ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
新しい道へ
GBNのチャンピオン、クジョウ・キョウヤは焦っていた。
「僕とした事が……」
手が震える。まさか、GBNのチャンピオンともあろう自分がこんなミスを犯す時が来るとは思っていなかった。
「───せっかくトライエイジを遊びに来たのに家にカードを忘れてしまった」
アーケードゲームの前で崩れ落ちる大人が一人。
こんな情けない姿の男が大人気ゲームであるGBNのチャンピオンだとは、周りを歩く子供達は知る余地もない。
「なんだか悪い予感がする───ん? 電話?」
ふと、彼の携帯電話の元に連絡が入る。着信と共に落ち着きを取り戻した彼は電話に出て、相手の話に相槌を打った。
「───分かりました。今すぐGBNにログインします」
そう言って電話を切ったキョウヤの表情は、先程までと打って変わって険しい。
「……ELダイバーが行方不明になるケースが多発、か」
目を細めてそう呟く彼の脳裏に、自分でも何故か分からないが一人の男の姿が過ぎる。
まさか、と首を振り───彼は自分のガンプラを握りしめてGBNへのログインを急ぐのであった。
☆ ☆ ☆
光が機体を貫く。
「───チクショォォ!!」
ロック撃破。
「ユメちゃん、今行くしかないっすよ!!」
「うん! タケシ君の死は無駄にしない!!」
爆煙の中で変形し、スラスターを全力で吹かせて一気に速度を上げる二機のMS。
ニャムが駆るのはウイングガンダムという可変機で、高い機動力とツインバスターライフルによる遠距離火力が特徴的なMSだ。
その隣を駆けるのは、同じく可変機───デルタプラスを改造して作り上げられたユメのデルタグラスパーである。
「二手に分かれて、生き延びた方がサイコザクを討つしかないっす!」
「───ニャムさん!!」
二人は別れて相手を狙う算段を立てたが、突然のアラートが鳴る前にユメはそう口を開いた。
しかし、その時には既に遅い。
遠方より放たれた光が、ニャムのウイングガンダムを貫く。
ニャム撃破。
長距離射撃。
その犯人は、フォースメフィストフェレスの狙撃手スズだった。
「射撃のクールタイムが前より凄く早い……!」
「……成長してるのはそっちだけじゃない」
フォースReBondとフォースメフィストフェレスは、五対五のフォースバトル戦の真っ最中である。
試合は大詰め。
ReBondの残りメンバーがロック、ニャム、ユメの三人に対してメフィストフェレスの残りメンバーはスズとアンジェリカの二人だった。
しかし、スズの狙撃でReBondのメンバーは残りユメだけとなり逆転状態である。
この状況を打破するには、今スズの居場所が割れているこの時に彼女を叩くしかなかった。
「───今回は勝つ」
「───負けない!」
再び放たれるビームスナイパーライフル。その光はユメの機体を掠め、翼を半壊させる。
「……また交わされた」
「……当てられた」
スズは外す気などなかった。ユメは当たる気がなかった。
避けられる事込みでの狙撃。完全に交わした気だった回避。
二人は口角を吊り上げて、操縦桿を握り直す。
「近付いた!!」
「舐めるな!!」
スズのサイコザクレラージェに肉薄し、MS形態に変化しながらビームサーベルを抜くユメのデルタグラスパー。
サブアームを展開し、構えられたヒートホークとビームサーベルが火花を散らした。
「接近したからって勝てると思うな」
「そんな事思ってないよ!」
サイコザクレラージェは六つのサブアームを持ち、四肢も合わせてその全てを完璧に操作するスズのプレイヤースキル故にフォースメフィストフェレスのエース機でもある。
遠距離はその狙撃技術でいわずもがな───近距離であろうと彼女はロックにも引けを取らない。
二つ目のサブアームがザクマシンガン、三つ目のサブアームがビームバズーカを手にユメのデルタグラスパーにその銃口を向けた。
「それでも、離れるよりはマシ!」
言いながらシールドを構えるユメ。しかしデルタグラスパーのシールドのサイズはお世辞にも大きいとは言えない。
そのままでは蜂の巣になる───そう思われた矢先、ユメはシールドに装備されたグレネードランチャーを地面に向けて放つ。
「小癪な……!」
ガンダムSEEDに登場する、ビームを曲げるシールド───ゲシュマイディッヒパンツァーを装備し防御面も厚いサイコザクレラージェだが弱点が二つだけあった。
一つは重装備による機動力のなさである。
そしてもう一つは、強力な防御武装であるゲシュマイディッヒパンツァーだが実弾には弱い事だ。
「足をやった! 今なら!」
変形し、ユメは急速離脱する。
サイコザクレラージェの脚部を破損させた今なら、姿勢制御が追いつかない死角を取る事が出来ると思ったからだ。
