ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
GBNのとある酒場で二人の男が話をしている。
「───第七機甲師団を抜けたい、か」
「大佐には悪いと思っているよ、心からね。でも、僕は勝ちたくなってしまったんだよ大佐に───第七機甲師団隊長、知将ロンメルにね」
第七機甲師団。
知将ロンメル率いるフォースランキング二位のフォース。
「君には副隊長を目指してもらおうと思っていたのだがな……。ふふ、残念だよアンディ」
砂漠の犬のリーダー、アンディは自らフォースを結成する以前───第七機甲師団に所属していた。
その第七機甲師団を抜け、新たなるフォースを作りたい───脱退前にアンディがロンメルに話した言葉である。それが後の砂漠の犬だ。
「残念、なんて言う割には嬉しそうじゃないか。傷付くなぁ」
「新たなるライバルの出現に憂いを感じるダイバーはいまい。私は君の門出を寂しく思うと同時に、君との戦いを楽しみにしているのだよ」
そう言ったロンメルはアンディに小さな手を向ける。
「……ありがとう、大佐」
彼はその手を取って頭を下げた。
「───強くなれ、アンディ。そして私の元に、今度は挑戦者として戻ってきてくれたまえ」
「───勿論だ」
その瞳には今も───
「───来たか、アンディ」
「───勝負だ、大佐」
───今も昔も、闘志を燃やす炎が映っている。
☆ ☆ ☆
戦闘宙域は激しく光を瞬かせていた。
「───第三中隊は編成を維持しろ。第一第二中隊、援護射撃のミサイル着弾と同時に第一派攻撃を仕掛けるぞ! 反撃が来るのに二秒もないと思え!」
「───カルミアさん!」
「わーってるよ!」
ガイアトリニティ大隊、そしてケイとユメの行く、第七機甲師団への攻略戦が幕を開ける。
その後方。
援護射撃の為に待機していたReBondのメンバーの一人───カルミアのレッドウルフ。
その巨体は伊達ではなく、背部に装備されたミサイルの量は戦艦の弾幕と比べても劣る事はない。
その大量のミサイルが第七機甲師団の作戦展開領域を襲った。
「大佐、ミサイ───」
「撃ち落とせ」
部下の報告前に指示を出すロンメル。展開中の小隊、迎撃ポディションの中隊がミサイルの迎撃体制を取る。
「よーし、敵の場所が分かるぞ。第一中隊、第三第四小隊は前へ! フォーメーションD、敵を撹乱しろ! 残りでここの敵を殲滅する。……落とされるなよ!!」
レッドウルフの放ったミサイルを迎撃する為に銃口を光らせるロンメル隊のMS。
これにより相手の位置を特定したアンディは撹乱と攻撃部隊に部隊を分けて周囲の敵の殲滅戦を開始した。
「第六小隊、右翼側の敵を片付けろ。第八小隊、ポイントCの小惑星だ。宇宙空間に上下はないぞ。真下にも気を配れ」
「はい! 隊長!」
アンディの指示でロンメル隊のMSを次々と撃破していくガイアトリニティ大隊。
殆ど損害を出さずに小隊一つ、中隊一つの計十機以上を撃破した手際をケイとユメは恐ろしくも頼もしく感じる。
「掃討完了か。八番機、損傷状態は」
「すみません隊長、ライフルと右腕をやられました。フェイズシフトはまだ使えます!」
「よーし八十点だ。第三中隊と合流してデルタの護衛に回れ。二十五番機は八番機の穴を埋めろ。棒立ちしていても敵から攻めてくるだけだぞ」
損害の把握、迅速かつ的確な指示。
これが本物の戦闘だ。
そう言わんばかりに、直ぐに第七機甲師団の迎撃部隊が集まってくる。
───しかしアンディの指揮により、それら全てを損害なしに撃退。
相手の戦線を押し留める事に成功したのであった。
「す、凄かったねケー君」
「この数の味方を動かしながら、相手の手の内も探っていくなんてな……。これがアンディさんの本当の力なのか」
以前の試合では、砂漠の犬はこちらの数に合わせて部隊を編成して戦っている。それでもそのバトルの行く末は敗北だった。
NFT優勝。
その輝かしい実績は確かな物である。
「……どう思う、リリアン」
「されてるわね。消耗戦」
「だよねぇ」
しかし、アンディの婚約者であるリリアンとの会話を聞いた二人は首を横に傾けた。
作戦は順調に進んでいる筈である。
何が引っかかったのか。
「確かに、僕らが仕掛けた方面の壁は薄い。ステージの端側は必然的に必要戦力が落ちるからねぇ、そこを狙った訳だが」
第七機甲師団の作戦展開領域で一番守りが薄いのはステージ全体の端の方面だった。
その位置から来る敵は少ない為であるが、勿論それを考えて考えないロンメルではない筈である。
