ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
あまりにも悪い目付きに睨まれる。
「「か、可愛いぃぃ」」
「なんて愛くるしいんですの!?」
「……こっちおいで」
しかし、女子陣はそろってその目付きの悪い
「あれ、可愛い? おじさんにはヤクザの顔に見えるんだけど」
「女は分からん」
首を傾げるカルミアに、メガネを曇らせるトウドウ。
アンドウ達と別れホテルに辿り着いたReBondとメフィストフェレスの一行は、預けていたナオコのペットを迎えてチェックインの真っ最中である。
「ヤザンさんの面倒見てもらってすみません。チェックインが済んだので、女子部屋と男子部屋がもう使えますよ」
「名前がヤザンだよ」
「名前からヤクザだよ」
半目のレフトとライトを尻目に猫を愛でる女子達。
そんな盛り上がりの側で、ケイスケとタケシだけが静かなのがサキヤは気になっていた。
「お前ら、トイレで何かあったのか?」
男子部屋に集まって、荷物を下ろしてからサキヤは二人に話し掛ける。
そんな彼の言葉に、カラオや他の男性陣も二人に視線を向けた。
「これは、ユメカには言わないで欲しいんだけど───」
ケイスケはアオトに会った事をサキヤ達に話す。話を聞いたサキヤは、頭を抱えて「そうか」と漏らした。
「……アオト君の事は俺も知ってる。ただ、店長さんにも話した通りセイヤが個人的に話し掛けて引き入れたって事以外俺は何も知らないのよ。悪いね」
「どうしてその人はケイスケ君の事を恨んでるのかな?」
「どうしてその人はケイスケ君の言葉に耳を傾けてくれないのかな?」
俺はお前を恨んでいる。彼はそう言っていた。
ユメカがこんな事になった原因に自分も入ってる事は分かっている。だけど、それはアオトも同じ筈だ。
誰も悪くないし、誰もが悪い。だけど、アオトはケイスケが許せないらしい。
「……分からない」
「分からないから聞き出せば良い。答えないなら、殴り合うまでだ」
そんな言葉を漏らしたのは、意外にもトウドウである。冷静沈着という言葉が似合う彼からは想像も出来ない言葉に、彼の仲間である三人も驚きを隠せない。
「な、殴り合うって」
「勿論、ガンプラでな」
トウドウは傾いた眼鏡を直しながらそう続けた。
「彼がまがいなりにもGBNにログインするダイバーなら、同じくダイバーとしてGBNという土俵で戦う事が出来るだろう」
「同じダイバーとして」
彼の言う通り。アオトの目的はともかく、彼はGBNをプレイしている。
ならば殴り合って、語り合う事だって可能だ。
「……俺はリンが、スズが痛めつけられている時に何も出来なかった。勿論、俺が奴と同じ土俵に立っていたら何かが出来たとは言えない。……だがな、見ているだけで何も出来なかったなんて事ほど悔しいものはないぞ」
「トウドウ……」
手を握りしめるサキヤ。レフトやライトも、あの時手の届く位置に彼女が居たのに救う事は出来なかったのが悔しかったのだろう。
だけど彼は、何かをする事すら出来なかったのだから。
「アオトと殴り合う、か。……ありがとう、トウドウさん」
「俺は言いたい事を言っただけだ」
そっぽを向く彼を見て、笑顔を見せるサキヤ。仲間の意外な一面を見れて、なんだか嬉しかった。
「悔しい、か。……あのセイヤって奴も、同じ気持ちだったのかもな」
ふと、カラオから聞いた話を思い出してタケシがそう呟く。
大切だった仲間の命を奪われるなんて、自分には想像も出来ない。アオトはまだ取り返せる所にいるが、彼の場合は───
「それも、殴り合うしかないんだろうな」
サキヤはトウドウを横目で見ながらそう呟いた。トウドウは彼を睨んで溜息を吐く。
「辛気臭い話はこのくらいにして、おじさんちょっと提案があるんだけど」
そんな話の流れを断ち切るように、カラオは自分のカバンを漁りながらそう言った。
不敵に笑う彼は「せっかくのオフ会。このままむさ苦しい野郎共で辛気臭い話だけして終わるのはもったいないでしょ。せっかく女の子もいるのよ?」と部屋の扉に手を掛ける。
