ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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ガンプラバトル

 少年はガンプラが大好きだった。

 ガンプラも、ガンプラを好きな自分の父親も。

 

 

 それなのに。

 

 

「……店を畳もうと思う。俺のせいで、取り返しのつかない事になってしまった」

「父さん……本気で言ってるのか?」

 父の言葉に少年は唇を噛んで、手を強く握る。

 

 

 違うだろ。そうじゃないだろ。

 少年は強く思って、父親に迫った。

 

 

「父さんはガンプラが好きだったんじゃないのかよ! 俺は、ガンプラが好きだ。ガンプラが好きな皆が好きだ!」

「……父さんは、もうガンプラが好きじゃなくなってしまったんだ」

 そうして父のそんな言葉に、まだ中学生にもなっていない少年の目から光が消える。

 

 

「アオト、すまな───」

「父さんなんて嫌いだ」

「───アオト」

 それだけなら良かったのかもしれない。

 

 自分が嫌われて、それで終わればどれだけ良かった事か。

 

 

「父さんもガンプラも、大嫌いだ!」

 少年は裏切られたと思ってしまった。

 

 自分が大好きだった物に裏切られて、自分が大好きだった物が怖くなってしまったのだろう。

 

 

「ま、待ってくれ……アオト!」

 その日から彼は息子の顔を見ていない。

 

 

 

 

「君は……ガンプラが好きかい?」

 それは、自問自答のようだった。

 

 自分のせいで息子やその友人達から沢山の物を奪ってしまった原因。

 ガンプラが悪くない事なんて分かっている。それでも、ガンプラを好きでいられるのかは分からない。

 

 

 罪滅ぼしのように続けている店で、彼は今日もまた自分に問い掛ける。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 雲が駆けているようだ。

 まるでそう感じる程に目紛しく景色が変わっていく。

 

 

「あっはは、凄いねー。GBNは」

 空を駆ける戦闘機───MAスカイグラスパーに乗るユメは、水色の髪を揺らしながら笑顔で辺りを見渡した。

 

「ちゃんと前を見て操縦してくれよ」

 そんなユメに、ケイは苦笑い気味に声を漏らす。

 

 

「ごめんごめん。だって楽しいんだもん」

 ユメは鼻歌混じりにそう返事をしてから、しっかりと操縦桿を握った。

 スカイグラスパーに同席するケイは「楽しんでるなぁ」と声を漏らす。

 

 ここ数日、平日も合わせて二人は毎日GBNにログインしていた。

 飽きないでいてくれている事は嬉しい。顔は違うくとも、彼女の笑顔が見れるだけで充分だと思う。

 

 

「あー、でも……ケー君は飽きちゃうか」

 ふと自分の唇に人差し指を押し当てながら、ユメはそう呟いた。

 

「いや、俺は別に良いけど」

「だって、この間から色々ミッションとかやってみたりしたけど……全然勝てないし。それで、ここ二日間ずっと空を飛んでるだけだよ?」

 彼女が首に掛けているネックレスを手に入れたミッション以降、他のミッションに挑戦しては失敗を繰り返す。

 そんな日々を思い出してケイは再び苦笑いを溢した。

 

 

 流石に行き詰まって、今はこうして空の散歩を楽しんでいるという訳である。

 

 

「そもそも二人だけでクリア出来るミッションは限られてくるしなぁ……。仕方ない」

「やっぱり一緒に遊ぶ友達が欲しいよね。……フォース、だっけ?」

「どこでそんな言葉覚えたんだ?」

 ユメから聞くとは思えなかった言葉に、ケイは目を丸くして問い掛けた。

 

 

 フォース。

 共通の目的を持つダイバー同士で結成される部隊システムで、簡単に言えばチームである。

 他のゲームで言うサークルやギルドといった物と同じで、チーム仲間を通してGBNをより楽しむ事が出来るシステムだ。

 

 

「昨日、マギーさんにメールを送ったらこうやって返事が来たから」

 ケイの問い掛けに、ユメはキョトンとした顔でそう返事をする。

 彼に向けられたコンソールパネルには、マギーからのメールが表示されていた。

 

 

 

 

 ハロー、ユメちゃん。メールありがとう♡

 

 内容は読ませて貰ったわ。なる程、行き詰っちゃっている訳ね

 GBNはミッションやバトルだけが全てじゃないけれど、その先に進みたいのなら私からも少しアドバイスを送らせて貰うわ♡

 

 ミッションをクリアしたいなら、ケイちゃんだけじゃなく他の友達を誘うのも手よ

 単純に人手が居ればミッションクリアに繋がるし、何よりその分コミュニケーションを取ることが出来る

 

 なんならリアルの友達じゃなくても、GBNで出会った人に「手伝って下さい」と頼むのも手よ♡

 大丈夫。GBNの人達は皆優しいし、一期一会の機会にも慣れているから。気軽に声を掛けるのよ

 

 それと、GBNに慣れてきたらフォースを作る事を強くオススメするわ

 概要は下のリンクを参照にしてね。きっとケイちゃんが詳しいと思うわよ

 誰か他の人のフォースに入るっていうのも良いけれど、あなた達は自分達のフォースを持った方がきっと楽しめるわ♡

 

 さて、その後のGBNは楽しめているかしら? 

