ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
大規模イベント
コンコンと扉を叩く音がする。
その音に、ユメカは頭だけを持ち上げながら「ヒメカ?」と扉に向かって声を掛けた。
ドアノックの主はその言葉に「うん」と短く返事をする。
「お姉ちゃん、入っても良い?」
「良いよ」
部屋に入って来る妹。
その姉であるユメカはベッドに横たわったまま、片手を上げて妹のヒメカを手招きした。
「どうかしたの? ヒメカ」
「あのね、お姉ちゃん。えーと、私明後日の日曜日……図書館が空いてなくて勉強出来ないから暇で。久し振りにお姉ちゃんと───」
「ごめんヒメカ……! その日、GBNで大切なイベントがあって」
「あっ」
言いかけた言葉を飲み込んで、ヒメカは視線を落とす。どうしたものかと慌てるユメカは、両手で体を持ち上げて───ベッドから崩れ落ちた。
「痛ぁ」
「お、お姉ちゃん!? 大丈夫!?」
両足の麻痺で彼女は自分でベッドから降りる事も出来ない。そんな彼女が自分でベッドから落ちるものだからヒメカは目を丸にして、焦って姉の元に駆け寄る。
「……ごめんね、ヒメカ」
そんな妹を他所に、ユメカは必死な表情で体を持ち上げた後、頭を床に着けて謝罪の言葉を漏らした。
「この埋め合わせは絶対するから……!」
「や、やめてよお姉ちゃん! とりあえず、ベッドに戻ろ? ね?」
平謝りする姉をゆっくり持ち上げてなんとかベッドに戻すヒメカ。体格差もあってか、ヒメカはそれだけで息を切らしながら「……き、筋トレもしないと」なんて本気の表情で拳を握る。
「わ、私の為にそんな事しなくて良いからね……」
「私はお姉ちゃんの為ならなんでもするよ」
そんな事を言ってもらえる妹とのお出掛けを断る事になったユメカは頭を抱えた。しかし、今度の日曜日のイベントはどうしても欠席したくない理由が彼女には───彼女達にはあるのである。
「えーと、イアちゃんだっけ。GBNで、お姉ちゃんが新しく出来た友達?」
「うん。ちょっとヤンチャだけど、それがまた可愛いんだ」
「可愛い……。私は、お姉ちゃんが楽しいなら、それで良いから」
「お出掛けは今度! 今度絶対行こ! 本当にごめんね、ヒメカ」
「大丈夫だよ。でもお姉ちゃん、GBNばっかりで身体を動かさないのはダメだからね。自分の身体の支えられないようなら、私と一緒に筋トレだから」
「き、筋トレは嫌だな……。うん、ちゃんと現実の身体も大切にするから」
「うん。約束だよ」
「当たり前だよ。日付決めよ」
そう言ってユメカはヒメカと予定が合う日を決めて、ヒメカは部屋を出て行った。
ヒメカとのお出かけも楽しみだが、まずは日曜日に開かれるGBNのイベントである。
「……お姉ちゃんと久し振りにデートだ、えへへ。お姉ちゃん、GBNをやっててもちゃんと遊んでくれるから……本当に大好き。よし、日曜日は筋トレしよう!」
なんて、何故か筋トレに励む事になる女子中学生。
そんな彼女を他所に───GBNでは大型イベントが開催されようとしていた。
☆ ☆ ☆
時は一週間前に遡る。
「超大規模変則スコア戦イベントっすか?」
「また珍しいイベントね。おじさんがGBN始めてから初めてよ、こんなの」
フォースネストで寛いでいたフォースReBondのフォース共通メッセージに、突然イベントが告知された。
その内容は、近々開幕するGBNの大型イベントへの招待状である。
「えーと、何々。総勢三百のフォースが競い合う大規模フォース戦闘、各フォースは撃破ポイントを巡って乱戦の中で輝く事になるだろう……。三百だぁ!?」
イベントのトップページの広告を読み上げると、ロックはその壮絶さに口を開けたまま固まった。
GBNにはそれこそ大から小まで数え切れない数のフォースが存在する。しかし、それでも三百という数字は同時に戦闘を行うという話からすれば大規模に超が付くのも納得だ。
