ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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この世界の命

「───ELダイバーだ」

 少女。メイの言葉に、五人は一斉に視線を彼女に向ける。

 

 

 ELダイバー。

 GBNがガンプラをスキャンする際の余剰データが生み出した電子生命体。人々の想いの力が形になった命だ。

 

 

「だから、ジブンのガンプラと話しているような感じだったんすね」

「そうかもしれない。……私達ELダイバーの事はどれくらい知っている?」

 メイの質問に、五人は首を横に振りながら揃って「あまり」と口にする。

 

 サラと出会った事はあるが、それだけで彼女達の事を理解出来る程簡単な存在でもない。

 

 

「そうか。なら、一つだけ知っておいて欲しい事がある」

 真剣な表情で、メイはこう続けた。

 

 

「私達ELダイバーは、このGBNの中で生まれた。この世界が私達の世界であって、人々が現実(リアル)と呼んでいる世界は私達にとって現実ではない」

 ELダイバー達にとってこのGBNこそが生まれた世界であり、現実である。

 

 この世界で生きている者。

 その点において、ELダイバーとダイバー達とで決定的に違う事が一つだけあった。

 

 

「今は保護され、人々が現実と呼ぶ世界で過ごす事が出来る者もいる。……しかし、そうでない者にとってこの世界は未だに現実だ。この世界でダメージを貰い、HPが0になる事は───我々とダイバーでは違う意味を持つ」

「それって……」

「保護されていないELダイバーが、この世界で死んだら───」

「───そういう事だ」

 ロックの言おうとした事を、メイは肯定する。

 

 

 この世界で生まれた命。

 この世界がゲームであっても、彼等にとっては現実で、彼等にとってこの世界で死ぬという事は、本当の意味で命を絶やすという事にもなるのだ。

 

 

「レイア……」

「私達にとって命の終わりが終わりという訳ではない。ただそれでも、この話を聞いた人々はそれぞれ思う事があると聞く。……私には分からないが」

 そう付け足して、メイは五人に背中を向ける。

 

 彼女が止めていなければ、ロックの攻撃であのELダイバーの少女の命を奪っていたかもしれない。

 そう考えると震えが止まらなかった。

 

 

「後の事は任せてくれて構わない。……これは、私のミッションだ」

「わ、私達にも手伝わせて下さい!」

 ユメの言葉に、メイは「必要ない」とだけ告げてウォドムに乗り込む。

 

 あまりに静かな拒絶に、五人は走り出すウォドムを見届ける事しか出来なかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「───とは、言われたものの」

 メイを見送ったニャムは目を半開きにして空を見上げる。彼女のアバターの特徴的な尻尾はゆらゆらと不規則に振られていた。

 

 

「ニャムさんのガンプラは取られたままだしな」

「このままだとジブンはせっかく持ってきたZに乗らずにログアウトする事になってしまうっすよ」

「それに、今ニャムさんがやる事がないからってGBNをログアウトしたら何が起こるか分からないしね」

 ユメの言葉に、ニャムは「と、言いますと?」と首を横に傾げる。

 

 彼女の問い掛けに、ユメはある日のGBNの出来事を思い出しながら口を開いた。

 

 

「GBNを初めてすぐの頃にね、ケー君と私のスカイグラスパーに乗ってデ───テスト、テスト飛行をしてた時の事なんだけど」

「ふむふむ」

「夜にログアウトしようって話になった時に、私が先にログアウトしたんだけどね。その時私達はスカイグラスパーでGBNの空を飛んでて」

「なんだか話の展開が読めたっすよ……」

「私がGBNを先にログアウトしたから、スカイグラスパーが消えて───」

「俺は落下して死にました」

 笑い話だが、これはGBNではよくある事である。

 

 

 勿論、これは笑い話だ。

 しかし、今それは笑い話ではすまないかもしれないというのがユメの「何が起こるか分からない」である。

 

 

 

「今自分がログアウトすると、ジブンのガンプラであるZもGBNからログアウトする事になる。その時にさっきの女の子がZで飛行中だった場合───」

「あの子が空から落ちて、死んじゃうかもしれない」

 彼女───ELダイバーはメイの話ではまだ保護されていない。純粋なこの世界の命だ。

 

 そんな彼女がこの世界で死んだ時、メイの言う通りならその命は───

 

 

「冗談じゃないっすよ!?」

「さっきのメイちゃんって子が協力は要らないと言ってるにせよ、おじさん達はおじさん達であの子を探すしかないって訳よ。……ま、おじさんも気になる事あるしね」

「けどよ、戦力になるのはケイとユメだけだぜ。おっさんのガンプラは足が遅過ぎるし。俺のガンプラはリスポーンまで動けない。ニャムさんは言わずもがなってな」

 カルミアの言葉にロックは現状の問題を冷静に言い当てる。

 

 

 GBNではミッションや戦闘外で撃破されたMSはリスポーン時間まで修理という名目で再出撃までに時間がかかる設定だ。

 そして彼のいう通りニャムの機体は奪われ、カルミアの機体は実質戦力外である。

 

 

