ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第11話 露見

 翌朝

 

 帰るためにもいよいよ砂漠を乗り切らないといけない。

昨日入手しておいたゴーゴーダケを使ったゴーゴー串焼きキノコは淡泊ながらもどこか落ち着く風味がありあっという間に平らげてしまった。

 

(なかなか美味しいキノコだなぁ。移動力も補えるし取れる場所だけが悔やまれるよ)

 

ゲルドの街への中継点でもあるカラカラバザールへと再び戻るリンク。

串焼きキノコの効果もあり快調に足が動く。

しかし、この料理には耐暑効果はないので体力の消耗までは避けられない。

ヒンヤリ煮込み果実が恋しくなってくる。

 

(あっつい…いくら早くつけるとは言っても、砂漠ではヒンヤリメロンを使った料理の方がいいかな…)

 

今ある食材は多少残っているゴーゴーダケとポカポカの実ぐらいである。

こんなに暑いところでポカポカの実なんて食べようものならあっという間に脱水症状で倒れてしまうだろう。

ゲルドキャニオンの馬宿は乾燥地帯なのか水も少なかった。

 

(食料などの資源は適材適所があるか…。仕方ない、体力的にきついけれど一気にカラカラバザールまで進んじゃおう。のんびりしてたら干からびちゃうよ…)

 

覚悟を決めたリンクは砂漠を駆け抜ける事にした。

理想を言えばヒンヤリメロンなどを使った料理と水を飲みながら進みたかったが、ヒンヤリメロンは持ってはいないし水も少ない。

なるべく砂漠にいる時間を減らす方針にしたのだ。

 

――

 

 カラカラバザール

 

(な、何とかついた…み、水が欲しい…)

 

 急ごうと決めたこととゴーゴーダケの串焼きによる移動力の上昇があったので行の時よりも2、3時間ほど早くオアシスへとたどり着いた。

今のリンクにとっては交易場ではなく豊富な水のある場所という事がとても大事だった。

 

(ああ、水がこんなに美味しいなんて思わなかった…。できる限りしっかりと水は持っておかないとな…。できる事ならルピーもある程度は持っておいた方が良さそうだ。)

 

オアシスの近くで体を休めることにしたリンク。

休めるとは言ってもゲルドの街までの帰る準備はしておく必要がある為、水を汲んでおくなどやることはある。

現在もルピーは全くないので宿泊は出来ない。

長い間走り抜けたので疲労だけでなくお腹も空いている。

 

「そういえば崖の上にキノコが生えてたみたいに、木の上にも何かあるかもしれないな。ちょっと登ってみよう」

 

お店で買うこともできない、略奪などもっての他だ。

リンクはこのあたりで食べられるものを探すために木の上に登ってみた。

 

(あっ、こんなところに実がなっている!いくつか頂いて行こう)

 

それはゲルドに街には売られてないが、この市場で売られているヤシの実であった。

こうやってなっているのか、だからカラカラバザールでも売っているのか。

ティクル姉ちゃんが喜ぶかな?いくつかはお土産にしようなど、色々とリンクは思案する。

 

調理したてのヤシの実の煮込み果実はココナッツオイルの濃厚な甘味が効いており滲みわたる気分だ。

空腹と疲れ切った体にとってそれは替え難い癒しそのものであった。

 

身体を癒している間にも時間は過ぎてゆく。辺りはすっかりと暗くなり、砂漠は荒涼とした表情を浮かべる。

リンクは料理をするときに使っていた焚火に当たり、体調が整うのを待った。

そして、真夜中になろうという時間帯に街へ向かって駆け出した。

 

(砂漠にはちょうどいいといえる気温はない。冷やすものが無くてポカポカの実がある以上、行動をするのなら夜にするべきだ。)

 

寒さ対策の物資だけがあるのならば、夜の砂漠の間に砂漠を抜けるべきだろう。

時間が経ち日が昇るにしても街へある程度進んでいれば熱砂のなか進む距離は少なくなる。

出発する前に調理したピリ辛炒めポカポカを食べておいた。

 

(ポカポカの実…ちょっと辛いから苦手だったけれど、こうして効果を実感するとありがたいなぁ。)

 

凍えるような寒さの中では温まる食べ物は本当に重要だ、厳しい環境では命にかかわる。

苦手だった辛さがちょっと好きになったリンクだった。

 

(砂漠に来てから走ってばかりだなぁ…もう足が痛いよ…)

いくら休憩をしたからといっても一日もたたずに走ったりすれば当然足への負担も大きい。

身体も成長しきっていない分、歩幅が小ささが拍車をかける。

 

――

 

 ゲルドの街

 

「おい、お前…ってリンクじゃないか!夜の間砂漠を突っ切ってきたのか!?」

 

街の門番をしているドロップが駆け込んでくるリンクを見るなり驚きの声を上げる。

始めは強引に侵入しようとする不届きものかと思っていたが、それにしては足取りは重く時折ふらついているように見えた。

 

リンクは夜の間、砂漠を走り続けゲルドの街へとたどり着いたのだ。

夜は明けかけており空は白んでいる。

 

「ドロップさん、ムリエータさん。サヴァサーヴァ…いやもうサヴォッタですかね?」

 

たどり着いた安心から微笑むリンクだったがその額からは汗が吹き出しているし今も膝が笑っている。

砂だらけで服もいたる所が汚れている。

 

「まったく無茶をする…。アタイが話を通しておいてやるからアローマさんの所でゆっくり休んでくるといい。ドロップ、少しの間ここをお願いしてもいいか?」

 

