ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
フォークを置いて、アンディは少しだけ辺りを見渡した。
「皆、少し聞いてくれるかな」
彼のそんな言葉に、誰もが視線を向ける。
頭の上の包帯。
それを指で二回突いた彼は「そんなに怖い話じゃない、食べながら聞いてくれたまえ」と続けた。
「知っての通り僕はNFTに優勝した」
「自慢しにきたんですの!? この人自慢しにきたんですの!?」
「……アンジェ、落ち着いて」
立ち上がるアンジェリカを車椅子に付いたアームで座らせるリン。そんな彼女を見て不敵に笑うアンディに、周りの空気も軽くなってアンジェリカ以外は笑っている。
アンジェリカは歯軋りをしていた。
「その後、僕の家は火事になって……僕はこの通り病院送り。巷では色んな噂が立ったし……まぁ、僕も参った参った」
両手を上げて首を横に振ったアンディは、そこで少しだけ真剣な表情を見せてこう続ける。
「───それでGBNへのログインが一時期減少したりもしたが、今は元通り。……君の、君達の目的はなんだったんだい? カルミア君」
「……そうねぇ」
鋭い視線がカラオに刺さった。それを見たユメカは、態々自分で車椅子を動かして少し遠くにいたカラオの前に出て手を広げる。
「ユメカちゃん?」
「カルミアさんは私達の仲間です」
「……知ってるよ。だけど、彼は彼等の仲間でもあった筈だ。何か知ってるんじゃないかな?」
アンディの言葉にユメカは俯くしか出来なかった。
セイヤ率いるアンチレッドは、確かにカンダ・カラオ───カルミアの大切な仲間だったのだから。
「良いんだよ、ユメカちゃん。おじさんは今日この話をする為にここに来たんだ。丁度良い」
ありがとう。そう言って立った彼はユメカの車椅子を優しく押した。
「俺の知ってる限りの事を話す。ただ、初めに言っておくが俺はセイヤがどうやってあんたの家に火を付けたのか知らない。……俺は結局、本当にセイヤ達の仲間じゃなかったのかもしれない。それでも良いか?」
「勿論だとも」
「私も気になりますわ」
確認を取ったところで、カルミアは目を細めて一度咳払いをする。
「あれは、GBNのサービスが始まって間もない頃だった。丁度、ユメカちゃんの事故の少し後───」
いつかの事を思い出しながら、彼は静かに語り始めた。
☆ ☆ ☆
未だに彼女の顔を覚えている。
「よ、サトウ。少しは気が晴れたか?」
「あはは、どうでしょう。……まぁ、少しは」
それは彼等がプラモ屋から飛び出してきたユメカを轢いてしまった事故の数ヶ月後の事。
トラックの運転手だったサトウは、会社に多大な迷惑を掛けた事を気にして精神的に追い込まれていた。
勿論ユメカや彼女の両親、事故の関係者や警察との関わりもある。
それでもその事故は業務中の事故であり、責任を取るのは会社の役割だ。
「お前は運が悪かっただけだ、サトウ」
「社長……」
ガンプラ関連の運送会社───その社長であるセイヤは、それでもサトウに優しく接する。
「ここではセイヤで良い、そうだろ? せっかくサトウも久し振りにログインしたんだ。パーっとなにかクエストでもこなそうじゃない」
二人の間に入ってそう言うカルミア。
気が引けるサトウの手を引っ張って、彼等は近場のNPCに話しかけてクエストを探そうという話になった。
───その日出会った少女こそが、彼の復讐のきっかけになる。
「助けて下さい!」
長くて綺麗な赤い髪。コンソールパネルにNPDと表示されている少女が、NPDらしからぬ表情で三人に声を掛けてきた。
「なんだなんだ?」
「どうしたんだ?」
首を傾げるカルミアの隣で、セイヤは少女に向き直ってそう問い掛ける。
カルミアは初めから気が付いていたが、セイヤは口を開いた後でようやく彼女がNPDである事に気が付いた。
RPGでよくいうNPCと同じような物で、要するに誰かが操作している訳ではなくコンピュータが操作しているキャラクターという事である。