「こうも簡単に突破出来るとは思ってなかったんだよねぇ。いくらこちらが有利とはいえ、敵に元気がなかった」
「元気、ですか?」
「相手さん、全員被弾してたんだよ。多分大佐の───ロンメル隊長の鼠取り作戦で囮役として損傷した機体で作った寄せ集め部隊だったって事さ」
アンディはそういうと「フェレットが鼠取り作戦とはよく言ったものだよねぇ」と苦笑してからこう続けた。
「大佐め、僕が来るのを見越していたか。ここから先は嫌な戦いになりそうだ」
「アンディさんはロンメルさんの事を知ってるんですか?」
「アンディはね、ロンメルの弟子だったのよ」
ケイの質問にそう答えるリリアン。
知将とも呼ばれるロンメルの弟子。
アンディの指揮能力の高さに、ケイはどこか納得する。
「とはいえ、こちらは前に進むより他に手はない訳だ。よーし、息を整えたら戦線を押し上げるぞ。あえて鼠取りに引っ掛かりにいくつもりでいけ」
「カルミアさん達もこのポイントまで前進で良いんですよね?」
「んー、そうだな。……こうしようか」
アンディが作戦をケイに伝えると、ケイは後方で待機しているメンバーにそれを伝えた。
戦線を押し上げる二つのフォース。
索敵用MSであるアイザックがその様子をロンメルに伝える。
「───後方部隊も一機を覗いて前進、か。被弾して戦闘続行不可能……と、思わせてのコマの一つか。私がそれを見逃すかと思っているのかな、アンディ君」
「大佐、どうしますか?」
「第十三中隊を下がらせて第十八、十九中隊で防衛ラインCを形成せよ。十三十四十五中隊を合わせた大隊で最終防衛ラインとし、消耗した所をプランAで仕留める」
「は!」
ロンメルの指示が隊全体に伝えると、ガイアトリニティ大隊を遥かに帰る舞台が一寸のズレもなく同時に動き出した。
統率力。
この戦いにおいて一番重要なのはまさにそれである。
戦いを左右するのは個々の力ではない。
作戦。統率力。指揮能力。それが戦闘だ。
「───来るぞ! 第一中隊、第二中隊、左右に展開しろ! 第三中隊は後方寄りに変形して援護射撃! ReBondの援護射撃に当たるなよ!」
ガイアトリニティ大隊は第三中隊とユメがMS形態に変形し援護射撃。その後方からはReBondのメンバー達からの援護射撃も飛んでくる。
そして左右に別れた中隊がロンメル隊の刺客を挟んで中央に寄せ、援護射撃の射線を通す作戦だ。
「う、撃ち落とせ!」
「させるか……!」
アンディに「今回は好きに動いてくれ。援護はする」と言われたケイは、出る杭を撃つように下手に動いた相手と一対一を繰り広げていく。
ロンメル隊の隊員は一人一人も凄腕のダイバーだ。
しかし、実弾兵装の多さは圧倒的にケイに有利である。ストライクBondの完成度とケイの操縦技術はその点も踏まえてロンメル隊の隊員と互角以上に渡り合える力を持っていた。
「……さて、順調過ぎるな」
ロンメル隊の刺客を次々と撃破するアンディ達。
敵を包囲する作戦は功を奏して、追い込み漁のように事は上手く進んでいく。
「───追い込み漁、か。なる程……やられたな!!」
───しかし、気が付いた時には遅かった。
「……な、敵が!?」
「……囲まれてる!?」
敵を包囲して追い込むように戦ったケイ達は、敵が逃げた中心に向かって少なからず密集してしまっている。
そうして密集してしまった彼等を逆に
「───アンディ、君の戦術は確かに素晴らしい。ロンメル隊の精鋭をここまでほぼ無傷で撃破出来るのは君と彼くらいな物だ」
包囲網の中心に現れる一機のMS。
グリモアレッドベレー。
第七機甲師団隊長、知将ロンメルの機体である。
「……大佐自ら登場とはねぇ」
「……あれが、ロンメルさん」
目標である敵将。
その姿を見て操縦桿を強く握るケイ。それに対してアンディは普段通りの態度でかるくちを叩いた。
「確かに素晴らしい、という事は……大佐の戦術は僕の戦術を上回ると言いたいって事かな」
「否」
フェレットの顔から
「───君の素晴らしさは戦術に過ぎない。私はその上をいく。……分散させた戦力の穴を突いてくる事を予測し、最小限の損失で君達を消耗させ、手札を切らせる。私が行っているのは戦術の上、戦略だ!」
グリモアレッドベレー他、数十機のMSの銃口がアンディ達に向けられる。
アンディは冷や汗を垂らしながらも、不敵な表情で小さく笑っていた。
「戦術が戦略を超える事はない。さぁ、ロンメル隊の力……思い知るが良い!」
銃口が火を吹く。
知将ロンメルの戦略がアンディの戦術を貫こうとしていた。