ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
海岸。
水鉄砲で遊ぶ少年少女達を、グラサンを掛けた海パン姿で金髪の男が覗き込んでいた。
「……彼等か」
海パンの男はグラサンをずらしながら、温かい目を子供達に向ける。
その姿はまさに───不審者であった。
「通報した方が良いか? アレ」
近くを通った炭酸飲料みたいな名前をしていそうなダイバーに、海パンでグラサンの男は指を差される。
「僕も混ざるとするか」
「通報しよ」
そして、男は密かに通報されていた。
☆ ☆ ☆
海といえば水泳である。
「「無理!!」」
少女二人は、何故か浮き輪を手に震えていた。
「GBNで無理はないって。大丈夫、溺れても死なないから」
「そうですわよ。正確には、溺れて死んでも直ぐリスポーン出来る……ですけど」
「……アンジェリカさん、それは言わない方が良いです」
二人を説得するように話し掛けるケイとアンジェリカ。海で泳ごうという話になったのだが、それを頑なに断り浮き輪を離さないのは───意外にもユメとスズである。
しかし、意外ではないといえば意外ではない。
彼女達は現実の世界では泳ぐ事は勿論、歩く事も出来ないのだ。いくら手足も自由なGBNでも、泳ぐというのは彼女達にとってあまりにも未知の行為なのである。
「……まぁ、無理を言っても仕方がないですわね。私は一旦トウドウ達と水泳レースをして来ますわ。スズ達はビーチボールなんてどうですの? 海は確かに泳ぐだけじゃありませんから」
そう言って、アンジェリカは見事な泳ぎっぷりで沖まで行ってしまった。
「……むぅ」
「……うぅ、ケー君が泳ぎ方教えてくれるなら」
「んー、多分。教えられると思うけど。えーと、スズはどうする?」
「……私は良い。その辺で立ってる」
「スズちゃ───」
「ふ、この俺様の出番のようだな」
そんな三人の元に現れたのは、いつも通り格好付けたロックである。
「まさか、この俺様のライバルの一人でもあるメフィストフェレスのスナイパーが……水が怖いなんてなぁ! ハッハッハッ!」
「カチン」
「泳ぎの練習も出来ないとは。まったく、俺様もお前を買い被っていたようだぜ」
「……は? ちょっと練習したら泳げるようになる」
「ほー、なら試してみようか。しょうがないから俺様が教えてやるよ」
「……上等だ。お前なんて一瞬で抜かしてやるぞ、タケシ」
「……いや、ロックな」
そんな二人の会話を聞いて、ケイとユメは顔を見合わせて笑った。そう、
そうして泳ぎの特訓が始まる訳だが、スズの吸収力は凄いものだった。有言実行、ものの十数分でロックよりも上手く泳げるようになっているのである。
「……連邦のMSは化け物か」
「……ふん」
「……お前、練習したらなんでも出来るのに。なんで向こうのリーダーには嫌だっていったんだよ」
ロックがそう聞くと、スズは横目で泳ぎのレースを開催しているアンジェリカに視線を向けた。
そうしてから、彼女は一度目を閉じて口を開く。
「……アンジェに、仲間に情けない姿を見せたくない。私は、あのチームのエースだ」
「……なるほどね。お前、可愛い所あんのな」
「……ナ、カ、カワ? は?」
「あれ? 何沈んでんの? おいちょっと!? 溺れたら死にますよ!? スズ!? スズさ──ーん!?」
スズはその後数分後リスポーンした。
「……む、難しいね」
「ユメ、なんか泳ぎ方変だぞ」
泳ぎ方の練習方法として、ポピュラーなのはやはり連れ添い人に手を引いて貰いながら足を動かす方法である。
「……犬かきみたいになってる」
───のだが、ユメは泳ぐのがまだ怖いのか、身体が縮こまって格好が犬かきのソレになっているのであった。
「だってー」
「なんでそうなる」
「お困りのようだね」
そう会話をしていた二人の間に、一人の男が割って入る。金髪にグラサンの海パン姿の男は、両手を腰に置いて「泳ぎの練習かい?」と二人に問い掛けた。
「え、誰ですか」
「僕はキョウヤ。通りすがりのただのダイバーだ」
「はぁ」
突然話しかけて来た見知らぬグラサンの男に、警戒しない訳にもいかずにケイは目を細める。
「キョウヤ……。あ、チャンピオンの人の名前?」
「あー、クジョウ・キョウヤ」
ふと、ユメが思い出したように口にした名前。しかし、通りすがりのただのダイバーのキョウヤは「あはは、それは人違いかな」と両手を挙げた。
───しかし、それは人違い等ではなく彼こそがGBNのチャンピオンにしてフォースAVALONのリーダー。クジョウ・キョウヤその人である。
彼はカツラギに、フォースReBondのメンバーが居る場所を聞いてここにやって来ていたのであった。
「チャンピオンに憧れていてね、こんな名前にしたんだ」
しかし、GBNのチャンピオン───クジョウ・キョウヤは知名度も大きくユメですら知っている。
