ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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無職のおじさん

 内心焦ってはいなかった。

 人生色々あったりなかったりしたが、これまでなんとかなって来たからである。

 

 

「それじゃ、オフ会の予定は来週の土日という事で良いっすかね? 細かい予定は明日の内にジブンが用意しておくっす!」

「お願いします、ニャムさん」

「スズちゃん達も来れるんだよね!」

「おう、さっきノワールから連絡があったからな。なんなら明日からGBNにもログインしてくるらしいし」

 皆で会うという事で、ReBondの面々はしんみりとした空気から解放されて笑っていた。

 そんな四人を見ながら、カルミアはむしろ安心する。

 

 

「で、やっぱり会ったらおじさん殴られる訳?」

「はい。殴ります」

「笑顔で言わないで」

 大人しい女の子だと思っていたユメからのストレートな言葉に若干恐怖を覚えつつも、自分の正体についていつ話そうかと目を細めた。

 自分が彼女の()を奪ったトラックに乗っていた男だと知ったら、彼女はどう思うだろう。

 

 仲間だと言ってくれた彼女をまた裏切る事になるのではないか、それがまだ少しだけ怖かった。

 

 

 

「それじゃ、おじさんは今日はこの辺で」

「えー、久しぶりにクエストとかやろうと思ってたのに」

「野暮用があるのよ、悪いねぇ。明日で良い?」

 頬を膨らませるユメの頭を優しく叩いてそう言って、カルミアはGBNをログアウトする。

 

 

 現実に引き戻された意識で、彼は大きく溜め息を吐いた。それは別にReBondとの関係を悩んでいる訳ではなく───

 

 

 

「───金がねぇ」

 職を失った大人の切実な悩みである。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 人が生きていくにはお金が必要だ。

 それは子供達にはまだ少し理解が遠いかもしれないが、人は親元を離れるとそれを強く実感するようになる。

 

 

「……ついにネカフェ代もなくなったか」

 ネットカフェの出口で財布をひっくり返して手の上に中身を落とすも、小銭が四つ落ちてくるだけだった。

 貯金をしなかったのは、会社の経営にポケットマネーを使っていたからだが───その会社は既にクビになっている。

 

 文句を言う権利はないのだろうが、自分の扱いに泣きそうになった。

 

 

「仕事を探さねば……。それ以前に今日の寝床よ」

 財布から取り出した最後の小銭を取り出して、カンダ・カラオは決意したように目の前のコンビニに視線を向ける。

 

 

「───唐揚げ棒一本下さいな」

 彼は一文無しになった。

 

 

 

 

 

 月曜日。

 夕暮れも綺麗な下校時間。

 

 学生達は「帰ったらどうする」だの「帰ったら何をする」だのと忙しい。

 そんな中、独りで道を歩く中学生の女の子は友達と話したりしていたら目にも止めないだろう光景を目にする。

 

 

「……ホームレス」

 町を流れる一本の川を渡る為の橋。その下に、男が一人倒れているのを見付けてしまった。

 正直見なければ良かったと、少女───キサラギ・ヒメカは溜め息を吐く。

 

 周りで友達と喋りながら、アレを発見せずに気楽に歩いているクラスメイトが今だけは羨ましいと思った。

 

 

 一人立ち止まって、河川敷に降りて行く。

 そんな彼女を不思議に思う人はいれど、着いてくる者は居なかった。彼女は学校で所謂ボッチなのである。

 

 

 

「……死んでないよね?」

 河川敷の橋の下。コンクリートで固めてある場所に、ダンボールを敷いて男が寝ていた。

 この橋はよく通る道だが、普段こんな場所に人は居ない。居ても近所の子供達がバーベキューをしているような場所である。

 

 もし死体だったらどうしようなんて考えながらも、彼女は来る道で拾った木の枝で大人の頭を突いた。

 

 

「───痛ぁ!? もう朝か!?」

「生きてた」

 悲鳴を上げる男に少しだけ驚いて後ずさるヒメカだったが、体を持ち上げる男の顔にどこか見覚えがあってその顔を覗き込む。

 

 

「……ヒメカちゃん?」

 ただ、先に口を開いたのは男だった。

 

 

