妖怪狩りの男 作:ピープレ
ベルセルクって面白いよね。主人公のガッツが、大剣を振り下ろして化け物を薙ぎ倒すシーンは今でも俺の憧れである。ダークファンタジーの金字塔という事もあって、色々とドス黒い展開も好みだ。
そして何より、ガッツの格好良さがグッとくるんだよなぁ。人間の力でどこまで化け物に対抗するかってのが俺のアイデンティティにクリティカルヒットしてしまうんだ。
だけどね、だからといって。
俺はそんな世界に行ってみたいとは一言も言ってないよね?
毎日、俺はそんな虚しい思考を巡らせる。無駄だといっても、元の世界に帰りたいと願わずにいられないのは温室育ちの幸せを今になって惜しいと感じているからだ。
結論から言うと、俺こと一般人は昔の日本へと逆行しました。
時代は平安。チラ見した都を覗き見した時、町を牛車で移動していた貴族達が顔を白く、口を黒く塗りたくり、煌めいた装束を身につけていた事から確信した。
…とはいえ、平安といっても100年以上は確か定義されている為、現在がどの様な時代情勢か全く見当もつかない。
歴史の勉強なんてあまり覚えていない。平安なんて、紫式部と枕草子がなんか小説書いてたぐらいしか覚えていない。
…あれ?枕草子って偉人だっけ。まぁ、考えてもどうにかなる訳ではない。彼女らが俺と今を生きているのかも知らないからな。
それよりも、一番驚いているのは妖怪の存在だ。平安時代は妖怪が闊歩していると聞いた事があるが、それにしても多すぎだろう。今日の山道を歩いて10匹以上は遭遇したぞ。陰陽師は仕事してるのか?
そいつらから逃げ切った結果、俺は廃村となった村の一小屋へと引きこもっている。今は深夜なので無闇に外へ出たら、化け物達に襲われかねないからね。後、山賊とかにも撲殺されるかもしれない。
ただひたすらに息を殺すだけだ。護身として、死体から取り出した刀を胸に抱いてみる。
死体の分捕りなんて、現代からすると犯罪として認定される。しかし乞食として忌み嫌われつつも、この時代は特にお咎めがない。というか、それ以前に都以外の治安が世紀末である、
農民という弱者は、賊という強者によって虐げられる時代。その上、貴族によって糧も奪われてしまう始末。更には妖怪が巣食う平安の世。
もうこれは修羅と言わざるを得ない。
なので、倫理とか道徳とか関係なしに自分の身は自分で守るしか生きる術はない。
捨て子として生まれ、この時代が平安と知った俺は名前通り平穏な生活になるだろうと思っていたものの、この仕打ちだ。
先程俺はベルセルクの話をしたが、この俺の境遇と修羅の世界を比較すると何となく似ている。所謂、和風ベルセルクだ。
しかしガッツの様に強くもないし、度胸がある訳でもない。ヌクヌク生活に嵌っていた俺には到底厳しすぎる。
神様、仏様助けて…。俺は手を合わせて祈る。神頼みなんて情けない話だが、こうでもしないと俺の精神がもたない。早く、夜が明けますように。
あれ?これガッツがいたら怒ってたヤツじゃない?手がふさがるとか云々。
意味のない独り言を頭の中で呟いていると、小屋の窓から光が射し込んでいる。いつの間にか、日が昇り始めていたらしい。
俺は、今日も生き残る事ができた喜びに感嘆した。
「やっほほほーー!!!よし、次はちゃんとした宿場に泊まるしかないな!!」
小屋を勢いよく開けて、俺は太陽に背伸びした。…が、
「グルルルル…」
「え?」
近くにいたのは、俺を追いかけていた狼型の妖怪。唸り声を上げて、俺を血走った瞳で見ていた。最初に遭遇した時と何ら変わりのない執着を表す、濁った瞳。
(待ち伏せ)
俺は一瞬で事の状況を把握した。そして刀を抱き上げ、妖怪に背を向けて逃げる。今の俺は肉食動物の標的にされた、か弱い草食動物。
だけど、俺には秘策があるのだ。無様にやられる訳にはいかない!!
