ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
GBN森林地帯。
「結局、GBNへのログインは減ってないですねセイヤさん」
森林地帯を歩きながら、サトウは目を半開きにしてそう言った。
隣を歩くセイヤは返事をせずに、ただ黙々と前に歩いている。
「カンダさんも居なくなっちゃうし、俺達どうなるんですかね……。セイヤさん、そろそろGBNにログインした理由を教えてくれても良いんじゃないですか?」
「……次の計画だ」
「次の計画?」
静かに答えたセイヤに聞き返したサトウは、彼がどこでもない虚空に視線を向けているのを見て怪訝な表情を見せた。
彼等の目的はGBN、ガンプラへの復讐である。
NFTではその為に活動したが、効果は一瞬のものだった。
それからというもの、カンダがいなくなったこともあり彼等の活動頻度は著しく低下している。
GBNへの復讐。その目的を持ちつつも、その手段を思いつくのも容易ではなかった。
そんな中で、彼等の仲間に再び招集がかけられる。
セイヤはある程度進んでから、彼等に向けてこう告げた。
「ELダイバーを探せ」
「ELダイバー?」
セイヤの言葉に、仲間達は首を傾げて立ち止まる。
ELダイバー。
GBNに生まれた電子生命体。彼等が憎む世界の命だ。
そんなものを探してどうするつもりなのか。
「お前達は第二次有志連合戦を知っているか?」
「確か、ELダイバーの存在がGBNでバグを引き起こすから……ELダイバーを殺すとか殺さないとかそんな話でしたっけ?」
リク達ビルドダイバーズとサラを巡る物語。
言葉の通りサラ───彼女達ELダイバーの存在はGBNにとって無害という訳ではなかったのである。
「そうだ、ELダイバーという存在はGBNのサーバーに莫大な負荷をかける。今はELダイバーを外の世界に保護してその負荷を回避しているらしいがな」
「つまり、ELダイバーを保護させなければ?」
「察しがいいな。……俺達はGBNからプレイヤーを恐怖で離れさせようとしたが失敗した。ならもう、GBNを中から壊してやるしかない」
ELダイバーを探し、保護させずにGBNサーバーへの負荷を増大させれば───
「第二次有志連合戦で運営がELダイバーを消そうとしたのは、そうしなければGBNのサーバーがイカれるからだ。……なら、俺達はそれを意図的にもう一度起こす」
ELダイバーの存在によるGBNサーバーへの攻撃。それが彼の目的だった。
そして彼等はこの後、被弾して不時着したZガンダムに乗っていた一人の少女と出会う事になる。
その出会いは───この物語が動くひとつのキッカケになるのだった。
☆ ☆ ☆
マギーの店。
「いらっしゃ〜い! 待っていたわよ、ReBondの皆。それにメイ」
両手を上げ身体をくねらせながら、店に辿り着いたReBondのメンバーを出迎えるマギー。
そんなマギーを見てカルミアは表情を引き攣らせて、ニャムは口を開いて飛び上がる。
「ほ、本物のマギーさんですと」
「あーらぁ、あなたが噂の改造ガンプラキラーの! 初めまして、マギーよ」
「そ、その言い方は辞めて欲しいっす……あはは」
手を伸ばしてくるマギーに、表情を引き攣らせながら握手を返すニャム。
マギーはニャムやカルミアも知っている通り有名人だ。そんなマギーがケイやユメと知り合いだったと聞いて、驚かない訳もない。
「こんな大物といつ知り合ったのよ、えぇ」
「俺がGBNを始めた時に、たまたま声を掛けられて……」
今思えば、GBNを始めてからかなり時間も経ったな───なんて思う。
初めはただ、ユメカを笑顔にしたかっただけだった。
それからタケシも加わって、アオトを取り戻すという目標が出来て。
今はニャムやカルミア、他にもGBNを一緒に楽しむ仲間が沢山いる。もう彼等の生活はGBNなしでは考えられなかった。
「奇妙な縁もあるもんだ」
「あはは、確かに」
「───で、ボクをどうするつもりなんだ!」
店の入り口で話していると、メイが縛って捕まえている状態の
ここに来たのは他でもない、捕まえたELダイバーの彼女をどうするか話す為だ。
「んふふ、悪いようにはしないわよ」
笑顔で少女の顔を覗き込むマギーは「立ち話もなんだから、入って入って」と全員を店の中に招待する。
そして、彼は縛られたまま椅子に座らされた少女を見てキョトンとした表情でこう言った。
「貴方、名前は?」
マギーの言葉に、その場にいた全員が首を傾げる。
誰も彼女の名前を知らないのだ。
ELダイバーである彼女を保護する為に彼女を探していたメイも、彼女の名前は知らない。