GBNにおけるNPDは、ミッションの受付だったり案内人やシャップの店員等の為に様々な容姿で用意されていた。
彼女もそんなNPDの一人なのだろう。こうやってゲリラ的にミッションを持ち掛けてくるイベントもある。
その内ミッション内容がコンソールパネルに映るものだと、カルミアは彼女から視線を離した。
「私の村が大きなロボットに襲われてるんです!」
ただ、彼女の言い分はどこか妙である。
「ロボット?」
「MSの事でしょ」
同じく首を傾げるサトウに、カルミアは目を細めて顎に手を当てた。それにしたって、なんだか様子が変に見える。
「とにかく言ってみるか。困ってるようだしな」
「困ってるってセイヤ、そのこは───」
「分かってる。だけど、ほっとけないだろ?」
カルミアの言葉をそう遮ったセイヤは、少女に「案内してくれ。俺達がなんとかする」と答えた。
「あ、ありがとう! こっち!」
セイヤの言葉を聞いた少女は、焦った様子で彼の手を引く。
主にミッションの受付やお店が並ぶエリアから少し離れて、少女に着いていった先にあったのは小さな村を模した観光エリアだった。
GBNにはこういったエリアも多い。
仮想世界を旅する目的でGBNをプレイする人々もいる事から、戦闘禁止の観光エリアは珍しくないのである。
ただ、そこは何処かおかしかった。
「観光エリアのオブジェクトが壊れてる?」
前提として観光エリアは戦闘禁止エリアである。
しかし、少女に案内されたその場所は観光エリアであるにも関わらず───戦闘の痕跡と共に半壊していたのだ。
「あ、あのロボット!」
突然少女が声と一緒に指先を上げる。
「───お、なんだ。まだNPDの生き残りが居たのか」
「───こいつも踏み潰してやろうぜ。ハッハッハッ!」
二機のMS。ジムIIIとジム・クゥエルのカスタム機体が、そのエリアで手持ちの武器の銃口から煙を吹かせていた。
「戦闘禁止エリアでMSだぁ!? なんのバグよそれ」
「この村をこんな風にしたのはお前達か!」
驚くカルミアの隣で、セイヤはジム二機を睨み付けながら声を上げる。
赤い髪の少女は少し怯えた表情でお互いを見比べていた。
「なんだダイバーかよ。そうさ、その通り。俺達がこのエリアを無茶苦茶にした犯人だ」
「どうやって……いや、どうしてこんな事を」
「単純な事だ。この世界がつまらないから、壊してやろうと思ったんだよ! お前達も餌食にしてやるぜ!!」
そう言ったジムIIIのパイロットはセイヤ達四人にジムライフルの銃口を向ける。咄嗟にコンソールパネルを開いたカルミアは、自分のガンプラ───レッドウルフを呼び出して搭乗した。
「なんだあんたら、俺達とやろうっての?」
全身武器庫。ドーベンウルフのカスタム機であるカルミアの機体がミサイルの砲門を開いてライフルの銃口をジムIIIに向ける。
「カルミア、ミサイルはダメだ!」
「え、な……なんでよ?」
しかし、カルミアの攻撃はセイヤの声に阻まれた。セイヤは周りを見渡しながら「ここはこの子の村なんだぞ」と、少女の肩を抱いて自分もコンソールパネルを開く。
「大丈夫だ、俺達が何とかしてやる。乗れ!」
そうしてセイヤは自らの機体を呼び出して、少女を連れて機体に乗り込んだ。
ZZガンダム。
そのカスタム機である彼の機体のメインカメラが赤く光る。
「GBNには観光を楽しむ人達も居るんだ。ここにはNPDだって居た筈なのに、お前達はなんて事をした!!」
「あなた……」
少女の隣で怒りを露わにするセイヤ。ジム二機のパイロットは、そんなセイヤを嘲笑いながらライフルを彼の機体に向けた。
「観光なんてつまらねぇ、これはガンダムのゲームだ。戦争のゲームだぜ!」
「NPDなんて知った事かよ! コンピュータなんて別に死んでもまた復活するだろ!」
放たれるジムライフル。ビームの熱は、村の家を簡単に吹き飛ばす。
それを見た少女は目を見開いて悲鳴を上げた。本当に彼女はNPDなのだろうか。だけど、そんな事は関係ない。
「───お前達が悪い人間だって事だけは分かった」