「任せておきな、早いとこビューラ様に報告しておくれ」

 

門番の2人が各々の役割を決め、リンクに休むように促す。

広大な砂漠を走って帰るとか無謀にも程がある。

足場は砂で覆われ思うように走れず、夜も昼も危険は気温だ。

魔物だって強靭なものが多く存在する。

 

「サークサーク、ムリエータさん。お願いしてもいいですか?」

 

「当たり前だ、報告が必要とはいえ過酷な砂漠を渡ってきた仲間に気を使わないゲルドなどおらん」

 

 彼女らはゲルドの街への正門入り口の警備をしている兵士だ。

ゲルドの掟に従い男性を街へ近づけない事と不審者を追い払うのが仕事である。

 

 Hotel Oasis

 

「ヴァーサーク…リンクちゃん!ボロボロじゃない!」

 

「オルイルさん…サヴォッタ。ちょっと砂漠を走って帰って来まして…」

 

 店の前で客引きをしていたオルイルはリンクが言い切る前に彼を背負いアローマのいる店内へと駆けていった。

色々と言いたいことはあったリンクだったが度重なる疲労と睡眠不足、そして安心感に加え負傷による負荷によって意識を手放した。

 

「オルイルどうしたのってリンクちゃん!こんな早朝ってことは…オルイル!早くベッドに寝かせておくれ!」

 

 オルイルはただの宿屋の主人ではない。

エステの達人なのだ。美容だけでなくリラクセーション、つまり疲労を取ることに関しても右に出るものはいない

彼女のフィンガーテクは美容だけでなく体力や持久力を一時的に引き上げる効果もある。

実用性も兼ねたこのエステはゲルドの街でも有名な場所となっている。

 

「筋肉が極度に疲労している…夜の間ずっと砂漠を走ってきたようだね。それだけじゃない、顔の痣…魔物相手に立ち向かいもしたみたいだ」

 

幸い時間が早かった為、アローマは疲労回復に努めることが出来た。

これが昼頃だととてもではないが客を放り出して付きっきりという訳にもいかない。

ゲルドの街において観光客にも住人にもとても人気があり、付きっきりでエステを受けられることはほぼあり得ない。

だがこれが非常にまずかった。

 

(これで背中は大丈夫、太ももの疲労もきっちり落とせた。でも、この子は…)

 

美容だけでなく疲労に対しても造詣の深いアローマは疲れ切っているリンクを癒した。

 

問題なのはその過程で身体の色々な部分を触らざるを得なかったという点。

 

(何てことだい…メルエナ…。リンクちゃんはヴォーイだったのかい…。)

 

アローマだってゲルド族だ。

100年に一度しか産まれないゲルド族のヴォーイの存在など伽話の中でしか聞いたことが無い。

そのいずれもが平穏とは無縁といっていい、激動すら生易しい程の時を過ごしていた。

リンクもすでに普通とはかけ離れた暮らしを始めている。

 

(性別をずっと隠し続け、両親も失った…。砂漠での護衛なんて大人でも命懸けの事をやっている…)

 

片手で持ち上がりそうな程小さなリンクがすでにこれほどの事を行っている。

もし、伽話で語られるような存在だというのなら…

 

(お願いだよメルエナ…。リンクを、姉達を守ってやっておくれ…)

 

――

 

 すっかりと日が暮れた頃リンクは目を覚ました。

あれ程砂漠を走り続け、暑さにも寒さにも削られ続けた体力だったというのにカラカラバザールから帰る時よりも体が軽く感じる。

ゲルド一押しのスポットは伊達ではないのだ。

 

「あ、アローマさん、サークサーク。何だか寝てしまったみたいで…」

 

街へ着いた時と比べれば軽くはなったとはいえ、それでも未だ身体は重い。

少しぼんやりとしながらもお礼を言うリンク。

 

「オルイルから聞いたよ、砂漠を走って帰るだなんて…こんな無茶はもうしないでおくれ」

 

頼むからこんな真似はしないで欲しい。

そう言い聞かせるように忠告するアローマの言葉が宙を舞う。

「アハハ…ゲルドの街がちょっと恋しくなっちゃって。次からは気を付けます」

 

リンクはそう言うが、それは無いだろう。

いくら恋しくなるからと言って、一晩中ゲルド砂漠を走る物好きはまず存在しない。

 

「フェイパとスルバにはさっき帰ってきたってことにしておきな。帰ってきてすぐに倒れたなんて聞いたらあの子達、泣いちまうよ」

 

呆れる様にリンクに言い聞かせるアローマ。

さっきの言い分では砂漠を走り続けていた事もばれるだろう。

娘2人が泣くのまではっきりと予想できる。

 

「何から何までごめんなさい。これからビューラ様の所へ今回の報告しなくちゃいけないけど、それが終わったら姉ちゃん達に逢いたいなぁ」

 

リンクとしては一刻も早く姉達の下へ帰りたいが、それはしっかりと帰ってきたことを報告してからだ。

いくら気を遣って先に報告してくれたとは言え、ここで報告を済まさないのはドロップさんとムリエータさんに申し訳が立たない。

 

「そうだね、早いところビューラ様の所へ行ってきな」

 

「サークサーク、それじゃあ失礼します」

 

そう言って駆けていくリンク。

できるだけ早く姉達の待つ家に帰りたいのだろう。

アローマは幼い彼を目の届く限り見守っていた。

 


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