ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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ユメの刃

 建物の影に隠れる機体が二機。

 

 

「どうして止めたんだよ」

 唇を尖らせてそっぽを向くロックに、ニャムは小さく溜息を吐きながら頭を掻いた。

 

「もうケイ殿のストライクBondはロック氏の知ってるストライクBondではないんすよ?」

「そんなもん分かってるっての。ありゃ凄い砲撃だったが、あんなもんそう何発も連続で撃てるもんじゃないだろ? だから直ぐにでも叩こうと───」

「そうっすね。だから、エクリプスには別の武装も用意されてるっす。……覚えてないっすか?」

 ニャムの言葉に、ロックはふと彼女が仲間に加わった直前の事を思い出す。

 

 

 ミッションの最中、突如加勢に来た彼女が乗っていたのはエクストリームガンダム。

 その進化の能力で極限進化した射撃形態───エクリプスは、カルネージ・ストライカーの他にもミサイルの雨を降らせる大型ミサイルコンテナ『空間制圧兵装エクリプス・クラスター』を使って敵を一網打尽にしていた。

 

 

「……あの時アレを使われてたら」

「近付く前に良くて蜂の巣、悪くてミンチっすね」

 表情を引き攣らせるロック。理解してもらえたのならそれで満足のニャムは「頼むっすよ、リーダー」と話を切り上げる。

 

 第一ウェーブはこちらの完全敗北。

 こちらが見えたのは相手の手の内だけだが、そもそも相手からすればこちらの機体は半分割れているのでハンデあり。

 それを言い訳にする訳ではないが、初見殺しされなかった時点で敗北に見えて得たものは大きい。

 

 

「さて、相手の手の内が分かったので今度はどう仕掛けるか。……質問ですがロック氏、ユメちゃんに接近戦で負けるなんて事あります?」

「は? 俺はそもそも狙撃手だけど」

「寝言は寝て言えタケシ」

「ニャムさん!?」

「で、どうなんすか?」

 彼女の言葉に少しだけ間を置くロック。正直ユメの戦闘能力は未知数だ。

 バトルロイヤルではあのメフィストフェレスの狙撃手を追い詰め、ケイ達を倒して優勝してしまっているのだから。

 

 しかし───

 

 

「どう考えても俺が接近戦でユメに負ける事はねぇよ」

 ───負ける気はしない。

 

 

「それじゃ、作戦を説明するっすよ」

 悪巧みに口角を吊り上げるニャムの姿がモニターに映る。味方にするとやはり心強いが、今はこの人が敵じゃなくて本当に良かったと安堵するロックだった。

 

 

 

 ミサイルの雨が降り注ぐ。

 空間制圧兵装エクリプス・クラスター。その名の通り辺り一帯を吹き飛ばす程の無数のミサイルを積んだコンテナを射出する武装だ。

 対するニャムも、ミサイルコンテナからありったけのGNミサイルを射出。更に変形してからトランザムで出力を上げ、GNビームサブマシンガンを乱射してミサイルの雨を一掃する。

 

 

「次こそ!」

 しかし、変形して足を止めたニャムに接近するユメのデルタグラスパー。翼を損傷したキュリオスでは、トランザムしていようと彼女の機体に対して機動力の面で不利だ。

 

 そしてダブルオーストライカーを装備したユメには奥の手(トランザム)もある。

 

 

「やらせるかよ!」

「うわ!?」

 しかし、ニャムに接近するユメの機体をGNスナイパーライフルが掠めた。

 当たりはしなかったが、注意を引くのには充分。その間にニャムは再び変形し一気にケイのストライクBondに接近する。

 

「ケー君!」

「お前の相手は俺だぜユメ!! 選手交代ってなぁ!!」

 抜かれたニャムに気を取られている間に接近してきたロックのデュナメスHell。

 

 ビームサイズを展開したロックは片腕でそれを振り下ろし、反射的に変形して構えられた盾ごとユメの機体を地面に叩き落とした。

 

 

「さーて、やろうぜユメ」

「タケシ君……」

 GNソードIIIを展開。

 

 デュナメスHellとデルタグラスパーが得物を構えて向き合う。

 これまで頼もしいと思っていた幼馴染みの姿が、こんなにも大きく映ったのは初めてだ。

 

 手の震えが止まらない。だけど、それは武者振るいだとユメは深呼吸する。

 

 

「私は、タケシ君に勝つ!」

「やってみやがれ!!」

 二人は同時にスラスターを履かせて、刃が重なり合った。

 

 

 

「接近すればエクリプスに脅威はないっすよ!!」

「それはどうかな!」

 接近に成功したニャムのキュリオスがビームサーベルを振り下ろす。ケイはストライクBondの腰からビームサーベルを抜いてその光の刃を弾いた。

 

