ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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プロローグ 赤い月から蒼き涙が零れ落ちる
第1話 伝説の始まり


 厄災ガノン討伐から一年後、世界の果てにある灼熱と荒涼の風が吹き荒ぶゲルド砂漠。

そこに浮かぶ陸の孤島、ゲルドの街。

今、この島の片隅に住まう家族の下に1つの命が産声を上げた。

 

夫婦と姉達に祝福され産まれたその子はリンクと名付けられた。

ゲルド族では非常に珍しい名前である、どちらかというとハイリア人のヴォーイ(男)みたいな名前である。

 

 何故このような名前になったかというとそれは一年前に遡る。

夫が命にかかわる重い病気にかかり倒れたのだ。

妻であるメルエナが病気を治すために駆けずり回っていたのだが、薬を作る為にモルドラジークの肝が必要であった。

 

モルドラジークは広大な砂漠の主を言われるほど巨大な体躯を持ち、巨体に似合わぬ速さで獲物どころかすべてを飲み込む砂上の怪物である。

強靭なゲルドの戦士とはいえ一人でこの怪物を倒せるとなると御付きのビューラくらいのものだ。

 

この生き物の肝を手に入れるのは命懸けと言える。

それだけに非常に貴重で世界最大の交易の場として知られるゲルドの街でもまず市場に出回らない。

凶暴な魔物達でさえ、モルドラジークには挑まないのだ。

並みの戦士では無謀と言える。

 

 それに加えてタイミングが悪かった。

かつてゲルドの守護神であるはずのヴァ=ナボリスが突如としてゲルド砂漠に現れ、調べに行った族長を察知すると落雷と砂嵐を操り彼女に襲いかかったのだ。

 

この騒動でナボリスを確かめに行っていた族長のルージュが負傷し、ビューラは彼女に付き添わねばならなかった。

当然の事だ、族長であるルージュには跡継ぎがいない。

彼女の身に万が一があれば、それはゲルド王家の終焉と言えるからだ。

 

 更に更にとてつもなく間が悪いことに随一の手練れであるビューラが街の警備から外れている間に、ゲルド族の神器『雷鳴の兜』が盗まれてしまった。

 

神器が盗まれた、ただそれだけで済むのならばまだ良かった。

何が問題かというとその神器が持つ効力である。

 

『雷鳴の兜』は雷を打ち消してくれる性質を持っている。

これがないという事は暴れ狂うナボリスの電撃を打ち消せず、止めに行くこともできない。

消炭にされに行くようなものだ。

 

つまり、最悪のタイミングで絶対に必要なものがピンポイントで盗まれてしまったという事だ。

ルージュは目の前が真っ暗になる思いだった。

自身の力不足が招いた結果と己を許しはしなかった。

 

 この件でルージュを責めるのは酷であろう、守り神である筈のナボリスからの不意打ちだ。

 

雷のような一瞬で来る攻撃をよけるというのはまず不可能といっていい。

そもそもが彼女自身、先代族長である母が崩御されたばかりで急遽就任した身だ。

その為、本来ならば務める筈のない10にも満たない齢なのだ。

族長としての最初の試練にはあまりにも重すぎると言っていい。

 

 ゲルドの街は大混乱に陥った。

すぐにでも荷物をまとめ砂漠から離れようとする者。

石造りの家の窓に石や木で補強し、立てこもろうとする者。

どうしていいかわからず、理由なく街の中を慌ただしく駆けずり回る者。

 

 元々厄災ガノンによってほとんど崩壊した世界だ、余裕などない。

ナボリスは荒れ狂いながらゲルドの街へと進路を取る。

盗んだ者達も相当の手練れのようで、神器を取り戻せる目処が全くといっていい程立たなかった。

 

神器を取り戻せないままナボリスの襲撃が起きてしまえば一族の存亡にかかわる。

ナボリスの雷撃によって蹂躙され多くの民の血が流れるだろう。

 

