ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第12話 リンク、家に帰る

 宮殿

 

「来たかリンク。門番から軽い説明だけは受けている。だが護衛の詳細までは聞けておらん。できるだけ詳しく話せ」

 

 まずビューラは今回の護衛がどのようなものであったかの説明を求めた。

護衛を付けるのはゲルドの街始まって以来初めての事だ。

当然必要なものや気を付けることは行商とは違ってくる。

 

「はい、ビューラ様。まず今回の旅ではリザルフォスとの戦闘になりました。彼らは砂漠の砂に擬態しており不意を突かれたりしない様気を付けないといけません」

 

砂漠ではよく見かける魔物でありがちな言葉ではあったがビューラは真剣に耳を傾けている。

リンクは砂漠が初めてという事もあり、魔物に挟まれる前に討伐を選択したと続けた。

 

「―今回気になったのは相手が魔物であるという点です。相手が人であるのならば自分たちと同じように砂で足を取られると考えやすいのですが、彼らを自分達と同じ物差しで測ってはいけない。不安定な足場でも自由に跳び回るなど人間には不可能です」

 

「確かにその通りだ、ルージュ様からの忠告がちゃんと伝わっていたようで安心している。だが攻撃受ける前に気づけるとなお良かったな。これがもっと強い敵が相手だとその一撃が命取りになる」

 

やはりビューラは厳しい、それでもちゃんと心配もしてくれていた事も伝わってきた。

 

魔物の種族や上位種によっては一撃でも今のリンクにとっては致命傷になりうる。

そうでなくとも油断した、足場が悪かった、後ろから狙われた、その全てが死に直結する要素になりかねないものだ。

 

「今回気になったのは、食糧の問題でしょうか。馬宿へ送り届けた後、帰って来る時です。ゲルドキャニオンの気候は乾燥しており、あまり食糧や水が豊富にある訳ではありません。カラカラバザールかこの街で事前に大量に保持しておくか、馬宿からすぐに引き返すという選択になってしまうでしょう」

 

さてどうしたものか、ビューラは考える。

日にちをかけて砂漠を超える以上、水分や食料は外せない。

だが大量に持ち歩くのならば当然荷物は重くなるし、移動は遅くなる。

 

かといって資源が少ないのならば馬宿から文字通りとんぼ返りになってしまう。

とんぼ返りと簡単に言うが、砂漠へと引き返すのだ。消耗した体力であの場所へ戻るのは危険すぎる。

 

「とりあえず負傷と疲労を考えると、今すぐ護衛をさせる訳にもいかない。明日は休息日にするからきっちり疲労を落としておけ。…姉達とも会っておけよ」

 

仕事である護衛の話を済ませた後で、姉達と仲良くやるよう気を回すビューラ。

それとなく見せる彼女なりの思いやりである。

 

「サークサーク、それでは失礼します」

 

そう言ってリンクは走って行った。一刻も早く家族の待つ家に行きたいのだろう。

 

「…行ったか。魔物がリザルフォスだけだったのは幸運だったが…。良くこなせたものだ」

 

ゲルド砂漠には沢山の魔物がいる。モルドラジークを筆頭にリザルフォスの上位種やエレキースといった魔物が集団で襲いかかって来る事もあるのだ。

 

 だが自分があの歳で砂漠を渡りリザルフォスを撃退できたかというと難しい。

そもそもリザルフォスだって決して弱い相手ではないのだ。

訓練を積んだ兵士だって時間稼ぎをするならともかく倒すとなると厳しい存在である。

 

(困るな…他の者も護衛に出せるとよいのだが、他人を守りながら砂漠を渡り切れる強者はそうおらん。だからと言って私やルージュ様が出向くわけにもいかん。それ以外だと沢山の兵士が必要になってしまう。)

 

ゲルドの街だって完全に安全と言えるわけではない。

石壁を挟んだ先には砂漠が広がり、敵が襲いかかって来た事だって一度や二度ではない。

街を支える行商の為に街が、住んでいる民や行商人達が無防備になっては意味がない。

 

(仕方ない、兵士達にはより一層強くなってもらわねばならんな。)

 

この日の訓練は地獄だったと隊長チークと部下達は語っている。

 

 リンクの家

 

「リンク!帰って来たんだな!お帰り!」

 

「お帰りリンク、護衛のお仕事お疲れ様。今日はあなたの好きな料理にしてみるわ」

 

「フェイパ姉ちゃん!スルバ姉ちゃん!ただいま!」

 

久しぶりの我が家だ。正確には数日前にはいたのだが、彼にとってはやっと帰って来たと感じた。

これほど家から離れたのは初めてだから仕方がない。

 