「そういや、初めて戦った時もそのギミックにしてやられたっすよね!!」

 思えば彼女と戦うのもこれで何度目だろうか。

 

 殆ど同じガンプラは使わず、ニャムは状況に応じて選んでくる素組のガンプラの性能を余す事なく発揮する。

 そんな彼女のエクストリームガンダムを見て、ケイは自分に無いものがなんなのかずっと考えていた。

 

 

「俺は、俺のガンプラを信じる!!」

 カルネージ・ストライカーを展開するケイ。しかし、いかに強力な砲撃といえど至近距離では当てる事すら難しい。

 

「この距離でそれは悪手っすよ!!」

 サーベルを構え肉薄するキュリオス。懐に入り込んだニャムは、ビームサーベルをストライクBondのコックピットに突き刺す。

 

 

「今回はジブンの勝───」

「勝った!!」

「───な!?」

 サーベルに突き刺された瞬間、同時に発射されたカルネージ・ストライカーと()()()()()()()()()()。そして、空いている左手でケイはニャムの機体を抱き抱えるように捕まえた。

 

 発射されたエクリプスクラスターは、真上に向かってからミサイルを雨のように降り下ろす。

 

 

「自爆覚悟!? ユメちゃんを残して!?」

 逃げる事は出来なかった。ケイに捕まったまま、ミサイルの雨に巻き込まれるニャム。

 

 

 ケイ、ニャム、撃破。

 

 

 

 戦いはユメとロックに託される。

 

 

 

「───熱源反応!?」

 ケイが放ったカルネージ・ストライカーは、刃を交える二人を捉えていた。

 

 ユメにとっては作戦内の事だったので、彼女は変形して射線から直ぐに逃れる。

 しかしロックは一瞬だけ反応が遅れ、回避するのには奥の手を使わざるを得なかった。

 

 

「んなろ、トランザム!!」

 TRANS-AM

 

 GN粒子圧縮開放。爆発的な機動力を手に入れたロックのデュナメスHellはカルネージ・ストライカーを避けてユメを追い掛ける。

 モニターを確認したロックはケイとニャムが撃破されている事を確認した。そうなれば、あとは自分がユメを倒せば勝利である。

 

 

 このトランザムで決めればいい。

 

 

「───使った、トランザム。三分七秒……!」

 ロックがトランザムを使ったのを確認したユメは、手元のモニターに映るタイマーを凝視しながらロックから離れるように機体のスラスターを吹かした。

 それを追い掛けるロックのデュナメスHell。いくら可変機といえど、トランザムを使ったデュナメスはその機動力を大きく上回る。

 

 

「三秒、四秒、まだ───」

 ユメのデルタグラスパーに追い付くデュナメスHell。ビームサイズを振り上げる姿に冷や汗を流しながら、ユメはギリギリまで歯を食いしばった。

 

 

「───五秒、今!!」

 そうして彼女の機体が赤い光に包み込まれる。

 

 

「何!?」

「トランザム!!」

 TRANSーAM

 

 振り下ろされるビームサイズ。しかし、トランザムにより急加速したユメの機体はその斬撃を避けて機体を変形させた。

 

 そしてGNソードIIIを展開。急制動を掛けてロックのデュナメスHellに襲い掛かる。

 

 

「逃げるんじゃなかったのかぁ?」

「私は戦うよ!」

 火花を散らす刃。お互いにトランザムを使用し、赤い粒子を散らせながらぶつかり合う姿は白熱した物だった。

 

 

「三十秒、三十一秒───」

 上昇。無茶苦茶に振り回しているように見えて的確に急所を捉えようと振り回されるビームサイズをなんとか防ぎ切る事しか出来ないユメ。

 しまいにはGNソードIIIだけではなく、左手でビームサーベルを持ってしてもロックの近距離戦闘技術は片腕だけでユメを圧倒するのに充分な実力を誇っている。

 

「どうしたユメ、そんなもんか!」

「……っ、まだ!!」

 弾かれるGNソードIII。ユメは機体を変形させ急降下、そうして出来た高度を使って真下からビームサーベルを投擲した。

 

「甘いんだよ!」

 それを蹴り飛ばしてユメを追い掛けるロック。再び刃が重なり合うが、GNソードIIIはついにロックのビームサイズに切り飛ばされて爆散する。

 GNソードIIIを手放したユメは、爆煙に紛れて再び急上昇。変形を駆使した三次元的戦闘はロックを巻く事こそ出来ないが一方的になぶられる事だけは防いでいた。

 

 

「ちょこまかと、いつまでも耐えられると思うなよ!」

 しかし、それでも彼はユメを追い詰めていく。GNソードIIを二本切り飛ばし、ユメに残された接近武装はビームサーベル一本だけになってしまった。

 

