ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
閃光が走る。
空に舞う光は、弓のように真っ直ぐに三本。それが、一直線に一つの光に向かっていた。
「挟み込め!」
トウドウの指示で、残り二つの矢は二手に分かれて一つの光を挟むように動く。
ユメのデルタグラスパーと、もう一機はイアの搭乗するZガンダムだった。
「初めての連携とは思えない、良い動きだ。……それでも!」
ユメとイアが挟み込む相手。
ガンダムAGE2を改修し、攻撃性能を極限まで高めたチャンピオン───クジョウ・キョウヤの機体である。
「踏み込みが甘い!」
AGE2マグナム。
変形し、ライフルを構えるチャンピオンの機体。その動きは一切の無駄なく、ライフルの光がユメのデルタグラスパーを貫いた。
「ユメ! くっそ! 強いなチャンピオン!」
「お褒めに預かり光栄だ!」
接近するイア。変形し、ビームサーベルを構えようとするが───構えようとした腕は既に宙に浮いている。
「あれ?」
「二つ」
コックピットに向けられ、放たれるライフル。
Zガンダムはイアを乗せたまま、光に包まれて爆散した。
───しかし。
「次だ次ぃ!」
地上に、ついさっき撃破されたユメのデルタグラスパーと共にイアの乗ったZガンダムが現れる。
そして二人がリスポーンした地点の頭上にある大きな看板には『残機10』と表示されていた。
「変則残機戦とは考えたものですわね」
「その手があったかって感じっす」
チャンピオン、クジョウ・キョウヤとメフィストフェレスのトウドウ、そしてユメとイアが今行っているのは特別ルールのガンプラバトルである。
ルールは簡単。
機体が撃破されると、残機が減るがリスポーンされて再び戦場に参加。
残機がなくなった時点で敗北となるルールだ。
これは、撃破されてもGBNのシステムにおいて
よって彼女は死ぬ事なくバトルを楽しめるという訳だ。
これはキョウヤの提案で、今回はお試しとしてトウドウとユメ、そしてイアとキョウヤの四人でバトルをしている。
変則戦となるのは、人数を半分に割った2on2という訳ではなくかといって個人戦でもない
キョウヤが他の三人を同時に相手をする、3on1であるという事だ。
「それにしても……」
しかも、キョウヤの残機は1。
それに対してイア達三人の残機は40。
「チャンピオン強過ぎだろ……」
戦力差は40対1。
しかし、キョウヤは既に一度も被弾をせずに30機の機体を撃破している。
これが、チャンピオン───クジョウ・キョウヤの実力だった。
☆ ☆ ☆
トウドウの機体が爆散する。
空中戦。
このバトルに参加しているMSは全て可変機だ。空中戦こそ、このバトルの鍵となる。
その点においてイアはともかくトウドウやユメはチームの中でも空中戦が得意なメンバーだ。
しかしそれでも、チャンピオンの力には遠く及ばない。
9。
それが彼等に残されている残機である。
「もう31回もやられたのかボク達は!」
「……そ、そうだね。流石に凄すぎる。手加減してくれない」
ユメは唖然とする事しか出来なかった。あのスズの狙撃を回避する彼女でも、チャンピオンはそれ以上の反応速度で彼女を撃破してくる。
三人は未だにチャンピオンの機体に傷らしい傷すら付けられていなかった。
「───でも、諦めたくない」
「それでこそユメだな! トウドウ! そろそろ何か案をくれ」
「……気持ちだけでは勝てないぞ。しかし、この31機は無駄ではない」
トウドウの言う通り。
彼等も伊達に負け続けた訳ではない。この31回の撃墜で、キョウヤの攻撃パターンや反応速度を身体に叩き込み───辛うじて瞬殺されないようにする事は出来る様になったのである。
「ここからが本番だよね! 後一人三回ずつしか倒されちゃいけないけど」
「数にとらわれるな。定石を打って倒せる相手ではない。そもそも一人三回落ちたら負けだ」
「あ、そっか。あと九回撃破されても良い訳じゃなくて、あと九回撃破されたら負けだもんね。でも、数にとらわれるなって?」