「誰かァァァァァ!!助けてぇぇぇ!!」
生きてきて始めてかもしれない。こんなに大声を出したのは。
だからだろうか。山はそれを褒めてくれる様に、木霊で返してくれました。
——
先程、俺は狙われている草食動物とは違うと、豪語したがそれは間違いだった。いくら叫んでも、助けは全く来ないのだ。というよりも、人と遭遇する事がなかった。
俺が走り回っている山道は都の近辺にある場所。普通ならば旅人とか貴族達の手紙を運ぶ、文使い達が歩き回っているが、今日に限っては一向に見当たらない。
それに加えて、刀が重いのなんの。アニメや漫画では細身の少年や、少女達が木の棒を振り回すように簡単に扱っているが、実際の刀の重さは感覚からして3kg以上はある。それを抱えて走る事は至難だった。
そのおかげで、俺の筋肉はもうクタクタだ。いっそのこと刀を放り投げようかと考えたが、追い詰められた時の保証と思うと、中々に手を離す事が出来ない。
こうなると本格的に奴を殺さなければ、俺は生きる意味すら見出せずに死んでしまう。それだけはなんとか避けるべきだ。
戦闘を決意し、走っている中で無造作に道に生えていた雑草を毟り取り、俺は口に含む。青臭さと土で思わず吐き出しそうになるが、そこは我慢する。これが俺にとっての唯一無二の必殺技だからだ。
足を止め、俺は振り向けざまに刀を抜いた。過去に何回も刃を妖怪に向けたことはあるが、それは威嚇によるものが多い。
しかし、今回は違う。正真正銘、敵を斬り殺すために刀を掴む。
「ガァァ!!」
「っ…うおっ!?」
狼型の妖怪も飢えていたのだろう。刃を向けていた俺に対して、躊躇なく飛び掛った。
襲い掛かる牙に対して、刃を横にして防ぐ。眼前には牙と、口から漏れ出る涎が合間見え、少し股間に湿り気を覚えてしまう。
男として情けないが、それを挽回するには奴を殺すしかなかった。
目の前で大きく口を開いている妖怪の目に向け、俺は思いっきり口の中に含んでいた雑草諸々を吹き出した。
「ギャンッ!?」
雑草と涎の混じった汚物が目にかかって、思わず妖怪は怯んでしまう。これが俺の必殺技である毒霧攻撃だ。これを喰らった奴はもれなく怯んでしまう、強力な技。しかしこれは使ってしまうと相手が警戒してしまい、二度の手は通じることができない。一度っきりの技。
だからこそ、隙を見逃す事は許されない。
「うおらぁ!!おら!おぅら!」
「グペェ!!」
怯んだ妖怪の頭に、体重をかけて刀を振り下ろす。日本刀の扱いはど素人なので、1発では斬り落とす事ができず、何回も振る必要があった。なので、この殺し方は撲殺に似たものである。
肉塊へと変貌した妖怪。何ともグロテスクが強すぎる光景だが、人間が妖怪に貪られている現場を何度も見た事がある。今では、別に嫌悪感はなかった。精神がだいぶイかれていると、常々自分でも思う。
「あ、あぁ…」
「ひっ…」
自分では良いと思っても、側から見れば狂人にしか見えない。それが今の状況…というか、あの貴族達がいつの間に俺の数歩先で呆然と立ち尽くしていた事に、今更ながら気づく。これはどう対応するべきなのだろう。妖怪の血を浴び、刀を持ってしどろもどろに挨拶するなんて、恐怖でしかない。衝動性で殺す奴に他ならない。
なら、ここは敢えて格好つける事によって、手練れの剣士と思わせるのが吉だ。そうすれば殺しに慣れ、知的な部分を醸し出す事ができる。話ができる人間だと思ってくれるはずだ。
「こんにちは…でござる」
「うわぁ…」
「えぇ…」
はい、大失敗。貴族達に物凄く引かれました。
久しぶりにレッツゴー陰陽師見て書きたくなりました(何故か)