ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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月と火星

 モニターに一人の少女の姿が映し出される。

 

 

「……カツラギさん、この子は?」

 短くて赤い髪の小柄な女の子。

 

 キョウヤはその少女に見覚えがない。しかし、その顔はどこか彼の記憶に引っ掛かるものだった。

 

 

「一週間前に保護された、一番新しく発見されたELダイバーだ」

「彼女が何か?」

「彼女は一週間前、マギーによって保護された。そこまではなんの問題もないただのELダイバーだったのだが……」

 カツラギはモニターを見ながら目を細める。

 

 

 彼はマギーに聞いた話を思い出していた。

 

 

 

「───このイアちゃん、ログアウトを受け付けないのよ。それだけじゃない、彼女は何故か現実からログインした訳じゃないのにデータの上では現実からガンプラを持ってログインしてる事になってるの」

 ───これが、先日マギーから聞いた報告である。

 

 後で報告された詳しい情報では、ELダイバーイアは放棄されたフォースネストで発見されたらしい。

 

 発見された彼女はそのフォースネストを新たに買い取ったフォースのダイバーの機体を乗っ取り、逃走。

 直ぐに保護には成功するが───彼女が乗っ取ったガンプラが、データ上では彼女が現実からログインする時にスキャンしたガンプラ扱いになっているのだとか。

 

 

 ELダイバーは未だに解明されていない事が多い。

 勿論この事が他のELダイバー行方不明事件と関係があるとは限らないが、カツラギは「頭の中に入れておいてくれ」とキョウヤに語るのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 視界が埋まる。

 

 

「いやどんどん盛大になっていくな」

「今度は月か。もはやこれ以上はないだろ」

 眼前の超大な岩に、ケイとロックは目を白くして固まっていた。

 

 月旅行というと、仮想現実をゲームとしてプレイしていてもまだまだ夢の話である。

 しかしその仮想現実であるGBNでは、月旅行が現実となってしまうのだ。

 

 

「この巨大な丸がお月様なのか!」

「そうだよイアちゃん。それでね、ガンダムの世界だとお月様の表面に街が出来たり基地が出来たりしてるんだ」

「他にも他にも、ガンダムXでは月に太陽光発電施設が用意されていてですね! そこから放たれたスーパーマイクロウェーブを拾って、ガンダムXやガンダムDXはサテライトキャノンを撃つ訳です! ガンダムの月といえば、様々な戦闘の舞台や基地がある設定が盛り沢山っすからねぇ。こうして月旅行が出来るなんて、ガノタのジブンからすると夢のような体験っすよ。フヘヘヘヘ」

「ニャムは凄く月が好きなのか?」

「ニャムさんは凄くガンダムが好きなんだよ」

 暴走するニャムを横目にそう語る夢は、少しだけ間を置いて視線を月に落とす。

 

 

 広大な大地。

 地球の衛星、月。限りなく近く限りなく遠い存在。

 

 

 

「私の夢はね、飛行機に乗ってそらを飛ぶ事なんだ」

「夢? ユメの夢か。いや、ユメは飛んでたじゃないか。ガンプラに乗って」

「あはは、そうなんだけどね。私、この世界でしか飛べないんだ」

「……どうして?」

 俯いて話すユメに、イアは目を細めて彼女の顔を覗き込んだ。

 

 

「私は現実だと足が動かないの。この世界と現実の世界は違うから、私はこの世界なら飛行機に乗って飛べるけど……現実の私はきっと飛行機を操縦出来ない。……そのコックピットに座る事を許されない」

「現実というのは、なんだか窮屈なんだな」

「でもね、現実は夢で溢れてるんだよ」

「夢で溢れる?」

 俯いていた筈のユメは、真っ直ぐに前を向いてこう語り始める。

 

「GBNだとこんなにも簡単に叶う夢も、現実だと凄く難しい事で……確かにイアちゃんの言う通り窮屈に思えるかもしれない。だけどね、だから頑張りたくなるんだ。この世界は───GBNは私に夢を見る事を教えてくれた、だから私は現実でも頑張りたい。いつか本当に、自分の身体で飛行機を操縦するんだって思えるようになったんだよ」

「ユメは現実が好きなんだな」

「GBNが嫌いなんて訳じゃないんだよ!? GBNより現実が好きって訳でもない。GBNは私の夢と現実を繋いでくれた場所だから。こうやって月を見るのだって、本当に素敵な事だと思ってる。こればかりは物凄く頑張らないと現実じゃ叶わない夢だし、それに次に行くって言っていた場所は私が一生頑張っても無理だと思うんだよね」

「……ユメの話を聞くに、このGBNは夢と現実の境目って所か。自分の生まれた世界だけど、我ながら不思議な世界だと思うよ」

 夢と現実の境目。

 確かに彼女の言う通りかもしれない。

 

 

「よーし、イアちゃん! 人類の夢! 月面着陸だよ!」

「うおー! なんだこれは! 身体がフワフワするぞ!」

 この世界は確かに現実ではない、だけど夢でもないのだ。この世界は確かに存在している。

 

 そして今日も誰かに影響を与えて、この世界はやはり輝いていた。

 

 

 

 

「……おじさんここまで来ると目が回るぜ」

「まだ次があるっすからね。このくらいで驚いていてはいけませんよ」

「ここは何処だ!!」

 次に一行が辿り着いたのは、砂の色をした巨大な星。

 

 