ハイパービームサーベルを抜き、ジム・クゥエルに接近するセイヤ。対するジム・クゥエルも、ビームサーベルを抜いて応戦しようとする。
「ロボットが爆発したら、村が……」
「分かってる。だからコックピットだけをやる!!」
ZZガンダムのハイパービームサーベルはジム・クゥエルのサーベルとは出力が桁違いだ。接近戦で負ける理由もない。
───しかし、ジム・クゥエルのビームサーベルは突然出力を上げてZZガンダムのハイパービームサーベルを弾き返す。
「何!?」
驚いたセイヤの視線の先では、ジム・クゥエルが禍々しい黒いオーラを放ちながらビームサーベルを振り上げていた。
EXAMでもHADESでもない。そのオーラは、ジム・クゥエルとジムIIIどころかエリア一帯を覆い尽くしていく。
「ははーん、なるほど。不正ツールだな、これ」
状況を見てカルミアは察した。
戦闘禁止エリアでの戦闘、そして本来であればありえないガンプラの強化。
なんらかの不正ツールでシステムに干渉しなければこんな真似は出来ない。
「それがどうした!!」
カルミアのレッドウルフに襲い掛かるジムIII。両腕でサーベルを構えるも、レッドウルフの両腕は斬り飛ばされてしまう。
出力が違い過ぎるのだ。
しかし、カルミアは不敵に笑う。
「やれ! サトウ!!」
「隠し腕だと!?」
切り飛ばされた腕の中と、股関節から隠し腕を展開したレッドウルフはジムIIIを四本の腕で捕まえた。
そして、遅れて機体を呼び出したサトウのヤクトドーガがビームサーベルでジムIIIのコックピットを貫く。
「この野───何!?」
それを見て怒りを露わにするジム・クゥエルのパイロットだが、突然背後から何かに掴まれて機体が動かなくなった。
「切り飛ばされた腕が丁度そっちにいったもんでな」
ジム・クゥエルを捕まえたのは、レッドウルフのビームハンドである。
動きの止まったジム・クゥエルに、セイヤのハイパービームサーベルが向けられた。
「この……!?」
「GBNは色んな人が楽しむ場所だ。それを否定する奴は、ここに居る権利はない! 消えろ!!」
「クソがぁぁあああ!!」
コックピットを貫くハイパービームサーベル。
二機のジムが撃墜されて消失するが、半壊した村が元に戻ったりミッションクリアとアナウンスがなる事もない。
やはり、これはミッションでもなんでもなかったようである。しかし、現に戦闘禁止エリアでの戦闘があり、彼等に助けを求めた少女が消える訳でもなかった。
「ど、どうなってるんですかね……これ」
「分からん。とりあえず運営に報告って感じで良いんじゃないの?」
首を傾げるサトウとカルミア。
そんな二人の視線の先では、少女が一人泣き崩れている。
「私の村が……」
「大丈夫か?」
セイヤはそんな少女に寄り添って、肩を揺すった。
この世界を不思議に思う。
NPDだと分かっているのに、少女からは温もりを感じたのだ。
「私、もう帰る場所が……」
「どーするよ、シャッチョサン」
そんな二人をみかねて、カルミアは頭を掻きながらセイヤに声を掛ける。彼は少し考えて、こう口を開いた。
「ひとまず、俺達のフォースネストに来るか?」
「ふぉーすねすと……?」
セイヤの言葉に首を傾げる少女。カルミアは「それ大丈夫なのか……?」と表情を引き攣らせる。
フォースネストとは、各フォースが所有出来る基地のような物だ。
土地や規模もそれぞれで、マイハウスのような意味合いも強い。
そんな彼等のホームに、このバグの塊のような物を関わらせて良いのだろうか。カルミアとサトウは首を傾げる。
「困ってるんだ、助けてやらなきゃな。NPDだとしても、俺達の大好きなGBNの仲間だ」
「……ま、それもそうね」
元々セイヤは面倒見が良い人間だった。事故を起こしたサトウを元気付けていたのもそうだし、会社の仲間にも普段から優しい。
彼は少女に手を伸ばして、こう口を開く。
「俺はセイヤ。フォース『ザ・レッド』のリーダーだ。君の名前は?」
「……レイア、です」
それが彼女───レイアとの出会いだった。