「おじさん、トラックとガンプラの」

 同時にヒメカは男の正体を思い出す。姉とのデート中に姉を助けてくれたかと思えば、帰りの道でトラックに乗って姉を轢き掛けた男だ。

 そして彼こそ、姉が遊んでいるゲームで人が足りないからと呼び出したは良いが───裏切りとかなんとかで姉を困らせた張本人である。

 

 

「えい」

「ぎゃぁぁあああ!!」

 とりあえず眼を潰しておいた。

 

 

 

「───話を聞きますよ。……どうしたんです?」

「まず話を聞く前におじさんの眼を刺したのはなんなの? 危ないからその木の枝捨てなさい」

「これは護身用です」

「見ず知らずの男を一ミリも信用してないのは良しとしよう。そのまま慎重に生きるんだよ───じゃなくてね? おじさん何故か手足を縛られてるので、もはや見た目襲われてるのおじさんだからね?」

 何故か手足を縄で縛られたカルミア───カンダ・カラオは、泣きそうな顔でヒメカに許しを請う。対するヒメカはそれを無視して「どうしたんです?」と聞き返した。

 

 

「……お姉ちゃんと仲直り、出来た?」

「……おかげさまで」

 彼女に連絡先を教えてなければ、ReBondのメンバーにまた迎え入れられるなんて事は無かっただろう。

 そもそも、彼女達に近付く為にヒメカに連絡先を教えたのだが───まさか最終的にこうなるとは思ってはいなかった。

 

 

「……それじゃ、なんでこんな時間にこんな場所で寝てるんですか?」

「こんな時間って……あ、もうそんな時間なのね」

 縛られているので時間も確認出来ないが、学生が下校しているという事はそれなりの時間だという事は分かる。

 

 

「おじさん、君のお姉ちゃんと約束があるんだけど……どっかにタダでGBNやれる場所はないかな?」

「こんな場所で寝てる理由は教えてくれないんですね……。あとそれは、私に聞かれても困ります」

 眼を半開きにしてカラオを見下ろしながら、ヒメカは「でもお姉ちゃんが約束破られて悲しい思いをするのはもっと困る」と顎に指を当てた。

 少しだけ考えて、彼女は「あー」と口をぽかりと開ける。

 

 

「知ってます、ゲームやれる場所」

 そう言って彼女はカラオの足の拘束だけを解いて彼を立たせた。両手は後ろで縛られたまま、ヒメカはそんなカラオを縄で括って引っ張る。

 

 

「ちょっと!? ヒメカちゃん!? この扱いはおじさん納得出来ないよ!? 周りの目が凄いんだけど!? ねぇ!?」

「もう少しキビキビ歩いて下さい。……あ、そこの角を右です」

「聞いてないし───ってか、この道」

 ヒメカに言われるがままこの格好で歩いていた訳だが、途中で彼女がどこに向かおうとしているのか見当が付いてカラオは眼を細めた。

 

 

 視界に入ったのはとあるプラモ屋である。

 自分の記憶と違ってかなり繁盛しているようだが、その場所を間違える訳がない。ここは彼が乗っていたトラックがユメカを轢いた場所なのだから。

 

 

 

「このプラモ屋さん、ゲームのろぐいんましん? みたいなのあるってお兄さんが言ってたんです。ここで良いですか?」

「えーと……そうね、ありが───」

 お礼を言って、取り敢えず縄を解いて貰おうとしたカルミアだったが───まともな食事も睡眠も取っていなかった彼は遂に体力が切れて意識を失ってしまった。

 その場に倒れるカラオを見て、流石のヒメカも顔を真っ青にする。

 

「お、おじさん……!?」

「どうかし───えーと、ヒメカちゃん?」

 カラオが倒れた音を聞いて店の中から飛び出して来たプラモ屋の店主は、ヒメカと倒れているカラオを見て眼を丸くした。

 普段見掛けない人物に加え、男の姿に店主はその場で固まってしまう。

 

 

 あの日、事故の日。

 ユメカを轢いたトラックから出てきた男だ。

 

 