「どっちの火星だ。どっちも地獄だけど」

「AGEなら疫病、鉄血ならそのまま地獄か。火星はガンダムの世界じゃ確かに良いところではないな」

 その星を細目で見るロックとノワール。

 

 彼等の言う通り、一行の目の前にあるのは太陽系第四惑星───火星である。

 

 

「ガンダム以外にも、SF作品に登場する火星はやっぱり過酷なイメージが多いっすよね」

「ニャムちゃんがガンダム以外の作品の話をしてる……」

「カルミア氏はジブンの事をなんだと思ってるんすか?」

 火星。

 太陽を中心に公転する太陽系に存在する惑星の中で、最も太陽から近い距離を公転する惑星から数えて四番目に遠い距離を公転する惑星だ。

 

 

「ガノタ?」

「そうっすけど! そうっすけど!」

「でもニャムは色々な事に詳しいな。さっきもスペースコロニーを見学してる時ペラペラと話していた気がするぞ。聞いてなかったけど」

 二人の会話にそう口を挟んだイアは「知識が多いのは羨ましい。ボクはこの世界で産まれたのに、君達よりもこの世界を知らないようだし」と口を尖らせる。

 

「それを知る為の旅行でもあるっすかるね。なんなら、火星やジブン達がこれから向かう木星についても少し教えるっすよ」

「おー、お勉強だな!」

 火星とニャムを見比べて、イアは目を輝かせた。

 

 

 こう見えても彼女は産まれたばかりなのだろう。好奇心が旺盛なのは、彼女が見た目よりも子供な証だ。

 

 

 

「まずガンダムAGEの火星っすね。こちらは火星の地面に住む訳ではなく、火星圏にコロニーを建築する形で火星が登場してるっす。これは後でもお話する事ですけど、実の所火星は木星やアステロイドベルト───えーと、火星と木星の間に存在する小惑星帯と呼ばれる場所よりも資源効率が悪くてそこにコロニーまで建築して住む価値はあまりないと言われてるんですよね」

「へー、それはなんでよ。火星の方が住みやすそうじゃない?」

「ボクの記憶だと、木星は地面がないとかガスでいっぱいだとかそういう話だった気がするぞ」

「そう、木星にはガスがいっぱいあるんすよね。ガンダムの世界ではヘリウム3という資源を木星から運ぶ事が出来るから、木製圏へ生活圏を映すのは過酷な生活圏を選ぶ上でも経済的なアドバンテージが大きいんすよ。同じく小惑星帯では、資源となる小惑星がガッポガッポ取り放題という事です。……しかし、火星には何もない。以上の点を踏まえて火星はガンダムの世界では多く開拓地として価値を見出されていない星だったりします。ガンダムAGEだとこれに加えて、マーズレイと呼ばれる磁気嵐とそれが原因の風土病が蔓延。お世辞にも良い環境とは言えなければ、そこに住むアドバンテージもなかったっす」

「それじゃ、その人達はどうしたんだ?」

 そんなイアの質問に、ニャムは「よくぞ聞いてくれました」とメガネを曇らせる。カルミアは「やはりガノタね」と目を細めた。

 

 

「火星移住計画で火星圏に作られたコロニーで生活する人々は、マーズレイを怖れた偉い人達に───全員死んだと言われて火星圏に置いてきぼりにされたっす」

「それは酷いな!」

「詳しい資料を知らないのでなんとも言えないっすけど、コロニーは十六機程作られていたようなので相当な数の人々が火星圏への移住計画に参加していたと思われています。そんな数の人々を地球圏に連れ帰るのが、偉い人達は嫌だったんでしょうねぇ。……そして、生き延びた火星圏の人々が百年以上も掛けて地球へ戦争を仕掛けた! ガンダムAGEはそこから始まる物語っす!!」

「結末が気になるな」

「それは、イアちゃんが現実に来た時の楽しみにして頂ければ幸いっすね」

 ニャムの言葉に口を尖らせるイア。そんな彼女を横目にニヤニヤと笑いながら、ニャムはこう話を続ける。

 

 

「続いて鉄血のオルフェンズの火星ですが、こちらはなんと火星のテラフォーミングに成功して火星の大地で人々が宇宙服等なしに行動出来る世界が広がってるっす! これはこれでSFのロマンって奴っすよねぇ!」

「火星に人が住むのか。でも、火星と地球は違うだろう?」

「その通りっすけど、実は火星と地球の自転の時間。……つまり一日の長さは大きな差がないんすよね。その点ではもし火星のテラフォーミングに成功したならば、火星は我々人類にとってとても住み心地の良い星になると思われているっす」

「へー、一日の長さが同じなのね。それはおじさんも知らなかったわ」

「重力はどうなるんだ? さっきユメと月に降りた時、フワフワしたぞ。アレは月は小さくて地球より重力が低いからだってユメが言っていた」

「あはは、確かにそうなんすよね。火星も地球より小さいので重力は小さい筈……なんですけど! そういうのを気にしないのがSFの醍醐味って奴なんすよ!! そもそも宇宙は真空なので音が鳴らないっす。でもかの有名な某映画監督は言いました!! 俺の宇宙では音が鳴るんだと!!」

 ハッキリというニャムの言葉に、イアは「おー」と何故か感心したような声を漏らした。

 

 

 意味はよく分からないが、情熱だけは伝わったらしい。

 

 

 

「それでは、次は木星旅行っすよー!」

「おー!」

 一行の次の行先は太陽系第五惑星、木星である。

 

 

 それはまるで、夢のような体験だった。




ハサウェイ見てきました。凄まじい映像美だった……。
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