「その三百のフォース、運営が上位勢のフォースを少し優先的に配置してるっすけど。他は抽選で選ばれたフォースが参加出来るみたいっすね。参加するフォースで有名なのは……チャンピオンのAVALONは勿論、第七機甲師団に虎武龍、SIMURUG、アダムの林檎、百鬼…… BUILDDIVERS(ビルドダイバーズ)」
「ビルドダイバーズ、AVALON」
ニャムの言葉に、ケイの頭の中で二人の男の顔が浮かぶ。また戦いたい相手、戦ってみたい相手。
「これ、参加しない手はないな」
「ボクはこれ、参加出来るのか?」
フォースネストの端でお菓子を食べながら聞き耳を立てていたイアは、ロックの背中に飛び乗りながらニャムが見ているコンソールパネルを覗き込んだ。
「えーと、詳しいルールは……何々───お、このルールなら前にチャンピオンと戦ったみたいに、撃破されても撃破扱いではなくリスポーンするルールなのでイアちゃんも参加出来るっすよ!」
「おー! ガンプラバトルだ!」
自分も参加出来る事に喜んで両手を上げるイア。そんな彼女を見ながら、カルミアはつい先日のチャンピオン───クジョウ・キョウヤの言葉を思い出す。
「……その機会は直ぐに訪れると思う、とかなんとか言ってたなぁ。あのチャンピオン」
「どうかしたのか? おっさん」
「んや、気になっただけよ。三百組のフォースといえど、GBNに数多あるフォースの中から選ばれるなんて
「確かに」
カルミアの言葉を聞いて、ロックは既に参加を受諾したフォースの名簿一覧を眺め始めた。
参加を拒否する事も出来るが、殆どのフォースはこの機会を逃そうとは思わないだろう。現にメッセージが送られてきて数分足らずで殆どのフォースが参加を受諾していた。
「……砂漠の犬、メフィストフェレスまで参加してるじゃねーか」
「本当に?」
その中に、ロックは見知ったフォースの名前を見付けて口角を釣り上げる。
強敵、ライバルとの戦い。
GBNのダイバーでその二点に燃えない者は少ない。
「本当だねタケシ君。これは、凄く面白そう……!」
「ロックな」
「他には───」
ロックに釣られてコンソールパネルの参加フォース一覧を眺めるユメ。
数多のライバル達の名前に視線を泳がせていると、彼女の目に一つのフォースの名前が止まった。
「───へ……」
「どうした? ユメ」
「ケー君、これ……」
ゆっくりと振り向いて、彼女の目に止まったフォースを指差すユメ。それを見て、ケイは目を見開いて固まってしまう。
「……アンチレッド」
参加フォース一覧の中にあった名前を無意識に口にするケイ。彼の言葉に、ニャムとカルミアとロックは驚きの表情を隠せなかった。
「兄さん……」
「セイヤ……」
「お、おいおい。なんでアイツらがこんなイベントに参加しようとしてんだよ。またなんか企んでんのか?」
NFTの事を思い出す。
結局砂漠の犬のアンディが怪我を負った事件は事故として処理されたが、それでもアンチレッドのメンバーがした事や起きた事を無視する事は出来ない筈だ。
運営は何も考えてないのか、本当にただランダムで選ばれた中に偶々アンチレッドが入ってしまっただけなのか。
「なーんかきな臭くなってきたわねぇ」
目を細めるカルミアに、ニャムは珍しく俯いている。そんな彼女を見て、カルミアは「これはチャンスだ」と短く声を掛けた。
「セイヤが何を思って参加表明に丸を付けたのかは分からないが、俺達はまたアイツと戦える。……話し合える。そのチャンスだ」
「カルミア氏……。そうっすね!」
「それに、せっかくの大型イベントよ。楽しまなきゃ損でしょ」
カルミアの言葉にメンバー達も首を縦に振る。
何はともあれ、目標の多いイベントになるのは確かだ。ガンプラや作戦、情報分析等、今からやって早い物なんて何もない。
「お前ら、やるからには目指すは優勝だ! 分かってんな!!」
ロックの機会に、六人は円陣を組んで声を上げる。
フォースReBondの新しい挑戦が始まろうとしていた。