通りすがりの警察官だ、覚えておけ 作:だぶる
「話ができるヤツ連れてこい!こんなデタラメなガキの言うことで犯人扱いしやがって!訴えるぞ!クソガキ!!」
店の外ではつつがなく推理ショーが始まったかと思えば、容疑者(?)が逆上してキレている。今にも殴りかかろうとしている男の腕を咄嗟に掴んだ。
はじめ、俺は通行人A的な立ち位置で大人しく聴き込みを受けていた。うっかりヘタレの高木刑事に事件当時どうしていたのかと聞かれたので「ナポリタンを食べていました」と俺が答える。それに降谷が「えぇ、僕も居ましたよ」と頷いている。
「まもり、さんですか......」
「?......どうかなさいました?」
「いえ、あの、その......警視庁で有名な方と同じ苗字だったので」
左手で頭を軽くかきながら高木刑事が目線をそらしながら言った。
その様子に「へぇ、どんな方なんです?」と降谷が問う。心なしか面白そうな表情をしていて、俺的第六感が警報をならす。俺が止める前に、おしゃべりな高木刑事はペラペラと話し出す。
「僕はまだお会いしたことないのですが、有名な監察官がいまして......同期だろうが誰であろうと完膚なきまでに相手の精神をグサグサ刺していく様が【メンタルクラッシャー】とか【破壊者】って恐れられているんです」
や、やめてくれ......俺をそんな中二病みたいな......
「人から聞くのは悪評もありますけれど......人事異動や警察の労働改善に尽力していて、ここ数年はその監察官のおかげで警察内にクリーンな風が通しやすくなっているんですよ!」
そんな尊敬してます!っていうキラキラした目で俺を語ってくれるな。ものすごくいたたまれないから。苦虫を潰した顔をした俺を降谷が妙に機嫌よくしているのが、腹が立った。
そして、冒頭に戻る。腕を離し、まずは世間話でも、と席にすすめる。
「貴方は記者の方でしたか......」
「あの漫画家には面識も何もない!」
渡された名刺には週刊誌のライターであることが記されていた。この雑誌にはたまにガチネタが転がっているので、なかなか侮れない。そのネタに汚職警官がいないか目を光らせているのでゴシップ記事もわりと目を通していた。
殺人のトリックを江戸川コナンに指摘されたが、容疑者はそれを真っ向から否定し、毛利探偵に「このクソガキのせいで不愉快だ!」や「慰謝料よこせ!」と、わめき散らしている。それに毛利探偵はタジタジになって、「この坊主には言い聞かせますので、怒りをどうかおさめてください」と謝罪している。
保護者も大変だな......せめて眠りの小五郎が事件を解決していたらこんなめんどくさい状況にならなかっただろうに......まぁ、主人公:工藤新一がそうしなかったのは、隣に居座っている同期:ゴリラゴリラゴリラがいるからだろうな......アイツ、人間やめってからマジで。
遠い目をしながら、なんとか自白に持っていけないかと策を練る。
そもそも死神こと江戸川コナンがいる時点で、この容疑者のトリックは残念な結果になったけれど、所詮 子どもの言うことだからか......信用性に欠けると主張している。
ふと、被害者の漫画家先生の作品を見て、点と点が繋がった。この容疑者と被害者の接点が。
この犯人がこんなに必死になって否定し続ける理由。流石の名探偵も動機までは行きつけなかったらしい。そもそも犯人は被害者と接点がないと真っ向から主張し、
「身に覚えがあるからじゃないですか?」
「は、......!?」
俺が自分の鞄からある漫画を1冊取り出すと、明らかに表情が変わった。
「ですから、貴方に身に覚えがあるのではないかと聞いています。この作品の主人公は貴方と同じ記者、そして特ダネのためならなりふり構わず追い求める姿勢......」
「俺をモデルにした作品だと?」
「その通り!モデルは貴方です。誰が読んだって貴方ですよ~。皆、そう思って読んでいる。事実、どのエピソードも貴方の実話と言っていいくらいだ。」
犯人の顔が強張っていく。全部が実話なのか知らないが、男の顔をみれば間違いなさそうだ。
「ッ!......そうだよ!!だから名誉毀損であいつを
―――かかった!
それから始まる懺悔もとい開き直りもとい自白タイム。心優しい人情溢れる人たちは涙ぐみながら犯人に同情的な空気になっている。
......なんだ、この茶番。この容疑者、殺人犯だぞ?わかってるのか?
「名誉毀損されたから仕方なかった?まさか自分はこんな人間でないと言うつもりですか?」
その大団円な空気に水を差すように俺は切り込んだ。
パラパラとページをめくり、
「媚びへつらった表情でお堅いお役人に近づいて酒を呑ませたり......」
またパラパラとページをめくり、
「こんな甘い言葉をベッドの上で囁いたり......」
またパラパラとページをめくり、
「気色の悪い顔で自分が記事に書いた人間が堕ちていく様子をみて悦に浸る......」
パタンと本を閉じる。
「貴方そのものじゃありませんか」
何か間違いでも?という顔で犯人を見つめる。
「金に溺れ、女に溺れ、調子こいてデタラメなゴシップ記事を世に出して、下手を打ってこれから牢屋にぶち込まれるマヌケ」
嘲笑うようにいえば、犯人は口をハクハクさせている。図星すぎてなにも言えないのか......
「貴方の名誉を毀損したのはこの作品でもなく、ましてや亡くなった作者でもない。
貴 方 自 身 ですよ」
犯人の顔を覗き込むと、ヒッと怯えられる。
「表現の自由を旗に掲げ、真実を追い求めていた記者が暴露本を出され、自分が批判されたとたん規制主義者に転向ですか?
不満があるなら言論統制され、自由にものも言えない独裁国家へ亡命することをおすすめします。ま、暫くは刑務所で健康的な暮らしを送れるので有意義に過ごされるといいですね」
そこまで言うと、犯人はわぁぁぁと泣き崩れた。連行されていくのを見届け、困惑気味な視線を複数いただいた。
「通りがかりの同業者ですよ」
肩を竦め、困ったように言うと、
「同業者って、アナタ警察?所属は?」
気の強そうな女刑事から訝しげに訊ねられた。ショートカットで高木刑事と一緒にいたとなると、佐藤刑事か?
「......あぁ、申し遅れました。警視庁警務部監察官室 監察官の
口をあんぐりあけた捜査一課の面々と青白い顔をした高木刑事の顔が面白くて心の中で吹き出した。