「君は……」

「店長さん、おじさんやばい。……店長さん?」

「あ、あぁ。どうしたの? その人」

「なんか橋の下で寝てた」

 ヒメカの説明になってない説明に頭を抱える店主。ただ、彼の顔を見ればなんとなく状態は飲み込めた。

 とりあえず人をこんな場所で泣かせてはおけないと、店主はカラオを抱き抱えようとする。

 

 

「ちーっす、店長───って、なんだなんだ?」

「どうしたんですか店長さん?」

「店長さん? それにヒメカも……え?」

 そんな所に、丁度良く現れたのはタケシとケイスケ、それにユメカだった。

 

 

「その人……」

 そしてその男に見覚えがあったユメカは、固まってヒメカとカラオを見比べる。

 

 妹とのデートの時にプラモ屋で自分を助けてくれた男性。

 そんな彼を思い出したユメカだが、他の場所で───もっと別の所で彼を知っている気がした。

 

 

「ケイスケ君、タケシ君、ちょっとこの人を運ぶのを手伝ってくれないかな?」

「え、あ……はい」

「良いけどそのおっさん誰だ? なんか見覚えあるけど」

 店主と二人は、カラオを店の奥の休憩室に運んで行く。そんな彼等を見ながらユメカは記憶のどこかで会った人物に瞳を揺らしていた。

 

 ヒメカは首を横に傾けて、いつかの姉とのデートの帰り道の事を思い出す。

 

 

 

 あのトラックの運転手。

 事故にはならなかったが、姉に嫌な思いをさせた男の事を正直な所ヒメカは恨んでいた。

 

 ただ、彼が残した「ガンプラが憎いなら、力になってあげるよ」という言葉。

 別にそんな気はさらさら無かったが、姉にガンプラをやってる友達は居ないかと聞かれて───友達の居ない彼女には頼りの綱は彼しか居なかったのである。

 

 

 彼女にはそれが妙な運命の歯車だったとは、知る筈もなかった。

 

 

 

 

「……ぬ、うぅ」

「起きた」

 しばらくして目を覚ましたカラオを見て、ヒメカは店で手伝いをしていた三人を呼びに行く。

 

 プラモ屋は今日も繁盛していたが、トラブルもあってさらに混み合っていたので三人が手伝っていたという訳だ。

 ちなみにユメカとけいふけがプラモの紹介をしながら、タケシはレジ打ちの手伝いをしている。

 

 

 

「三人共、あの人起きたらしいからもう戻って大丈夫だよ。手伝ってもらって悪かったね」

「わ、私は何も出来てませんから」

「店長、バイト代でるよな?」

「おいタケシ」

「あはは、勿論。後で好きなプラモ貰って行きなよ」

 店長のそんな言葉を聞いて喜ぶタケシを叩きながら、ケイスケは二人を連れて休憩室まで歩いた。

 

 ヒメカが言うには、彼こそ彼女が姉に紹介した知り合い───カルミアだと言うのである。

 意外な所での出会いに驚く三人だったが、カラオ本人は申し訳なさそうに俯いていた。

 

 

 

「カルミアさん……なんですよね?」

 言われてみればどこか面影があるというか、GBNでの彼の姿に少し似ている。

 

「そーね、おじさんよ」

 カラオはそう言って、三人の顔を見比べた。ユメカ以外はGBNと大差ない姿をしているし、彼女の顔を忘れる筈もない。

 

 

「ケー君、ロッ君、ユメちゃんだな。……改めて、すまなかった」

 誠意を込めて頭を下げるカルミアに、ケイスケは「もうそれは良いんですって!」と両手を上げる。今はそれよりも気になる事があった。

 

 

「なんで、倒れてたんですか?」

「おっさんまさか無職か?」

「タケシ君……」

「いや、その……ロッ君の言う通りなのよね。おじさん、仕事クビになっちゃって」

 半目でそう告白するカラオは、申し訳なさそうにこう続ける。

 

 

「これまたユメちゃんに怒られそうな話だし、本当はオフ会の時に話す予定だったんだけどね。……そもそもアンチレッドのメンバーは殆どとある会社の社員な訳よ」

「とある会社?」

「……ユメちゃんを轢いたトラックの、運送業をしてる。プラモ専用の運送屋」

 ケイスケの問い掛けにそう答えたカラオの言葉を聞いて、三人はおろかヒメカも目を細めた。

 

