ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
チャンピオン、クジョウ・キョウヤの答えは決まっていた。
「───僕は、この問題はサーバーへの負荷の問題ではないと思っている」
キョウヤがそう言うと、カツラギは頭を少しだけ動かして視線だけを彼に向ける。
彼の瞳はいつも真っ直ぐだ。
「ELダイバーがどんな存在なのか、確かに僕にも分からない。だけどこれだけは言える。保護されたELダイバーは現実世界から僕達と同じようにこのGBNを楽しむダイバーであり、仲間だ」
「……仲間、か」
キョウヤの言葉にカツラギはふと一人の少女の顔を思い出す。
彼はその少女に対して厳しい物言いをした事があった。その時こそ彼女には苦い表情をさせてしまったが、彼女を仲間として認めて以降───彼女は彼に微笑みかけてくれたのである。
「これは僕達にとって、仲間が行方不明になったという話だと思うんだ。でもそういう意味では、これは確かにGBN全体の問題かもしれない」
「……私もそう思うよ」
可能ならば彼女達を救いたい。その気持ちは本物だった。
しかし、彼にはGBNのゲームマスターとしての責任もある。この件を楽観視する管理は彼にはないのだ。
だからこそ、カツラギはキョウヤを呼んだのである。
「───それを踏まえて、君に聞いて欲しい話がある。この話と関係があるかは分からない話ではあるが」
そう言うと、カツラギはモニターに一人の少女の姿を映し出すのであった。
☆ ☆ ☆
大地を見上げる。
それは比喩表現ではなく、ケイ達の視界の先にあるのは言葉通り───宇宙に浮く大地だった。
「これがスペースコロニーか。ホワイトベースですから途方もなかったのに、これはもう言葉に出来ないな……」
「ケー君、私頭クラクラしてきたよ」
途方もない大きさにケイとユメは頭を抱えるが、このスペースコロニーの中に入ればまた別の途方もない感情が湧いてくるのである。
スペースコロニー。
人類が増え過ぎた人口を宇宙に移民させる為に開発した、巨大な空の大地だ。
その多くはシリンダー型と言われている円柱状の内部をくり抜いて、側面の内側に人々の住む区画を設けた形状のコロニーである。
他にも砂時計型等のスペースコロニーも登場するが、ガンダム作品に登場するスペースコロニーはこのシリンダー型が殆どだ。
「このコロニーは、ヘリオポリスっすね。あ、ほら! イージスが寝転がってるっすよ!」
「ヘリオポリスってガンダムSEEDの……あ、本当だ!」
ニャムの言葉にユメは身を乗り出して反応する。
コズミック・イラ。
ガンダムSEEDという作品群の舞台である世界にも、このスペースコロニーが存在していた。
ヘリオポリスは主人公キラ・ヤマトが物語初めに暮らしていたコロニーであり、中立のコロニーで地球連邦軍が秘密裏にMSを開発していた場所でもある。
なので、GBNの旅行地としてのヘリオポリスには作中で奪取されるMS───デュエル、バスター、ブリッツ、イージス等の他にもストライクやメビウス・ゼロ、アークエンジェル、ジン、ジグー等の等身大ジオラマが設置してあった。
「す、凄いな。おぉ……ストライク」
これにはケイも目を輝かせていて、そんな彼を見てユメは「ふふ」と短く笑う。
彼は自分の為に、親友との仲違いの原因の一つになったこのGBNをプレイして教えてくれた。
自分を楽しませる事ばかり考えてくれていたんじゃないかと、ユメはケイの事を心配していたのである。
だけど、それは杞憂だったようだ。
「ケー君!」
「ん? なんだ、ユメ」
「楽しいね!」
「……そうだな」
楽しい。
本当に、こんな時間はつい数ヶ月前までの自分達からすれば夢のような時間だと思う。
「ほう、これはケイのガンプラに似てるな。こっちはノワールのガンプラに似てる」
ヘリオポリスの観光地。
ストライクやイージスの立像が立つエリアで、イアは目を細めて素直な感想を溢していた。
「そりゃ、ケイやノワールの機体はこのガンダムSEEDの機体を元に改造したガンプラだからな」
「ガンダムSEEDとな。それは一体なんなんだ?」
隣でロックの漏らした言葉に、イアは首を横に傾ける。そんな彼女の反応に、ロックもまた口を開けたまま首を横に傾けた。
「ガンダムSEEDを知らない……?」
「彼女はELダイバーだ。俺達の世界の事を知らないのも無理はないだろう」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべて固まっているロックに、ノワールはそう言いながらイアの目を見る。
ELダイバー。
確かにそういう存在が居るのは知っていたし、会った事がないわけではなかった。
だが、こうも不思議な存在なのかと、ノワールは感心する。
「ボクの顔に何か付いてるのか?」
「いや。……ガンダムSEEDっていうのは、俺達の世界で人気のある物語の一つなんだ。物語で通じるか?」
「物語か、分かるよ。ストーリーって奴だ」
若干怪しいが、多分伝わっているだろうとノワールは話を続けた。
