ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
キョウヤはその名前を聞いて、心の奥底で何かが引っ掛かる感覚を覚えていた。
「───フォースReBond、ですか」
「知っているのか?」
キョウヤの質問。
イアという少女が今何処で何をしているのか、という問いに対してカツラギは「ReBondというフォースのメンバーに面倒を見てもらっているそうだ」と答える。
カツラギがゲームマスター権限で、今の彼女の行動をモニターに移すとキョウヤは苦笑いしながら「なるほど……」と目を細めた。
「NFTに参加していたのを覚えている。彼等には苦い記憶になってしまったと思っていたが……良かった、GBNを楽しんでいるようだ」
そう言うと、キョウヤはカツラギに背中を向ける。そんな彼にカツラギは「何処へ行く」と問い掛けた。
「彼等の元へ。確かにこのELダイバーの行方不明事件は謎だらけだ。どこかに手掛かりがあるのなら、僕はそれを掴みたい」
「分かった。任せる。……ただし、こちらも手掛かりを掴む為の用意がある。その際は、協力してもらうぞ」
「……カツラギさん。貴方は、また自分だけが責任を問われるように話を作ろうとしているんじゃ」
「それがゲームマスターの務めなのだと、私は最近思い知ったのさ」
カツラギの返事を聞くと、キョウヤは「僕はカツラギさんを信じますよ」とだけ漏らして歩いていく。
カツラギの視線は動く事なく、モニターの一点に向けられていた。
☆ ☆ ☆
地球は青かった、なんて言葉は何処かしらで聞いた言葉である。
「……地球は青かった」
しかし、実際にその光景を見た物は、その言葉が自然と漏れてくるのだ。
イアはその赤い瞳に青い星を映して、水の大地を堪能している。
月、火星そして木星への旅行から帰って来た一行は地球の衛星軌道上を周回しながら次の予定を決めている真っ最中だった。
「決めましたわ!」
ふと、アンジェリカは満面の笑みで顔を持ち上げて地球に視線を落とす。
どうも嫌な予感がしたスズは、ゆっくりと彼女から離れようとしたが───アンジェリカはそれを許さずにスズの肩を掴んだ。
「この星を堪能する為に、まずはショッピングですわ!! そんな訳でやってきました、ダイバーシティ!!」
両手を上げるアンジェリカの背後には、ユニコーンガンダムの立像が立っている。
ここはダイバーシティ───とは言っても、現実のダイバーシティではなくGBNの中に作られたダイバーシティだ。
「な、なんでGBNの中にダイバーシティが」
「ある意味ここもガンダムの聖地っすからね。日本に住んでないと飛行機を使って日本に行かなければ来れない所ですし、海外に住んでいる方々からすればありがたいのかもしれないっす。……とはいえ、GBNのアバター姿のままダイバーシティまんまの場所に来るのはなんだか不思議な感覚っすね」
ケイの質問にそう答えたニャムは「つい数週間前の事なのに、なんだか懐かしいっす」と笑みを溢す。
それは他のメンバーも同じようだが、ニャムよりも不思議な感覚を覚えている人物が二人だけいた。
「なんか、変な感覚だねスズちゃん」
「……確かに」
現実では自分で歩く事が出来ない二人が、現実の世界を歩いているような感覚を覚える。
ユメとスズは、そんなこそばゆい気持ちになんだか落ち着かない様子だった。
「ここはなんていうガンダムの世界の場所なんだ?」
ふと、イアのそんな言葉に二人は目を見合わせて笑う。スズが笑顔を見せるのは珍しいが、ここ最近は多くなったのかもしれない。
「ここはね、現実の世界の場所なんだよ」
「現実の? ガンダムの世界じゃなくて、ユメ達の世界って事か!」
「……君は現実にいけないELダイバー、だったか。……変な話だけど、ようこそ。私達の現実に」
「君じゃなくて、ボクにはイアって名前があるぞ!」
「……イア。ようこそ、私達の世界に」
どうも自分とはペースが違うイアに戸惑いつつも、スズは珍しくアンジェリカ以外の人物に笑顔を見せる。
そして、彼女の言葉に、イアも「おー!」と目を輝かせた。
「ここがこの世界の中にある
「そうですわ! それでは、お買い物に行きますわよぉ!」
アンジェリカを先頭に、建物の中に入っていくメンバー達。
建物の構造は殆ど現実と一緒である。
しかし、その中身はGBN用にカスタマイズされたアバターの衣装を買う施設や機体のパーツや武器を買う施設等───このGBNでの現実を楽しめる施設になっていた。
「トウドウ、そっちは任せてもよろしいですか?」
「分かった。時間は?」
「こちらから連絡しますわ。それまで適当に時間を潰しておいてください。女子の買い物は長いんですわよ!」
何やら二人で会話を進めるアンジェリカとトウドウ。その話が終わると、トウドウが男性グループを集めて「一旦男女に分かれるぞ」と眼鏡を曇らせながらそう言う。
アンジェリカも同様に女性グループを集めると「ここからは一旦女子会ですわ!」とトウドウと別の方面に向けて歩き出した。
「アンジェめ、何か企んでるな。どういうつもりか知ってるんだろうトウドウ」
「聞かれても答えられはしないがな。今は大人しく着いてきてくれれば良い。……後悔はしないぞ、男ならな」
深みのある言葉に、しかし男性陣は首を横に傾ける。