当たり前だが、突然フォースネストに現れた彼女の名前をReBondのメンバーが知っている訳もないのである。
「ボクはボクだ! 名前はない! なんか、ボクの事レイとか、レイアとか、イアとか読んでた人いたけど!」
「レイア?」
彼女の言葉にユメは何処かで聞いた事のある名前だと人差し指を唇に当てた。
直ぐに頭をよぎったのは、カルミアに聞いた───セイヤがGBNを憎むようになった理由の一端の話に出てきた一人の少女の名前である。
NPDだった筈の少女。
なんらかのバグで自我の芽生えたその少女は、GBNのサーバーに負荷をかけバグを発生させてしまう為に───消去された。
思えば、いつか見た写真に乗っていた少女も赤い髪と目をしていた事を思い出す。顔はあまり似てないが、フォースネストの場所といいカルミアが因縁を覚えない筈もなかった。
「名前がないのは不便よね。メイ、あなたこの子の名前を決めてあげなさい」
「私が……?」
唖然とするメイに、マギーは「これもお姉ちゃんの仕事よ」と片目を瞑る。
少しだけ考えるような仕草をしたメイは、困ったような表情でこう続けた。
「イア……で、どうだ?」
あまりにも思いつかなかったから最後に聞いた名詞をそのまま口にしただろう、と周りのメンバーは目を細める。
しかし、任したからにはそれを否定する事も出来ない。それに、悪い名前ではないとマギーも首を縦に振った。
「それじゃ、貴方の名前はこれから
「よく分かんないけど良いよ───じゃなくて! ボクをどうするつもりだ!」
その場の流れで返事をした少女───イアだが、思い出したかのように歯軋りをしながら暴れ回る。しかし、縛られているので彼女は特に何も出来なかった。
「私達はあなたを助けたいのよ」
優しい表情でそう言うマギー。彼は、自分が何者かも分かっていないようなイアにGBNという世界の事と彼女達ELダイバーという存在の事を丁寧に説明する。
イアは始め目を細めて「意味がわからない!」と騒いでいたが、マギーの真剣な説明になんとか自分の立場を納得するのだった。
「───つまり、ボクはこの世界に突然生まれた命で。このままこの世界だけにいたら大変な事になると」
「そういうことね。だから、あなたを助けたいの」
「ボクを外の世界で生きていけるようにする……。うむ、難しい」
生まれたばかりのイアにとって、意味が分かっても理解が出来るのとはまたちがう話なのかもしれない。
ELダイバーをこの世界と切り離し、GBNサーバーへの負荷をなくした上で彼等の命も救う。
それはかのビルドダイバーズがELダイバーであるサラを救う為に数パーセントの確率に賭けて辿り着いた答えだった。
今ではその方法も確立していて、ELダイバーの命を救う事は難しい話ではなくなっている。
だがそれは勿論、ELダイバー本人の意思が必要だ。だからこそ、こうしてメイがイアを探し出したように各地でELダイバーの保護が進んでいるのである。
「───だから、今回はユメちゃん達が協力してくれて本当に助かったわ。ありがとね」
片目を詰まってユメ達に礼を言うマギー。
「彼女の命を救う事が出来たのは、貴方達のおかげよ。メイも、よく彼女を見付けてくれたわ」
「なんかよく分からないけどありがとう、で良いのかな?」
「良かったね、イアちゃん」
状況理解が半分半分なイアに、それでも彼女が助かった事を心から喜んでいるユメは笑顔で彼女に話しかけた。
これから彼女はビルドダイバーズや色々な人達によって確立された技術で、この世界から旅立ち現実の世界にその魂を移す事になる。
「とりあえずイアちゃんの事は私が面倒を見る予定だけど、もしReBondの皆が良かったらたまに遊びに来て頂戴。きっとこの子も、なんでもない私達より貴方達と居る方が安心すると思うわ」
そう言って、マギーはイアの魂を現実に移す為の作業に取り掛かった。ReBondのメンバーも、せっかくだからその現場を見学する事にする。
ELダイバーの魂を、この世界と現実に繋ぐ技術。
それは彼等にとってやはり未知の世界で、これから何が起こるのだろうと不思議とGBNなのに鼓動が速くなるのを感じた。
きっとそれは、やはりこのGBNも現実と同じ一つの世界だからなのだろう。
「さぁ、行くわよイアちゃん」
「よく分からないけど分かった!! 本当に良く分からないけど!!」
マギーの案内でコンソールパネルを開くイア。そうして彼女もまた、この世界を旅立ち───
「───あら?」
「ん?」
───外の世界に、現実の世界に向かう筈だった。