにもピンチなのに、楽しいと感じてしまった。

 それはきっとあの時切ってしまった物なのだろう。誰かと楽しむという気持ち、自分に着いて来てくれる実力。

 

 そして本気を出せるバトル。

 

 

 

「これが……俺が望んでいた物か!」

「やりますわね!」

 ぶつかり合う迅雷ブリッツとアストレイゴールドフレームオルニアス。

 確かな手応えを感じるアンジェリカに対して、ノワールはそれ以上を求めていた。

 

 

「しかし、三対一ではやはり無謀ですわよ!!」

「それでも俺の迅雷ブリッツは、どんな逆境も跳ね除ける!!」

「な!?」

「アンジェ!」

 ゴールドフレームを弾き飛ばし、アンカーで絡めとってからサイコザクレラージェに向けて機体を投げ付けるノワール。

 

「無茶苦茶ですわ!?」

 そうして出来た隙に、ノワールはトウドウのクランシェを撃破。残りの二機を纏めてライフルで撃ち抜く。

 

 

 既に迅雷ブリッツはボロボロだった。

 しかし、最後まで諦めず、勝ちに貪欲であり続けた彼にアンジェリカは目を輝かせる。

 

 

 

「いつか貴方、自分で自分を壊しますわよ。……そんな戦いぶりですわ」

「自分の力不足は認める。……だが、俺のガンプラだけは馬鹿にさせない」

「そんな事もうしませんわ。貴方のガンプラも凄まじいですもの」

「なら……なら俺を───」

 仲間にしてくれ。

 

 

 

 楽しかった。

 本気のバトルが出来る事が。実力を余す事なく発揮出来る事が。

 

 

 勝ち続ける。

 

 

 

「はぁぁ……!」

 勝ち続ける。

 

 

 

「アンジェ、スズ!」

 勝ち続ける。

 

 

 

「砂漠の犬、か」

「ぜ、絶対に許しませんわ! 来年こそリベンジですわよ!」

「……次は負けない」

「俺が焦らなければ……」

 誰よりも貪欲に、誰よりもチームの勝利に貪欲に。

 

 

 

「今回ダメでも、まだ私は諦めませんわよ! しかし、やっぱり私がリーダーではダメなようですわね」

「……アンジェ?」

「貴方、私達のフォースのリーダーをやりなさい!」

「本当に俺で良いのか?」

 一年前のNFTが終わった後、アンジェリカはノワールにそう言った。

 

 

「貴方が良いのですわ」

「俺なんて……勝つのに焦って仲間を危険に晒したのに」

「そうやってチームを想いやれる貴方には、リーダーの資格がある。そして、勝利に貪欲なその静かな熱さが……私には足りていませんでしたの」

 彼女はそう言ってノワールを引き寄せる。認められる事が嬉しかった、彼女達に必要とされているのが嬉しかった。

 

 

「私はお父様のガンプラ天元流を輝かせて魅せるバトルを見たい。その為に、貴方の力を貸して下さい……ノワール」

「……あぁ、約束する。俺がお前を、お前達を───」

 それが、フォースメフィストフェレスのリーダー。ノワールの物語である。

 

 

 

 

「……約束、したのにな」

 ふと、メッセージを読み返した。

 

『まぁ、今回ダメでもまた遊ぼうぜ。俺はお前達との決着をまだ諦めてないからな』

 ──今回ダメでも、まだ私は諦めませんわよ! ──

 

 

 

「───まだ、終わってない」

 そうだ、まだ何も終わってはいない。

 

 

 

 

 終わらせてたまるか。

 

 どこまでも勝利に貪欲に。俺は、諦めが悪いんだ。




そんな訳でメフィストフェレスの話を少々。少しだけお付き合い下さいませ!

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