ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
ボールを蹴る。
サッカーというには人数も足りないが、玉蹴りというには白熱していた。
「悪いタケシ! 抜かれた!」
「ロックな!! んなろぉ、俺様を抜いてみろ!」
「行くよ、イアちゃん!」
「任せてくれたまえ!」
空色の髪を靡かせながらボールを蹴ってケイを避けるユメ。
その後を追い掛けるのは、赤い髪の少女───ELダイバーのイアである。
「俺の名はロックリバー、クールで格好良い男。俺を抜ける奴なんていねぇ!」
「イアちゃんパス!」
ユメの前に立ち塞がるロック。
しかしユメは、ロックに捕まる前にボールを横に蹴り飛ばした。そのボールのいく先にはイアがいて、彼女は見事にボールを受け取る。
「俺を踏み台にしたぁ!?」
「踏み台にはしてないよ!」
「これをゴールに入れれば良いんだね? 簡単じゃん!」
ボールを蹴り進めながら舌を巻いてそう言うイア。
ゴールの前にはカルミアが立っていて、そうはさせまいと両手を広げた。
「おじさんに任せな!」
「いっけー! イアちゃん!」
「超! エキサイティング!!」
ボールを一度蹴り上げ、自分の身体を捻ってシュートを放つイア。ボールはカルミアを吹き飛ばし、ネットを引き千切る勢いでゴールに叩き付けられる。
カルミアは死んだ。
「おっさーーーん!!!」
「カルミアさんが死んだ……」
唖然である。勿論これはGBNなので、カルミアは後でリスポーンするが───
「あ、あはは……これは冗談で済むから良いっすけどね。……しかし、まさかこんな事になろうとは」
ユメとイアのゴールを守っていたニャムは、苦笑いしながらそんな言葉を落とした。
「ふむ! コレがサッカーか! 面白いな!」
ReBondのメンバーとイアは現在、何故かフォースネストの庭でサッカーをしている。
マギーの元に彼女───イアを連れて行ってから、三日が経っていた。
「カルミアさんが死んじゃってる事は置いといて、私も初めてサッカー出来て楽しかったな。こうやってスポーツするの、
カルミアの死体から目を逸らしてそう言ったユメに、イアは「現実かぁ」と首を傾げる。
彼女はELダイバーだ。
GBNで生まれた電子生命体。
本来ならば、保護されたELダイバーは現実の世界にその魂を移して、ケイ達普通のダイバーの様に現実からGBNにログインする事になる。そして、彼女───イアもそうなる筈だった。
「どうしてイアちゃんだけが他のELダイバーみたいに現実に行けないのか……。それに、ジブンのZは未だにログアウト出来ませんし。謎が多いっすねぇ」
メイと共にイアを保護したReBondのメンバーは、マギーの所で彼女を現実に送ろうとしたが───エラーによりそれは叶わなかったのである。
マギーによれば原因は不明。
さらに、何故かニャムのZガンダムがログアウト状態にならず───ニャムが一度GBNをログアウトしてもZだけはログアウトしなかった。
ニャムが再びZガンダムでログインしようとしても【この機体は既にログインしています】と表示され、二重ログインになり彼女はせっかく作ったZガンダムが使えない状態である。
今は楽しそうにはしゃぐイア達を見ながら、ニャムは「どうなる事やら」と目を細めるのであった。
☆ ☆ ☆
事の発端はReBondのメンバーがマギーの店を訪れた時に遡る。
「───どうしてかしら」
イアを現実世界に迎え入れる為の作業を進めていたマギーは、腕を組んで首を傾げていた。
「トラブルか?」
「既にイアちゃんはGBNにログインしている事になってるのよ。そういうエラーが出るの」
メイの問い掛けにそう答えるマギー。
ELダイバーはその魂を現実に移しても、現実からダイバーとしてGBNにログインする事が出来る。
しかしマギー曰く、イアのステータスはガンプラを使いログインしているということになっているらしいのだ。
勿論、マギーの知る所ではイアを誰かが保護して現実世界に迎え入れたとの報告はない。
