ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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これから

 朝日が登るのを見詰める少年の頬に、冷たい缶コーヒーが当てられた。

 

 

「寝てないんですか?」

 綺麗な黒い髪を風に靡かせながら、寝衣姿のナオコがケイスケの顔を覗き込む。

 

「いや、寝れなくて」

「お手洗いの時に何があったんです?」

「どうしてそれを……?」

「やっぱり何かあったんですね」

 してやったり。そんな事を言いそうな声で視線を逸らすナオコに、ケイスケは「かまかけか……」と頭を抱えた。

 

 

「……アオトに会ったんですよ」

「なんと」

 正直に答えたケイスケの言葉に、ナオコは驚いた表情で口を開けたり閉じたりする。

 彼女が聞きたかった事が分かったので、ケイスケは「お兄さんは居ませんでした」と短く続けた。

 

「……失礼。何かお話をしたんですか?」

「戻って来いって。……断られちゃいましたけど」

「これは自分語りで申し訳ないのですけど」

 ケイスケの返事を聞いたナオコは風に靡く黒髪を耳の後ろに流しながら、何処か遠くを見るように登ってくる太陽に視線を向ける。

 

「私も兄にはずっと無視されてます。連絡先を変えたのかどうか知りませんが、結局行方も分からないまま気が付いたらこんな事になってました。……セイラ・マスの気持ちってこんな感じだったんですかね?」

 ふふ、と笑うナオコに「笑う所ですか?」と表情を引き攣らせるケイスケ。

 

 

「場を和ませようかと」

「ニャムさんはその喋り方でもニャムさんですね」

 釣られて笑うケイスケは、すっかりした表情でこう続けた。

 

 

「結局俺達はガンプラビルダーで、ダイバーだから。GBNで決着を付けるしかない。……アオト達が何を考えてるのか、何を企んでるのか分からないけど。俺達にはガンプラを作る事とガンプラでバトルする事しか出来ないんだって、昨日男達で話してたんですよね」

「なるほど、確かにそうですね」

 ナオコはベランダに肘をついて、綺麗な顔に似合わない頬杖で不貞腐れるように溜息を吐く。

 

 

「……それで、アオト君に会ったのはユメちゃんに話したんですか?」

「……それは」

「ユメちゃんはキミが思っているより、強い女の子ですよ」

 そんなナオコの言葉に、ケイスケは昨日のバトルの事を思い出した。

 

 サラと自分と戦った彼女は本当に強かったし、聞く話によればあのスズとも一人で互角に渡り合ったという。

 彼女のいう通り、ユメカは自分が守ってあげなければいけない存在───なんて事はないのかもしれない。

 

 

「なんでもそうだけど、相手の強さなんて自分が思ってるのとは違うものよ」

 二人の会話を聞いていたのか、まだ眠そうなカラオが欠伸をしながらそう言って二人の間に入ってくる。

 

「二人だけで話すなんて狡いじゃない。おじさんも入れてよ。何々恋バナ?」

「どうしたら今のが恋バナになるんですか。聞いてたんですよね?」

 小さな声でツッコミを入れるケイスケの頭を叩きながら「ごめんごめん。冗談よ」と笑うカラオ。

 

 そんな彼は、ふとたまにする真剣な表情を見せて口を開いた。

 

 

「俺はセイヤの弱さに気が付かなかった。仲間失格だ。……そもそも、おじさんは自分の弱さにすら気が付かなかったんだけどね」

「……。……これから、どうしますか?」

 カラオの言葉から少し間を開けて、ナオコは俯きながらそう呟く。

 

 

 自分の兄が悪い事をしていた。今だって、GBNへの復讐を果たそうとしている。

 

 自分がするべき事はなんだろうか。これから自分達は何をするべきなのか。

 

 

「遊びましょう」

 そう言ったのは、部屋の中でベッドから起き上がろうと自分の身体を起こすユメカだった。

 

「ユメカ!? 起こしちゃったか?」

 ケイスケは直ぐに彼女の元に駆け寄って、その身体を起こすのを手伝う。

 自分だけで無理して座ろうとした彼女は少し辛そうだったが、上半身を起こすと近くに置いてあったプラモデルを持ち上げて大切そうに胸に抱いた。

 

 

「大丈夫、昨日楽しくてぐっすり寝れたから」

 笑顔でそう言ったユメカは、ケイスケの手を借りて車椅子に座る。

 そうしてからは自分で車椅子を動かしてベランダまで進んだ。しかし、車椅子ではベランダに出る事は出来ない。

 

 

「……今の私は、ここまでしか来れない。だけど、昨日また沢山の人と関わって、色んな人と色んな気持ちがぶつかって、分かったんだ。私はね、ガンプラが好き。ガンダムが好き。まだ全然ガンダムの事知らないけど、ガンダムと関わってる皆が好き。セイヤさんの事やアオト君の事だって」

 車輪を強く握る。どうやっても、その車輪はベランダには入らない。

 

