ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
アンジェリカは号泣していた。
「うぇぇぇええええん!!! あんまりですわ!!! GBNの運営、許すまじですわよ!!! うぇぇええええ!!!」
「……アンジェ、落ち着いて」
カルミアからセイヤの復讐の意図を聞いて号泣するアンジェリカを宥めるリン。
彼女程ではないにしろ、その話を聞いた者は同様に同情の表情を隠さないでいる。───たった一人を除いて。
「───私、正直な所殆ど意味が分からなくて理解出来てないからかもしれませんが」
そう言いながら立ち上がるヒメカ。
彼女にとってはGBNもELダイバーもレイアやセイヤの事もよく分からない事だ。
でもだからこそ、言える事がある。
「確かにそのセイヤという人は、同情するに値する人だと思います。……だけど、だからといってお姉ちゃんや関係ない人を傷付けて良い訳じゃない。その人がやってるのは意味のない八つ当たりです」
「ちょ、ヒメカ───」
「いんや、ヒメカちゃんの言う通りだよ」
遠慮のない言葉選びに彼女を止めようとするユメカだったが、それをカルミアは制してヒメカの言葉を肯定した。
彼女の言っている通り、セイヤのやっている事は殆ど八つ当たりのようなものだということはカルミアだって分かっている。自分自身がそうだったのだから。
「セイヤ───いや、俺達の目的はGBNから人を遠ざけてGBNのサービスそのものを出来なくする事だった。それがレイアを奪われた俺達の復讐だ。……初めは曖昧だったそんな目的が、今じゃ人が集まり過ぎてもっと大きくなっちまった」
「どういう事ですか?」
「レイアの事だけじゃない。他にもガンプラやGBNに恨みを持つ奴が集まって、しまいにはガンダムっていう作品コンテンツへの復讐に切り替わっちまったって事よ」
ナオコの質問にそう答えるカルミア。
その中で集まった仲間の一人が、アオトだという事だった。
「次第にあの組織は俺の知らない所まで広がってた。……こんなの後出しの言い訳に過ぎないが、おじさんは君らと関わってそれが間違ってると気付けた訳よ」
そこからの事は分からない、と彼は続ける。
アンドウのダイバーギアや火事の件も、カルミアは知らなかった。
ただ間違いなく言える事は、今のセイヤはそういう事もするという事だけである。
「……兄さん」
その話を聞いて一番ショックを受けたのは当然ナオコだった。
関係ない人を苦しめたあのフォースアンチレッドのリーダーが自分の兄だった事。
そしてその過去と、今の彼にどう向き合えば良いのか分からなくなる。
「俺達がする事は変わらない」
沈黙を破ったのはケイスケのそんな言葉だった。
「カルミアさんのおかげで雲を掴むような話だった雲が形になってきたと思う。元々俺達の目的は、アオトとニャムさんのお兄さんを探す事だっただろ?」
「そりゃ、そうだな」
ケイスケの言葉に賛同するタケシ。
彼のいう通り。
初めから彼等の目的は二人を探し出す事である。
アンチレッドの目的なんて関係ない。
探していた大切な人が、すぐそこにいるのだ。
「確かにヒメカちゃんのいう通り、ニャムさんのお兄さんは褒められたような人じゃない。だけど、セイヤさんだって俺達と同じで大切な人がいただけなんだ。……だったら、俺達の目的は変わらない。二人を探して、話をする。それで良いだろ?」
「そう、だね。そうだよ、ケー君」
アオトを連れ戻す。ニャムの兄を見付ける。
彼らに取ってはただそれだけの事なのだ。これまでと何も変わらない。
「ま、そうですわね。私も彼にはガツンと言いたいだけですわ」
「僕も、慰謝料請求したいだけだしね。あとは、本気のバトルがしたいかな」
アンジェリカとアンドウも口を揃える。
大きな陰謀に立ち向かうとか、悪を打ち倒すとか、そういう話ではないのだ。
「俺達はただ、大切な何かをかけて喧嘩する。それだけだ」
言いたい事を言ってやれば良い。
「……皆、セイヤを助けてくれ」
「私からも、お願いします」
カルミアとナオコはセイヤを、ケイスケとタケシとユメカはアオトを取り戻す。ただそれだけの話だ。
☆ ☆ ☆
食事を終え、各自お土産を買ってからアンドウ達と別れて少し。
ナオコが取ったホテルに戻る為に駐車場に集まる面々だが、ケイスケがトイレに向かったので彼を待ってるのだが───トイレにしては少し長い。
「ケー君大丈夫かな? 私見てくる」