真っ先にフェイパが駆け寄って抱きしめ、スルバがリンクの頭を撫でる。

まだまだ甘えたい年頃なのだ。

 

「塀の向こうはどうなってた!?せっかくだからいろいろと教えてくれよ!」

 

「こらフェイパ!リンクは疲れてるんだから後にしなさい!」

 

「わ、悪かったよ…。リンク、ごめんな」

 

「もう…、今から作るから待ってて」

 

いつものやり取り、フェイパが盛り立ててスルバが嗜める。

それがとても暖かくじんわりと心に入って来る。

 

「大丈夫だよ、フェイパ姉ちゃん。サークサーク、スルバ姉ちゃん」

 

 今日の料理はチキンピラフとホットミルクだった。

鶏肉のダシがハイラル米に溶け込んで一粒一粒美味しく頂ける。

添えられている卵に隠し味のヤギのバターがありがたい。

食べ慣れて来たころにホットミルクで温まりつつ味覚を変えられるのもポイントだ。

 

「美味しいよ、スルバ姉ちゃん!お代わり!」

 

「あ!アタイが先だぞリンク!お代わり!」

 

迷うことなくお代わりをするリンクとフェイパ。

リンクにとってはこうやって落ち着きながらしっかりと食べるのは旅の前以来だった。

 

環境や身体能力に関係する作り方ならばもっと簡易的なものの方がいいのだろう。

決められた材料に絞るのが良いのだろう。

 

 だがそれは短期的にみたらの話であるし、栄養だって偏ってしまう。

何といってもまだまだ子供の彼らは成長していかなければならないのだ。

 

「ごちそうさま!美味しかった!」

 

「うんうん、お粗末さまでした。リンク、疲れてるだろうし今日はもう寝る?」

 

「大丈夫だよ、これスルバ姉ちゃんにお土産!」

 

そう言ってリンクは馬宿で貰った楽譜を渡す。

 

「えっ、リンク。これどうしたの!?これプロが書いた本物の楽譜よ!?」

 

スルバが楽譜を読みながら驚きの声を上げる。

プロ直筆の楽譜となれば大変貴重なものであるので無理もない。

 

「おいスルバ、それ本当なのか?めっちゃ貴重なもんじゃねーか」

 

流石に気軽に手に入る代物ではないとわかっているのでフェイパも興味津々だ。

 

「私がこんな勘違いするわけないでしょ。明らかに専用の用紙に細かい技術的な注意書きが施してある…。間違いなく一流の音楽家のものよ」

 

そういうスルバの目線は机に広げた楽譜にくぎ付けでうっとりとしている。

早くも指先は曲の練習をするように動かしているようだ。

 

「なんだかゲルドの街へ帰るっていったら、馬宿の店主にリト族の人が書いたこれをあげるって言われて。こっちでも控えてあるから心配いらないよって」

 

「ナンちゃん達のお父さんだ…。世界各地を飛び回っている吟遊詩人の…」

 

ナン達というのは今年スルバ達と共に演奏会をするリト族の女の子達だ。

リト族は男性は弓を扱う戦士として、女性は音楽を愛する歌い手として暮らすものが多い。

ゲルドの街はヴォーイ禁止の為、彼女達の父も入ることが出来ない。

 

なお、その父は娘達にあまり懐かれていない。

世界各地を飛び回っている分、娘達の世話は妻に頼まざるを得なかったからである。

 

この演奏会はそんな娘達に対し自分のできる名誉挽回のチャンスだと意気込んでいたのだが、入れないと聞き膝から崩れ落ちたことを記しておく。

 

「リンク!アタイには何かないか!?スルバだけこんないいもんあげるとか、ずりーぞ!」

 

思いがけずにいいものが手に入ったスルバ。

こうなるともう1人の姉であるフェイパだって欲しくなるものだ。

 

「とは言っても、そんなに詳しい訳じゃないから…。あ、このクリームとかどうかな?美白に見せることが出来てサラサラなんだよ!」

 

そう言ってリンク自身もカラカラバザールで使っていたクリームをフェイパに渡す。

 

「あ!これ、カカリコ村限定の美白クリームじゃん!ゲルド族でもハイリア人みたいな白い肌が楽しめるんでスゲー人気なんだぜ!」

 

興奮気味にここまで言い切ってフェイパは慌てて取り繕おうとする。

 

「ま、まあ恋愛教室に通ってる先輩から言われたんだけどな。ちょっとはこういうのにも興味を示せって…」

 

本人は隠せているつもりでもスルバにもリンクにもバレバレである。

ついでに言うとティクルにだってバレている。

 

「フェイパ姉ちゃん。もしかしていらなかった…?」

 

しょんぼりと肩を下ろすリンクに焦るフェイパ。

 