言いながら歩き続けるトウドウに着いていくしかない訳だが、その先にあった物に男性陣は直ぐは彼の言葉を忘れるのであった。
「これは……」
「まさか……」
「おーう、ガンダムのゲームセンターって所か」
辿り着いた先にあったのは、大量のモニターやアーケードゲームの筐体が置いてある施設である。
勿論現実のダイバーシティにそのような場所はない。
「ここはガンダムの様々なゲームが集められた施設だ。……とりあえず、ここで時間を潰す」
───トウドウがそういう前に、ケイとノワール以外の四人は既に駆け出し始めていた。
「すげー! 大昔のゲームがあるー!」
「おじさんにとっては大昔じゃないからその言い方やめて!?」
「ねーねー! 皆でバーサスシリーズやろうよー!」
「ねーねー! 皆でバーサスシリーズやりたいー!」
「「良いねぇ、やるか!!」」
レフトとライトの提案でアーケードゲームのある場所に走るロックとカルミア。
そんな子供の
「俺達男と、女達は違うという事だ。俺達にそこまでの時間は必要ない」
「買い物でもしてるって事か?」
トウドウの言葉にケイがそう言うと、ノワールは「なるほど」と頷いた。
そうなると、かなり長い時間待たされるだろうとノワールは考える。ならば、遊んでおかないと損だ。
「トウドウ、ケイ、俺達も遊ぶか」
「……そうだな」
「ガンダムって俺達の知らないゲームも沢山あるし、せっかくだからそうしよう」
そう言って、三人も各々興味を持ったゲームに手を出していく。
「よっしゃロッ君! ドーベンの腕付けたぜ!」
「任せろおっさん横横横ぉ!!」
「「デュナメスが横ブンしてくるー!!」」
騒がしい男達。
「───さて、お買い物ですわよ!!」
一方で女性陣はケイの予想通り、買い物の真っ最中だった。
「買い物と言っても、GBNなので何をどれだけ買おうが荷物が増えないのは良い事っすねぇ」
「買い物だって、スズちゃんイアちゃん」
「……私に振るな」
「買い物とは確か金銭を払って物を交換する事だったか。何を買うんだ?」
イアの質問に、アンジェリカは「色々ですわ」と片目を閉じる。
そんな彼女について行くと、GBNで着る事の出来るアバター衣装が用意された施設に五人は辿り着いた。
「コスプレも、普通のお洋服も、なんでもあるんですわよ! 勿論着るだけならタダですから、着せ替えを楽しみますわよ!!」
「……私は遠慮───」
「スズは絶対逃しませんわ!!」
「うぉぉ……」
逃げようとするスズを捕まえて更衣室に連れて行くアンジェリカ。そんな彼女を笑いながら眺めるニャムは「それでは、ジブン達も楽しみますか」と衣装を眺め始める。
「服を着たり脱がせたりして何が楽しいんだ?」
アンジェリカにおもちゃにされているスズを見ながらそう言うイアに、ニャムは衣装を二着手に持ちながらこう口を開いた。
「女の子は服を着るのが好きな物なんです。それと、コスプレと言ってガンダム作品に登場するキャラクターが着ている服を着てその世界観を味わうという楽しみ方もあるんすよ!」
「ほへー、なるほど。現実の人は面白い事を考えるな。ここはGBNの中にある現実の世界で、現実の世界の人達はガンダムの世界の人達の格好を真似する。目が回りそうだ。……ところで、その手にあるのは?」
「フヘヘヘヘ、これはっすねぇ───」
ニャムは不敵な笑みを見せながら隣に立っていたユメを捕まえてアンジェリカよろしくイアとユメを更衣室に投げ込む。
彼女に「これを二人に着て欲しいっす!」と言われ、断る理由もなく二人は手渡された衣装に着替えて更衣室を出た。
「ウッヒョー! イアちゃんは髪が赤いだけあってルナマリアの衣装も似合うっすねぇ! ユメちゃんも、メイリン衣装でツインテールが凄く新鮮で可愛いっすよ! フヘヘヘヘ、これはケイ殿に高く売れそうっす」
二人を四方八方から眺めてスクリーンショットを撮りまくるニャム。これはこれで面白いと思っていたイアだが、自分が遊ばれてばかりというのには納得がいかない。
「ニャム! 君はこれを着るんだ!」
「おー、これはルー・ルカの私服っすね。良いっすよ! それじゃ、二人は衣装チェンジって事で!」
「あ、結局私達もまた着替えるんだね」
「フヘヘヘヘ、コスプレは着ても着せても面白いっすからね!」
そうして五人は少しの間、現実では難しいようなコスプレから私服の着せ合いを楽しむ。
一番張り切っていたのはアンジェリカで、普段服を選ぶという事をしないスズの為に走り回って彼女の着替えを楽しんでいた。
スズも途中からは満更でもなかったようで、ちょくちょくユメ達に見せに行ったりと楽しい時間が過ぎて行く。
「───さて、遊びはこれくらいにしてそろそろちゃんと買い物をしないといけませんわね」
「と、言うと?」
「服を見るのが目的ではなかったという事っすか?」
ユメ達の質問に、アンジェリカはスズの着替えをしながら不敵な笑みを見せた。
彼女のこの表情は、大体
「この後の目的地、まだ教えてませんでしたわね!」
「そうだな。どこに行くか決まってるのか?」
「ふふ、地球といえば───」
高らかに人差し指を持ち上げるアンジェリカ。その指先が指すのは───
「───海ですわ!! と、いう訳で!! 水着を選びますわよー!!」
地球、その地表の七割を占める広大な水。地球を青い星たらしめる根源でもあり、生命の母である。
一行の次の目的は、海だ。