そんな彼女のステータスはデタラメで、ダイバーとしてログインしているのにログアウト出来ない───ログアウト先がないELダイバーとしての特徴も見受けられるのである。
「こんな事、これまでなかったのよ? これは、流石に相談するしかないわね」
「結局何だったのさ」
訳も分からず連れてこられ、何も起きなかったと───イアは訝しげな表情でマギーを睨んでいた。
「おかしな事になって来たっすね」
「どうなるんだろう、イアちゃん」
少しだけ不安そうな表情を見せるユメ。第二次有志連合戦の事を知っているという事もあるが、彼女にとってはそれよりも───カルミアに聞いたレイアの話が頭に過ぎる。
場合によってはイアも彼女のように、と嫌な予感が頭を過った。
「大丈夫よ」
そんなユメの頭を撫でるマギー。彼も、彼女達がイアの身を案じている事が分かっているのだろう。
「彼女達ELダイバーを救う為に、色んな人達が手を尽くしているのよ。だからあなた達はなーんにも心配しなくて大丈夫。……だけど、一つだけあなた達にお願いをしたいの」
「お願い……?」
マギーの言葉に胸を撫で下ろすユメ。そして続く彼の言葉に、ユメも含めてReBondのメンバーは首を横に傾けた。
「この子の───イアちゃんの面倒を少しの間だけ見てて欲しいの」
そうして、フォースReBondはELダイバーイアの保護を引き受けたのである。
ニャムのZガンダムがログアウト状態にならない件はこの後に発覚しマギーに報告しているが、こちらも原因は不明のままだ。
「成り行きとはいえ、デカい問題抱えちまったねぇ」
「あ、生き返ってる。……そうっすね。気にし過ぎる事はないのかも知れないっすけど、命が掛かってる問題ですし」
「命、ねぇ」
ニャムの言葉にカルミアは目を細める。脳裏に映るのは、彼女と同じ髪の色の女の子だ。
「……セイヤの───お兄さんの事気にしてる?」
「……どうしてです?」
「ちょっと元気ないなって、思って」
「気にしてないと言ったら嘘になってしまいますね。NFT以来音沙汰もなかった兄さんが突然出て来たんですから。……気にしたってまた兄さんに会える訳じゃないという事は、分かってるんですけど」
視線を落とすニャムを横目で見るカルミアは、少しの間の後に頭を掻いてから彼女の頭の上に手を置く。
そしてその手を揺らしながら、彼はこう口を開いた。
「あの子ら見てみなさいよ」
カルミアの指差す先では、今度はドッチボールをしている四人の姿が映る。
投げられたボールをキャッチし、そのままボールを豪速球でロックに投げ付けるイア。
「タケシぃぃいいい!!」
「タケシくーーーん!!」
するとロックの首が飛んで、彼は死んだ。
「ロックだぁぁあああ!!」
「あっははははは、ボク最強!」
笑い合っている四人は、大切な友達が今居ない事をまるで気にしていないようでもある。
「うわー、こわ」
「わ、笑い事ではない気が……」
「あの子の怪力はともかく、楽しそうでしょケー君達」
「確かに……。そうですね」
「でもあの子らだって、アオト君の事を忘れてる訳じゃない。……アオト君が戻ってきた時の為に、今こうしてGBNを楽しんでるのよ」
「戻ってきた時の為に……」
カルミアの言葉を聞いてから、ニャムは再び遊んでいる四人───三人に視線を向けた。
彼等はこの世界を全力で楽しんでいる。
それは大切な友人を忘れたからではない、大切な友人を迎え入れる準備をする為だ。
「セイヤだって、ガンダムが……ガンプラが大好きだったんだ。おじさん達がその気持ちを忘れちゃったら、アイツの帰ってくる場所がなくなっちまうだろ?」
「それも……そうです、そうっすね」
「お、元気出てきたわね」
「それじゃ、ジブンもまた遊ぶっすよ!!」
「そのいきよ」
「みなさーん! 今度は相撲やりませんか!? ジブン自信あるっすよ!!」
声を上げながらカルミアの手を引っ張り、四人に混ざりに行くニャム。
また人が死にそうな遊びを提案するな、なんて呆れながらも───カルミアは賑やかになったフォースネストを眺めて笑う。
「また煩くなりそうね」
過去の光景とどこか重ねながらも、彼は今を楽しもうと首を横に振るのであった。