ユメにそう言ったトウドウは、彼の言葉の意味を理解出来ていない二人に対してこう続けた。
「俺が一度も落ちなければ、二人は合計で八回撃破されても良いという事になる。何も全員に均等に残機を配る必要はないという事だ」
「なるほど、トウドウは頭が良いな!」
「さ、流石メフィストフェレスの頭脳だね」
「……お前達が───いや、なんでもない」
眼鏡を曇らせるトウドウだが、一度ズレた眼鏡を直しながら彼は作戦を二人に伝える。
「───いけるか?」
「勿論!」
「任せて!」
散開する三機。さっきまで一緒に行動していた三人の行動の変化に、チャンピオンは彼女達を既に三十回以上撃破しているのにも関わらず口角を釣り上げるのだった。
「何か思い付いたか、それともこれまでの三十機も作戦か。だがしかし───」
接近してくる一機のMS。ユメのデルタグラスパーの急な方向転換に反応し、サーベルを抜くチャンピオン。
「───僕はガンプラバトルで手を抜く事はない!!」
重なり合う刃。
ユメのデルタグラスパーはダブルオーストライカーを装備していて、接近戦に特化している。
一瞬ならこうしてチャンピオンと刃を交わすことも出来るが、チャンピオンは甘くない。
これまで何度も、一瞬で切り払われてきた。そして、今回も───
「はぁぁ!」
「───トランザム!」
TRANSーAM
振り払われる刃。
しかし、トランザムで機体の機動力を上げたユメはチャンピオンの攻撃を紙一重で避ける。
それでも片腕を切り飛ばされるが、この戦いで初めてチャンピオンの攻撃を交わした瞬間だった。
「───ほう」
「やぁぁ!!」
トランザムにより機動力を増したユメのデルタグラスパーがキョウヤのAGE2マグナムにその刃を負ける。
圧倒的なスピード、しかし───キョウヤはそれら全てを受け止めきった。
「こんなに攻撃してるのに……。それでも!!」
トランザムの限界時間は三分と少し。
しかしその間は、キョウヤの機体スペックよりも機動力が上回っている。
それでも互角以下なのは、チャンピオンの実力があまりにも高過ぎる為だ。
「───それでも、私達は勝つよ!」
「その通り!!」
「背後か!」
ユメとキョウヤの交戦に割り込みを入れるイアのZガンダム。二本目のサーベルを抜いたキョウヤは、Zのサーベルを受け止めて不敵に笑う。
変形。
離脱してから再び変形しらライフルを構えるキョウヤ。狙いはZガンダムだ。
「踏み込みが甘ければ、交わされた後に落とされる!」
突撃してきたZガンダムに、次の攻撃を交わす術はない。放たれたライフルは、しかし───イアの前にたったユメの機体だけを貫いて爆散する。
「……彼女を庇った? だがこれで残り八機───おっと」
キョウヤに向け放たれるビームライフル。トウドウとイアからの牽制のような射撃だ。
「……弾にやる気がない。僕の攻撃を避けられる場所取りか。何を企んでいるのか───」
「───トランザム!!」
TRANSーAM
赤い粒子が光る。
「下か!!」
「やぁぁぁ!!」
再びキョウヤと刃を交えるユメ。それと同時に、イアとトウドウも距離を縮めて
「撃破された事で、トランザムを
先程まで使わなかったトランザムの大盤振る舞い。
いくらキョウヤといえど、トランザム中の機体を簡単に落とす事は出来ない。
それも、三十二機分───キョウヤの動きを覚える為に残機を使った彼女達ならなおさらだ。
「ここで彼女と戦い続けても消耗するだけか。……ならば、残機を減らせば良い!」
変形。
ユメに背を向けて、キョウヤはトウドウに接近する。
「もらった!」
「させない!!」
「───僕のAGE2マグナムよりも早いか!」
───しかし、トウドウとキョウヤの間にユメが立ち塞がった。
勿論、トランザム中とはいえトウドウを庇う為に真っ直ぐ突進したユメに反撃する余力は残っていない。
チャンスは逃さず、キョウヤはユメを撃破する。しかしその間にトウドウはキョウヤから距離を取っていた。
「……なるほど───」