 もしオススメのデートコースを教えて欲しかったら、またいつでもメールを頂戴♡

 byマギー

 

 

 

 

「だって」

「フォースか、確かDランクにならないと作れないんだったかな」

 メールの内容を見てそんな言葉を漏らすケイの前で、ユメはジト目で頬を膨らませる。

 ケイが「どうかした?」と聞くとユメは「なんでもないでーす」と視線を逸らした。

 

「デートコース……」

 小声で漏らしたそんな声を、ケイはフォースについて考えるのに夢中で聞いていない。

 さらに頬を膨らませるユメだったが、膨らませ過ぎてパンパンになった空気はふと笑い声と共に外に漏れる。

 

 

「あっはは」

「ど、どうした急に……」

「楽しそうだなって」

「そりゃ、ね」

「タケシ君やアオト君ともやりたいね」

 そんな彼女の言葉に、ケイは「そうだな」と漏らした。

 

 

 いつかみたいに皆で集まって、何も考えずにガンプラで遊ぶ。

 そんな日々を思い出して、少年は強く手を握った。

 

 

 

 ───いつか、必ず。

 

 

 

 

 

 翌日。学校の放課後。

 

「タケシ君!」

 車椅子に乗ったままタケシに詰め寄るユメカ。

 あまりにも急な事に、タケシは「な、なんだ?」と身体を引っ込ませた。

 

「……って、俺はタケシなんて名前は捨てたのさ。俺様の名前はロック。ロックリ───」

「GBNやろ!」

「はぁ?」

 目を輝かせてタケシに詰め寄るユメカ。

 そんな彼女の言葉に、タケシは口を開いたまま固まる。

 

 

「もう少しこう……捻った誘い方はなかったのか」

 そんな光景を側から見守るケイスケは、苦笑いを零しながらタケシの肩を叩いた。

 それで硬直が解けたタケシは「俺はこの前断ったよな?」とケイスケの顔を覗き込む。

 

「その記憶に間違いはない。……けど、やっぱりどうしてもお前とやりたいんだ。俺もユメカも」

「ケイスケ……」

 二人に見詰められて、タケシは視線を落とした。

 

 

 ──君は……ガンプラが好きかい? ──

 そんな言葉を思い出す。

 

 

「……悪い」

 しかし、彼はそう漏らして首を横に振った。

 教室から逃げるように鞄を持って走り去るタケシに手を伸ばすユメカだが、やはりその手は届かない。

 

 

「タケシ君……」

「まぁ……そうなるよな」

 ユメカの車椅子の後ろに立って、ケイスケはそんな言葉を漏らす。

 しかしふとユメカの表情を見ると、彼女はとても寂しそうな表情をしていてどうも胸が痛くなった。

 

 また、自分のせいでなんて思っているのかもしれない。

 

 

 少しだけ溜息を吐いたケイスケは「よし」と気合の言葉を漏らして前を見る。

 

 

 

「別の作戦を考えよう。ユメカ、今日は暇なんだよな?」

「え? あ、うん。今日もGBNやる気だったから……」

「それじゃ、またちょっと付き合ってくれ。行きたい場所があるんだ」

 彼の言葉をユメカは心良く受け入れたが、ケイスケの行きたい場所を聞くと少しだけ驚いた。

 ただ、嫌な訳がなくて。少しだけ後ろめたい気持ちもあるけれど、皆で前に進むにはまず自分が前に進まないといけない。

 

 

 そんな想いを胸に、ユメカはケイスケに背中を押して貰いながらとある場所へと足を運んだ。

 

 

 

 

 町外れの小さなプラモ屋。

 あの頃から何も変わっていない光景に安心しながら、ケイスケに連れられてユメカはその場所に立ち寄る。

 

 五年前の事故から、この家の店主の息子である幼馴染みは心を閉ざして町を出て行ってしまった。

 きっかけは他にあったのかもしれない。だけど、自分が道路に飛び出したせいで事故が起きたのだから。

 

 

 全部、私のせい。

 そう思っている彼女は、今日までどうしてもこの場所に足を踏み入れる事が出来なかったのである。

 

 

 

「懐かしいね。うん、あまり変わってない?」

 ケイスケに車椅子を押されて店に入ったユメカは、店内を見渡してそんな言葉を漏らした。

 五年前の記憶と棚の配置も変わっていない。それはそれで変だが、それよりも少し埃っぽいのが気になる。

 