 

「───二分四十八秒!」

 それでもユメは諦めない。この戦闘が始まる前の、ケイとの会話を思い出す。

 

 

 

「三分七秒?」

「そう。それが、タケシのデュナメスHellがトランザムを使っていられる時間だ」

 一度ロックとニャムが撤退した直後、ケイとユメは次の作戦を模索していた。

 あのニャムの事である。今度はケイのストライクBondを変形を駆使して倒しに来る筈だ。そして、ロックはユメを狙うだろう。

 

「それに対して俺のダブルオーストライカーのトランザム限界時間は三分八秒。そんなに差はないけど、一秒だけこっちの方が長い。……だからユメ、お前がトランザムでタケシを倒してくれ」

「私が、タケシ君を……」

 ユメはこれまでの彼の戦いを思い出した。

 

 狙撃は本当に下手だが、いざ接近戦になれば彼が負ける所を殆ど見たことがない。

 そんな彼を、接近戦闘特化のダブルオーストライカーを装備して倒す。本当に自分にそんな事が出来るのだろうか。

 

 

「ぶっちゃけ、真面目に接近戦をしたら俺だって勝てない。だけど、これはチーム戦で、別にこっちは真面目にやる必要はないんだ」

「どういう事?」

「ロックに先にトランザムを使わせる。その後、ユメは出来るだけ時間を稼いでからトランザムを使え。そうすれば───」

「───稼いだ時間とプラス一秒、私の方が長くトランザムの状態でいられる」

「そういう事だ」

 どんなに上手いプレイヤーでも、トランザムを終えて著しく性能の低下した機体でトランザム中の機体を捌く事は難しい。それならば、ユメにだってロックを倒すチャンスはある。

 

 

 

「───三分三秒、三分四秒、三分五秒!」

「おらぁ!! 貰ったぜぇ!!」

 弾き飛ばされるユメのデルタグラスパー。ビームサイズを構えて振り下ろすロックのデュナメスHell。

 

「三分六秒───」

 その時、デュナメスを包み込んでいた赤い光が飛び散るように薄れていった。

 

 

 ユメはロックがトランザムをしてから五秒後にトランザムを使っている。元々の性能でプラス一秒。

 今から六秒間、彼女の機体はロックの機体よりも強い。

 

 

「うぁぁあああ!!」

 GN粒子圧縮開放。崩れた姿勢を無理矢理にでも立て直し、上空からビームサイズを振り下ろすデュナメスHellよりも早くビームサーベルを振る。

 

 

 

 光の刃が前方を切り裂いた。

 

 

 

「───え?」

 しかし、視界から一瞬でデュナメスHellが消える。

 確かに捉えたと思っていた。どんな手を使っても、トランザムでも使っていない限り、今のは避けれない筈である。

 

 そう、トランザムを使()()()()()()()()

 

 

「まさ───」

「おせぇ」

 気が付いた時には、赤く光る粒子を纏いながらロックのデュナメスHellがビームサイズを振り上げていた。

 

 真っ二つに切り裂かれるユメのデルタグラスパー。同時に、デュナメスHellを包み込む赤い粒子が散っていく。

 

 

 ユメ、撃破。

 

 

 

 敗因は一秒だった。

 

「ワンセカンドトランザムか、えげつな」

「でも、ロック氏は本気でユメちゃんと戦ったっす。凄いっすよ、彼女は」

 ロックは自分の機体のトランザム限界時間、三分七秒よりも一秒早く───三分六秒で一度トランザムを終了させていたのである。

 そしてユメの反撃の瞬間。一秒だけ残されたトランザムを使い、ユメの背後を取った。

 

 勝利を確信したユメへのカウンターとしては、一秒だけで充分である。

 

 

 

「惜しかったなユメ。だがな、考えて戦ってるのはお前達だけじゃないんだよ! ハッハッハッハッ!」

……負けた

「ん?」

「うぅぅぅ!! 負けたぁぁぁ、うわぁぁぁん」

 ユメは泣いた。

 

「えぇぇえええ!?」

「ロッ君が泣かしたぁ」

「ロック氏……正直ドン引きっす」

「俺が悪い!? 俺が悪いの!?」

 慌てるロックを見て、泣きながら笑うユメ。そんな彼女にケイは手を差し出して「惜しかったな」と笑い掛ける。

 

 

「悔しいね、戦って負けるのって」

「そうだろ?」

「うん。凄い、悔しい」

 ただ、その表情は暗いものではなくて。

 

 

「タケシ君!」

「あ? な、なんだ?」

「次こそ勝つ!」

「……ハッ、かかってこいよ」

 前を見ながら涙を流す、清々しい表情だった。

 

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