不敵に笑うチャンピオン。
その背後から、赤く光る機体が急接近してくる。
「───そういう事か!!」
「───トランザム!!」
交わる刃。チャンピオンは目を見開いて、自分でも気が付かない内に前のめりになっていた。
「残機をトランザムが使える機体に回す事で、総合的な戦闘力を上乗せした! トランザムのタイムリミットを、味方のカバーに使う事で実質的になくす! 面白い作戦だ!!」
「せっかくチャンピオンと戦えるのに、なんの作戦も考えずにやるのは勿体無いから! 全部トウドウさんが考えてくれた作戦だけど!」
「彼女にGBNの撃破も含めて楽しんで貰おうと思って始めた事だったが、思いの外からダイアモンドの原石を掘り出してしまったようだね!」
弾き合う刃。
もはやユメごと撃つ事も戸惑わないイアとトウドウの射撃を交わしながらも、キョウヤはトランザム中のユメを確実に削っていく。
「だが、まだ僕には届かない!」
「……届かせる!」
ユメは戦いながら、このバトルが始まる前の事を思い出していた。
「───変則残機戦、ですか?」
キョウヤの提案。
それは、まだGBNの外に保護されていないイアがGBNでバトルを楽しむ為の───この世界のルールの穴である。
「残機戦では、機体の撃破は撃破扱いにならずに即リスポーンする。このシステム上、GBNではパイロットのデス扱いにはならないんだ」
「と、いう事は?」
「ボクもバトルが出来るって事か!」
「そういう事さ」
そうして、キョウヤはイアと何人かで変則残機戦を行う事になった。
───誰が戦うか。あのGBNチャンピオン、クジョウ・キョウヤと戦えるまたとない機会にメンバーのほとんどが手を挙げたのは言うまでもない。
そんな中で、そのチャンスを自分の力で手にしたのは意外にもトウドウである。
「俺が出る。……チャンピオンとの戦いで得られる物は大きい」
「珍しいなトウドウ。だけど、そう考えてるのは全員同じだ」
こういう事に消極的なトウドウの意外な言葉に口を挟むノワール。しかし、トウドウは眼鏡を曇らせながらこう続けた。
「俺にはチャンピオンとの戦いで得る物の中に、勝利へのビジョンがある。もしお前達に俺以上の作戦と戦略があるなら話は譲ろう。しかし、ただチャンピオンと戦ってみたいだけなら俺に譲ってもらおうか」
その言葉に即反抗出来る人物は、この場にはいない。
雰囲気を制したトウドウは、イアを片手で呼んでからメンバーを見渡す。
「ユメ」
「え? 私?」
「この中にユメという名前のダイバーは君しかいない。チャンピオンと戦えるのは前提イアを含めた三人だ。その前提をこうりょしてこの中で俺の作戦を実行出来るのは君しかいない」
そうしてトウドウは、二人を集めて作戦会議を開いた。
「ルールは残機戦、四十対一だ。文字どうり桁が違う」
「改めて聴くと凄い話だね。多分、イアちゃんの戦闘と撃破経験の為に多くしてくれたと思うんだけど」
「でもチャンピオンは一回落ちたら負けなんだろ? ボクら、四十回も戦えるんだから流石に勝てちゃわない?」
「……チャンピオンを甘く見るな。普通にやれば、俺達の残機が百機あっても勝てん」
トウドウの言葉に、イアとユメは口を開いて固まる。
そんな相手に勝つ方法があると言うのだから、それはそれで凄い。
「良いか? 使うのは残機三十機だ。一人十機。これで、出来るだけチャンピオンの動きを覚えろ。それまでは攻撃に気力を一切割くな。俺の指示通りに動いて、相手の攻撃を見ることだけに集中しろ。避けなくても良い。その後の事はこれが終わってから話す。……良いか、チャンピオンの攻撃を頭に叩き込め。それと───」
それが、トウドウの作戦だった。
「───戦える。トランザム中なら、キョウヤさんから二人を守る事だけはギリギリなんとか出来る!」
「───残り七機。ここに来て作戦を展開してきたということは、前半の三十機は集中して僕の動きを見極めていたといった所か」
激化する戦闘。
残り残機七。
しかし、ユメ達にも勝機がある。
戦いは終局へと向かっていた。