 因縁か。

 そんな事を思う。

 

 

 

「勿論あの事故が全てって訳じゃない。ただ、セイヤや俺達を取り巻く環境が悪かった……それだけだと思うのよ」

 続きはオフ会で、そう言ったカラオは普段通り笑いながらこう続けた。

 

 

「んで、セイヤ達を裏切ったおじさんは無事無職になったって訳───ゴフッ」

 言い掛けたカラオのみぞおちを、車椅子を捻って放たれたユメカの拳が貫く。カラオはその場に倒れて、ケイスケは「カルミアさーん!!」と悲鳴を上げた。

 

 

 

「カルミアさん、本当に優しいんですね……」

「優しい人殴らないでくれる!? 姉妹揃って怖いよ!?」

「だって約束ですから」

「あー」

 会ったら殴りますね、なんて言われた事を思い出す。そのあとユメカは頭を下げて「ごめんなさい」と謝った。

 

 本当に優しい女の子だ、と思う。

 

 

 

「いやでも無職は大変ですよね」

「……ここで働いたら良いんじゃないの?」

 ふと、傍観していたヒメカはそんな言葉を漏らした。

 

 

「……え?」

「ここ、なんか忙しそうだし。ゲームも、ここで出来るし。……おじさん、家もないならとりあえずここに泊めて貰ったら?」

 ヒメカの言う通り、プラモ屋の休憩室はある程度広くて生活が出来るようになっている。なんならアオトが居なくなって手持ち無沙汰になっている部屋もあった。

 

 

 しかし───

 

 

「でも、この店は……」

「家は構わないよ」

 そんな休憩室に、店長が入って来てそんな言葉を漏らす。振り返ったカラオは目を細めて彼を見た。

 

 

 

「君達やアオトが俺の事を恨んでいるのかも、とは思ってる……。だからこの店で働くのが嫌なら無理強いはしない」

「……俺はあんたの人生を無茶苦茶にしたんだぜ?」

 店長の言葉にカルミアはそう答える。あのトラックを運転していたのは彼ではなかったが、それでも彼が関わっていたのは確かだった。

 

 

「それは、お互い様なんじゃないかな?」

「お互い様……」

「俺があの時アオトにあんな事をしなければ……俺はまだ、あの時のことを後悔してる」

「だ、だったら私も……飛び出したのは、私だから」

「お姉ちゃん……」

 きっと、誰もが同じ事を思っていたのだろう。

 

 

「───誰かが、もう少しだけ気を付けていたら……何か変わっていたかもしれない」

 ケイスケはあの時の事を思い出しながら、無意識にそんな言葉を漏らした。

 全員自分が悪いと思っているけれど、それはもう過ぎてしまった事だから変えられない。

 

 

 ───だけど今は変えられる。

 

 

 

「だから、今からでも変えようって……前に進もうって思うんです」

「ケイスケ君……」

 店長とカラオは目を見合わせて、子供達の真っ直ぐな瞳を見比べた。

 

 

 

「……そうかもね」

「そうだね。……丁度、お店にバイトが欲しかった所なんだよ」

「忙しそうだもんな」

 タケシが横目でお店の中を見てみると、店長が居なくなったせいでまたレジに行列が出来上がっている。

 そんな行列を見て慌てる店長だが、いったん振り向いて彼はこう言葉を落とした。

 

 

 

「事情はなんとなく察したし、皆の事も任せたい。アオトの事も、君は色々知ってるだろうし」

 フォースアンチレッドに所属していたアオトの事もある。全く手掛かりもなかったアオトに、これでやっと近付けるのかもしれない。

 

 

 

「それじゃ、早速働いてもらおうかな」

「いや、今からなの? おじさん腹ペコ何だけど!?」

 無事仕事を手に入れたカルミアを見ながらヒメカも含めて四人で笑った。なんとも賑やかな場所だと、いつかの楽しかった日々を思い出す。

 

 

 

 きっとまた、皆で。




おじさんがバイトを始めた。

書き溜めで年内分の更新まで溜まってしまった皇我リキです。この余裕を他の原作作品に向けたい。
読了ありがとうございました!
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