どうやら氷川家の長男として生まれたらしい 作:さんず
転生したのかもしれない。
なぜ「かもしれない」なのかと聞かれれば、それは俗に言う前世というやつの記憶が殆どないからだ。
どうやって死んだとか昔住んでいた家なんかはもちろんのこと、何歳まで生きていたかも覚えていないし、そもそも前世の自分の名前すらも覚えていない。
いや、自分で言っていて大概なんだが、本当に転生したんだろうか。
ここまで何も覚えていないのならもう転生していないのと変わらないんじゃあないだろうか。
だってそうだろう。
知らないものであるならば、それはないのと何も変わらないのだから。
幽霊は本当はいるのかもしれない。しかし見えない。だからいない。犯罪はあるのかもしれない。しかしわからない。ならそれはないのと同じだ。貧困の差はあるのかもしれない。しかしそれは身近には感じられない。であれば関係のない事だ。いじめは存在する。でも、誰も何も言わないだろう。見えていたとしても、なかったかのように過ごすだろう。だったら、それは「ない」のと同義なんだよ。
いくらそれが真実であれども、それを認知する、しようとする存在が現れなければ影を踏むことさえ出来ないだろう。
つまりだ。
それを認知できていない今、解は「転生をしていない」となるはずだ。
しかし、「俺」は間違いなく転生を経て今ここにいる。それは何人も否定することのできない事実なのだ。
なぜ俺がそこまで断言するのか、誰もが納得する形で答えよう。
俺は二歳だ。
そうだ。
今まで語られた回想は、全て二歳児の脳内で起こった出来事だ。
世の中の二歳児というものは、こんなにも口が達者で、皮肉屋で、どうしようもなく冷めているものだろうか。違うだろう。いや、違っていてほしい。これは俺が異常なだけだ。
と、ここまで考えて、そもそもこんな思考をするのは二歳児には出来ないだろうと。
そこまで考えればもう答えは出たようなものだ。
俺はすでに一周しているのだ。
そうだ。そうであれば全て辻褄が合う。
やけに頭が回ることに関しても。どこか人を下に見てしまっていることも。凡そ夢と言ったものを想像できないでいることも、だ。
殆どのことを覚えていない俺だが、自分が過去何を考えて生き、そして死んでいったのか。それだけは何となくだが覚えていた。
「自分」に意味を見出せない人生だった。
どこにあるかもわからない「それ」を求めてさまよい続けた、そんな恥の多い人生。
自分が生きる意味が欲しくて、でもどこを探してもそんなものはなくて。
ただ風に吹かれるように生きた。
やりたいことなんてないよ。
将来の夢なんて考えたこともない。
今をこうして生きているだけで精一杯だ。
何で生きているのかと聞かれれば、「まだ死んでいないからだ」と答えるほどには荒んでいた。
そうやって生きて、生き続けて。
何度自分という存在を呪ったかわからない。
こんな無価値な人生になんの意味があるのかと、自問し続けた。
でも.....悪い人生じゃなかったはずだ。
捻じ曲がって、たしかに普通とはかけ離れていたかもしれないけれど。
それでも悪くなかった。そうやって終われた人生だった。
だからだろうか。
今の俺にもそういった感情が少しは残っている。
自分に意味を見出すことが出来ない。
何もかもが馬鹿らしく思えてしまって、本気で取り組むということが出来ない。
しかし、それだけではない。
「....にぃに.....」
俺には妹がいるんだ。
ひとつ下のまだ会話も成立しないような娘だが、俺にとっては可愛い妹に他ならない。
あぁ。こんな曲がり切った俺だけれど。
どうしようもなく何もない兄をどうか君たちのために生きさせてくれ。
こんな俺でも誰かの生きる救けになれるのならば、それはきっと俺が生きた意味になるから。
「俺の妹に生まれてくれてありがとう」