「私、前に進みたい。もっとガンダムを知って、ガンプラを知って、GBNを知って、次セイヤさんやアオト君に会った時に何か出来るように!」

 今は届かなくても。

 

 

 だから彼女はこう言った。

 

 

 GBNを楽しもう。

 

 

「───そうだな」

 ケイスケはそう言って、彼女を背負った。

 

「俺達がユメカを連れて行く。……だから、一緒に行こう」

 そうして四人でベランダに集まって朝焼けを眺める。ゆっくりと頷くユメカを横目に、ケイスケは一度眼を閉じた。

 

 

「……アオトに会ったんだ」

「……そっか」

 小さく頷く。

 

 話すつもりはなかった。だけど、彼女は強い女の子だと知っている。

 

 

「戻って来いって言ったらさ、断られた。GBNも、俺の事も憎いって」

「……そっか」

 背負われたまま、ユメカは頷き続けた。

 

 

 今はそれしか出来ない。

 

 

 だけど、前に進むと決めたのだから、今は聞き続ける。

 

 

「俺はアイツと戦わなきゃな。……その時はユメカ、俺に力を貸して───いや、俺と一緒に戦ってくれ」

「うん」

 強く頷いた。

 

 

「アイツら、このまま何もしないなんて事はない筈だ。だけど、おじさんにも今後の事は分からない」

「私達はこれからの為に、前に進むしかないという訳ですね」

 カラオとナオコはそう言ってユメカの手を握る。

 

 一緒に頑張ろうと、円陣を組んでいるようだった。

 

 

「俺様を除け者にして何してんだお前らぁぁあああ!!!」

 そんなタケシの声で皆が起きてしまって、騒がしい日々が戻ってくるような気がする。

 

 

 これからの日々を進む為の日差しが登った気がした。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 滝のような涙を流して、アンジェリカは崩れ落ちる。

 

 

「嫌ですわぁぁあああ!! ヤザンさん、もっと私と一緒に!! そ、そうですわ!! ナオコさん、私の屋敷に住むなんてどうです!? ねぇ!! ヤザンさんと別れたくないんですのぉぉおおお!!」

 果てしない我儘をいう主を引き攣った表情で引きずるトウドウ。そんな彼の横で、ヒメカとユメカも名残惜しそうな表情をしていた。

 

「あはは、また来ますから。……飛行機の時間なので私が一番に解散とは辛いですけど、GBNでまた会えますし」

「ヤザンさぁぁぁああああん!!!」

「やかましい」

 昼過ぎ。

 

 早めの昼食だけを全員で済ませて、ナオコは飛行機で帰ることに。GBNで会えるとはいえ、丸一日一緒にいた友人と別れるというのは寂しいものである。

 

「ゴロニャ」

 猫の事は置いておいて。

 

 

「……っ、ニャムさん!」

 唐突に身体を持ち上げたユメカは、真剣な表情でナオコの目を真っ直ぐに見た。

 

「どうしました? ユメちゃん」

 そんな視線に、彼女は姿勢を落として同じ目線で答える。

 

 

「あの……えっと、その。ナオコさんって。今度からリアルではそう呼びます!」

「それでは、私はユメカちゃんと呼びせてもらいますね」

「それと!」

 グイグイくるユメカに驚いて目を見開くナオコ。本当に、彼女からどこか決意めいた感情を感じ始めていた。

 

 

「来週の週末、私とバトルしてください!」

「なんと」

 唐突な提案に驚くナオコ。

 

 これからもGBNを皆でプレイする。そんな漠然とした目標に、何かを付け足した彼女の言葉は不明瞭だった道を明るく照らす光のようだった。

 

 

「ユメカかも俺も、試したい事が沢山あって」

「なるほど。勿論、受けてたちますよ。この先も私は───ジブンはReBondの仲間っすから」

 そう言って手を振りながらその場を後にするナオコ。

 

 

 楽しかったオフ会も終わりだが、得た物も時間も何一つ無駄な物はなかっただろう。アオトに出会った事だって、きっと何か意味がある筈だ。

 

 

「さて、俺達も行くか」

「そうですわね。私達はまたいつでも会えますけど、とりあえずはお別れですわ」

「次会う時は敵か味方か。……また決着を付ける時があるかもしれない」

 サキヤ達も、ReBondの面々と向き合ってそう口にする。

 

 GBNの新しい仲間。新しい好敵手。こうして繋がって行く関係が、ユメカは好きだった。

 

 

「また遊ぼ!」

「またね!」

「……次は負けない」

 鋭い視線を向けてくるリンに、ユメカは拳を向けて「次こそ勝つよ」と答える。

 

 

「それでは一旦、ごきげんあそばせですわ!」

 そうして彼等のオフ会は幕を閉じた。

 

 

 沢山の大切な時間と、成長と未来を手に。

 

 

 

 

「……ケイスケ。タケシ、ユメカ。俺は───」

 再び、物語が動き出す。

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