よしんば被害から逃れたとしても待ち受けるは魔物の跋扈する広大にして過酷なゲルド砂漠。

死を運ぶ風によって容赦なく命を刈り取ってゆく。

満足な準備が出来なければ、途中で力尽きるのが関の山なのだ。

 

何とかしてはあげたいが、とてもではないがメルエナの夫の為にモルドラジークを倒しに行ける余裕はなかった。

 

 

 そんな時である、ゲルドの街にハイリア人の若き女性が現れた。

ゲルドは熱砂の街である為か、素顔を隠していたが、相当な美人であることがわかった。

 

時間が過ぎていく間も夫がどんどん衰弱してゆく。

それなのに何もできないメルエナは途方に暮れていた。

 

そんな彼女を見てどうしたのかと女性は相談に乗ってくれる。

藁にも縋る思いで彼女に事情を話した、夫を助けたいのに自分には何もできない。

 

何日も街を駆けずり回り、あらゆる場所に頭を下げて探してみてもモルドラジークの肝は手に入らず、人手を借りられる訳でも無い。

 

ゲルドの街だってこの状況だ、夫1人の為に兵達を割ける訳では無い。

 

ただ静かに耳を傾け一通り聞いた後、女性はすぐに過酷な砂漠へと走っていった。

広大なゲルド砂漠に女性が単身で乗り込むのは非常に危険だ。

砂漠の民である、自分達ゲルド族ですら整備された道以外は進まないのだ。

そう言う意味で、もはや無謀な行動と言える。

 

 時間にして半日だろうか、再び女性は戻ってきた。

その手には砂で汚れない様に丁寧に包まれた布がある。

包みを開き、その人はメルエナに渡した。

メルエナの手が震える、それは紛れもなく治療のために必要なモルドラジークの肝だった。

 

良かった―これで夫は助かる…。

メルエナの双眸から雫が零れ落ちる。

目の前の女性はあったばかりの自分の為に命懸けであの怪物に立ち向かってくれたのだ。

せめて名前をと聞くと女性は少し照れながら応える。

 

 リンク

 

100年前、当時の族長とともに戦った英傑の青年の名前だ。

まさかの女装とふと思ったがそんなことは些末なことだ。

メルエナにとってその女性は女神に見えた。

 

メルエナは約束する、もし次に子が産まれたら「リンク」と名を付けることにすると。

あなたのように優しく、勇気のある子に育って欲しいと願いを込めて―

 

――

 

 この子の父が、姉達が喜んでいる。

燃えるような赤い髪をした愛しい我が子の誕生を

力強い泣き声は丈夫な証、立派な赤ん坊だ。

 

それとは対照的に産婆の表情はあまり優れたものではなかった。

母子ともに健康上の問題はない、母であるメルエナとも仲が悪い訳ではない。

むしろ仲は良いぐらいだ。

 

 では何が問題だったか、それはゲルド族の男の子であったということだ。

はるか昔よりゲルド族は女の種族である。

男が産まれることはかつては百年に一度で、ここ数万年程は、誰一人として生まれなかったらしい。

まずありえないと言ってもいいぐらいだ。

 

かつてなら男のゲルド族は王となる掟が存在していたが、長きに渡る年月の間にゲルドを守る存在へと変わっていったらしい。

 

これはゲルド族にとって吉兆となるか凶兆となるかどちらに転ぶかはわからない、願わくばこの家族に平穏をと願う産婆の姿があった。

 

この日、赤く染まった月から涙が流れ落ちた。

 




この度はゼルダの伝説 蒼炎の勇導石を読んで頂きありがとうございます。

ミニチャレンジ「モルドラジークの肝」から構想を得た作品です。
クリア後の選択肢でリンクと名乗ると、メルエナが赤ん坊にリンクと名付けようとすることからこの子が主人公の作品があってもいいと思った次第です。

これからも、末永く見守っていただけると幸いです。
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