「いやお前が行くなよ俺が行く」
男子トイレに向かおうとするユメカを止めて、タケシは気怠そうな表情で建物の中に向かう。トイレしかない場所だからか、人気はない。
確か入って直ぐ右のトイレに───と、タケシが視線を上げたその時だった。
「───どうしてだよアオト!!」
そんなケイスケの声が聞こえる。
「アオトだぁ!?」
ありえない声に驚きつつも、タケシは早足に声のする場所へ向かった。そこでは───
「……俺はセイヤさんに着いていくって決めたんだ。お前達の所には戻らない」
───肩を掴むケイスケの手を払う、幼馴染みのアオトの姿が視界に映る。
五年間。
短くない時間だ。それなりに姿も雰囲気も違う。
だけどそれは、間違いなくアオトだった。
「アオト……なのか」
「……タケシか」
いつもなら「ロックだ」と、そんな言葉が漏れている。
だけど、タケシはただ震える手を伸ばす事しか出来なかった。
「お前……ケイスケやユメカがどんな気持ちで───」
「うるさいな」
「はぁ!?」
タケシの言葉を一蹴するアオトに、彼は眉間に皺を寄せて「テメェ」と怒りを漏らす。
そのままタケシはケイスケを跳ね除ける勢いでアオトに掴みかかった。
「ふざけてんのも大概にしろよ!! 誰のせいでユメカがあんな事になっちまったと思って───」
「おいやめろタケシ!!」
言ってからタケシも、余計な事を言ったとアオトから視線を晒す。
「……そうだよ、俺のせいだ」
「いや、その……違う。そういう意味じゃねぇよ」
タケシだって、誰も悪くないなんて事は分かったいた。それはケイスケも同じだろう。
だけど、ユメカかが一番辛かった時に居なくなったアオトと、そんな中で何も出来なかった自分が───タケシは許せなかったのだ。
「なんで居なくなっちまったんだよ。……俺は、俺はユメカに何も出来なかった。お前が居たら、なんてのは言い訳だけどさ。あの時一番辛かったのはお前じゃなくてユメカだったろ!! 俺達が逃げてどうすんだよ!! 俺はな、もう逃げないって決めたんだ。だからお前も───」
「何も分かってない奴がゴタゴタとうるさいって言ってるんだよ!!」
アオトはそう言ってタケシを突き飛ばす。
「あ、アオト……?」
タケシもケイスケも彼のそんな行動に黙り込むしかなかった。
あの優しかったアオトが、どうして。
「俺は、お前達の事も親父の事もガンプラの事も……ユメカの事だって嫌いなんだよ!!」
「アオト……」
彼の言葉にケイスケは絶句する。
信じられなかった。信じたくなかった。
「だから俺はGBNを壊す。……もう俺に関わるな」
「ま、待て! アオト!」
そうとだけ言ってアオトはその場を立ち去る。二人はそんな彼を追いかける事が出来ない。
拒絶された事に、何も言い返せなかった。
アオトに会って、話しさえすれば、元の生活が戻ってくる。
そう信じていた二人にとって、アオトの言葉は強く心に突き刺さったのだ。
「……ケイスケ、なんでアオトがここに?」
「トイレに行こうとしたら、そこにいて。それで話し掛けたんだ。戻って来いって。お父さんも心配してるし、もう皆立ち直ったから。後はお前だけだって」
しかし、アオトの返事は───
「……分かった。ユメカ達が心配してる。帰ろうぜ」
立ち上がってそう言うタケシに、ケイスケは無言で頷く。
「この事はユメカには……」
「言える訳ねーだろ。……何が、ユメカの事だって嫌いだよ。ふざけんなよあの野郎」
強く拳を握るタケシ。ケイスケも思う事はあったが、未だにアオトの言葉が信じられなかった。
だってそうだろう。
アオトは優しくて、ガンプラが好きで、皆の事も好きで、ユメカの事が大好きだった筈なのだから。
「……俺、どうしたら良いんだろうな」
「……さぁ、な」
駐車場に戻る二人の足取りは錘を付けたように重かった。
「───アオト、なのか? やっと……やっと会えたな」
「ケイスケ……」
「戻って来いアオト。お前のお父さんから話は開いてるだろ? ユメカもガンプラバトルを始めたんだ。なんならアイツ、今日俺に勝ったんだぞ」
「俺は戻らない」
「は? なんで……」
「言っただろ、ケイスケ。……俺が恨んでるのは、お前だってな。GBNが父さんやユメカから何もかも奪った、お前が俺から、何もかも奪った。俺はお前とはいかない」
───どうしてだよ、アオト。
俺達はただ、あの頃に戻りたいだけなのに。
話数が増え過ぎた為章管理である程度まとめてみました。章タイトルは適当です。