「ジブン達は聞き込みをして、二人に戦力になってもらうしかなさそうっすね」

「悔しいが、おじさんの機体はロッ君の言う通りなのよな。ニャムちゃんに賛成よ」

 そんなニャムの提案で、五人は二手に分かれてメイとは別にELダイバーの少女の行方を追う事になったのだった。

 

 

 

 時を同じくして、ケイ達が一度戦闘になったエリアの近くの岩場。

 

 そこで、一人の少年がSDのガンプラを崖の下に置いて頭部を眺めている。

 少年はニャムのようなケモミミにフワフワの尻尾が着いた特徴的な姿で、ガンプラも不思議な姿をしており岩しかないこの場所では目立っていた。

 

 

 そこに、一機のMSが降り立つ。

 

 

「……Zガンダム?」

 目の前に突然降ってきた機体に、少年は驚いて素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

「やーやー、どーも!」

 機体から飛び降り、少年に声を掛ける赤い髪の少女。ケイ達やメイが追っているELダイバーの少女は、興味深そうな顔で少年の顔を覗き込む。

 

「キミは飛ばないの?」

「と、突然なんですか? 君は……?」

「ボク? ボクは、ボクだよ。キミは?」

「え? えーと、パルヴィーズ……です」

 ぐいぐい来る少女に、少年───パルヴィーズは苦笑い気味にそう答えた。

 少年は元々人付き合いが得意な方ではない。こんな場所で一人でいたのだって、GBNを一緒に遊ぶ仲間が居ないからである。

 

 

「へー、パルだね! 良い名前だ。ボクも名前欲しいなぁ。あ、このガンプラは? このガンプラはなんていうの? 良いガンプラだね」

「な、名前? え、えぇ……」

 そんな少年の内心も知らずに、少女は顔を押し当てる勢いでパルヴィーズの顔を覗き込んだ。

 

 

「名前は?」

「も、モルジアーナ」

「へー、良い名前だね」

 少女は勢いに押されてそう答えたパルヴィーズと、モルジアーナと呼ばれたガンプラを満足気に見比べる。

 パルヴィーズはそんな少女に困惑するばかりだが、遠くから何やら巨大なMSの足音が聞こえて再び素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

「こ、今度は何!?」

「あちゃー、もう追い付いて来たか。キミ!」

 Zガンダムに乗り込みながら、少女はパルヴィーズに向かって大声でこう続ける。

 

 

「モルジアーナは、キミを乗せて飛びたいと思ってるよ」

「……え、なんで───うわ!?」

 スラスターを吹かしたZガンダム。一気にその場を離脱する機体を見守る事しか出来なかったパルヴィーズは、自分のガンプラに視線を戻した。

 

 

「モルジアーナ……」

 ──モルジアーナは、キミを乗せて飛びたいと思ってるよ──

 少女の言葉が頭の中で木霊する。しかし、少年は胸の前で手を握って俯くばかりだった。

 

 

 数分後。

 今日もダメだ、と。

 GBNからログアウトしようとしたパルヴィーズに向けて、第二の訪問者が訪れる。

 

「───そこの君!」

「───わぁ!?」

 パルヴィーズの背後に、今度はワッパという空飛ぶ乗り物に乗った三人のダイバーが現れた。

 

 

「さっきここにZガンダムが来なかったか?」

「赤い髪の女の子が操縦してたんだけどもね」

「そのガンプラ、ジブンのガンプラで盗難されたガンプラなんすよ!」

 ワッパに乗っていたのはロック、カルミア、ニャムの三人である。操縦しているのはニャムで、話し掛けてからロックはニャムとパルヴィーズを見比べて「情報量の多いアバターが増えた」と目を細めた。

 

 

「え、えーと、Zガンダムならさっき───って、盗難!?」

「はい。それがカクカクジカジカでして」

 ニャムはパルヴィーズに、これまでの経緯を簡単に語る。しかし、パルヴィーズにはその話が俄かに信じられる話ではなかった。

 

 

 だって彼女はモルジアーナの声を───

 

 

「いやしかし、良いガンプラっすね」

 少年のガンプラを横目に、ニャムは固まるパルヴィーズにそう語り掛ける。少女も同じような事を言っていた。

 

 何か、訳があるのかもしれない。

 

 

「Zガンダムなら、西側に飛んで行きました。何かに追われていたような気もしましたけど……」

「彼女っすかねぇ。しかし、我ながらジブンのZガンダムの機動力に感服っすよ。……あ、情報感謝っす」

 パルヴィーズに敬礼したニャムは、ワッパに乗り込んで彼の言った通り西側に向けて進路を取る。

 

 

「こちらカルミア。ケー君、ユメちゃん、目標は西に向かったって情報をゲットよ」

 無線で二人に連絡を入れるカルミア。三人が乗るワッパも、パルヴィーズが刺した方角に向けて出発した。

 

 

 

「……なんだったんだろう」

 一人取り残されたパルヴィーズは、首を傾げて固まる。

 

 モルジアーナと呼ばれたガンプラの瞳は、そんなパルヴィーズを優しく見守っているようだった。




メイに続いてパルも出ました。後は一人ですね?
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