ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
刃が空気を切った。
切り裂かれたストライクの腕が地面に落ちる。
「俺にビームサイズを抜かせるとはなぁ、少しはやるようになったじゃねーか。アオト!」
「いやお前の狙撃なんて当たらないから! それよりも……勝負は近付いてからだ!」
ストライクと対面するのは黒いデュナメスガンダムで、その手に構えられているのはライフルではなく───
「───死ぬぜ、俺の姿を見た奴は!!」
───ビームの刃を持つ鎌だった。
☆ ☆ ☆
カットシー八機の編隊がメガファウナとデュナメスを囲む。
防衛時間には程遠く、状況が良いとはお世辞にも言えなかった。
「───ったく、接近戦は好きじゃないんだがな」
頭を掻きながらそんな言葉を漏らしつつも、ロックは口角を吊り上げて不適に笑う。
この距離では機能し難いGNスナイパーライフルを手離したデュナメスは前面のシールド以外丸腰も当然の姿をしていた。
「け、ケー君! タケシ君が!」
「アイツなら大丈夫だ」
カットシーを背後から追い掛けるユメが悲鳴を上げるが、その後ろから付いて行くケイはどうも冷静に返事を漏らす。
ケイのあまりの冷静っぷりにユメは頭を捻るが、いつか昔GPDでタケシが遊んでいた姿が脳裏に浮かんだ。
「───アイツの真価は接近戦だからな」
そんなケイの言葉にユメは「そういえば」と言葉を漏らす。
彼が昔から得意としていたのは───
「……言ってくれるぜ」
一機のカットシーが脚部からビームサーベルを展開してデュナメスに迫った。
GNフルシールドがサーベルを受け止める。しかし防御だけしていても勝てる訳ではない。
「やってやるよ!」
しかし唐突に、デュナメスはGNフルシールドを開閉してカットシーを突き飛ばした。
フルシールドを外したデュナメスの姿を見て、ユメは口を開いて固まってしまう。
「……何あれ、剣がいっぱい?」
それもその筈だ。
GNフルシールドに隠れていたデュナメスの身体には、至る所に実剣からビームサーベルまでありとあらゆる接近武器が仕込まれていたのである。
GNフルシールドの内側には長柄が仕込まれていて、ロックのデュナメスがそれを手に取ると柄の端から湾曲したビームの刃が展開した。
ビームの鎌。まるで死神。
黒いカラーリングとその風貌に、ユメは過去にGPDで遊んでいたタケシの姿を思い出す。
───彼が昔から得意としていたのは接近戦だ。
「───死ぬぜ、俺の姿を見た奴は!!」
抜刀したビームの鎌───ビームサイズで突き飛ばしたカットシーを切り裂くデュナメスHell。
さらにカットシーの爆発の中を突っ切ったデュナメスは、手近にいたカットシーをその刃で斬り伏せてから海面に蹴り飛ばす。
「まだまだぁ!!」
猛攻は止まらず、腰に装備したビームダガーを投擲して近くにいたカットシーの頭部を破壊すると共に接近。
そのカットシーの胸部を掴むと頭上から接近してきたカットシーに向けて機体を持ち上げてそれをぶつけ、二機をまるごとビームサイズで切り裂いた。
カットシーの爆発の中で、デュナメスHellがGN粒子を漏らしながらその刃を光らせる。
一瞬で四機のカットシーを撃破したデュナメスは、次の獲物を探すようにビームサイズを構えたまま爆煙の中に漂っていた。
これがタケシ───ロックリバーの力である。
「二機で来ようがなぁ!!」
そんなデュナメスHellを二機のカットシーが左右から襲う。
ロックは大鎌を横に持ち、そのまま機体を回転させた。周りを薙ぎ払ったビームの鎌が接近してきたカットシー二機を切り刻む。
爆散するカットシーを尻目にメガファウナの元まで戻ったデュナメスHellは、残り二機のカットシーに鎌を向けた。
「……クールに行くつもりだったのに」
そうして少し冷静になったロックは、辺りの惨状を見て表情を曇らせる。