「まさか恒例イベント、覗きか! おっさん、その歳で高校生みたいな発想を───」
「ガンダム名言カルタ買ってきたから女子共も誘ってやろうじゃないの!!」
「小学生のノリかよ!!」
タケシのツッコミにカラオは「皆で集まるなら絶対やりたいと思ってたのよね!」と目を輝かせた。タケシの言う通り完全に小学生のノリである。
「なんか、おじさんは色々話したらスッキリした訳よ。今は遊びたい気分───グハッ」
「ガンダム名言カルタを買ってきたので皆さんでやりますわよぉぉ!!」
言いかけたカラオを扉を開いて突然吹っ飛ばしたのは、カルミアの手の中にある物と同じ物を持ったアンジェリカだった。
完全に同じノリである。
「……あら、失礼あそばせ」
「……痛い」
「あはは、全く同じ考えの人が居たようですね」
カルミアを吹っ飛ばした事に気が付いて口を押さえるアンジェリカと、苦笑いしながら飼い猫のヤザンを抱えて部屋に入ってくるナオコ。
その他女子陣も寝巻きに着替えて次々に男子部屋に集まってきた。
「まだまだオフ会は終わってませんわよ!」
「けど、ユメカやヒメカはガンダム名言カルタなんて難しいんじゃないか?」
ケイスケの言う通りで、ユメカはともかくヒメカが知っているガンダム作品といえばUCくらいのものである。
それも一同見ただけで、ハンデはとても大きい。
「私、百人一首は得意です」
「いやそういう事じゃなくね?」
「それでも楽しめるように、今回はチーム戦にした上で罰ゲームもありという事にしました」
タケシのツッコミを他所に、ナオコはそう言って大きな机の上にカルタを並べ始めた。
ルールとチームは───
「ガンダム名言カルタ。初代から鉄血まで、ありとあらゆるガンダム作品の名言が綴られたとても素晴らしいカルタっすよ! あ、読み上げはジブンがやるっす! むしろやらして下さい!」
少々興奮気味にGBNでの顔が出ているナオコのルール説明でゲームはスタートする。
「待って待って、チームでやるんだよね? 人が足りなくない?」
「待って待って、チームでやるならメンバーが偶数じゃないと」
しかし、レフトとライトの言う通り。
今ここに居るメンバーはReBondの五人とヒメカ、そしてメフィストフェレスの六人の合わせて十二人だ。
そこでナオコが抜けてしまうと、どう分けてもチーム人数に差が出来てしまう。
そこでヒメカ達のハンデにするつもりなのかとも思われたが、ナオコの回答はこうだった。
「え? ヤザンさんが居るじゃないっすか」
「なんで猫もカウントされてんの?」
そんな訳でチーム分け。
「今回は仲間だな」
「頑張ろうね、ケー君!」
ケイスケ、ユメカチーム。
「行きますわよ!」
「俺様に任せな」
アンジェリカ、タケシチーム。
「えーと、君は右か左かどっち」
「左だよ!」
カラオ、レフトチーム。
「……負けない」
「頑張ろー!」
リン、ライトチーム。
「足を引っ張るなよ」
「こちらの台詞だな」
サキヤ、トウドウチーム。
「うん」
「……ニャンゴ」
ヒメカ、ヤザンチーム。
「いやそりゃねーだろ!?」
すかさずツッコミを入れるタケシを他所に、ナオコはカルタを読む準備をし始める。
「そうですわ! 私もヤザンさんとチームが良かったですわよ」
「いやそっち!?」
違う、そうじゃない。
机の上に並べられたカルタは、台詞の頭文字と共に名シーンのイラストが描かれている物だ。
ガンダムが好きな彼らにとって、そうでない少女一人と猫一匹なんて敵にもならないだろう。これではヒメカが楽しめない。
「だから、私は百人一首得意なので。……お兄さん達こそ、私に勝つつもりでいるんですか?」
「煽るの!? ここに来てどこからその自信が湧いてくるんだお前。良いぜ、そこまで言うならコテンパンにしてやるよ!!」
大人気ないタケシの発言に続くように、ナオコは「それじゃ始めるっすよ!」と高いテンションで声を上げた。