「俺達はその物語の一つ一つが好きで、その物語に登場するロボットをプラモデル……プラモデル、分かるか?」
「うん。ガンプラだろ」
「そう。ガンプラを作って、飾ったり……こうやってガンプラで遊べる世界を作って楽しんでいる。……ここ、GBNはそうやって現実の世界の人間が作り出した世界なんだ」
「この世界が……作られた世界」
「……ショックだったか?」
ノワールの言葉に、考え込むように俯くイア。失言だったかとノワールが心配そうな声を漏らすが、イアは「いや? 全然!」と顔を上げる。
「この世界は現実の人達に愛されてるんだな! ガンプラを見てたら分かるよ。その現実って世界の人達が、ボク達のこの世界を本当に好きだって事がさ」
「……そうか」
彼女の言葉を聞いて、ノワールは安心したような溜息を漏らした。
確かにガンダムの世界が好きな人間は多い。彼女のいう通りだろう。
しかし、ふとそうではないのかもしれない人々の事が頭に浮かんだ。
無意識に、ノワールは拳を握り締める。
「ノワール」
「……なんだ?」
「安心してくれ。ボク達もガンプラと、君達が好きだよ」
その言葉の意味は少し理解が難しかったが、彼女のそんな言葉に何故か安心するノワールなのであった。
「ヘリオポリスといえば!!」
「ガンダムSEED!」
「ストライク!」
「生意気なんだよ! ナチュラルがモビルスーツなど!」
「ケイさん、ユメちゃん、タケシ君ハズレですわ!!」
「ロックな!!!」
アンジェリカの問題に全滅する三人。スズはそんな彼女を見て「……当てられる人居るのか」の目を細める。
「正解はコロニーの崩壊ですわ!」
等と言いながら突然飾ってあったランチャーストライクにとうじょうするアンジェリカ。この時点でケイは嫌な予感がしていた。
「アグニは入れ込み二発! 今回は一発あれば充分ですけども!!」
そして、彼女はコロニーの中心向けて高出力のビーム砲───アグニを放つ。
ヘリオポリスというスペースコロニーは中心に構造上の支えとなる芯が存在し、作中でもこうして砲撃により内部が損傷───ヘリオポリスは崩壊するのであった。
「何してんだお前ーーー!」
「このヘリオポリス、コロニーの崩壊を目の当たりに出来る超巨大アトラクションでもあるんですわよ!」
「「コロニーが!!」」
アンジェリカの言う通り崩壊していくヘリオポリス。
当たり前だがGBNはデータの世界である。少し弄ればこのヘリオポリスも元通りなのだが、それでもその光景は恐ろしいものだった。
「地面が……」
普段飄々としているイアも、この光景には唖然として固まっている。どこか震えているように見えるのは、彼女にとってこの世界は現実だからだ。
「大丈夫か?」
そんな彼女に、ノワールが話し掛ける。
「え、あ、うん」
「恐ろしい光景だな」
イアの肩を叩いてそう言うノワールは、彼女の視線の先を同じく見詰めた。
割れていく大地。空は欠けて、宇宙と混じり合っていく。
潰れる場所、破裂する場所、穴が開く場所。様々な崩壊の模様が、視界いっぱいの大地に広がるのだ。
地獄絵図といってもなんら相違ないだろう。
「うーん、そうだね。これは流石のボクも恐怖するよ」
「俺達が見る物語は、こんなにも恐ろしい事が何度も起きたりする。でも俺達はこの光景が面白くて見てる訳じゃないんだ」
「と、言うと?」
「物語はこういう怖い事や恐ろしい事も沢山起きる。だから、そうならないようにする為に動く人達は俺達にとってヒーローに見えるし、格好良いのさ。勿論その逆もまた、好きな人だって居るんだがな。物語っていうのは、そういう良し悪しを楽しむ物でもある」
「良し悪しを楽しむ、か。ボクも見て見たくなったな、そのモノガタリってやつを」
崩壊していくヘリオポリスを眺めながら、イアは自分世界が舞台となった物語に思いを馳せた。
「……でもやっぱり、ボクにとってこの光景は恐ろしいよ」
「それは多分、皆同じだろう。こうしてみると、本当に恐ろしい光景───」
「凄過ぎですわーーー!」
「───光景……だな。アイツは後で怒っておくか」
「あはは、でもボクも楽しくなってきたよ。これは本当に凄いや」
笑顔を取り戻すイアを見て、安心するノワール。
ReBondが連れて来た彼女の事を最初はよく分からない奴だと思っていたが、どうやら違ったらしい。
彼女は───イアは、ただの女の子なのだろう。怖いものは怖いし、楽しいものは楽しいと感じる、自分達と何も変わらない存在なんだ。
「……しかし、ヘリオポリスの崩壊でこれか。コロニー落としなんて恐ろしくて見てられないな」
「コロニー落とし? これを落とすのか?」
「いや、これはそうだな……。お前が無事に俺達の世界に来れたら、アイツらと一緒にそういう話を見るのも悪くないかもな」
だから、ノワールは少しだけ彼女の現実で会うのが楽しみになる。
色々な事を教えてやりたい。願わくば、彼女を取り巻く問題が解決した後もReBondのメンバーや自分達と一緒に───そう思うノワールなのであった。