ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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GPD

 火花が散る。

 ぶつかり合うガンプラの端で、少年達はマシンを挟んでお互いの視線を強く感じていた。

 

 

「今日は勝つぞ」

「いや、勝つのは俺だ!」

 まだ幼い少年達だが、闘争心は充分に漏れている。

 そんな二人を見ながら、プラモ屋の店主は笑顔を漏らした。

 

 

「今日も楽しそうですね」

 少女がそう言うと、店主も「そうだね」と笑う。

 

 

「なぁ、父さん。ユメカ」

 そんな二人に話しかけたのは、店主の息子───アオトだった。

 

 

「どっちが勝つと思う?」

 彼の問い掛けに、店主は「タケシ君かな」と答えユメカは「ケー君!」と答える。

 アオトは二人の答えを満足気に聞いて、自分の答えを呟いた。

 

「二人とも凄いやる気だし、今日は引き分けになるかもな!」

 火花が散る。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 黒い機体が地面を踏んだ。

 

 

 機体の前面をシールドに覆われたその機体は、姿勢を落として巨大なライフルを構える。

 背中に一つ付いたGNドライブから放たれる緑色の粒子だけが静かに靡いた。

 

 

「あのガンプラ、昔タケシ君が使ってた奴ですよね?」

 その姿に見覚えがあったユメカは、店主にそう問い掛ける。

 

 五年前の記憶だからか確かではないが、ここでこうして三人のバトルを見ていた時にタケシが同じガンプラを使っていた気がしたのだ。

 

 

「そうだね。デュナメスガンダムを改造した機体だよ。名前はデュナメスHell」

 控えめ気味にそう解説する店主の言葉を聞いて、ユメカは首を横に傾ける。

 

 デュナメスというと一般的には天使の名前だ。

 天使なのにHell(地獄)とは、彼らしいかもと彼女は少し笑う。

 確かにその見た目は真っ黒で、天使と言うよりは死神(・・)に近いかもしれない。

 

 

「ロックリバー、目標を狙い撃つ!!」

 大型のライフルを構えたタケシのデュナメスHellは接近してくる機体に銃口を向けた。

 反対側のマシンから発進したストライクBondは二つのGNドライブから緑色の粒子を漏らしながら前進している。

 

 マシンの上で動くガンプラを見て、四人は同じ気持ちを抱いていた。

 五年前までここでこうして遊んでいた記憶が蘇る。其々ガンプラを持ち寄って、そのガンプラが目の前で動いてバトルをするんだ。

 

 

 懐かしい。誰かがそんな言葉を漏らす。

 

 

 

「当たれ!!」

 引き金が引かれ、銃口からビームライフルが発射された。まだ充分に離れた距離に居るのにも関わらず、ライフルはストライクの足元を通り抜ける。

 

「あんなに遠くから攻撃できるんですね」

 リアルのガンプラが戦っている為距離感は難しいが、タケシの攻撃はマシンの端からほぼ端まで届いていた。

 ガンプラのサイズが実際の1/144である事を考えると、1メートル先は実際には144メートル先という事になる。

 

 

「デュナメスガンダムはね、狙撃をメインに……開発された機体なんだよ」

「確かに、武器がスナイパーライフルみたいですね!」

 恐る恐る説明を入れる店主に対して、ユメカは納得したような顔でマシンに視線を向けた。

 店主が視線を落とすと、彼女が座る車椅子が目に入る。どうしても、胸が痛い。

 

 

「接近する!」

 対するケイスケはのストライクは、地面を蹴って少しずつデュナメスに接近していった。

 何度かの狙撃は全て外れている。狙いが悪い。

 

「やっぱり狙撃は下手くそだな!」

「んだと、この野郎!!」

 ほぼ回避行動を取らずに接近に成功したストライクはバックパックから一対の剣を構えた。

 対するデュナメスは機体前面のシールドをストライクに向けたまま、シールドの隙間からライフルを握る。

 

 