 店の端側には、五年前のあの日以来一度も使われていないGPDのマシンが置いてあった。

 ユメカは遊んだ事がないが、あのマシンで三人が楽しそうに遊んでいたのをいつも見ていた事を思い出す。

 

 

 

「……ユメカ、ちゃん?」

 突然、何かが落ちた音と一緒にそんな声が聞こえた。

 振り向けば、このプラモ屋の店長が唖然とした顔で立っている。

 

 

「店長さん……」

 そんなプラモ屋の店長───アオトの父親を見て、ユメカは少しだけ小さく声を漏らした。

 

 なんて言葉を掛けたら良いんだろう。

 彼から大切なものを奪った罪悪感が彼女の胸を締め付けた。

 

 そしてアオトの父も、彼女に対しての罪悪感で視界が揺らぐ。

 彼女の夢も未来も奪ったのは自分だ、と。息子達から何もかもを奪った自分が許せなかった。

 

 

「おじさん、タケシ来てる?」

 そんな二人を他所に、ケイスケは店主にそう問い掛ける。

 ケイスケの言葉に驚いたのは店主ではなくユメカだった。

 

「え、タケシ君?」

 さっき学校で別れたばかりなのに、どうして? 

 ユメカは首を横に傾けて、一方で店主は「来てるよ」と言葉を漏らす。

 

 

「よーし、居たな」

「な、なんでお前らここに?」

 店主の視線の先では、店の椅子に座るタケシの姿があった。まるで初めから分かっていたかのようなケイスケとは裏腹に、タケシは目を丸くして二人を見比べる。

 

「俺はここの常連だぞ。タケシがおじさんにガンプラを治しにもらいに来たって話を聞いたから」

 タケシの質問にケイスケは軽くそう答えた。

 

 

 彼のいう通りケイスケはこのプラモ屋の常連である。

 店主は数日前にここを訪れたケイスケに「久し振りにタケシ君が来てくれた」という話をしていたのだ。

 

 

「だから、今日はお前がガンプラを取りにここに来るって分かってたんだよ」

「ケー君……名探偵?」

 覚ました顔でタケシがここにいる事が分かっていた理由を話すケイスケを見て、ユメカは感心したように声を漏らす。

 

「は、謀ったな……」

 一方で表情を痙攣らせるタケシは、店主を見てそう言った。

 しかし、店主は両手を上げて首を横に振る。

 

 

「そんな事は、ないよ。俺にそんな権利は……ないからね」

 困ったような表情でそう語る店主は、ゆっくりとユメカの顔を見てからケイスケに視線を移した。

 

 確かにタケシの事を教えたのは自分である。

 しかし、それでケイスケがユメカまでここに連れてきて何をしたいのか。彼には分からない。

 

 

 

「なぁ、タケシ。ガンプラバトルをやらないか?」

 少しだけ間を置いて、ケイスケの口からそんな言葉が漏れた。タケシは「はぁ?」と唖然とした顔を見せる。

 

 

「……だ、だから。GBNはやらないって言ってるだろ!」

「誰もGBNをやろうなんて言ってないぞ。……俺はガンプラバトルをやろうって言ったんだ」

 そう言いながら、ケイスケはカバンから自分のガンプラを取り出してタケシに突き付けた。

 ダブルオーガンダムのバックパックが着いたストライク。タケシはそのガンプラを見て息を飲む。

 

 

「まさか……」

 視線を横に逸らせば、埃を被ったGPDのマシンが視線に入った。タケシの言葉に、ケイスケは首を縦に振る。

 

 

「ケイスケ君……?」

「おじさん、マシン貸してください。良いですよね?」

 この店のGPDのマシンは昔から自由に使って良いことになっていた。

 店主には断る理由もなく、彼は慌てるように周りの埃を落としながら「どうぞ」と答える。

 

 

「お前……それGBNで使ってるガンプラだろ。分かってんのか? GBNと違ってGPDはガンプラが壊れるんだぞ」

「そんな事分かってるに決まってるだろ。それで、やるのか? やらないのか?」

 挑発的な態度を見せるケイスケに、タケシは一度舌打ちをしてから「やってやるよ。後で泣くんじゃねーぞ」と言葉を漏らした。

 

 

「ふ、二人とも……喧嘩は」

 二人を見て焦る店主はしかし、両手を上げるだけで何も出来ない。

 そんな彼の背中を摩ってユメカが「大丈夫です」と声を掛ける。

 

「ユメカ……ちゃん?」

「大丈夫。だってほら───」

 彼女は二人を指差して、笑いながらこう続けた。

 

 

 

「なんならコテンパンにしてやるぜ!」

「久し振りだな。……よし、こい!」

「───凄く楽しそうじゃないですか」

 ユメカはどこか懐かしさを覚えながら、闘争心に燃える二人を見詰める。

 いつかの光景がその姿と重なった。

 

 

 ID DATA CONFIRMED

 

 

「勝負だ、タケシ!!」

「昔みたいに泣かせてやるよ!!」

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