ケイ達がどう思っているのかは知らないが、本人の中では
残り二機になったカットシーは、少し高度を上げてからライフルを構える。
接近戦は不利と理解したのかとロックは「CPUのくせに」と感心の声を漏らした。
しかし、背後から追ってきたケイのストライクBondとユメのスカイグラスパーが追い付いてくる。
スカイグラスパーが発射したミサイルがカットシーのフライトユニットに直撃し、エンジンが誘爆して機体が爆散した。
「やった! 倒した!」
「待たせたなタケシ、そっちに追い込む!」
次にストライクがビームザンバーで上からカットシーに迫る。
カットシーのサーベルは脚部に付いている為、反撃は間に合わない。しかし機体の高度を落として回避されたが、それでもうロックの
「……別に待っちゃ───」
上から降ってくるカットシーに向け、デュナメスHellが刃を背負って肉薄する。
「───いねーよ」
通り過ぎ側、払われたビームサイズはカットシーを見事に二つに分けた。
MISSION COMPLETE
爆炎と共にモニターにクリア報酬が表示される。二度目のミッションクリアにケイとユメがはしゃいでいる中で、ロックは一人俯いていた。
「……タケシ君?」
モニターに映るそんな彼の表情を見て心配げな声を漏らすユメ。
三人で初めて挑戦したミッションだったが、彼は満足できなかったのだろうか。そんな事を思って、彼女はロックの顔が映るモニターに手を伸ばす。
「───最高だな、GBNは。たまらねぇ」
しかし、ふとロックは口角を吊り上げて笑った。クールとは程遠い満面の笑みで笑う幼馴染みの顔がモニターに映る。
そんな彼を見てユメとケイも視線を合わせて笑った。
これからもきっと、楽しい日々が待っている。
翌日。
学校の昼休憩の時間。クラスが違うユメカだが、その日は態々ケイスケとタケシのクラスに顔を出して弁当を広げていた。
放課後まで待てない程に話したい事が沢山あったのである。話題は勿論、GBNだ。
「タケシ君、今日もGBNログインするの?」
「いや、今日は無理」
ユメカの言葉にタケシがそう答えると、彼女は「えー、なんでー」と頬を膨らませる。
「……俺はケイスケみたいにGBNのマシン持ってないんだよ。ダイバーギアだっけ? アレ高いんだぞ。あとロックな」
「そうなんだ」
タケシの返事に驚くユメ。
彼女は今ケイスケの家でログインしているので、何も気にしていなかったようだ。
「ログイン出来る店が遠くにしかないから、おじさんの店にマシンが置かれるまでは土日しかログイン出来ない」
「そっかぁ……。でも、店長さんのお店でGBNのマシンを買ってくれて良かったね。GPDのマシンが無くなるのはちょっと寂しいけど」
あの場所に集まってガンプラバトルをする三人の姿を思い出しながら、ユメカは少しだけ表情を曇らせる。
「また、アオトと皆であの店に集まれるだろ」
窓の外を見ながらふとケイスケがそんな言葉を漏らした。彼の言葉にタケシもユメカも頷く。
過去じゃなく未来を向いて歩けば良い。そうしたらきっと───
「そういやよ、なんでケイスケはダイバーギアを二つも持ってるんだ?」
話題は切り替わって、ケイスケが持っている二つのダイバーギアの話題になった。
そういえば昨日ユメカも気になって聞いたのだが、途中でタケシが来て話が終わってしまっていた事を思い出す。
「アオトに貰ったんだよ」
「え?」
「アオトに?」
ケイスケが質問に答えると、その答えに二人は目を丸くした。
アオトが家を出て、俗にいう家出をしてからもう五年が経つ。タケシもユメカも事故の日から彼の顔を見てはいないのだ。
ユメカは当時の事故で意識不明の重体の中、病室にアオトが来たという話だけは聞いていたがそれ以降彼の顔どころか声も聞いていない。
完全に音信不通。
分かるのは彼の父親曰く、遠くの親戚の家に住んでいるという事だけである。