「───っ、熱くなるな俺。俺様はロックリバー。クールで格好い男……」

 瞳を閉じて自己暗示のように言葉を漏らすタケシ。いつからだったか、彼が自分の事をロックリバーと名乗り出したのは。

 

 

「……狙い撃つ!」

 首を横に振って、しかし再びの射撃は至近距離に詰められて外れてしまった。

 懐に潜り込んだストライクがデュナメスに剣を横から叩き付ける。火花が散った。

 

「流石にGNフルシールドは硬いな……っ!」

 デュナメスの肩から前方を覆うシールドは並大抵の武器では傷もつけられない。

 接近専用の武器でも大きなダメージは与えられなかったが、しかしシールドには傷が刻まれる。

 

 それを見てタケシは少し表情を痙攣らせた。

 GPDで受けた傷はそのままガンプラに反映される。そんな当たり前の事を思い出した。

 

 

「この……っ!」

 デュナメスは地面を蹴ってストライクから距離を取りながらライフルを放つ。この距離なら外す事もない。

 しかし、ストライクの周りを緑色の粒子が覆っていた。GNフィールドが、ストライクを攻撃から守る。

 

「確かに正面は硬いけど……背後なら!!」

 そのままスラスターを吹かせ、ストライクはデュナメスに接近した。

 牽制のライフルを交わして、そのままデュナメスの背後に回り込む。

 

「そこだ!」

「ちぃ……っ!」

 しかしタケシは、デュナメスの体を捻って正面をストライクに向けた。

 デュナメスの前面を守るGNフルシールドが実剣を受け止める。それでも流石に無理な体制で攻撃を受け止めたからか、機体が揺れた。

 

 それを見てケイスケはスラスターを吹かせ、ストライクの足を前に出す。

 そのまま、バランスを崩したデュナメスを蹴り飛ばした。

 

 

「なろぉ……っ!」

 デュナメスは背中で地面を滑る。

 追撃に頭部バルカンイーゲルシュテルンを放つストライクを見て、タケシは焦って機体を持ち上げた。

 

 GNフルシールドがバルカンを弾く。

 

 

 

「どうしてシールドを外さないんだ?」

 間合いをはかりながら、ケイスケはタケシにそう問い掛けた。

 

「戦い方を忘れた訳じゃないだろ?」

「……っ」

 ケイスケの言葉にタケシは舌打ちをして、手を強く握る。

 

 

 GNフルシールドは確かに強力な装甲だが、前面を覆ってしまう為に使用中は動きが大きく制限されてしまう武装だ。

 それに加えて彼のガンプラは───

 

 

「───うるせぇ! このままでも勝てるから良いんだよ!!」

 ライフルを構え、撃つ。ストライクは斜め前に進んでデュナメスに肉薄しながらそれを交わした。

 

「忘れたなら思い出させてやる!」

 そうして剣を振るストライク。GNフルシールドと刃が火花を散らす。

 

 

「お前はもっと強かった。もっと楽しそうにガンプラバトルをしてた!」

 連撃。

 一対の剣を連続でGNフルシールドに叩き付け、シールドごとデュナメスを切り飛ばした。

 

 

「思い出せ!! タケシ!!」

 倒れたデュナメスに刃を向ける。

 

 

 ───しかし、振り下ろされた刃は横にしたライフルに受け止められた。

 

 

 

「───忘れられる訳……ねーだろ!!」

 そのままライフルを横に薙ぎ払い、ストライクを弾き飛ばす。

 直ぐに機体を持ち上げて、バランスを崩したストライクに突進したデュナメスはその足でストライクを蹴り飛ばした。

 

 拉たライフルを地面に叩き付ける。

 

 

「でもな、怖いんだよ。また壊れるのが。楽しい時間が何処かで壊れちまうのが、怖いんだ。だったらいっそ、壊れる物なんて持っていたくない。ガンプラも、それで遊ぶ友達も!」

 だから、ロックリバーが産まれた。

 