シャッフルした読み上げカードを手に、彼女は一度咳払いしてから手に取った台詞を読んでいく。
「あれは呪いじゃなくて、祈りだ───」
「はい」
感情を込めて台詞を読むナオコの目の前で、机を叩く音が弾けた。風を切るような音と共にその手を挙げたのは、ヒメカである。
「「「えぇぇえええ!?」」」
「ジブンもうちょっと喋りたかったっすよ!?」
「……だから言ったじゃないですか。私、百人一首は得意だって」
得意げな表情でカルタを自分の手元に置くヒメカ。これは負けていられないと、大人気ない年上達は真剣に机の上のカルタに視線を移した。
ナオコも、感心した様子で台詞を選ぶ。
「次! お前もその仲間に入れてや───」
「ニャーン!」
「は?」
次にカルタを弾いたのは、猫のヤザンだった。
「なんで!?」
「ヤザンの台詞だからか!?」
しかも、ちゃんと猫のヤザンが弾いたカルタはナオコが読み上げた台詞のカルタであっている。
これでヒメカとヤザンチームが二ポイント先取。続く台詞も、カミーユ・ビダンの台詞だったがヤザンが勝ち取り三ポイント。
「ヤザンさんはジブンのネコっすからね。このくらい当然っすよ」
「ヤザンさん凄いね」
「ゴロニャ」
笑顔でヤザンの顔を撫でるヒメカ。タケシ達は口を揃えて「そんなバカな……」と固まってしまった。
「あ、言い忘れてましたけど一位以外のチームは罰ゲーム用意してあるので頑張って下さいっすね」
「それを初めに言おうよ!?」
「……おじさん本気出しちゃおっと」
もうこの時点で手加減や大人気ないなんて言葉は誰の頭の中からも消え去る。
このゲーム勝つのみ。闘志に燃える瞳が机の上に集中した。
そこからは白熱。
ガンダムを殆ど知らない女の子とネコに負ける訳にはいかないと、他のチームも本気でカルタに取り組み始める。
熱が入り、名シーン名場面を思い出して泣いたり語ったり。そんな楽しい時間が流れたのであった。
「勝者、ヒメカちゃんとヤザンさんチームっす!」
序盤のリードもあってか、優勝はこの二人に決まる。
しかし、誰が勝ってもおかしくない接戦で、ヒメカもいつのまにか汗をかくほど熱中していた。
「勝ったー! やったよヤザンさん! やったー!」
珍しく年相応にはしゃぐ彼女を見て、ユメカやケイスケ達は罰ゲームの事も忘れて微笑む。
着いてくると言った時はどうしようかとも思ったが、ヒメカも楽しんでくれた事がなによりも嬉しかった。
「……っ、べ、別に嬉しくなんかないです」
微笑む年上達に気が付いてそっぽを向くヒメカ。そんな彼女に、ヤザンは横目を向けながら「ゴロニャァ」と欠伸をする。
「ヒメカ、今日は楽しかった?」
「お姉ちゃん……」
姉のそんな質問に、ヒメカは恥ずかしくなって顔を赤く染めた。
初めから楽しむ気なんてなくて、ただ姉が心配だっただけなのに。
ガンプラも、ガンダムも全然知らないのに、誰かと何かをするという事だけでも彼女にとっては楽しい体験だったのだろう。
「お、顔面トランザム───ぐへぁっ!?」
「楽しかったよ。ありがとう、お姉ちゃん達」
口を滑らせたタケシに金的を喰らわせながら、ヒメカはアンジェリカ達に向き直ってお辞儀をした。
「こちらこそ、楽しんで頂けてよかったです」
「ヒメカちゃん凄いんですのよ。バトルロイヤルではあの砂漠の犬の大将に一矢報いかけたんですから」
皆がヒメカを囲んで今日の感想を話し始める。今日は楽しかった、それは何があっても全員同じ意見だった。
「あ、ドベのカルミア氏とライト君は罰ゲームでこのコスプレ来て近くのコンビニにお菓子とジュース買ってきて下さいっす!」
「ルナマリアとメイリン!? 普通にキツくない!?」
「待って! おじさんと組んで負けたのレフトだから! 僕じゃないから!!」
盛り上がるオフ会の夜。どこからそんな用意をしてきたのか、結局罰ゲームと言いながら勝ったはずのヒメカもコスプレ大会に参加する事になる。
そうして騒がしいまま、その日の夜が過ぎるのであった。
悲しいけどこれ戦争なのよね。
読了感謝です。