「そうはさせませんわよ!!」
しかし、新手がその場に現れる。
「レーダーに映らないのはズルいよ! アンジェリカさん!!」
「そういう機体なんですのよ!! ミラージュコロイド解除、戦闘モードですわ!!」
フォースメフィストフェレスのアンジェリカ。その機体、アストレイゴールドフレームオルニアスがユメの背後を取った。
しかしユメは機体を翻して応戦する。幸いサイコザクレラージェは動けない状態で、今は狙撃の死角で交戦中だ。
このアンジェリカさえ倒す事が出来れば、まだユメ達にも勝機はある。
「私はもう後ろで見てるだけじゃない……。皆の隣に立ちたいから!」
「本当に強くなってらしてビックリしましたわ。しかし、何度も同じ事も言わせるのはナンセンスですわよ!」
「な───」
「───落ちろ、ユメ」
放たれる光。
サイコザクレラージェの放ったビームスナイパーライフルが、ユメのデルタグラスパーを貫いた。
ユメ撃破。
勝者フォースメフィストフェレス。
「なんで動けたのぉぉ!」
「……サブアームで無理矢理機体を動かした。アンジェがレラージェを強化してくれたおかげ」
試合が終わった後、ユメはスズに抱き着きながら文句を漏らす。スズの返答を聞いているのか聞いていないのか、彼女は楽しそうにはしゃいでいた。
「それにしても驚きましたわ。彼女の機体、オフ会の時に勝ち取ったデルタですわね?」
「そうっすね。フォースReBond機体のニュー戦力って所っすよ。……負けちゃいましたけど」
「今回は俺達の勝ちだな」
「うるせぇ! 俺が油断しただけだ!」
フォースメフィストフェレスのリーダー、ノワールを睨むロック。
しかし誰もに険悪なムードはなく、どちらのチームもバトルを全力で楽しんだ結果がそこにはある。
「それにしても、それ以上に驚いたのがその子ですわよ。……ELダイバー、イアさんでよろしいんですか?」
そんな話の中で、アンジェリカは横目で一人の少女を見ながらそう言った。
「うん、ボクはイア。よろしく! 次はボクとやろーよ、ガンプラバトル」
そう元気に返事をする少女───赤い髪のELダイバー。
彼女の名前はイア。
ひょうな事からReBondが買い取ったフォースネストで出会い、そのまま保護という形で共に行動する事になったELダイバーの女の子である。
彼女と出会って一週間。
本来ならGBNの運営に保護される筈のELダイバーだが、彼女は何故かそれが出来ない為にこうしてReBondのメンバーが行動を共にしているという訳だ。
「イアはまだガンプラバトルはダメだぞ。機体もないしな」
「なんだよケイ。ケチ。ケイじゃなくてケチ。ボクにはZがあるもん」
ケイの言葉に口を尖らせるイア。しかし、そんな彼女にカルミアが後ろからチョップを入れる。
「お前は撃破されたら取り返しがつかないの。それにZはニャムちゃんのよ」
呆れ顔でそう言うカルミアは、溜め息混じりに「やれやれ」と言葉を漏らした。
彼女を保護して一週間。
マギーからめぼしい話もなく、状況は手詰まりである。
こうなるかもしれないと分かってはいたが、だからといってReBondのメンバーに解決策が浮かぶわけもない。
GBNでの死が実際の命の終わりを意味する彼女とバトルを楽しむ事が出来ないのが一番の痛手で、今回だってメフィストフェレス側からの招待がなければ当分バトル関係はする予定がなかった。
理由は簡単、今イアがそうなっている通り───彼女がバトルに興味を持つ事を避ける為である。
「なるほどふむふむ。確かにGBNの本来の目的はガンプラバトルですが、そうでなくてもこの世界を楽しむ方法は沢山ありますわ。こちらからバトルに誘っておいてなんですが、この後は旅行でもいかがです?」
「旅行……?」
アンジェリカの言葉に首を傾げるイア。
彼女の提案に他のメンバー達は顔を見合わせた。
メフィストフェレスのメンバーは普段バトルをメインに活動しているし、ReBondのメンバーも半分はGBNを初めて一年も経っていない。
この世界がバトルだけではない。
それは分かっていても、旅行と言われてピンとくるものではないのである。
「旅行っすか、ジブンも行ってみたい所とか結構あるんすよね! 賛成っす」
「時間潰しには良いかもね。おじさんも賛成よ」
「決まりですわね!」
多数決すら取っていないし、スズやロックのようなバトル好きのメンバーは不満そうな顔をしているが───彼女の勢いに勝てる者はいなかった。
「それでは、フォースメフィストフェレスとフォースReBond。合同旅行! 行きますわよ!!」
突然なんの準備もなく始まる旅行。これもGBNならではである。
計十二人。オフ会の時とはまた違ったメンバーによる催しが始まるのであった。