 クールで居よう。

 そうすればきっと、また何かが壊れる心配なんてない。

 

 

「タケシ君……」

「店長さん。私、正直ここに来るのが怖かったんです」

 そんな二人を見て、自分の責任に胸を痛める店主にユメカがそう語り掛けた。そして彼女は戦う二人を見ながらこう続ける。

 

「私の軽率な行動のせいで、アオト君や店長さんから大切な物を奪っちゃって。……もうそれは、戻ってこない───治らない物だと思ってたから」

 自分の足を触りながら、そんな言葉を漏らすユメカを見て店主は苦虫を噛んだような顔を彼女から逸らした。

 そもそもの原因は自分なのに、まだ高校一年生の子供にこんな事を言わせる自分が憎い。

 

 

「でも、そんな事なかったんです」

 ただ、続く彼女の言葉に店主は顔を持ち上げる。どういう意味なんだと、目を見開いた。

 

 

 

 

「───壊れても直せば良いんだ」

 そんな言葉をケイスケが口にする。

 

 タケシも店主も、その言葉に聞き覚えがあった。既視感が、いつかの光景を蘇らせる。

 

 

「何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い。だから───」

 それは、少年時代アオトがよく口にしていた言葉だった。

 

 ──何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い。だから──

 

 

「───遊ぼうぜ、全力で!!」

 ストライクを赤い粒子が包み込んで、機体を紅蓮に染める。

 蓄積された高濃度GN粒子の全面開放。作中ではこう呼ばれているシステムだ。

 

 

「トランザム!!」

 TRANS-AM

 

 

 各部に蓄積されたGN粒子の解放により、機体の出力を約三倍に引き上げ、性能を一時的に向上させる。文字通りの切り札だ。

 

 

「ケイスケ……」

 目の前の友人と、過去に同じ事を言っていた別の友人が重なる。

 

 

 

 壊れたって直せば良い。

 そう言っていた友人との関係が壊れた事で、前に進むのが怖くなっていた。

 

 でもそれじゃ、前には進めない。

 壊れたって直せば良い。それを実行するのはいつも彼と彼の父親だったから、自分だってその役目を果たせる事を忘れていたのだろう。

 

 

 それをケイスケは思い出させてくれた。

 

 

「……そうか、そうだよな。俺達はいつも、そうやって遊んでた」

 目を閉じるといつかの光景が蘇る。

 

 

 ───そうだ、俺達はいつだって。

 

 

「───やってやるよ。……トランザム!!」

 TRANS-AM

 

 デュナメスを赤い光が包み込んだ。肉薄するストライクに向けて、シールドを正面に文字通り突進する。

 一対の剣とシールドがぶつかり合って火花を散らした。二人の機体はそのままお互いを押し合って、一歩も引かずに機体同士をぶつける。

 

 

 

「絶対に直せないなんて事ないんです。確かに、直らないものも……取り戻せない時間もあるかもしれない」

 そんな光景を見ながら、ユメカは店主にそう語り掛けた。店主はそんな彼女と目の前の二人を見て、目を見開いて固まる。

 

 

「ユメカちゃん……」

「だけど、直せるものはある。それは、店長さんが一番知ってますよね?」

 これまで彼は何度もガンプラを直してきた。子供も大人もこぞってGPDで壊れたガンプラを彼に託せば、殆どが元通りになったのである。

 

 

「でも……直せないものもあるんだ」

 店主はそう言ってユメカの足を見た。彼女の足が動く事はもうない。

 直らないものも、取り返しのつかないものもある。

 

 

「ガンプラと同じですよ」

 俯く店主を見上げて、ユメカはそう答えた。

 店主は意味が分からなくて「え?」と間抜けな声を漏らす。

 

 

「直せないガンプラだって、新しく別のプラモデルを買って改造したりして強くするんですよね? ガンプラバトルって。……私の足も、新しくGBNって場所に行けば動くんです! 直せなくても、別の何かでなんとか出来たりするものなんです!」