連絡を取ろうと思った事だって何度かあったが、メッセージに返事はこなかった。
「事故の次の日だったかな……。家に居たら、突然アオトが来てさ」
ケイスケ曰く、家に来たアオトは何故だか沢山の荷物を持っていて。
その一部をケイスケに渡して直ぐに出て行ってしまったらしい。
その時に渡された荷物の中に、あの頃は今よりも高かったGBNの家庭用ログインマシンが二つも入っていたという。
「あと、これもな」
続けてケイスケはカバンからガンプラを取り出した。それは、彼がいつも持っているストライクBondである。
「ストライク……」
「あの事故の時、ユメカが守ってくれたアオトのガンプラだ。ボロボロになっちゃってたけど……俺が出来るだけ直して今使ってる」
事故当日、アオトの父が道路に投げたアオトのガンプラ。
ユメカはそれを守る為に道路に飛び出して事故にあった。
そんな彼女が守ったガンプラへのアオトの気持ちは分からない。
だけど、それを託されたからには想いを繋げないといけない。
そう思って、今のストライクBondがここにある。
「そのストライク、あの時のだったんだ……」
「殆どの部品は新しく作り替えたやつだけど、使える部品はそのまま使ってる」
こことかこことか、と。ケイスケはストライクBondの部品を指差した。少しだけ年季が入った部品がある。
「成る程な、それでケイスケがストライクを使ってた訳か。あの頃はクロスボーンガンダムを使ってたよな……。ん? あー、それがあのストライカーパックか」
なるほどな、と納得するタケシは購買部で買ってきたパンを口にしてから紙パックの牛乳に口を付けた。
釣られて弁当のご飯に手を付けるユメカの隣で、ケイスケはさらにこう付け足す。
「ストライクを渡された理由は分からなかったけど、GBNのマシンは多分……おじさんと二人でプレイする為に小遣いを貯めて買ったんじゃないかなって思ったんだよな」
あの頃小学生だった彼等には手の届かない品物であったが、アオトがずっと貯めていたお小遣いで買ったのならその理由には察しが付いた。
そこまでしても、あの頃GBNのせいで不貞腐れていた父親に何か伝えたい事があったのだろう。
「……だけど、アオトはそれを諦めて捨てるのは勿体無いからケイスケに渡した?」
首を横に傾けるタケシは、どうも納得のいかない表情でそう呟いた。
事故の事で店を閉めると言った父親とアオトが喧嘩した、という事だけは聞いている。
それで家を出て父親の為に買った物を態々ケイスケに渡した理由も分からない。
「アオトは俺に何かをして欲しかったのかな……。でも、その何かが分からない」
ユメカをGBNに誘ったのはそれから五年経った今だ。あの頃から、何処かで自分もガンプラから目を背けていたのかもしれない。
だから今更、アオトが何を考えていたのかを考えても分からないのだろう。
「……ダメだなぁ、俺は」
「そんな事ない」
ケイスケの言葉に、ユメカは箸で弁当の唐揚げを持ち上げながらそんな言葉を漏らした。
「ケー君が私をGBNに誘ってくれたから、今私達はここに居るんだよ。あの日、ケー君がGBNに誘ってくれなかったら私は今自分のクラスでご飯を食べてるもん」
そう言いながら、ユメカは箸で掴んだ唐揚げをケイスケの弁当箱の上には乗せる。
「いつかここに、アオト君だって戻って来る。四人で一緒に……遊べるよ」
もう一つの唐揚げをタケシのパンの上に乗せて、彼女は自分の弁当の唐揚げをもう一つ持ち上げた。
弁当箱には一つだけ唐揚げが残っている。
「くれるのか?」
「良いのか?」
ケイスケとタケシの言葉にユメカは短く「うん」と答えて、自分の唐揚げを頬張った。
続けて二人も唐揚げを口に運ぶ。
「ヒメカ特製唐揚げは美味しいなぁ。うんうん、最高の妹だ。絶対に嫁にはあげない」
自分の妹の自慢をしながら、残された一つの唐揚げを持ち上げるユメカ。
「いつか───」
いつかきっと、また四人で。