今回キョウヤがReBondのメンバー達に接触した理由を考えれば、
「まぁ、チャンピオンに憧れるのは……分かりますけど」
「凄いよね、チャンピオン。私この前学校の休憩時間にチャンピオンのバトルの動画見てたんだけど、変形の使い方とか飛行形態の操縦の仕方とか……私でも凄いって分かっちゃったし」
「……そりゃ、チャンピオンだし。それで、そのチャンピオンに憧れてる人がなんで俺達に話しかけて来たんですか?」
チャンピオンの事をベタ褒めするユメの横で、ケイは少々不機嫌になりながらキョウヤにそう問い掛ける。
キョウヤは苦笑いしながらも、少し考えてこう答えた。
「努力する人を見ると応援したくなるんだ。現実では出来ない事でも、このGBNなら出来る。僕はそんなGBNが好きだからね」
そう言ってから、キョウヤは二人に「もう一度同じように練習してくれないか?」と付け足す。どうやら何やらアドバイスをくれるようだ。
二人はグラサンの不思議な男を疑問に思いつつも、再び泳ぎの練習を再開する。
「ユメ君、今の君はバクゥになっている。頭の中にグーンを思い浮かべるんだ。グーンが水中を進むときは、身体を真っ直ぐにするだろう?」
「グーン……グーン。あ、SEEDで海の話に出て来た……!」
ユメは言われた通り、ガンダムSEEDに登場したMSを思い浮かべた。すると、自然の身体が真っ直ぐになっていく。
「そうだ、力を抜いて」
「おぉ、ユメ。行けるぞ!」
「そのまま足で水を蹴るんだ!」
キョウヤの合図と共に、ユメはバタ足を開始した。すると、ケイが引っ張っているのもあって、彼女の泳ぎはそこそこ様になっていく。
「出来そう! 出来た! ありがとう、ケー君。キョウヤさん!」
「いや、今のはキョウヤさんのおかげだ。……あの、変な人だと思ってすみません」
「あはは、変な人か。確かに、思い返すと自分でも変な人だと思うよ」
「自覚はあったんですね……」
「実は、本当の所───」
「うわぁぁぁああああ!!!」
二人の会話に挟まる、イアの悲鳴。何があったと三人が視線を声の方角に向けると、そこには水流に流されるイアの姿があった。
「なんだ?」
「彼女が……」
そんなイアを見て、キョウヤはカツラギと会って話していた目的を思い出す。
ELダイバーイアとの接触。それがキョウヤがここに来た目的だった。
「お、あれはズゴックじゃないっすか。渋いチョイスっすねぇ」
「イアちゃんがスクリューに飲み込まれていきますわ!」
「あれは死んだな……」
何が起こったかというと、沖合で突然現れたMS───ズゴックのスクリューがイアを攫って行くところらしい。
ここはGBNなので、禁止されていなければMSに乗る事は何も間違っておらず、沖合まで行くとダイバーがMSでの遊泳をしているも普通の事である。
ただ、イア達は泳ぎに夢中でかなり深い沖合まで行ってしまったらしい。こういう事はGBNの海ではよくある事で、もしMSに踏まれたりスクリューに巻き込まれたりしても後でリスポーンするので問題もないのだ。───普通は。
「……ちょっと待てよ? アレ、ヤバくない?」
飲み込まれそうになるイアを見ながら、顔を真っ青にするカルミア。
もしスクリューに吸い込まれているのが彼女以外なら、笑い話になる筈だったのである。
しかし彼女はELダイバー。
まだ現実の世界に保護されていない彼女にとって、この世界での死は本当の死であった。
「───ハッ!? ヤバいって問題じゃないですよ!?」
「ちょちょちょちょちょ、本当ですわ!? ちょっと待って!? ちょっと待ってですわぁぁ!!」
事の重大さに気が付き、泳いでいたメンバー達は慌てふためく。しかし、どうしたって今更間に合いはしない。
「ねぇ!? これヤバくない!? これボクヤバくない!?」
スクリューに吸い込まれて、そのまま巻き込まれそうになるイア。GBNではスプラッタ映画のようにはならないが、衝撃などでヒットポイントがなくなればデス扱いにはなってしまう設定だ。
カルミアが彼女に手を伸ばそうとするが、届かない。そして全員が諦めかけたその時───
「───AGE2マグナム!!」
もう一機のMSが突然現れ、飛行形態に変形したかと思えば目に纏まらない速さでズゴックの脇を通り過ぎる。
そしてその機体は上昇し、変形してから姿を消した。
ガンダムAGE2の改造機体。一瞬だけ見せたその姿に、ユメはつい最近見た物を思い出す。
「イア君、だったね。大丈夫かい?」
「び、びっくりした……。ありがとうグラサンのお兄さん! けど、お兄さん誰?」
機体から降り立つキョウヤの腕の中で、イアは首を傾げていた。そして、そのグラサンのお兄さんはサングラスを取ってイアに笑みを見せる。
イアを事故から救った機体───
「……チャンピオン」
───それは、GBNチャンピオン。クジョウ・キョウヤの機体だった。