 拳を胸の前で強く握りしめて、彼女はそう言った。

 

 

「失った時間だって、これから補強すれば良い。私達は……前に進めるから」

 そんな彼女の言葉に、店主は言葉にならない声を漏らして膝から崩れ落ちる。

 

 どうしてそんな事に気が付かなかったんだ。

 何度も何度もガンプラを直して来たのに。それ以外に全く目が行かずに立ち止まっていた自分が情けない。

 

 

「やるなケイスケ!」

「そろそろ本気を出してこいよ、タケシ……っ!」

「バカ言え。このロックリバー様に掛かればお前なんて足だけで充分だぜ!!」

 赤い光を放つ二機のガンプラを挟んで、少年達はいつかのように笑顔で遊んでいる。

 その姿を見て店主は立ち上がり、何か決意めいた表情でGPDのマシンを見詰めた。

 

 

 やがて、トランザムの限界時間が終わると共に二人の機体はぶつかり合ってお互いに倒れて動かなくなる。

 二機共に損傷が激しく戦闘継続は不可能だった。勿論、ガンプラにも現実に傷が付いている。

 

 

 

 BATTLE END

 

 結果は引き分け。

 二人は息をするのを忘れていたのか、深呼吸をしながらその場に倒れ込んだ。

 

 

「ケー君! タケシ君! だ、大丈夫?」

 驚いたユメカは車椅子を押してケイスケの元に駆け寄る。

 しかし二人は満面の笑みで親指を立ててこう言った。

 

 

「「……楽しいな、ガンプラバトルは」」

 二人の言葉が重なって、驚いていたユメカも笑い声が漏れる。ケイスケもタケシもそれに混じって笑い声が店に広がった。

 

 まるで五年前のように。

 

 

「……お疲れ様、二人とも」

 店主はGPDの電源を落としながらそう言う。

 そうして少しだけ寂しそうな表情をしてから、彼はこう続けた。

 

 

「ありがとう、GPDのマシンを最後に使ってくれて」

 そんな彼の言葉にケイスケとタケシは驚いて「え?」と声を漏らす。

 最後とはどういう意味なのか。二人には彼の言葉の意味が分からなかった。

 

 

「……俺も、前に進もうと思えたよ。GPDにとらわれていた過去から、前に」

 そう言ってから彼はマシンの元電源にまで手を触れて、それを切ってからこう続ける。

 

「この店にもGBNのマシンを置く。……から、もし良かったら、うちからもログインして欲しいな」

 子供達が前に進んでいるのに、自分だけが止まっているなんて事は出来なかった。

 

 

 確かに息子達から沢山の物を奪った罪は消えないだろう。だからといって、自分が立ち止まっていたら息子が前に進める訳がない。

 

 

「おじさん……」

「店長さん……」

 彼の言葉を聞いて、ケイスケとユメカは目を合わせて笑顔を見せた。

 タケシは少し驚いた顔で固まっていたが、突然二人の幼馴染みに詰め寄られて表情を痙攣らせる。

 

 

「な、なんだよお前ら……っ!」

「タケシ君、GBNやろ!」

「お前ともっと、ガンプラバトルがしたい」

 二人の勢いに店の壁際まで追い詰められるタケシ。店主に助けを乞うように視線を向けるが、彼もまた久し振りの清々しい笑顔を見せているだけだった。

 

 

「……あぁぁぁ、もう分かったっての!! やれば良いんだろ!! やれば!! 畜生め!!」

 ついに折れたタケシを囲んで、ケイスケとユメカは姿勢を合わせてハイタッチをする。

 凄く負けた気分になったが、目の前の幼馴染み達があまりに幸せそうに笑うものだからなんとも言えない気持ちだ。

 

 ただ、ひとつだけ思い出した事がある。

 

 

 

 

 

 ───ガンプラバトルは楽しいという事を。




今年最後の更新になります!キリのいい所で終わらせれた!
リライズアニメも一旦区切りでとても楽しみです……っ!
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