「い、いやいやいやめっちゃ嬉しいけどホントにいいのか!?ここいらでは手に入らない激レアなものだぞ!?」

 

「うん、僕としてはやっぱり姉ちゃん達が使うほうがいいと思うし」

 

「そういう事ならありがたく使わせてもらうぜ。サークサーク」

 

白い歯が見えるほどの笑顔を見せるフェイパ。

もっと素直に喜べばいいのにと思うリンクとスルバだった。

 

「そういえばリンク。何だかあなたも使ったみたいな感じで言ってたけれどどうしたの?」

 

奇妙に思ったのかリンクに尋ねるスルバ。

外へ出向くとき着飾ったりはするが、どちらかというとそれは自分達が着せ替えるからだ。

自分から進んで着こなしたりはしない。

 

「あー、カラカラバザールに行った時にね。ゲルド族の子供が外にいたら不審に思われるって」

 

「「あー…」」

 

想像できてしまった、掟によって基本的に外にはいないゲルド族の子供が街中にいたらそれは不審に思われる。

苦肉の策だったのだろうが、女装させて外に出すのは何とも忍びない。

おまけに事実上の化粧までさせている、リンクが何かに目覚めてしまわないか心配する姉達であった。

 

 

「うーん、何だか眠くなってきちゃった…」

 

安心したからか、満足のいく食事が出来たからか眠気が襲ってきたのだろう。

瞼が下がって来たリンク。

 

「きっと色々と疲れが出たのよ、ゆっくり休んだ方がいいわ」

 

「土産話なら別に今日じゃなくてもできるしな。今日ぐらいよく眠ろうぜ」

 

過酷な旅に出ていたのだ、休んだ方がいいとスルバは促し、フェイパが追従する。

 

「姉ちゃん達、今日はもう寝させてもらうね?サヴォール」

 

「「サヴォール」」

 

いつもより早めにリンク。

元々眠るのが大好きなうえに、今回の護衛は規則正しく睡眠をとることが出来なかったので生活リズムを戻す意味もある。

 

「…寝ちゃったね」

 

「そうだな」

 

リンクが寝たことを確認した後、2人は声を落として話を続ける。

 

「ルージュ様やビューラ様。アローマさんやオルイルさんが助けてくれているおかげで何とかなっているけれど。やっぱり不安だわ。護衛の仕事は危険だもの」

 

リンクを見つめるスルバの表情は浮かないものだ。

それでも必要なものでもあるともわかっている。

思うようにはいかないものだ。

 

「…だな。リンクのやつ気を使って言わなかったけれど、顔の痣や砂や泥で汚れた服を見れば嫌でもわかる」

 

フェイパだって気が付かなった訳では無い、リンクが相当に無理をしていることぐらいお見通しだ。

 

 護衛の仕事はとても危険である。だからこそ子供であるリンクにとっても破格の報酬が与えられている。

実際に大人達が助けてくれているのもわかる。

だがそれでも危険な仕事であることは変わりない。

現にこうして傷ついて帰って来られては思うところだってある。

 

「私達が止めたってきっとリンクは止まらないわ。いろんな理由はあるかもしれないけれど」

 

「アタイ達を守るため…だよな」

 

リンクの事がよくわかるだけに彼が止まるつもりも無い事もよくわかる。

故に辛いものだ。

 

「それが一番の理由だと思うわ」

 

「スルバ、あんまり思い詰めるなよ。アタイにとってはスルバだって大事な家族だ。明日は思いっきり楽しむぞ」

 

フェイパはいつもと違った表情でスルバを励ます。

彼女なりにスルバを気遣っているのだ。

スルバだって大切な家族なのだから。

 

「サークサーク、フェイパ。あなたも本当に優しいわ。明日はティクルと一緒にお話でもしようかしら」

 

わかっているからスルバも礼を言う。

少しでも気持ちを楽にするためティクルも交えてリンクの話を聞くつもりのようだ。

 

「お、それいいな。アイツの作るイチゴは本当にうめえからな」

 

冗談半分、本気半分といったところだろう。

今は気持ちのリフレッシュが重要だ。

 

「ふふっ、ティクルを何だと思っているのよ。そのまま食べても美味しいけれど料理とかも作ってみましょう」

 

スルバが微笑む、手料理も振る舞うつもりのようだ。

楽しく美味しい1日になりそうだ。

 

「いいねぇ、それじゃ早く寝ようぜ。明日は色々やってみたいし、寝坊なんてしたらそれこそリンクに笑われるぞ」

 

「それもそうね、サヴォール」

 

「サヴォール」

 

疲れはある、不安もある。それでも暖かいと言い切れる家族の触れ合いが確かにあった。

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